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書評②『自民党-「一強」の実像』 中北浩爾 著(中公新書2017年)

【発売中】季刊『社会運動』2022年7月発行【447号】特集:地方議会を市民の手に! -岐路に立つ地方自治

自民党の現状を、派閥、政策決定などの側面から観察する

 

品川区議会議員/品川・生活者ネットワーク運営委員 吉田由美子

 

 少しでも政治に関心があれば、この題名に興味を持つと思う。まして『社会運動』の読者なら、自民党一強の現状を「何とかするためのヒント」を得るべく手に取るのではないか。
 著者の中北浩爾さんは、東京・生活者ネットワークで活動する私たちに、いつも平易で明快な言葉で国政や各政党の現状を分析・提示しながら、その上で生活者ネットワークのあるべき姿勢について、にこやかな笑顔と語り口で手厳しいアドバイスをくださる。その中北さんが「自民党一強」の実像を見せてくれるのなら、読まないわけにはいかない。
 「はじめに」で著者は「私たちは、新聞やテレビ、あるいはインターネットなどを通じて、自民党に関するかなりの量の情報を得ている。ところが、そのほとんどは政局に関わるものであり、断片的な性格を免れない。(中略)しかし、55年体制の崩壊後、政治情勢が目まぐるしく変化したこともあって、一強状態とよばれるに至りながらも、自民党に関する現状分析は不充分」と指摘。つい「安倍独裁」などと言ってしまいがちだがそれは「極端すぎる」という。色々な側面から現状を「冷静に観察」するために著されたのが本書だ。

 

自民党の政策決定プロセスは、正直凄い

 

 非常に面白い! しかし私にとっては、すいすい読める面白さではなかった。かと言って難解でもない。「はじめに」に示す如く、本書は「多様な視角から自民党を包括的に分析」し、「可能な限り客観的な分析を行う」ために「党の文書、機関紙や一般紙の記事などによって裏付けを取り、数量的なデータを提示」してある。「注記」からもそれはわかる。そうした豊富な「客観的事実」に基づく記述であるため、私の理解力では前章や注記を何度も参照しつつ「なるほどそういうことか…」と静かな興奮を以て読み進むことになった。
 章立ては「派閥」「総裁選挙とポスト配分」「政策決定プロセス」「国政選挙」「友好団体」「地方組織と個人後援会」の6つに終章「自民党の現在」を加えた7つ。6つの章では「多様な視角」から自民党の特徴を分析しており、終章では結論として小泉政権と安倍政権を比較しながら、全体の議論が整理されている。本書では政策決定上の主導権が首相官邸にあった政権とした記述が多い。本書初版が2017年で、安倍政権下であったためだが、いまもこの比較は自民党を理解する視点として有効だと感じた。
 6つの章はそれぞれ興味深いが、ここでは「派閥」と「政策決定プロセス」に触れる。「派閥」は、子どものころから、自民党政治を象徴するあまり良くないイメージの言葉として聞いていた。いま、初めて自民党の派閥の性格や、自民党のなかの役割について少しは認識できた。その派閥がいまは衰退化しているという。衰退しながらも、存在意義を持つ派閥、今後の変化を注視していきたい。
 政策決定プロセスについては、正直凄いと思った。自民党の政策決定は、政務調査会の部会から始まる3段階の事前審査があり、そこで重視されるのはボトムアップとコンセンサスという。意外に思ったが、これは1955年自民党結党以来の慣行だとか。一方でこの制度の下でも「官邸主導」が可能な仕組みもあるのだ。ボトムアップの丁寧な手順と、トップダウンのリーダーシップ発揮の機能を併せ持つのも自民党政権の強さの理由のひとつかと思った。他にも感想はいろいろあるがすでに紙幅が尽きた。
 著者が大学で初めて政治学に触れた時のテキストは佐藤誠三郎・松崎哲久著の『自民党政権』だそうだ。55年体制の自民党についてはいまも同書抜きには語れないという。私は、その後の自民党を語るテキストとして本書『自民党―「一強」の実像』を推奨したい。

(P.54-P.55 記事全文)

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