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④保育の「ビジネス化」に対抗する労働組合(介護・保育ユニオン共同代表 三浦かおり)

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前提としての「保育業界のビジネス化」

 

 保育士は、子育てしながら働く労働者の子どものケアを日々担い、いわばあらゆる産業の下支えをしている、エッセンシャルワーカーだ。しかし、まさにその社会を支える仕事の現場で、労働問題が多発している。

 

 保育士の低賃金は深刻であり、人手不足も常態化している。他にも、休憩が取れない、残業代が払われないなどの労働基準法違反、ハラスメントや、労働環境の悪化を背景にした虐待・不適切保育も広がっている。そのようななか、保育士の一斉退職がここ数年で増加している。

 

 これらの問題の背景には、保育業界の「ビジネス化」がある。利益優先の保育園経営者の蔓延により、労働環境や保育環境は急速に劣化した。近年では、利益追求の行き着く先として、全国で保育園が突然閉園してしまう事態まで起きている。

 

 その一方で、保育士や保護者、支援者たちによって、保育のビジネス化に対抗する動きも生まれてきている。本稿では、筆者が共同代表を務める、介護や保育業界の労働組合「介護・保育ユニオン」の取り組みのうち、「突然閉園」を機に保育士が立ち上がった象徴的な事件を紹介したい。保育士たちがストライキを通じて、利益優先の保育を問い直し、保護者からも支持を得ることもできた実践であり、今後の保育業界をめぐる運動のヒントになり得ると筆者は考えている。

 

「保育のビジネス化」の極北にある「突然閉園」

 

 運動実践の話に入る前に、まず、保育業界がいかに深くビジネス化されているのかを見ていきたい。

 

 保育業界のビジネス化の深刻さは、保育業界最大手の㈱日本保育サービスを傘下に抱える㈱JPホールディングスの公式HPに掲載されている株主向けの報告書に、如実に表れている。同社は、2020年6月以降の新経営体制のもと、保育園運営の新たな経営方針は「選択と集中」だと宣言した。

 

 つまり、福祉の必要性から保育園運営を考えるのではなく、コストカットを優先させる、儲からなければ園を潰すと明言したと言えるのではないか。実際に日本保育サービスは、2020年度のうちに全国で5園の閉園を決行した。そのうちの1園は、年度途中の12月末という中途半端な時期に閉園し、保護者が閉園を知ったのは9月のことだった。利益が見込めなくなったら、無責任に保育園の運営を放り出してしまう、いわゆる「突然閉園」だ。同社以外にも、介護・保育ユニオンが取り組んだ事件のうち、ある千葉県内の小規模認可保育園は2週間前の告知で10月に閉園し、東京都世田谷区の認可外保育園が11月の閉園を通知したのは、閉園当日のことだった。

 

 ビジネス目的の保育園経営者にとって、子どもの数は利益の源泉そのものである。少子化が進行し、経営者にとって「旨味」が減少していく今後、保育業界全体の傾向として「突然閉園」が広がっていくことが予想される。

 

2000年以降、「ビジネス化」は進行してきた

 

 そもそも、保育業界は、いつから「金儲けの論理」がまかり通るようになってきたのだろうか。もともと、その公益性の高さから認可保育園の設置は市町村・社会福祉法人にのみ認められていた。しかし、それだけでは需要においつかないとして、2000年に株式会社の参入が解禁された。これが大きな転換点となり、その後も様々な規制緩和をして株式会社の参入を国は促してきた。

 

 一番決定的だったことは、委託費という行政から事業主に払われる運営費の使い道が実質的に「自由化」されたことである。元々は、委託費のうち「人件費分は人件費に」というように、使途に制限がかかっていたが、経営者の裁量で決められるようになった。そのため、委託費のうち8割程度を占める人件費分全てを人件費に使わず、4?5割だったり、さらには2?3割しか使っていないところもあり、保育士の低賃金の原因となっている。

 

コストカットによる虐待の蔓延

 

 保育業界のビジネス化の中で、保育現場に起きた大きな影響の一つは、コストカットが重視され、それに見あった「保育」に保育士が適応させられることだ。

 

 具体的には、コストカットにより配置基準ギリギリの職員で「保育を回す」ことが前提とされるため、一人で多くの子どもを見られることが「良い保育」とされるようになっている。その結果、私たちが受けた相談の中では、怒鳴りつけて言うことを聞かせる保育士が優秀だと称揚され、挙句には、暗い部屋に子どもを閉じ込めるなどの虐待に繋がってしまっていた職場もあった。ある園では、給食を残そうとした子どもを保育士が突き飛ばし、食べ物を無理矢理口に突っ込んで食べさせていた。食事を全部食べ切るまで正座をさせるという相談もあった。

 

 厚労省でも、保育中の子どもに罰を与えるといった「不適切な保育」について初めて調査を行い、2021年3月にその結果が公表された。この調査によれば、全国で340件以上の「不適切保育」が確認されたとしているが、これは氷山の一角に過ぎないと考えられる。この調査でも、「不適切保育」が起こる背景の一つとして「保育士が一人きりで保育を任されている状況が多いなど物理的な環境の問題がある」と指摘されている。

 

 「突然閉園」の問題にせよ、虐待・不適切保育の横行にせよ、保育を「ビジネスで回す」ことと利用者から本来必要とされるケアとは根本的に相容れないということではないか。この現状に疑問を感じ、ビジネス化された保育に声を上げる労働者が増えている。その象徴的な事件として、認可保育園の突然閉園とそれに声を上げた保育士たちの運動実践を紹介したい。

(P.69-P.71記事抜粋)

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