生活クラブグループ
市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

④「未来へつなげる♪エネルギーアクション!」で見えた議会とのつながり
(生活クラブ生協・神奈川専務理事/エネルギーアクション実行委員会事務局長 半澤彰浩)
(生活クラブ生協・東京理事長/実行委員会委員長 増田和美)
(生活クラブ生協・千葉理事/実行委員 畔上久美)

【発売中】季刊『社会運動』2022年7月発行【447号】特集:地方議会を市民の手に! -岐路に立つ地方自治

「未来へつなげる♪エネルギーアクション!」

 

半澤 2021年は、国が2030年に向けた第6次エネルギー基本計画を策定する年に当たりました。生活クラブ連合会が取り組んだ「未来へつなげる♪エネルギーアクション!」は、それに対して大勢で意見を出そうという活動です。2021年3月から10月まで行ったこのアクションの特徴は、気候危機やエネルギーの問題を市民が自治する観点からアピールすることに重点を置いたところです。
 まず、実行委員会でエネルギー基本計画への具体的な意見書案と賛同署名の内容を検討し、6月に国会へ署名を提出しようと、3月から全国の生活クラブ生協に呼びかけました。
 この活動はエネルギー基本計画に多くの組合員が主体的に意見を出し、それを内外に発表することで生活クラブのエネルギー政策に共感する組合員を増やすことを目的としました。エネルギーは身近な問題であるにもかかわらず、自分ごととして捉えづらい面もあり、様々なアクションをすることで、生活クラブでんき(注1)に切り替える人を増やそうということも狙いの一つでした。
 6月10日の院内集会は、生活クラブと、フライデーズ・フォー・フューチャー(FFF)(注2)もメンバーである「あと4年、未来を守れるのは今」キャンペーン(あと4年)(注3)、との共催で開催し、27万筆の署名を管義偉内閣総理大臣、梶山弘志経済産業大臣、小泉進次郎環境大臣、河野太郎行政改革担当大臣宛に提出しました。
 今回の運動で第6次エネルギー基本計画に影響を与えることはできませんでしたが、原発の新設やリプレースの記載を盛り込ませなかったことは成果と認識しています。大勢の人が参加したこと、FFFなどいわゆるZ世代(注4)の人たちとつながりができたこと、メッセージを色々発信できたことなど、全体としては成功だったと総括しています。
 また、自分たちが国に意見を出すだけではなくて、2021年4月?9月の間に、自治体の首長や議会に対して国への意見書提出を求める活動にたくさんの組合員が参加したことは大きな成果でした。

(注1)エネルギーの自治を目指し、全国の生活クラブの出資によって設立された㈱生活クラブエナジーが組合員宅や事業所に供給している電気の名称。約9割が再生可能エネルギー発電所でつくられ、生活クラブを中心に建設された全国61カ所(2021年3月現在)の発電所と直接契約をしている。
(注2)フライデーズ・フォー・フューチャーは2018年8月にスウェーデンのグレタ・トゥーンベリさんが、気候変動に対する行動の欠如に抗議するために始めた運動。多くの若者の共感を呼び、国際的な草の根運動となっている。日本でも2019年2月、東京から始まり、学生たちを中心に全国に広がっている。
(注3)地球温暖化の原因である二酸化炭素の排出量を、2030年までに目標値に削減するには、実際には2025年にその年の目標値に達成していなければ実現できない。つまり2021年の時点で「あと4年しかない」ことから始まった環境キャンペーン。400以上の団体・企業が参加している。
(注4)主に1990年半ば?2010年代生まれの世代。インターネットやスマホを日常的に使いこなし、「モノ(商品)」よりも「コト(サービス・経験)」など、娯楽や経験に価値を見いだす傾向があり、他者との競争よりも自己実現や社会貢献に対する欲求が高いという特徴も指摘されている。

増田 自治体へ意見を出すこと自体はそれほど難しいとは思いませんが、議会を通すことや首長から国などへ意見書を出してもらうよう働きかけるのは大変なことなので、そこには工夫や調整が必要でした。行政のスケジュールなども確認し、多くが6月議会に向けて、議会へ請願か陳情、また首長への要望など、どの形がいいかを相談しながら進めました。
 ネットから、要望事項の2番目に掲げた「原子力発電は即刻廃止」を議会で通すのは難しいという情報を受け、請願や陳情を議会で通すことを優先するために、要望事項を修正したところもあります。自治体によっては、要望3番目の「再生可能エネルギー主力電源化の実現」だけにしたり、趣旨の目的にIPCC(気候変動に関する政府間パネル)(注5)の最近の情報を入れるなどの工夫も加えました。ネットの議員と一緒にロビー活動をし、ネット以外の議員への意見書配布、担当委員会や議会の傍聴、議会での趣旨説明などを行いました。
 活動はいろいろなパターンがあって大変でしたが、多くのことを経験できたと思います。自民党や公明党等の会派にも巡って内容説明をして、意見の聞きとりができたところもありました。これまで活動に参加したことのない新しい組合員も多く、このアクションが政治にかかわるきっかけになったのは、とても良かったと思います。
 東京では、33自治体と東京都に対してアクションを起こし、請願1、陳情20、意見書その他5、首長への要請書提出11でした。そのなかの5自治体で議会で意見書が採択されています。

畔上 請願・陳情活動は、自分の住んでいる自治体の政治に目を向けるきっかけになりました。結果につなげるのは難しいですが、そんなに簡単に通るものではないと思います。議会のことを知り、エネルギーという新たな切り口で自分たちの自治体に意見を届けることができたと思います。
 経済産業省の「エネルギー基本計画(案)」へのパブリック・コメント(以下、パブコメ)(注6)が、9月3日から10月4日まで実施されました。国にエネルギー転換の意見を出すパブコメの取り組みは意義がありました。これまで千葉では、主に理事会やブロックという大きな主体がパブコメを提出してきましたが、今回は、組合員それぞれからパブコメを出しましょうという取り組みにチャレンジ。初めて出す人にもわかるように、文例を示したり、エネルギー問題の内容を解説するチラシを配布したところ、「初めてパブコメを出してみました」という声をたくさん聞きました。自分の言葉で伝えることは活動の第一歩です。そういう行動を促せたのはエネルギーアクションの成果ですね。

半澤 神奈川でも政策提案運動を行っています。以前、学習会で法政大学教授の松下圭一さん(故人)が組合員に、都市型社会では「生活クラブは食の共同購入をしているが、それだけでは地域で暮らしていけない。例えば蛇口をひねると出てくる水道水は、水源、川、浄水場、水道管を通ってきている。その一つずつに自治体の政策・制度がある。政策・制度なしには水一つ飲めない。自分が暮らしている日常すべてが政治課題だ」と話されました。
 暮らしのなかで気づいたことを調査する。そして自治体の制度を変えないといけないと気づけば、それが政策提案になるのです。自治体に意見を出すのは、暮らしをつくること。条例化することで市民が議会や行政を縛ることができ、自分の生活に自治体の政策を引き寄せることができますね。
 神奈川は来年の統一地方選に向けて、ネットと共同で「2023市民政策案」をつくりました。その内容は神奈川の中期計画と重なります。情勢・主体の分析に基づき、2030年に向けて実現すべき主要な4テーマを描き、テーマに対する政策課題とアクションプランを「2023年に向けた市民政策提案」として提示しました。自治体によって選択し、実現するためのアクションをネットと共同で行う計画です。
 食料とエネルギーは自分が暮らす地域レベルで考える時代になっています。若い人のなかには食料不足、エネルギー問題に関心がある人はかなりいます。

(P.84-P.96 記事抜粋)

インターネット購入