月刊『社会運動』 No.310 2006.1.15


目次

<新春・状況風景論> 地域に連帯経済・社会的企業の芽を 柏井宏之‥‥2
<年頭論文> もうひとつの構造改革―21世紀市民社会に向かって 佐藤慶幸‥‥7
第2回モンブラン会議参加報告 社会的経済と生活クラブ運動との接点 伊藤由理子‥‥17
<ネットの政治> 代理人交流センターから新たな全国ネットへ 中村春子/関根由紀世‥‥22
第19回社会経済セミナー報告
 企業と生協の社会的責任 水口 剛‥‥28
 生活クラブ生協埼玉の中期計画 渡部孝之‥‥42
食糧政策研究会報告 「構造改革」下の農業問題 田代洋一‥‥49
<追悼> 新井美沙子さんを悼む 大河原雅子‥‥65
2005年バックナンバー ‥‥66
雑記帖 米倉克良‥‥68

表紙からのメッセージ 写真家・桑原 史成
 昨年は戦艦「大和」が沖縄戦を前に東シナ海で撃沈され太平洋戦争が終結した昭和20年(1945年)から60年の節目にあたる。昨年の暮れには映画「男たちの大和」が始まった。掲載の写真は広島県呉市にある大和ミュージアム(呉市海事歴史科学館)に陳列されているレプリカの戦艦「大和」で、実物の10分の1とされるがそれでも全長26.3mもある。一日当りの来館者数は平均で2,500人とか、多い日には約5,000人となるとされる。
 与党の自民党は立党50年を昨秋にむかえ、それにあわせるかのように新憲法の草案を決定した。この草案の焦点は憲法9条にあるようだ。戦力の不保持を宣言した現行の第2項を削り、日本の平和と独立と国民の安全を確保するため「自衛軍」を保持する、と明記されている。この草案が今年の国会に提出されるのかどうかは定かでないが、半世紀の歳月を経て歴史は動くかも知れない。


 《新春・状況風景論》 地域に連帯経済・社会的企業の芽を―生活クラブ関連グループの位置と役割―
市民セクター政策機構 理事長 柏井 宏之

 新年の連帯のご挨拶を申しあげます。
 昨年、確実にひとつの可能性が拡がりました。それは、日本の近代以来、戦前戦後を越えて貫かれた「公」の国家独占のなかで、縦割り行政の特別法によって存在しかつ無惨に分断されてきた「非営利・協同セクター」が自らがサード・セクターであり、市民セクターとして、社会の中で果たすべき役割と事業について再認識する共通の、多様な角度からの広場ができたことです。

◆壁を越えてサードセクターの共鳴音
 社会的経済の実践的理論家ティエリ・ジャンテ氏を招請しての市民国際フォーラムは、東京で国連大学ウ・タントホールに219名の、また大阪ではエル・おおさかに203名の参加をえて、さらに熊本で水俣病の爪痕を乗り越えて地域再生につなげる研究者交流として成功裡に実現しました。「非営利・協同セクター」が「社会的に不利な立場の人々」と「社会的に不利な立場の地域」において市民が担う新たな公共として社会的企業の就労機会をいかに協働して創りだしていくかが強く意識されました。同時にその招請主体が、現代日本の中央と地方の状況に深く規定されて形成されたことでした。
 東京では、研究所間の個人の協働による社会的企業研究会が、労働組合、協同組合、NPOの境界を越えて形成されました。呼びかけ人には、粕谷信次(法政大学)、北島健一(松山大学)、田中夏子(都留文科大学)、富沢賢治(聖学院大学)各氏をはじめ、個人の自由意志を横断して、連合総合生活開発研究所、生活経済政策研究所、生協総合研究所、非営利・協同総合研究所、日本NPOセンター、NPOサポートセンター、協同総合研究所、21世紀コープ研究センター、WNJ、日本労働者協同組合連合会、オルター・トレード・ジャパン、市民福祉団体全国協議会、参加型システム研究所、市民セクター政策機構などが連なり、後援にはILO駐日代表部、日本協同組合学会が応えていただきました。日本の現状把握のために8回にわたって開かれた研究会は確実に参加者を拡げ、例えば8月の労金で開かれた会合には企業や大学院生なども含めて一杯になり「社会的企業」についての関心と手応えが「民営化」一色の中で拡がりました。全労済協会は機関誌LRL6号で「新たな経済活動の枠組みを模索する−社会的経済とは何か」の特集が組まれました。
 日本側のフォーラム報告者は、粕谷信次、藤木千草、山岸秀雄、鈴木英幸、高橋均の各氏で、新しい働き方の法制化、NPOの今後の展開、ファンドの面からの市民事業支援、労働運動の新たな地域展開としての地協構想など、ジャンテ氏の総括的感想を含め、今後の社会的経済と社会的企業創出へ向けての議論の交差がきずけました。−続く


