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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

①日本の農業の現在とこれから −現場で何が起きているのか(日本農業新聞 記者 尾原浩子)

【発売中】季刊『社会運動』2022年4月発行【446号】特集:農業危機 -生産する消費者運動

日本の農業・農村の現状と20年後の食料生産

 

─現在、農業の生産現場はどのような状況なのでしょうか。

 

 農家の高齢化は全国各地で等しく進んでいます。農林水産省の統計によると、「基幹的農業従事者」(仕事として主に自営農業に従事している人)は、2000年が246万人、平均年齢が62・2歳でしたが2010年には205万人、平均年齢が66歳、2020年は136万人、平均年齢は67・8歳です。
 農家の高齢化とともに、農業法人が増加しています。2010年は2万2000だった農業の法人組織は2020年に3万1000になりました。一戸あたりの経営面積も拡大し、北海道では100ヘクタール以上、都府県では10ヘクタール以上の経営体が増えています(2015年の販売農家1戸あたりの平均面積は北海道23・8ヘクタール、都府県1・6ヘクタール)。
 東日本大震災の前後くらいから、「関係人口」という言葉が出てきました。移住に限らず、その地域の産物を買ったり、定期的に訪れたりするなど、多様な形でかかわる人や応援する人を指す言葉です。半分農業、半分他の仕事を持つ「半農半X」というライフスタイル、生き方も広がっています。農業の生産現場は専業農家が担っていると思われがちですが、その境界線はかなり緩やかになっていると思います。
 例えば私が訪れた長野県北部のある集落は、50戸弱で人口は56人。高齢化率(65歳以上の割合)は5割。10年間で人口が3分の1まで減って、20歳未満の子どもは2人だけ、後継者がほとんどいない稲作地域です。この数字だけを見ると、集落はいずれ絶えてしまうと思えます。ところが実際に訪れてみると、その集落出身で他の地域で暮らしている人たちが消防団の半分近くを担っていたり、行事や祭りなどには、都会から戻ってきて参加する人も多くいます。関係人口という応援団とともに行事やお祭りが維持されていました。
 ある住民は、「周囲の応援団がいるからこそ、自分たちが生活や農業を続けることができる」と言っていました。象徴的なのが市の予算で定期的に制作されている地域を紹介するDVDです。2000年代にはエンドロールの名前は世帯主だけでしたが、2018年には移住者も含めた全住民の名前と都会に出ていった子どもたち、その地域の学校に勤務していた先生など、地域とかかわるいろいろな人たち100人以上の名前が刻まれています。
 このような集落はかなり増えています。都市と農村、農業と消費者という対立軸ではなく、その交流が広がっています。住民や農家が主体ですが、「関係人口」の存在が生産現場を支えていると感じています。

 

農業は食卓の問題であり消費者の問題

 

─生活クラブ生協では、都市で生活する組合員は消費するだけの存在ではなく、持続可能な産地基盤の形成へもかかわっていこうとしています。

 

 消費者は消費するだけの存在ではなくて、何か生産したり生産している人たちと交流したりすることで社会が大きく変わると思います。
 一方で、農業・生産現場に入っていくことは、綺麗ごとばかりではありません。農村は牧歌的だとか、逆に排他的だ、また、都市は情が冷たい、などと決めつけずに、お互いに歩み寄って、できることを時間をかけて進めていただければと思います。かかわるには段階があり、また、かかわり方に正解はないので双方で受容していくことが重要です。

 

─都市住民にはどんなことができますか。

 

 農業は専業農家や農協だけの問題ではなく、食卓の問題であり消費者の問題です。例えば、ある農家や農村と交流する消費者がいるとします。その人がスーパーで大根を見つけた時に、普段は価格で判断していても、交流している産地の大根なら、おそらく数十円高くても買うのではないでしょうか。農業にかかわる消費者が増えるという草の根の力は、食料自給率の問題にとって大きいと思っています。
 私たちは昨年も新米を美味しく食べることができました。子どもたちは毎日学校で給食を食べ牛乳を飲むことができます。いまは、旅行は難しいですが、農山村を訪れると美しい棚田や田園風景を見て心を癒すこともできます。これらは全て農家や住民が連綿と田を耕して水を管理して雑草と闘い、災害と闘って実りを迎え、酪農家が猛吹雪の時も真夏の炎天下でも朝早くから乳搾りをする営みがあるからこそ享受できるもので、当たり前のことではありません。
 日本に住む人全員が消費者です。消費者が農業に関心を持ってかかわり、それを子どもや親戚や友人たちに伝えることが大切です。糠で漬物を漬ける、ベランダにイチゴを植えるなど何かの生産を始めたり、あるいは直売所で農家と話したり、インターネットで探せば、農家、産地と交流するプランもあります。方法は無限にありますので、是非、農とかかわって欲しいと思います。

(P.35-P.42記事抜粋)

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