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市民セクター政策機構

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コロナ禍の中、韓国の社会的経済の出口戦略
(韓国・城南市 元・社会的経済政策官/市民セクター政策機構客員研究員 崔 珉竟<チェ・ミンギョン>)

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 韓国社会の社会的経済には社会的企業、協同組合、マウル企業、自活企業、そして特別法による協同組合の他、制度に組み込まれていない社会的経済企業と、社会的経済の活性化のための基金を配分する組織、民間の支援機関と研究組織、連帯組織などがある。社会的経済は、実体として多様に存在し、活動を行っているのだ。
 政府が社会的経済に関連する制度を導入した2007年以降、〈表1〉のように社会的経済企業は急速かつ着実に成長してきた。
 文在寅前政権は社会的経済を100大課題の一つに選定して政策を推進し、新型コロナウイルス感染症が深刻だった2021年には56種類もの関連事業を推進した。また、コロナ以前の2019年8月には、13市道170市郡区が社会的経済条例を制定し、全国で76カ所の社会的経済支援センターが運営されていた。
 しかし、保守的な尹錫悦現政権や与党・国民の力の首長たちの登場で、社会的経済の政策と支援制度は縮小され、変化の時を迎えている。なぜなら、社会的経済企業関連の法制度が整備されるにつれ、社会的経済の現場が支援政策に依存し、自発性が損なわれる傾向にあったため、現政権は社会的経済を否定的に見ているからだ。

 

社会的経済の活性化を実現する全国連帯

 

 社団法人韓国社会的経済連帯会議(以下、連帯会議)は、社会的経済組織間の協同と連帯を通じて社会的経済を拡大するために、2012年に創設された。会員は、地域複合体9社、業種連合会36社、類型連合会8社でつくる2次連合会で、これら会員の傘下には約3200社・団体(生協や信協など個別法により設立・運営中の社会的経済企業を含む)が所属しており、従事者は約15万人と推定される。
 連帯会議はコロナ下の2020年1月、困難に直面している社会的経済企業と脆弱階層に対する支援事業として「社会的経済COVID─19対応本部」を結成し、「NO雇用調整、YES共に暮らし」キャンペーンを推進し、「雇用調整ゼロ」リレー宣言と「雇用連帯基金造成」を実行した。
 連帯会議は設立以来、「国家と市場の変化、増え続ける社会問題は、社会的経済の活動によって解決できる」と考え、制度の導入と効果的な支援を実現するため、政府との間で望ましいガバナンスを作ろうと努力してきた。こうして、連帯会議がこの10年間取り組んできたのが、「社会的経済基本法」の制定運動だ。国政政党に積極的に働きかけ、討論会や公聴会を開いた結果、国会で過半数の議席を占めている共に民主党は社会的経済基本法案の提出を決定した。しかし、共に民主党が2022年の大統領選挙に敗北して以降、民主党は社会的経済基本法の制定を推進できずにいるのが現況だ。
 こうした中でも連帯会議は、国会と政府の単なる意見収集窓口ではなく、実質的な意味で相互対等なガバナンスの主体となり、社会的経済が目指す地域社会の課題を解決する組織として成長の足場を作っていこうと考えている。

 

社会連帯信協の創立と解散

 

 コロナによる社会的打撃のさなかの2021年7月3日、連帯会議を中心に発起人169人、出資金3億ウォン余りを集めて「社会連帯信用協同組合」創立総会が行われた。
 社会的経済企業は、一般の金融機関から資金を円滑に調達することが難しいため、社会的経済はこの問題を自ら解決すべく、協力と連帯を通じて資本を蓄積し、社会的経済のための信用協同組合(以下、信協)を設立しようという要求が高まったのだ。具体的には次のような現実に対応する必要があった。

①雇用労働部によると、社会的企業の5年生存率(79・7%)は一般企業の5年生存率(31・2%)の2倍を超える。
②しかし、相対的に収益基盤が脆弱で規模化できないため、金融市場から排除されている。
③政府の社会的金融活性化計画(2018年2月)以後、市中銀行の資金供給が大きく増えたものの、保証、担保を必要とするため、零細な社会的経済企業は依然として疎外されている。
④ソウル、京畿道、忠清北道など自治体の社会的経済基金と連携して融資を行う地域信協を除けば、一般的に信協は社会的経済企業への融資経験が少なく、個々の信協の経営状況と社会的経済についての認識の違いによりパートナーシップを構築することができない。
⑤社会的経済企業(従事者含む)が自助的に資本を形成し、社会的経済に必要な金融商品を通じて社会的経済企業の福利を向上させ、財政の健全性を確保する必要がある。

 2020年6月から始まった信協の設立準備は、連帯会議が中心となって、社会的経済組織やその現場と緊密に意思疎通しながら、信協中央会の指導を得て進められた。そして、21年7月の創立総会では、社会連帯信協の主要事業を次のように決定した。

1.全国の連帯会議会員および会員に所属する法人・団体を共同紐帯(注1)とする団体信協で、社会的経済企業の役割を担う。
2.価値に見合った革新的な金融商品の開発
3.社会的プロジェクトに対する金融支援の強化
4.社会的経済の内部評価等級の開発
5.健康な生態系づくりに寄与
6.社会的経済を越えて社会的価値を追求する。

