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②販売が始まったゲノム編集食品 −トマト、マダイ、トラフグ(たねと食とひと@フォーラム事務局員 西分千秋)

【発売中】季刊『社会運動』2022年4月発行【446号】特集:農業危機 -生産する消費者運動

 ゲノム編集とは、遺伝子組み換え技術の次世代版として登場してきた新しい遺伝子操作技術。人類史上、経験したことのないこの技術をめぐり、未だ国内外で議論されている。
 ところがすでに農産物や家畜、魚など食品の分野でゲノム編集技術の応用が始まっており、様々な懸念が生じている。しかも日本では世界に先駆けて、2019年10月に、ゲノム編集食品を「解禁」し、2021年9月からゲノム編集トマトの販売が始まっている。その様々な問題点を「たねと食とひと@フォーラム」の西分千秋さんに説明してもらった。

 

「遺伝子組み換え」と「ゲノム編集」

 

 「遺伝子組み換え」とは、他の生物の遺伝子を挿入することで新たな性質を持たせる技術です。遺伝子組み換えされた生物には、ほとんどの場合「外来遺伝子」、つまり他の生物などの遺伝子が含まれているのです。1996年にトウモロコシや大豆などの遺伝子組み換え作物が商品として生産・販売されるようになってから25年以上経ちますが、未だに不確かな技術と言われています。なぜなら遺伝子が挿入される場所や数の予測ができないからです。
 そして新たに開発された「ゲノム編集」は、ゲノム(生物がもつ遺伝情報の全体)の中の狙った個所を改編するだけでなく、外来遺伝子を残さずに作物の品種を改良することができると言われます。近年には、さらに簡単で精度の高いCRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)法が開発されました。ところがこのゲノム編集も挿入した遺伝子がどのように働くか解明できないことが多く、狙った場所以外で変異が起きたり、意図しない変異が起こる可能性が指摘されています。つまりゲノム編集もまた不確かな技術なのです。

 

規制も表示もされないゲノム編集食品

 

 遺伝子組み換え作物は、食品としての安全性や環境への影響が懸念されることから規制の対象になっています。不十分ではあるけれど、食品としての安全性審査や環境への影響評価、食品への表示が義務づけられています。
 ところがゲノム編集は、従来の品種改良された動植物とゲノム編集による動植物を見分けることは技術的に困難だからという理屈で、規制は必要ないことになってしまいました。そのため、企業が新たなゲノム編集食品を開発しても、厚生労働省や農林水産省などと事前相談し、任意の届け出が受理されれば販売できるのです。そして消費者庁も、ゲノム編集食品に対する表示の義務化を行わないことにしました。

 

始まっているゲノム編集トマト、マダイ、トラフグの販売

 

 2022年1月時点で、届け出が受理されたゲノム編集食品は、GABA(トマトやカカオなどに多く含まれるアミノ酸の一種)の含有量を増やしたトマト、可食部(身)を増量したマダイ、短期間で成長するトラフグの3品目です。どんな動植物も成分量や成長速度には制限があるのが自然の状態です。ところがこれらの食品は、成分量や成長速度を抑制しているスイッチを切ることで、GABAや可食部(身)の量が増え、成長が早くなるのです。
 そしてついに2021年9月から、パイオニアエコサイエンス㈱を通じてトマト青果のオンライン販売が始まりました(通販サイト https://p-e-s.co.jp/store/products/list?category_id=50)。
 商品名「シシリアンルージュ ハイギャバ」は、その名の通り、機能性成分「GABA」を従来品種の4?5倍に高めたトマトです。同時に、ピューレや接木苗栽培キットの予約受付も始まっています。さらに今後は、このトマトの苗を無償で提供し、小学校や介護福祉施設や広げていく計画とのことです。
 可食部が増量されたマダイ「22世紀鯛」は、筋肉の増加を抑制する遺伝子の働きを止めることで、より少ない飼料で肉付きが約1・2倍(最大1・6倍)になる魚です。高成長トラフグ「22世紀ふぐ」は食欲を抑える遺伝子の機能を止めることで、一般的な品種の1・9倍のスピードで成長すると言われています。これら2品目はリージョナルフィッシュ㈱が開発した食品で、2021年12月からオンラインで販売され、京都府宮津市のふるさと納税の返礼品としても出品されています(通販サイト https://regionalfish.online/)。
 さらに現在、実用化をめざして研究開発が行われているゲノム編集食品として、芽などに含まれる毒素を減らしたジャガイモ(理化学研究所・大阪大学・神戸大学の共同研究)、収穫量の多いイネ(農業・食品産業技術総合研究機構)、養殖に適した性質のおとなしいマグロ(水産研究・教育機構)、攻撃性を抑えたサバ(九州大学)、低アレルギー性の卵を産む鶏(産業技術総合研究所)のなど多数あります。
 なおアメリカでは2019年2月に利用が始まった高オレイン酸大豆(カリクスト社)や、多収穫のワキシーコーン(コルテバ社)が開発中ですが、これらも表示されずに輸入され、私たちは知らずに食べる可能性があります。

(P.97-P.101記事抜粋)

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