生活クラブグループ
市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

④地方議会に女性議員を増やすために
(椙山女学園大学人間関係学部講師 大木直子)

【発売中】季刊『社会運動』2022年7月発行【447号】特集:地方議会を市民の手に! -岐路に立つ地方自治

地元の議会を知るための情報分析力を

 

─女性議員がいることで議会にどんな変化が生まれるでしょうか。

 

 政策に多様な声を反映するためには、多様な立場の議員が必要です。例えば生理、子育て、学校給食、せっけんの話など、生活に密着した政策提案、課題解決につなげるためにも、女性の参画は欠かせないでしょう。議会に女性の視点が加われば議論が活発になり、議会運営の仕方も変わり、市民、特に若い人たちへのインパクトは大きいはずです。

 私が最近読んだ新聞記事で、若者の政治参画を促すために活動している団体で代表理事を務める若い女性の話が印象に残りました。その人は神奈川県平塚市の出身で、小学校の担任だった先生の影響で社会問題に関心を持ち、市議会での政策提言に関するイベントに参加したことや、当時の市長が女性だったので「カッコイイ!」と思ったことを振り返っていました。生き生きと活躍する女性の姿は、若い人に大きな影響を与えます。また、メディアの表舞台に女性が登場することで、男性を中心とした社会への見方が変わり、現状に変化をもたらすきっかけになるのではないかと思っています。

 しかし問題は、有権者が議会の現状を知らないことです。全国紙がやっと女性議員の現状を大々的に報道し始めたので、今後はメディアリテラシー、情報を主体的に読み解く能力がカギになってくると思います。ただ、政府は資料の公開をすすめているものの、知りたいデータに行きつくのに時間がかかるうえ、オープンデータ化されていません。つまりPDFになっていて表計算ソフトなどで加工・再分析するのに時間がかかるものが多く、政党ごとの女性候補者比率の解析や分析にはかなりの手間がかかりま す。それでも、現状を把握し可視化するためには不可欠な作業です。


 私の授業では、「地元の政治家を調べてみよう」という調べ学習を多く取り入れています。学生たちは例えば、自分と同じ高校出身の議員を発見したり、政策に興味を持ち始めたりと、楽しんで調査しています。また、カナダやフランス、ニュージーランド、メキシコなど他の国の内閣の写真を見せると、女性閣僚の比率が3割、4割、そして5割を超えるようなところもあると知り、驚きます。一方、日本の閣僚は男性ばかり。そこで改めて政治分野のジェンダーギャップに気づくのです。日本ではそういった政治に関する教育のプログラムやデータ解析の訓練が遅れています。 政治を身近に感じるいまがチャンス


─地方議会から変えていこうという動きがあります。

 

2023年の統一地方選に向けて、女性議員を増やすためには何が必要で、政党、市民団体、市民は具体的にどう向き合うべきと考えますか。

 まずは「自分のまちをもっとよく知ろう」といった身近なところからアプローチすることが大切です。学生なら学費の問題や、結婚して子どもが生まれたら仕事をどうするのかなどに関心があると思うので、自分のまちの情報や特長を知り、家族間でも話題に取り上げることで、最終的に政治への関心につながっていくのではないかと思います。いきなり賃金格差や性差別といった話を取り上げても、学生には自分のこととして理解するのには少し時間がかかるかもしれません。すぐには現状を変えられなくても、地道に活動していれば、打開できるんじゃないかという希望は持っています。地方の市民団体では、2010年代前半から「地元や仲間から女性議員を出そう」という注目すべき動きも出てきています。

 長期的には、多様な人が議会活動に参加しやすい運営の仕方に議会を改革していく必要があります。平日の夜や土・日に開催している海外の事例もあります。  日本でも先進的な取り組みとして、福島県矢祭町は議員報酬を日当制に変えました。東京都文京区では議会の会期を通年にして、それに合わせて委員会も開催し、いつでも議論できるよう独自の体制をとっています。

 女性が3割を超えると、組織や制度に影響力を持つという研究結果があります。女性といっても考え方はいろいろですが、立場の異なる様々な人がいてこそ、議会や行政を変えていく力になると思います。

 どの政党も候補者探しに四苦八苦しているいまこそ、女性議員を増やすチャンスです。さらに、長引くコロナ禍で、国や自治体の政策が自分の生活に与える影響を実感している人が増えています。政治に関心がある人や、いまの社会は何かおかしいと感じている人は少なからずいるはずです。政治のあり方を問い直し、候補者の「男女均等」に向けた動きを加速させるためにも、新たな人材発掘にはこれまでとは違うアプローチと、問題意識の共有が大きなポイントの一つになるでしょう。

(P.49-P.51 記事抜粋)

インターネット購入