 しかし、信協に対する監督権限を持つ政府組織である金融委員会は、社会連帯信協設立に否定的な立場だった。その理由は、①社会的経済に資金を供給することが危険に見えるが、リスクをどのように管理するのか、②資金調達に関して、非組合員預金が無分別に拡大する危険はないか、③収益創出及びコスト削減はどうするか、との懸念があったからだ。
 加えて設立認可の権限を持っている信協中央会は、連帯会議が「設立同意者100人、潜在組合員1000人」という条件を充足できないため設立認可申請に符合しないとして不適格通知を出した。それでも信協中央会は「連帯会議の各会員に所属する個々の団体、企業、個人を連帯会議会員として加入させれば可能だ」という意見を示したが、この提案は2次連合会である連帯会議のアイデンティティと合致しないため、受け入れ難いという決定を下した。
 その後、社会連帯信協理事会は「ソウル市のみ限定で、連帯会議に所属する団体、企業、個人を組合員として含む」という案を検討したが、これもまた連帯会議のアイデンティティに合致せず内部分裂を引き起こしかねなかった。また、そもそもソウル地域の潜在組合員が610団体・企業しかないため、潜在組合員1000人という基準を満たすことが難しいと判断した。このように、社会連帯信協は解決困難な重要課題に直面し続け、創立総会で決定した事業は一つも実行できないまま、2022年8月30日に解散総会を行うという残念な結果となった。社会連帯信協設立のために集められた出資金約3億ウォンは設立同意者に返還された。なお、設立同意者の一部が信協設立推進のために寄付した運営費と預金利子を合わせた約1000万ウォンは、これまでの過程と課題を整理する白書発刊のために活用される予定である。

 

自治体の社会的経済基金の効果

 

 他方、14の広域・基礎自治体では、社会的経済の活性化を目的とした社会的経済基金を設置・運営している。2019年まではソウルと京畿の2カ所だけだったが、2020年にソウル、京畿、忠南、世宗の4カ所、2021年ソウル、京畿、忠南、全北、慶南、世宗の6カ所に拡大した。自治体が一般会計から繰り入れた金額は累計約2000億ウォンだ。支出額(予算編成基準)は2022年までに累計2620億ウォンである。なお、支出予算額は2021年に383億ウォンだったが2022年には279億ウォンに減少した。
これらの基金は、社会的経済企業を対象とした融資・出資など金融性事業と、二次補填(利子支援)や支援金など非金融性事業に使われている。金融性事業に編成された予算は約2432億ウォンであり、非金融性事業に編成された予算は197億ウォンで、非金融性事業が予算に占める割合は7・5%だ。
 このように自治体の社会的経済基金は融資を基本としており、非金融事業も資金調達を支援する目的から大きく逸脱しないとしている。自治体が社会的経済企業のための特別な資金供給に乗り出す理由は、社会的価値を明示的に追求する金融市場が不足しているためだ。
 公共資金を供給することによって、①社会的経済が金融に関する力量を強化する、②制度圏の金融システムを変化させ、社会的経済組織と社会的価値を追求する事業が必要な資金を適時に使える体系を作る、という2点を長期的な視野のもとでバランスよく活用することが必要である。
 しかし、これまでの基金運営の過程で、支援対象の適正性、審査基準、事後管理に関する問題が繰り返し生じているため、支援資格の適正性や重複支援に対する事前確認、そして成果管理の仕組みが必要だとの意見が出されている。
 コロナの影響が収まりつつある現在、中小商工人と社会的経済企業のための税制支援と賃貸料減免などの支援が減り、まだ回復傾向に入っていない社会的経済企業は経営上の困難を回復できていない状態だ。社会的経済の価値と効果に対して否定的な見解を持つ尹錫悦大統領就任1年、そしてウクライナ戦争による原材料価格の高騰、米国発の金利引き上げなどで社会的経済はさらに四面楚歌に直面した状況だ。今後、社会的経済はどのように出口戦略を作れるか、持続可能な生態系は構築できるのか、そして社会的経済運動の観点から国家または政府について、深く悩まなければならない。

 

社会的経済における政治とは、生活政治

 

 人間の経済生活において国家の役割は重要だ。新自由主義の退潮と新型コロナウイルス感染症のような全人類的な危機的状況を経て、国家の役割や大きな政府に対する要求が高まっている。だからこそ、国家の機能と役割、支援と干渉の具体的な意味と境界、支援の対象となる運動とそうでない運動の区分など、社会的経済運動の現場で直面する問題を国家との脈絡で考えていく努力が必要だ。
 このような側面で社会的経済と政治はどのような関連性を持つべきかを考えてみれば、既存の政治は権力闘争の政治、中央権力獲得のための政治に陥っている。一方、社会的経済における政治とは、日常生活の中で意識の変化を作り出すこと、すなわち生活政治ではないかと思う。しかし、社会的経済は現場の活動が成熟する前に、制度という枠組みを作ることに汲々としていたのではないかと思う。社会的経済の活動が熟成するための酵母の役割を果たし、正義、平和、生命が生きる社会を作り出すことを目指すのが、社会的経済における政治なのだ。そして、そのような事例は既に韓国社会に存在する。「小さな手適正技術協同組合」の廃資源を利用した事業、「ソンミサンマウル共同体」の介護、教育、食事業、「住民信協と住民生協」の3040COOP宣言による協同組合地域社会づくりだ。これらの事業と運動が持つ社会的な意味や、社会的弱者への恩恵ということに対する理解と認識が一般人の政治意識に変化をもたらすだろう。
 政治勢力化を進めるならば、多様な集団が各自の利害を調整しながら政治力が生まれなければならないが、今の社会的経済にはそのような空間が存在しない。だが、社会的経済と政党あるいは地域共同体、地域政治をする、グループによる、ある程度の相互連携は可能ではないかと思う。ただ、このような活動がこの社会をひっくり返すほどの勢いをいつ見せるかは未知数だ。

(P.102-111記事全文)

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