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アメリカの農業政策が生み出す肥満問題(日本女子大学教授 植田敬子)

季刊『社会運動』 2016年7月【423号】 特集:食料消滅!?

「肥満が蝕むアメリカ社会」の医療費と食費


 アメリカでは、肥満への危機感がかつてな いほどに高まっている。しかも今では肥満問 題が深刻なのは成人だけでなく、むしろ子ど もである。それを解決するために、オバマ政 権はホワイトハウスに作業部会を立ち上げた。2010年5月に提出された報告書で は、以下のような事柄が列挙されていた。

  1. 2歳から 19 歳の子どものうち、 31 ・7%が 過体重か肥満(注1)である。
  2. 2000年に生まれた子どもの3分の1 は、将来、糖尿病になるであろうと予測さ れる。
  3. 肥満の成人は、正常体重の成人よりも毎 年1429ドルも多く医療費を支出して いる。
  4. 国全体でみると、肥満に起因する病気へ の医療費支出は1998年には400億ドルだったのが、2008年には147 0億ドル(1ドル120円で換算すると 17 兆6400億円)にまで上昇していた。
  5. 17 歳から 24 歳までの4分の1が太り過ぎ で、軍の兵役審査に合格できない。

 このままだと現代のアメリカ人は、親の 世代よりも平均寿命が短くなる。
 肥満のために職場での欠勤率が高くなり、 労働生産性の低下が起きている。
 このように子どもの肥満問題を巡る報告書には、アメリカ社会の根幹に関わる重大な指摘がなされていたのである。
  アメリカは、医療費への支出が高いことでも知られている。GDPに占める医療費支出比率はOECD諸国の中で1位、さらに医療費支出における私的負担比率も突出しており、これも1位である。アメリカ国民は自分の財布から、高額の医療費を負担しているというわけだ。
 消費支出に占める食費と医療費の比率の推移を見てみよう(表1)。
 GDPに占める医療費比率は1950年から増加し続け、2013年には全消費支出の約4分の1を占めるまでになっている。逆に、食料費支出の占める割合は低下の一途で、2013年には13%足らず。アメリカにおける医療費支出比率の高さと食料費支出比率の低さは、他国と比較しても顕著である。因果関係の証明はできないが、二つの説明が可能だ。一つは低価格で不健康なジャンクフードばかり食べ続けることで病気になり、医療費がかさむという可能性。もう一つは医療費が高いために食費にさける金額が減り、低価格のジャンクフードばかり食べるようになったという論理である。
 いずれにせよ、これだけ多くの医療費を費やしているにもかかわらず、アメリカ人の健康寿命も平均寿命もOECD諸国の中では最短で、肥満度は1位。アメリカは現在、OECD諸国の中では突出した医療費をかけているにもかかわらず、国民の不健康度もほぼ最悪という状態だ。肥満に起因する糖尿病や心血管疾患で死亡する確率も極めて高いのだ。

(P.66~P.67 記事から抜粋)

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