<年頭論文>―もうひとつの構造改革―21世紀市民社会に向かって―
早稲田大学名誉教授 佐藤 慶幸 


 2005年は後世どのように総括されうるであろうか。総選挙における小泉自民党の圧勝は、評価を別としても標榜する「構造改革」をあらゆる点で「象徴」し、かつ「代表」もするであろう。もっとも、私たちは、この構造改革なるものの日本の社会にもたらしてきた深刻な被害を箇所箇所で感じ、怒り、指摘している。しかし、それはともすると断片的であり、それゆえ処方箋につながらない。このアソシエーション論は、年頭に相応しい総合と処方箋への道を示す。(編集部)

(1)小泉構造改革の功罪
 「官から民へ」のスローガンをかかげての小泉構造改革推進の背景には、戦後60年の日本の経済成長をささえてきた官主導のもとでの「政官業の談合的公共政策」では、1991年のバブル経済崩壊後の「失われた10年」を経ても少しも日本経済は浮上しないばかりか、ますます国家財政は国債に依存して700兆円を超える財政赤字は縮小しないという状況があった。
 小泉構造改革は、戦後自民党のゼネコン的利権構造や、官の天下り、官の特権的構造にメスを入れて、これらの利権構造を改革するために、市場原理主義を導入することで、行政においても経済的効率を高めることを目指すものであった。
 バブル経済の崩壊、企業倒産、そして「官から民へ」の小泉構造改革路線によって、終身雇用、年功序列制度を基盤とした日本的な集団主義企業社会は、市場個人主義にもとづく能力主義や成果主義へと移行した。小泉構造改革は、戦後日本の保護主義的な資本主義からグローバルな競争にもとづく世界市場資本主義への移行を視野に入れているのである。
 参議院で否決された郵政民営化法案を通すために、衆議院を解散して国民投票的な総選挙に訴えて、小泉自民党は圧勝した。衆議院で郵政民営化法案に反対した自民党の立候補者に「刺客」を立て、かつ反対当選者を離党させ、派閥の力学を殺ぎ、自民党の圧勝を盾に古い自民党を構造改革し、小泉自民党が形成されたのである。このことを背景に小泉は、内閣を改造し、さらなる行財政改革をすすめようとしている。
 選挙で大勝したことを受けて、多くの国民は構造改革に賛意を示していると、小泉首相は判断して反対者を切り捨てて改革を推進しようとしている。しかし、そこには日本の民主主義にとって大きなリスクが潜んでいると思わざるをえないのである。
 まず第1のリスクは、議会制民主主義の否定と国民投票的な指導者民主主義にともなう大衆民主主義のリスクである。参議院で否定された郵政民営化法案の再生を求めて、首相権限で衆議院を解散し、郵政民営化の賛否を問うという国民投票的な選挙で、国民大衆は小泉劇場でのデマゴーグ的な弁舌や刺客演出に酔いしれて、郵政民営化の何たるかを理解することなく、拍手喝采を送ったのである。しかも、日頃政治には無関心の人々、とりわけ定職についてはいない「下流階層」の若者たちが投票することで、自民党バブルが起こったのである。小泉のポピュリズムの勝利であった。こうした状況での民意は、理性的で健全であるよりは、情緒的で非合理的で刹那的である。
 第2のリスクは、討議による議会制民主主義の形骸化がすすむというリスクである。本来、議会制民主主義は、大衆民主主義に内在する非合理的な衝動をチェックするためにあるはずである。こうした大衆の拍手喝采的な民意を背景として、討議民主主義の軽視あるいは否定がすすみ、数の論理にもとづく強者の論理によって、増税法案や憲法改正法案が可決され、日本の将来が方向づけられるというリスクがひそんでいるのである。
 こうした手法によって「官から民へ」の構造改革による「民営化」をめざす「市場原理主義」は、強力な政治権力とそれによって扇動される民意にささえられて可能になることに注目しなければならない。経済の自由主義は、国家権力から自律しているのではなく、「強力な政府」によって支持されて可能である。「官から民へ」の構造改革の一番の支持者は経済界である。その経済界によって差別的につくりだされる「下流階層」の若者たちが、郵政民営化選挙で小泉自民党に投票したのである。歴史的に見ても、下層階級は強力な権力者に期待する傾向がある。
 第3のリスクは、小泉構造改革は、社会の2極化をもたらし、「下流階層」を拡大させ、社会をますます不安にするというリスクである。そのリスクがしばしば強力な権力を生み出すのである。−続く 


