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市民セクター政策機構

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書評①『原発コスト -エネルギー転換への視点』
大島堅一 著(岩波書店2011年)

【好評発売中】季刊『社会運動』2023年4月発行【450号】特集:原発ゾンビ ―再稼働なんてありえない

原発の本当のコストをえぐり出す入門必読書

 

國學院大學客員教授 古沢広祐

エコロジー運動、社会的経済・協同組合論などを研究
市民セクター政策機構理事

 

 

 本書は、福島第一原発事故後すぐに一般向け新書として刊行され、大佛次郎論壇賞(2012年)を受賞して注目された書籍です。原発政策をめぐる諸矛盾、とくに経済性やリスク面での問題性を広く国民に伝えきれなかった反省(後書き)として本書が書かれたのですが、7刷(2019年)されており、いまや基本的な入門必読書となっています。
 全体は、5章で構成されており、1?3章では原発のコストを発電事業・政策面から考察して、その問題性や災害・被害補償面での課題などがわかりやすく提示されています。複雑に組み立てられた原発推進体制の内容は、国民の目を上手に欺くように体裁が整えられているのですが、次々とその非合理的な問題点がえぐり出されます。詳細は本書にゆずりますが、とくに原発立地、廃炉、再処理、諸廃棄物処分などでの算定不備、損害賠償(国の援助)の問題点などが白日の下にさらされます。
 4・5章では、見えにくい原発の社会的コストの上に築かれてきた「原子力複合体」「安全神話」からどう脱却するか、それらをどう解体し、脱原発と再生エネルギーの爆発的普及に転換していくかが述べられています。これまでの経緯を見ての通り、原発批判や反対派の徹底的な排除と宣伝工作が残念ながら功を奏してきました。それが、福島第一原発事故で諸矛盾が一気に噴出し、原発推進政策の転換の好機が到来しました。転換の道すじとしては、とくに電力供給・送配電体制の組み立て直しが市民的関与のもとで進められていく方向が期待されています。
 冒頭で紹介したように、本書は原発事故の直後に一般向け普及書として書かれており、本誌特集号を読み解く上でも、参考書としてぜひお薦めしたい新書です。ここでは、本書の紹介と合わせて、大島さん達の原子力市民委員会の地道な努力と政策転換へ向けた活動への期待と応援をこめて、多少とも追記を記させて頂きます。

 

「原発温存移行期シナリオ」の問題点

 

 原発事故から10年余りの経過のなかで、当初は脱原発・反原発へと盛り上がった世論が、最近では亡霊の復活のごとく原発推進派の再工作によって、原発容認への逆戻り状況が出現しています。世界情勢の不安に乗じて、原発無しで電力供給が大丈夫か、巻き返しが勢いづいているのです。移ろいやすい世論を見こして、リスクや不安意識をうまく操ることで、決して代替案にならないはずの原発幻想を再誘導しています。
 中長期的には再生可能エネルギーへの移行は明白なのですが、その移行期での不安部分に原発を入れ込み温存するシナリオが現在進行中です。しかし、それはコスト面でも諸リスク面でも誤ったシナリオであることを明解に示す必要があります。すでに、本書でも明確に批判され、政策転換が明示されているのですが、再度の仕切り直し的明示が求められていると思います。
 すなわち、移行期シナリオに焦点を当てた対比の再提示です。「原発温存移行期シナリオ」と「原発ゼロ移行期シナリオ」を対比して、何が問題であり、原発温存がどれだけ問題含みで危険なものかに焦点を当てた、わかりやすいイラスト図示が必要ではないでしょうか。
 再エネ関連での資源需給の問題等、短期的には不安要因がありますが、中長期での移行プロセスの推移は明示できるでしょう。移行期としてのエネルギー転換のプロセス明示、「原発ゼロ社会」ビジョンを示して、それが真の民主的で安全・安心な市民社会形成であるという世論形成が、いまこそ求められているのです。

(P.24-25記事全文)

 

『原発のコスト
─エネルギー転換への視点』
大島堅一 著
岩波書店 2011年

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