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気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)歴史的な気候変動枠組条約第「パリ協定」採択と今後の課題(気候ネットワーク代表 浅岡 美恵)

季刊『社会運動』 2016年4月号【422号】 特集:市民が電気を作る、選ぶ

3「パリ協定」の具体的な内容とは

[1]世界全体での長期目標と各国の削減目標
 削減目標に法的拘束力が付された京都議定書とは異なり、パリ協定では、各国は自主的に目標を策定する仕組みです。世界全体での長期目標を明記し、その実現のために各国の目標を設定して実行計画をつくる構造が特徴です。
 協定ではまず、「地球の気温上昇を産業革命前から2℃を十分に下回る水準にとどめ(既に、0.9℃上昇しています)、さらに、1.5℃にも抑制する努力、適応能力・耐性の強化、温室効果ガスの低排出型発展、それらと整合性のある資金フローの確立を、世界全体で達成していくことを目的として定めました(2条)。そのための中長期排出削減のビジョンを、「途上国もできるだけ早期に排出量を減少に転じさせ、21世紀下半期に温室効果ガスの人為的排出量と人為的除去量とをバランスさせる(4条1項)」と具体化しました。日本は「2050年に80%削減」を閣議決定していますが、それ以上に厳しい目標です。
 この長期目標を達成していくために、COP21までに約190ヶ国が国別の目標を策定・提出しています。ただし現状の目標では、120億トン(12ギガトン)以上も不足しており、「ギガトンショック」と言われています。

 

[2]どのように目標を達成するか
 そのため、各国の目標を確実に実施し、目標自体を更新し、高めていくことが必要になります。「目標の継続的策定と報告、国内対策の実施は先進国と途上国ともに義務(4条2項)」とされました。しかし、目標達成は義務ではなく、各国が自主的に策定して条約事務局に報告し、これをWeb上で公表する仕組みとなっています。これと長期目標との乖離を埋めていくために、パリ協定では、各国に長期目標達成戦略の策定を求めています(4条19項)。また、2023年以降、5年毎に長期目標への適合性を検証する世界全体の実施状況の確認(グローバルストックテイク)を行い、各国は2025年から5年毎に削減目標を更新します。その9~12ヶ月前に現状確認が提出されるので、少なくとも1回のCOPで各国の批判にさらされ、達成状況の検証を受けることになります。目標全体の最初の見直しは2018年に行われることになりました(決定文書20項)。どの国が先導的役割を果たしていくのかは今後にかかりますが、世界全体で前進させていく歯車を組み込み、温暖化の進行にも後押しされて、このサイクルが効果をもたらすと想定されています。

 

[3]途上国への技術と資金の提供
 パリ協定では、各国に適応計画の策定を求めています(7条)。世界で既に温暖化による被害が現実化しており、今後、拡大していくことから、洪水を防ぐ備えを強化したり、旱魃に備えたり、農作物を気候に対応して品種改良していくことなどを「適応対策」と呼んでいます。地方自治体の重要施策として、日本など先進国ではこれまでも行われてきているのですが、温暖化の進行によって、時間降水量が100mmを超える、長時間降り続く、海水温の上昇によって冬季の降雪量が増加するなどの変化も現れており、従来の対策では追いつかなくなっていることを織り込んでいく必要があります。
 さらに、適応対策の取りようがない被害を「損失と損害」と呼び、途上国の強い要請によってパリ協定にはその最小化に向けた規定(8条)が盛り込まれました。
 先進国は引き続き、削減と適応の両面で、「途上国への技術と資金の提供(9条)」が義務とされましたが、中国など新興国からも提供が予定されています。

 

[4]「パリ協定」の弱点
 パリ協定は国際条約であり、最新の世界の排出量の55%を占める55ヶ国以上が締結後、30日を経て発効するとされています(21条)。日本はCOP21での存在感が乏しかったのですが、発効要件については、排出量に占める割合も要件に加えるよう強く求めました。2013年の推定排出量では中国が約29%、米国が15%、EUが10%を占めており、これらの国の早期受諾は交渉段階で折り込み済みとされてきました。
 米国大統領選挙の行方などにもかかりますが、京都議定書の発効要件(世界の55ヶ国及び先進国の排出量の55%を占める国の批准)と比べてもそのハードルは低く、最終段階まで残されていた「発効は2020年1月1日以降とする」との選択肢も削除され、決定文書には早期の発効を予定した条項が多くあります。
その上で、パリ協定の意義は目標策定と5年毎の見直しが法的拘束力のある制度となっている点ですが、その実の部分、即ち、目標の達成や目標の引き上げは、各国に委ねられており、そこがパリ協定の弱点でもあります。その国の経済発展のために削減競争が自主的に促進されることを期待した仕組みなのです。まさに、各国の意欲と実行にかかっており、パリ協定の真価は今後の各国の対応如何ともいえます。
(記事から抜粋 P151~P155)

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