第2回モンブラン会議参加報告 社会的経済と生活クラブ運動との接点
生活クラブ生協・東京 常務理事 伊藤由理子


第2回モンブラン会議の位置づけとテーマ
 11月4日〜6日、フランスのアヌシーで開催された第2回の世界社会的経済フォーラム“モンブラン会議”に参加しました。昨年の第1回会議には、WNJ(ワーカーズ・コレクティブ ネットワーク ジャパン)から藤井千草さん、金忠紘子さん、そして法政大学の粕谷信次教授の計3名が日本から参加。今回、日本からは生活クラブ運動グループの4名が参加しました。メンバーはWNJの中村久子さん、市民ネットワーク・千葉県の岩橋百合さん、生活クラブ・東京の伊藤、そして市民セクター政策機構の清水亮子さん(事務局)です。
 今回の第2回会議は、EUを中心に18カ国・約80人の規模となりました。約半分は地元フランスからの参加で、アフリカ地域や旧東欧圏からの参加もありましたが、アジアからは私たち4人だけの参加でした。
 第1回目の昨年は、EUを中心に、協同組合や共済組合などの共益的経済活動を行なう謂わば社会的経済の老舗セクターと、福祉やフェアトレードなど公益的性格の強い事業に力点をおく連帯経済セクターとの論争が巻き起こる中での開催で、会議のテーマ自体がそうした事態を理論的に整理し、グローバリゼーションに対抗するオルタナティブな経済セクターとしての大きな連携を形づくることに置かれたと思われますが、第2回目の今年はその理論的整理の上に立って、今後のセクター対抗力を高めるための情勢認識と施策の獲得にテーマが置かれていたと思われます。
 会議は前回の共有点の確認、その後の各国での動きの報告から始まり、そうした新しいプロジェクトを成功させていくためにも、我々の活動を市場の中に見える形で位置づけていくことが求められているという問題意識が提起されました。

マッキンゼーの問題提起を受けて
 その議論のためのゲストスピーカーとして招かれていたのはマッキンゼーの役員で、様々な多国籍企業の広報戦略を映像と共に紹介し、それに先進諸国の消費者動向分析を重ね合わせることで市場のトレンドを浮き彫りにしました。総合すると、フランスやイタリアなどの消費者調査から、現在消費者に支持されている企業の特徴は以下の4点に力点を置いたコミュニケーション戦略をとっているということです。
1.CSR(企業の社会的責任)、環境対策、持続可能性、情報公開を最重視しているというイメージ形成
2.消費者の事業活動への関与・参加の工夫、one to one marketing、地域社会形成への関与などの内容をもった顧客マネージメントの具体化
3.社員の福利厚生、子育て支援策、女性幹部の登用、終身雇用制度などの従業員満足の向上
4.会社組織のあり方として、分散型でネットワーク型の組織ガバメント
 これらの実例として挙げられた企業は、ネスレ、GE、エクソン、三菱、CITIグループ、ウォルマート、IKEAなどです。2000年以降の業績を見ると、こうした政策に転換した企業は大きな伸張を果たしている一方で、消費者調査や広告にかける費用は2〜4倍に膨れ上がっているということでした。講師は、こうした内容は社会的経済セクターが古くから問題意識をもって取り組んできたテーマであるにも関わらず、若い世代が働きたい企業の20位以内にも社会的企業が入っていないことをもって、我々のマーケティングの弱さ、コミュニケーション戦略の遅れを指摘しました。
 この問題提起を受けた議論では、EUの先進国から法人格や事業内容の違いを超えて世界の人々に社会的経済を認知させる広報戦略が必要であること、そのためにより幅広い連携関係と共通のブランド(ロゴや認証など)を持つべきではないかという意見が出される一方で、アフリカや旧東欧圏からは、こうした多国籍企業の動きは新しい形の搾取そのものであり、社会的企業はそのようなことに資金をかけるべきではなく、地域社会との連携や運動団体・学術団体・行政機関などとの共同事業を推し進めることで別の形での社会認知を獲得するべきだとの反論があり、その根本的な温度差は会議の最後まで埋まらなかった印象を受けました。−続く 


