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市民セクター政策機構

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「待ったなしで進む北欧デジタル化」【前編】
(鐙<あぶみ> 麻樹:ジャーナリスト・写真家)

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 日本ではマイナンバーカード導入など、社会のデジタル化が進む中、政治家と市民の間で亀裂が走っているように見える。筆者は北欧ノルウェーに2008年から住み始め、当時から社会は急速かつ強制的にデジタル化へと進んでいた。

 

家庭での事務作業が減ったら平等は進むか?

 

 私には、ある仮説がある。「社会がデジタル化されるほど、ジェンダー平等が進む」という仮説だ。

 

 このテーマを調査した論文や研究は見つけられず、北欧現地でもデジタル社会とジェンダー平等の関係性を深く考える人はいない。実際、公共サービスのデジタル化について、フィンランド国税庁カスタマーリレーション部のサンナ・マキ=カルヴィア部長は「デジタル化が進み、国税庁は今は情報処理工場のよう。納税作業がデジタル化で簡単にできるようになればなるほど、社員も家で働きやすい環境となり、働き方を選べる自由が広がった。病気で欠席する社員も減りました」と。そこで私は「納税方法などがデジタル化で簡略化されることで、ジェンダー平等はより進んだと思うか」と聞いたところ、「それは考えたことがなかった。そもそもフィンランドはもう平等が進んでいるから」という返事がきた。彼女のこの言葉を繰り返す人は他にもいた。そう、北欧諸国は国際的にみるとジェンダー平等が進んでいる。だから社会がデジタル化されていることとジェンダー平等に関係性があるのかは、そもそも頭に浮かぶ問いではないようだった。
 私は2022年にオスロ大学大学院サマースクールで「北欧のジェンダー平等」という授業を履修していたのだが、そこで学んだことは今でも女性のほうが男性よりも家事をしていることだ。単に洗濯や料理などの「家事時間」だけではなく、「〇日までにあの書類を出さないと」「明日が雨だったら子どもに何を着せよう」「冷蔵庫になかったものは何だっけ」「幼稚園の迎えに間に合うかな」「他の親や子どもからの評価」など、小さなことを覚えて気にしているのは女性側だと。結果、男性は家事や育児を分担しているつもりでも、女性のほうが覚えていた・気にしていたことが多いので、精神的に疲労しやすい。
 そこで北欧諸国の待ったなしのデジタル化を見ていると、私にはこう映る。
 「北欧とは違い日本には未だに専業主婦がいる。子どもの学校連絡や家庭の事務処理をするのは圧倒的に母親・女性だ。北欧で働く男性は15時半には帰宅するが、日本の男性は長時間労働で、銀行や市役所の営業時間に行くことは難しい。もし、家庭の事務手続きを担当するのが母親・女性だとして、手続きが北欧のようにデジタル化されて、ボタンを何回か押すだけでよくなったら、自由な時間が増えて、女性のライフスタイルや精神的な負担は大きく変わるのではないか」

(P.92-94記事抜粋)

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