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ウクライナ危機・電力高騰を「カミカゼ」として利用した強引な原発回帰
(認定NPO法人原子力資料情報室事務局長 松久保 肇)

【好評発売中】季刊『社会運動』2023年4月発行【450号】特集:原発ゾンビ ―再稼働なんてありえない

 2022年12月22日、政府のGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議は原発活用方針を含むGX実現に向けた基本方針(以下、GX基本方針)を承認した。年末年始を挟んでわずか30日のパブリックコメント(意見公募)が実施されたものの、事実上、方針を固めた。8月24日の第二回GX実行会議で岸田首相が原発について4つの論点(再稼働推進、運転期間延長などの既設原発活用、次世代革新炉の開発・建設、再処理・廃炉・最終処分のプロセス加速化)の検討を指示してから、わずか4か月のことだ。政府は2023年の通常国会で法改正を行うという。
 2011年の東京電力福島第一原発事故の教訓を踏まえて、与野党合意の下、原発の寿命は原則40年、例外的に20年の延長を可能とした。さらに、政府はこれまで原発の新設は想定していないと繰り返し答弁してきた。原発の寿命が限定され、新設はないということは、つまり、将来的には脱原発するということがこれまでの既定路線だった。これは国民世論の多数とも合致するものだ。今回、運転期間の延長や新設を含む方針を示したことは、これまでの路線から180度転換しようとしていることを意味している。
 首相が8月に指示を出した際、「与党や専門家の意見も踏まえ」るように、と発言している。この専門家会合は、主に経済産業省に設置されている「原子力小委員会」という21人の委員中、脱原発を主張するのは2人しかいない審議会だ。筆者はこの委員会の委員を務めており、脱原発の立場から論陣をはってきた。そうした観点から、政府や経済界の動き、政府の原発回帰政策の問題点などを確認したい。

 

1.政府の動き ─自民党総裁選から原発回帰が本格化

 

 GX実行会議に向かう動きは、2021年の自民党総裁選からあった。自著『岸田ビジョン─分断から協調へ』(講談社2020)で「再生可能エネルギーを主力電源化し、原発への依存度は下げていくべき」と述べていた岸田首相が、総裁選では一転、「再生可能エネルギーの一本足打法ではない、原発再稼働などを含む『クリーン・エネルギー戦略』の策定」を公約としたからだ。
 経済産業省側も着々と準備を進めていた。2020年12月に内閣府成長戦略会議が取りまとめた「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」で、原子力については、「確立した脱炭素技術である」として、原発=グリーンという政策的な位置づけを示した。一方、2021年10月に取りまとめた第6次エネルギー基本計画では原子力は「必要な規模を持続的に活用」としたものの、「2050年カーボンニュートラルや2030年度の新たな削減目標の実現を目指すに際して、原子力については安全を最優先し、再生可能エネルギーの拡大を図る中で、可能な限り原発依存度を低減する」との記述は残った。
 発足した岸田政権は、着々と原発政策推進に向けて作業を進める。2021年12月に経済産業省が「グリーントランスフォーメーション推進小委員会」と「2050年カーボンニュートラルを見据えた次世代エネルギー需給構造検討小委員会」の合同委員会を立ち上げ、2022年5月には「クリーンエネルギー戦略中間整理」を取りまとめた。その中で、原子力政策について再稼働の推進や長期運転、バックエンド対策や研究開発、産業基盤の強化を挙げていた。これらに原発新設が加わったのが、GX基本方針だ。
 では原発新設の話はどこから来たのか。第一回GX実行会議が開催されたのが2022年7月27日。この場で岸田首相は「政治の決断が求められる項目を明確に示してもらいたい」と指示した。この裏で経産省は原子力政策全般を担当する「原子力小委員会」や新型炉開発を担当する「革新炉ワーキンググループ(以下、革新炉WG)」といった審議会(いずれも筆者は委員として参加)で原発新設議論を進めていた。7月29日の第四回革新炉WGで事務局(経産省)は、その時点までの議論の取りまとめ案とともに、突然、別添資料として原発の建設・稼働時期などが書き込まれたスケジュール表「導入に向けた技術ロードマップ(以下、技術ロードマップ)」を提示した。それまで、革新炉WGでは具体的なスケジュールについては、何ら議論されていなかったにもかかわらずだ。
 また、エネルギー基本計画に残った原発依存度低減については、2022年2月9日の参議院資源エネルギー調査会で資源エネルギー庁の松山泰浩電力・ガス事業部長が「震災前の原発比率約3割から可能な限り低減していくということを念頭に、2015年に示したミックスのときと同じ水準の20から22%という位置付けにしている」と答弁。さらに、西村康稔経産大臣が2022年10月26日の衆議院の経済産業委員会で「エネルギー基本計画には、可能な限り原発依存度を低減するという方針、これが書かれておりまして、徹底した省エネ、再エネの最大限導入を進めていく中で、震災前の原子力比率が約3割でありましたけれども、可能な限り低減をさせて、2030年には原子力比率20から22%を目指すという趣旨であります」と答弁している。常識的に考えれば、「再生可能エネルギーの拡大を図る中」で「可能な限り低減」するのだから、原発比率は0を目指して減らしていくと解釈できる。ところが、この定義に、「震災前の原発比率」を持ち込み、そこから下がっていれば「低減」したと、意味合いをずらしたのだ。

(P.72-74記事抜粋)

 

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