<ネットの政治>代理人交流センターから新たな全国ネットへ 運動を継承しつつ、新しい機能をめざす
<お話>  中村 春子(市民ネットワーク・千葉県共同代表、全国市民政治ネットワーク議長団体幹事)
関根 由紀世 (市民ネットワーク・千葉県事務局長)
<聞き手>「社会運動」 編集部


<編集部>2005年11月2日に第14回の代理人運動交流センターの総会が開催され、そこで規約改正がなされ、「代理人運動交流センター」という名称が、「全国市民政治ネットワーク」(「通称全国ネット」)と名称変更となりました。(資料1)この経過を、現在幹事団体として事務局を担っている市民ネットワーク・千葉県の共同代表の一人である中村春子さんと事務局の関根由紀世さんに、お話しを伺います。

「ネットは曲がり角」
<中村>
まず事の起こりは、04年の第13回で「ネット運動を継承し、活動をイメージしやすい名称を検討します」という方針が確認されました。単なる名称の変更ではなくて「代理人運動」が始まってから、かれこれ20年以上経てきているわけですが、「そろそろ曲がり角に来ているのではないか」といった考え方もあり、運動の新しい方向を目指す議論をしていきましょうという内容も含まれています。
 そのため、05年2月の幹事会で、テーマとして、一つは、これまでの運動の検証をしましょう。二つに、交流センターの機能について検証し、未来に向けた討議が必要とされ、幹事会は、幹事会以外のメンバーでの、「あり方プロジェクト」を発足させました。
 7月に第一回を行い、それを踏まえ、8月8日、9日に合宿して討論しました。それぞれ歴史や思いの違いや、濃淡がある中での議論でした。丁度、合宿中に衆議院の解散がありました。皆、逐次、携帯電話で地元と情報交換をしながらの緊張感を抱えた会議でした。「あり方プロジェクト」の課題は、代理人運動の検証と、全国ネットの新たな連携のあり方についてです。

<編集部>これまでの活動の検証については、どのようなことが議論されたのでしょうか。

<中村>代理人運動交流センターの歴史(資料2)を踏まえると、生協が主導してきた時期から、自前の事務局団体を設置、自主運営組織に移行してから、自主的な経験交流を中心に活動を継続してきました。各ネットと生協の関係については、濃さが地域によって差がありますが、この交流センターについては、通称「全国ネット」として自主的に活動してきました。
 事業としては、「機関紙交流」があるのですが、各県ネット送付にするなど、システムを変えたりしてきましたが、今後も必要だとの意見でまとまりました。また、新たなネット創出にあたっては、各ネットの経験からの支援は行ってきましたが、地域の背景もありどこの経験も同じでないが、今後ともこの機能は必要であること。二大政党化の傾向の中で、埋没するのでなく、自治する市民を増やすという課題の存在意義が失われていないことを全国ネットとして表現することが必要であること。報酬管理や議員のローテーションなど、その政治姿勢は今後も必要。報酬管理としてはファンドをつくるなど新たなあり方を示している。政策テーマでの調査活動は、かつて共通で行おうとしましたが、全体のものにはできませんでした。
 やはり、社会構造を変えていくためには、地域政治に参加する人を、増やしていくことの活動、地域でより多くの市民の意見を拾い集めていくのがネットの仕事だと。そういう活動を地道にやっていかなくてはという認識があります。そのためには、対面活動が基本であることが共通の姿勢であることも確認されました。−続く 



