生活クラブグループ
市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

②地域を基盤に市民政治の力を取り戻す
(一橋大学大学院社会学研究科教授 中北浩爾)
(市民ネットワーク北海道共同代表・元札幌市議会議員 佐藤典子)
(市民ネットワーク千葉県共同代表・千葉県議会議員  伊藤とし子)

【発売中】季刊『社会運動』2022年7月発行【447号】特集:地方議会を市民の手に! -岐路に立つ地方自治

無党派層が増え、「自民一強」が続くなかでの市民政治の課題

 

脱組織化が与える影響


―はじめに中北浩爾さんに、今日の日本政治や社会に対する分析と問題意識を伺います。 中北 近年の日本政治の構造変化で最も重要なのは、組織が衰退して無党派層が増えていることです。政党の党員数が減り、特定の政党を支持する団体も弱体化しています。かつての政党は党員や支持団体の構成員が分厚く存在し、有権者と幅広い接点を持っていました。いまはその力が大きく減退しています。

 その理由は、日本社会で「脱組織化」が進んでいることです。自民党の基盤となっている町内会や自治会、農業団体、経済団体だけでなく、労働組合も加入率が低下しています。農村部から都市部に人口のウェイトが移動していること、組織を煩わしいと考える人が増えていることなどが原因です。  新自由主義的な政策の影響もあります。2000年代の小泉構造改革にみられるように、国営事業が民営化され、規制が緩和され、公共事業が減らされた結果、有権者と政府との接点になってきた団体などが弱まりました。また、非正規雇用が増加して、組織にかかわる余裕のない人びとが増加しています。

 選挙制度改革の影響もあります。小選挙区で当選するためには50パーセント近い得票率が必要で、無党派層からの集票に力点を置かざるをえません。議員1人で選挙区内の全ての政策課題に対応しなければならず、特定の組織との関係が深まりません。政治資金制度改革によって企業・団体献金が制限されるとともに、政党交付金が国庫から支給されるようになったことも重要です。

 こうしたなかで生じているのが投票率の低下です。そもそも個人にとって選挙に行くことは合理的な行動ではありません。1票の価値は極めて軽く、結果を左右せず、投票のための時間的なコストを上回るベネフィット(利益)がありません。それでも投票に行くのは、社会的な規範や習慣、そして組織的な動員の効果です。若者の投票率が低いのは、主に組織の網の目に組み込まれていないからです。  政党が有権者との間の直接的な関係を失ってきた結果、有権者に働きかけるうえでメディアを使わざるをえなくなっています。テレビやソーシャル・メディアを通じてわかりやすく訴える必要があるので、テレポリティックスという言葉があるように、それに合わせて政治が変化しています。

 人間は直接見たり、接したりしたことのない対象には、信頼を寄せることが難しいものです。だから無党派層は政治不信に陥りがちで、既得権批判に傾きます。その結果、反エリート主義という意味でのポピュリズムが蔓延し、無党派層の「風」が起こりやすくなります。少なくとも当初の大阪維新の会(維新)や小池都知事の都民ファーストの会は、そういう存在だったと思います。

 

―日常的な活動を通して、どのようなことを課題と捉えていますか。 伊藤 市民ネットワーク千葉県は、働く人の権利を守り、弱い立場の人が安心して暮らし、子どもを産み育てられる社会にしていきたいと考えています。しかし、グローバル経済、新自由主義経済の下で非正規で働く人たちが非常に増えています。自治体でも「会計年度任用職員」制度(注1)によって、さらに公務員の非正規化がすすめられています。そこで、学習会を開いて情報発信したり、千葉県内で市民相談事業を定期的に開催しています。

 また、ネット以外の全国の議員とも連携して活動しています。例えば2011年の東日本大震災直後に福島県いわき市市議らとともに「福島原発震災情報連絡センター」を立ち上げたほか、2014年には、自治体議員立憲ネットワーク(2022年3月に「平和・⽴憲・⼈権をつなぐ全国⾃治体議員会議」と名称変更)、2020年には、「反貧困ネットワーク」とともに「反貧困ささえあい千葉」を立ち上げ活動しています。

 この間の活動で、若い人たちに通じる言葉で発信しなければ彼らには届かない、ということに思い至りました。生活が大変で政治的な活動もできないし関心も持てない若い人たちに「こんなに大変な世の中で何とかしないといけないよね」という情報発信をしても伝わらない。若い人たちにいかにアプローチできるのか、それが一番大きな課題です。

佐藤 市民ネットワーク北海道の設立は、1988年の泊原発の可否を問う直接請求運動がきっかけでした。多くの市民のみなさんと連帯して、脱原発運動をいまも続けていることが活動の基本です。また、「香害」(注2)問題にも当事者のみなさんと取り組み、札幌市が啓発ポスターを作ったことで周辺自治体にも波及しました。また、全国のネットのみなさんと署名活動等を行った結果、国においてもポスターが作成されました。

 また、北海道では定期的に、生活クラブ運動グループの役員等による意見交換や協議の場として生活クラブ生協、ワーカーズ・コレクティブ、ネットの「三者会」を開催し、各地域でも「地域連絡会」を持っています。

 しかし、市民ネットワークの活動がなかなか若い世代に広がらないのが課題です。こうした運動を次世代につなぐことをテーマに「代理人運動プロジェクト」を設置しました。いまはどの政党も「一人ぼっちにさせない」「とりのこさない」とか、私たちが切り開いてきた「市民参加」「市民が主役」という言葉も使います。どういう表現なら若い人に届くのか。市民ネットを表わすわかりやすいキャッチフレーズなどを次の世代のメンバーとともに考えていこうと思っています。

(注1)地方公務員法等の改正により2020年度より開始された。「官制ワーキングプア」といわれる非正規公務員の待遇改善の一環とされるが、1年毎の任用が原則とされ、安定雇用への課題が大きい。

(注2)化粧品や香水、合成洗剤、柔軟仕上げ剤などに含まれる合成香料(化学物質)のにおいによって様々な健康被害が生じること。 当事者発の政策で共感を広げる


中北 昔に比べれば川や空気はきれいになりましたが、市民目線で解決すべきことはまだたくさんあります。ネットに政策的な役割がなくなったとは思いません。  どこの党も若い人に手が届いていないし、高齢化が進んで組織が弱くなっています。ネットだけが駄目だと考える必要はありませんが、ネットはネットとして果敢に取り組む必要があるでしょう。組織を広げるために、どのような具体的な取り組みをしていますか。

(P.23-P.25 記事抜粋)

(P.29-P.31 記事抜粋)

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