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書評『国家がなぜ家族に干渉するのか』 本田由紀、伊藤公雄 編著(青弓社2017年)

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自民党は改憲で、家族の在り方を変えようとしている

 

日本女子大学名誉教授 植田敬子

マサチューセッツ工科大学で経済博士号取得。
専門は、応用ミクロ経済学。市民セクター政策機構理事。

 

 国家が家族への干渉を深める真の意図を暴くことを目的として、2017年に出版されたのが本書である。自民党が合法的に家族に干渉するために用意しているのが家庭教育支援法、親子断絶防止法、官製婚活であり、最終的には改憲によって家族の在り方を根本的に変えてしまおうとしている。

 

 家庭教育支援法は旧統一教会との関連でにわかに注目されているが、種が蒔かれたのは2006年にまで遡る。同年9月の第一次安倍内閣発足後の12月に教育基本法を改正し家庭教育条項を新設し、「国及び地方公共団体は、家庭教育の自主性を尊重しつつ、保護者に対する学習の機会及び情報の提供その他の家庭教育を支援するために必要な施策を講ずるように努めなければならない」と明記した。

 

 同年12月に「親学」推進協会が設立され、3年後に安倍晋三は「親学」推進議員連盟の会長になった。「親学」とは日本会議の中心メンバーが日本の伝統的子育てを賛美する運動である。2017年3月には与党で家庭教育支援法案が了承されたものの提出は見送られ、現在は棚上げ中である。

 

 しかし2013年に熊本県で全国初の家庭教育支援条例が制定され、その後も多くの地方自治体が制定した。さらに国での家庭教育支援法の制定を求める意見書を国会に提出する自治体も多い。なお熊本県では旧統一教会の関連団体の幹部が立ち上げた団体が、意見書の国会への提出を請願していたと朝日新聞は報じている。地方自治体から届いた意見書の数が十分であると見なした時点で、自民党は棚上げ中の家庭教育支援法案を国会に提出するのであろう。

 

「改正憲法草案」にかなう家庭教育実現のための支援

 

 本書は、未定稿の段階で削除された部分も含めて法案を詳しく検討することによって、家庭教育支援法の真の狙いは自民党の「改正憲法草案」にかなう家庭教育実現のための支援ではないかと結論付ける。表向きの目的とは乖離したところに自民党の真の狙いがあることを証拠とともに明らかにしている。そこに本書の価値がある。家庭教育支援法、親子断絶防止法、官製婚活すべてにおいて表と裏の目的に乖離があるが、ここでは一例だけを取り上げよう。家庭教育支援法制定の必要性の根拠としては3つの家庭環境の変化(家族構成員の減少、家族でともに過ごす時間の短縮、家庭と地域社会との関係の希薄化)があげられているが、これら3つの変化から論理的に家庭教育支援法の必要性を導き出すことは不可能である。

 

 平均世帯人員の減少が家庭教育支援を必要とする証拠も理屈も存在しないし、家族とともに過ごす時間の短縮に対応するためには時給を上げて労働時間を短縮するべきだし、家庭と地域社会との関係の希薄化に対処するためにはコミュニティの在り方を見直す必要性をまず考えるべきであろう。表向きの必要性の根拠は嘘であるとしか言いようがない。

 

 では真の必要性はどこにあるのか。それは上述したように「改正憲法草案」と整合的な家父長制に基づく復古的家庭を実現させるために家庭教育支援を実現させることである。

 

 憲法改正は1955年に自民党が結成された時からの党是である。憲法改正と言えば多くの人は真っ先に9条の改正によって戦争のできる国に変えられようとしていることに危機感を覚えるが24条にも重要な意味がある。戦争をできる国にするためには国の命令に従って戦う人が必要である。そのような人を作り出すためには現24条を変えて家庭のなかでも家父長の命令ならば服従する子どもを家庭教育によって作っておく必要がある。そのための家庭教育支援法である。

 

 現在困窮している貧困家庭やひとり親家庭をきめ細かく支援しようという意気込みは、ほぼ皆無であることが本書を読むとよくわかる。

(P.93-P.94記事全文)

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