第19回社会経済セミナー報告 企業と生協の社会的責任
水口 剛 高崎経済大学助教授


 生協は、もとともと「社会的責任」を果たしてきたとする思いを持つ人は少なくないと考える。その目的を「社会的使命」としてきたからだ。しかし、昨今、営利企業についても「社会貢献」「社会的責任」をめぐって議論されている。その違いはどこにあるのであろうか。市民運動から企業まで幅広く関わってきた水口氏の講演を掲載する。(編集部)

1.企業の社会的責任(CSR)
(1)CSRブームの背景と推進力
 「企業の社会的責任」(Corporate Social Responsibility)ということが、いまブームになっています。今日は、このCSRブームの背景と推進力、最近の動向と問題点、将来展望などについてお話ししたいと思います。私は企業の社会的責任を中心に研究しておりますので、こちらのほうがメインになりますが、それと対比することで生協の社会的責任とは何なのか、生協はどう対応していくのか、ということも考えていきたいと思います。
 そもそも企業の社会的責任という考え方は、1960年代から70年代にかけて非常に議論になりました。しかし、その後ほとんど広まらずに長い間忘れられていました。それが今頃ブームになっているのはなぜなのか。企業が変わったからでしょうか。それとも社会の側の意識が高くなったからでしょうか。あるいは、CSRという言葉の内容が変わったから、企業でも受け入れやすくなったのでしょうか。
 まず、現象面に着目して見てみようと思いますが、日本でCSRが注目を浴びた直接的な理由は、企業不祥事が頻発したことだろうと思います。数年前の偽装表示事件とか事故隠しあるいは欠陥車の問題、最近では大きな粉飾決算が続発している。そして不祥事を起こした結果として業績が非常に悪化するケースも出てきた。そういうことがCSRに着目させた原因ではないかと思います。
 また1990年頃から、環境マネジメントシステムを導入し、環境報告書を作成するなど、企業の環境問題への取り組みが徐々に進んできました。それをベースにして環境問題からより広い社会問題へと関心が広がってきた、ということもあるだろう思います。
 特に企業の内部に着目しますと、1990年代以降、環境マネジメントシステム等の進展に伴って環境部門が出来て、仕事として環境問題に取り組むようになりました。そして、ISO14001の取得や環境報告書の作成が一段落すると、次のテーマは何かと考えるようになり、視野が社会問題に広がっていったのではないでしょうか。
 そのときに日本のCSRブームのモデルになったのは、ヨーロッパの動きです。ヨーロッパでは、2000年頃から政府をあげてCSRあるいはSRI(社会的責任投資)を推進してきました。これが日本の企業のCSRのモデルになっていると思います。−続く 



第19回社会経済セミナー報告 生活クラブ埼玉の第4次中期計画
生活クラブ生活協同組合・埼玉 専務理事 渡部 孝之


 生活クラブの「班」は、戦後の政治を軸とした「民主主義」の「空洞化」に対して、直接民主主義的な「小さなサークル」としての機能を十分果たした。しかし、この時代の変化の中で、様々な試行錯誤はつづいている。生活クラブ埼玉の「くらぶルーム」には、多くの関心が寄せられた。この講演録を掲載する。(編集部)

1.第4次中期計画策定の背景と検討委員会の設置
 生活クラブ・埼玉は、05年度から、新たな5ヵ年の中期方針、第4次中期計画を進めていきます。その中心的なところをご報告したいと思います。
 まず、埼玉の中計は、第4次の前は当然第3次があったわけで、2000年からの5か年で、組合員3万人、1世帯当たり利用額3万円、供給高110億円を達成しようという数値目標を掲げたのですが、組合員が計画どおり増えなくて結果的には大幅な計画倒れとなりました。(組合員数25,650名、供給高84.2億円)
 それでは何が生活クラブ加入の障害になるのか、その原因を探ってみますと、先の連合のシステム改革の中で、システム料のところも含めてかなり改善されたかと思いますけれども、戸配ゼロで入った人たちの利用が思うように伸びないのは、やはり、景気の後退とか組合員の高齢化などがあるのではないだろうか。そんなことをいろいろ議論しましたが、基本的な原因として、何のために生活クラブを組織しているのかということが、組合員に十分に理解されないまま来たのか、それとも理解しているつもりだったのではないか。生活クラブが目指す姿とミッションというものを、これまであまり深く組合員に提示してこなかった。第4次はそれを明示しながら中計を作っていこう、というような議論をしてきました。
 そこで、第4次中期計画の策定に当たって、第3次中期計画の中間総括を行い、その1年後に、第4次中期計画骨子検討委員会を理事会の中に設置しました。
−続く 


