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書評②『原発「廃炉」地域ハンドブック』尾松 亮 著 (東洋書店新社2021年)

【好評発売中】季刊『社会運動』2023年4月発行【450号】特集:原発ゾンビ ―再稼働なんてありえない

現実的課題としての「廃炉」、そのために知っておくべきこと

 

市民セクター政策機構理事/杉並・生活者ネットワーク 元都議会議員  小松久子

杉並区議会議員(3期)、東京都議会議員(1期)を務め
2021年より認定NPOチャイルドライン支援センター理事

 

 岸田首相が打ち出した原発回帰方針には怒りをもって抗議したい。福島の事故を経験し、地震のリスクの高い日本で原発推進を国策としてきたことの誤りをこの国は思い知ったのではなかったか。日本の廃炉決定原子炉数24基という数は米国、英国、ドイツに次ぐ世界4位だが、それ以外も早く廃炉と決め、原発ゼロへの道を進むべき─そう思ってきた。
 この考えは変わらないが、廃炉の決定さえすれば「明るい未来」という単純な話ではないことを、本書は教えてくれる。海外諸国の事例を踏まえ「廃炉時代」を迎えた日本での地域社会の課題を考察し、これまで論じられてこなかった問題が提起される。
 廃炉決定の要件は日本の場合、経済的効率性から事業者が退くか、再稼働に際して地元が同意しないかのいずれかだが、後者の例はまだない。3・11で被災した女川原発では、再稼働の是非について宮城県での県民投票を求める直接請求の運動が行われ、必要署名数3・9万に対し11・4万筆という3倍の署名を集めて提出されたが、審議する県議会は否決。住民の意思反映の機会が失われ、再稼働が決定した。
 首長と議会の連鎖に住民の合意形成過程がリンクされていない、「原発再稼働の是非は住民投票でという制度化をすべき」という指摘は、2012年「東京都民として福島原発稼働の是非を判断する」として都民投票の実現を目指したひとりとして、大いに賛同するところだ。
 忘れてならないのは、廃炉が決まっても「事故が起きる可能性はある」のであり、政府が言うような「廃炉が進めば事故リスクは減少する」ことはないということだ。
 使用済み燃料を冷却プールで保管する場合、プールが稼働し続けなければ過熱してメルトダウンは起き、原子炉内の事故よりも周辺環境に大きな影響をおよぼす。廃炉時代にも防災は地域の課題であり続け、原発は地域住民にとって「災害リスク施設」であり続ける。廃炉が決まっている福島第二原発では冷却プールではなく「乾式貯蔵施設」での保管が検討されているが、この方式にはこの地での管理が長期継続する懸念がついて回る。

 

廃炉を地域主導に変える鍵「廃炉基本条例」

 

 廃炉への住民の関与も重要な論点だ。廃炉決定のプロセスに地域が主体的にかかわることは、その後の課題を自覚的に議論することにつながる。数十年にわたる廃炉時代のルールを自治体や住民が主体的に作り、住民監視のもとで廃炉過程が進むべきだ。防災対策に関しては、国と事業者が継続的な防災策の義務を負うべきであり、そういう仕組みが必要だ。地域住民の安全が自治体の自己責任であってはならない。
 廃炉を地域主導に変える鍵として示されるのが「廃炉基本条例」だ。そこには安全面と環境的視点からの基本原則をはじめ、廃炉中の安全対策、汚染防止、使用済み核燃料の貯蔵などについて自治体や住民が関与できるよう定める。原発廃炉が単に敷地内の技術的工程ではなく、敷地外の地域社会の問題と捉えれば、当然すぎる提案だ。
 著者はまた、原発の立地地域における新産業創出に言及する。補助金頼みの原発依存を終わらせるために外せない論点だ。海外の事例を教訓に、自治体向けには原発以外の産業創出のための優遇策、電力事業者に対しては、原発に代わる新産業の担い手として当該地域に継続的に関与するための支援策を、という大胆な政策転換を提案する。
 廃止するにも困難だらけの原発だが、ウクライナ紛争で「原発そのものが軍事的標的になりうる」ことを知ったいま、廃炉はやり遂げなければならない現実的な課題だ。廃炉のプロセスを着実に進めていくための必読書だと思う。

(P.90-91記事全文)

 

『原発「廃炉」地域ハンドブック』
尾松 亮 著
東洋書店新社 2021年

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