第2回食糧政策研究会報告 「構造改革」下の農業問題 進められる農業と「協同」の解体事業
横浜国立大学大学院国際社会科学研究科 教授 田代 洋一

 グローバリゼーションの嵐の下で、人件費と食料費は低価格競争の先端に晒され続けている。人件費削減は市民生活を削り、食料費低落は農業の衰退に直結している。小泉「構造改革」路線の行き着く先には、市民生活と農業にとってどんな明日が待ち受けているのか。生活クラブ連合会と市民セクター政策機構による食糧政策研究会は、農業並びに協同組合に造詣の深い田代洋一教授を招いて2005年10月にその第2回目企画を開催した。

「構造改革」とは何か
 「小泉劇場」は相変わらず続いていますが、今日の諸問題の震源は、小泉「構造改革」です。
 皆様方と同じ協同組合である農協に対して、これから非常に強い攻撃が掛けられて来ています。農協分割、農協解体というところまで話が出ています。この直接の震源は、「総合規制改革会議」から代わった「規制改革・民間開放推進会議」というものです。議長は宮内義彦オリックス会長です。
 この会議は年末に本答申を出す予定であり、9月に中間答申が出されるはずでした。しかし、中間答申案には、株式会社の農地所有とか農協の解体とか、いろいろ書かれていたので、農協陣営や農水省が反対し、中間答申は出されずに一挙に年末の答申に行くことになりました。そして、推進会議が中間答申を出せなかったのは、またぞろ農協陣営が反対したからだ、彼らは抵抗派だとキャンペーンを張っていくわけです。
 農協分割・解体論の中身はどういうものかといいますと、農協は、営農指導、経済事業、販売購買事業、金融・共済等の事業を経営しています。それに対して、そういうドンブリ勘定はけしからん、不明朗だとして、部門ごとの区分経理ということを非常に強く言っています。
 農協は販売の手数料を3%ぐらいしか取っていませんので、経済事業で自立しにくい仕組みになっています。中には経済事業だけで黒字になっている優秀な農協もありますが、大半は経済事業だけでは赤字です。では手数料を上げれば良いのかと言えば、それは価格に反映し、競争にも負けてしまうということで、難しいところです。そこで、金融・共済事業から補填していたのですが、補填を禁止して独立採算制に持っていきなさい、というわけです。
 その次には、事業ごとに分割・再編しなさい、経済事業をやる農協、信用事業をやる農協、共済事業をやる農協というふうに分けなさいと。例えば生活クラブ生協さんでいうならば、消費材の供給事業と共済事業を完全分離しなさい、別の企業体にしなさいというわけです。

農協も全農も分割
 もう一つ全農については、農産物の販売事業からの撤退とまで言っています。経済事業は全農が売るのではなくて単協で行いなさいと。さらに独禁法適用除外を廃止し、組織を大幅に縮小する。協同組合は世界中で独禁法の適用除外が認められていますが、それをやめろと言っています。大きくならないとグローバル競争に勝てないと言われる時代に、農協だけは小さく分割しなさいと言っているわけです。
 なぜそんなことを言うかというと、端的にいえば、財界にとって今の農協はけしからん存在だと言うことです。農産物の内外価格差が大きいので関税が高くなる。農協がそれなりに価格交渉力を発揮しているので米価が下がらない。これを避けるためには全農の力をそぐ必要がある。つまり、これからWTOなりFTAで関税交渉が始まりますが、米価が低くなれば、関税が低くて済むし、彼らが言っている農業への「直接支払い」の額も少なくて済むので、政府の財政負担を減らすことができる、という道筋になってくるわけです。
 実はこういうことは2002年から2003年にかけてかなり激しく言われましたが、実現しませんでした。それではと相手が遠大な計画を作っているところに、昨年、JA全農あきたのコメの問題が発覚して、「飛んで火に入る夏の虫」とばかりに一気に状況が変わって、農協をつぶせということになってきたのです。
 農業問題については小泉さんの言う構造改革が実現していない。実は新基本法をつくった1999年に構造改革を実現したかったのに、それができていない。一つは、株式会社は、農地を借りられるようになったけれども、農地を買うことはできない。もう一つは、農協の一つ一つは小さいけれども、トータルすると系統農協として大きな力を発揮する。この2つが邪魔になってくるので、農業についての構造改革を何とか成し遂げたかったということです。−続く 


<追悼> 新井美沙子さん、安らかに
大河原 雅子 東京・生活者ネットワーク代表・前都議会議員


 新井美沙子さん(前都議会議員)が、11月30日午前8時26分、進行性の癌のために逝去されました。55歳でした。
 新井さんは、1987年から多摩市議会議員を2期8年務められ、ネット政策スタッフを経て、市民活動支援NPO東京ランポの理事長として活躍。議員の任期制をとるネットにとっては議員後の一つのモデルともなり、市民の広範なまちづくり活動に尽力されました。
 2001年からは活動の場を都議会に移し、市民との連携を図ったさまざまな活動とともに、自ら校長を務めた政策ゼミでは、若い学生たちとの新たなネットワークを築きました。ネット運動のパイオニアとして、市民とともに進めたまちづくり活動は新井さんのバイタリティの源泉でもあり、水を得た魚のように活き活きと活動する姿は私たちの記憶に鮮明です。都議会では都庁官僚の厚い壁に苛立つ様子も見えましたが、常に凛として聡明、しなやかで気さくな人柄は、周囲の仲間や友人、支持者を惹きつけてやみませんでした。
 「まちの主役は市民!」という、市民自治の価値を私たちは新井さんの思い出とともに、受け継いでいきたいと思います。
 新井美沙子さんのご冥福をお祈りし、生前、最愛のパートナー芳昭氏と共同で訳詩、「しのぶ会」で朗読された、英語詩を掲載致します。

千の風になって
わたしの墓の前で 泣かないでください
わたしはそこにはいません
眠ってなんかいません
わたしは千の風になってあなたの回りを巡っています
あるときはダイヤモンドのような雪のキラメキ
あるときは穀物にふりそそぐ陽光
秋の一日に静かに降る雨
そしてあなたが目覚める朝には
鳥たちを天高く押し上げる風
夜にはキラメク星たちの輝き
わたしの墓の前で泣かないでください
わたしはそこにはいません
わたしは千の風になって
あなたの回りを吹き抜ける
私はいま千の風




雑記帖 【米倉克良

 昨今の政治状況を「ネジレ」というキーワードから見ることができる。最大の「ネジレ」は、自民党という戦後政治の保守の枠組みそのもの中から、「構造改革」が「争点化」されてきたことである。むろん、その改革の中身には、さまざまな問題点を指摘しうるであろう。しかし、皮肉にも「自民党をぶっ壊す」といったフレーズは、率直に言って私たちの思惑を超えて、機能し続けてきているのではないか。最近の増税議論にせよ、まずは、与野党の「対立」ではなく、自民党の「内部対立」として「争点化」されるのである。この昨今の政治過程の中では、むしろ野党にこそ、さまざまな意味と次元での「保守性」を読み取れる。
 とはいえ、それは変化しつつある。いまだマスコミは沈黙しているが、「分権改革」について、自民党の「保守性」や、その戦略性のなさが次第に露呈されてきている。財源移譲にせよ、交付税にせよ辻褄あわせすら機能しない。問題は各マスコミの論壇の評者の、その感度の低さだ。しかし、もっと深刻なのは、若手の研究者や現代思想を語る評者にも、自治体を語る者が少ないことだ。戦後以来の政治学は、事実上、自治体論を「三流の学問」と扱ってきた。そして、かつてのマルクス主義は、「自治体」に対する運動を「階級闘争に従属する」と規定してきた。(実は、「協同組合」に対しても同じ扱いであった)果たしてこのドグマの枠組みを、どれだけ克服してきたであろうか。自治体を「国政」その他の「手段」とする限り同じ旧来型の枠組みである。地域の実践が明らかにする、政府機構を自治体―国―国際機構として、分節型に捉えていく視点なしに、その克服はありえない。

市民セクター政策機構 〒156-0044 東京都世田谷区赤堤4-1-6赤堤館3F
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