月刊『社会運動』 No.312 2006.3.15


目次

<市場万能主義と協同組合>生活クラブの位置と今後の役割 河野栄次‥‥2
GMOフリーゾーン看板特集 旭市、下曽我‥‥8
素朴な質問に応える 遺伝子組み換え作物・食品Q&A すすむ環境汚染 天笠啓祐‥‥10
欧州GMO最新事情 ドイツ、オーストリア、スイスの現状報告 たかおまゆみ‥‥20
第7回社会的企業研究会 農業をとりまく情勢と農村再生の可能性 桜井 勇‥‥26
<ミニ特集>香港のWTO閣僚会議の検証と今後の課題
 交渉のゆくえと市民活動の課題 市村忠文‥‥39
 サービス交渉:強引な採択がもたらすもの 佐久間智子‥‥42
 生活を置き去りにして進む交渉に抗議の声を 藤村康子‥‥45
 もう一つの東アジア連携は可能か 大野和興‥‥47
全国NPOバンク お金に意思を持たせよう 坪井真里‥‥49
「きょうと市民活動提携融資」シンポジウム お金の流れが社会を変える 中須雅治‥‥53
第2回モンブラン会議報告B 起業支援の労働者協同組合コパナム 中村久子‥‥57
<書評>市民自治体 社会発展の可能性 栗原利美‥‥59
<状況風景論>井手氏の先駆性「向三軒両隣」&地域創造ネット 柏井宏之‥‥63
雑記帖 細谷正子‥‥64


表紙からのメッセージ 写真家・桑原 史成
 
GMOフリーゾーン宣言という聞き慣れぬ運動が静かに拡がっている。「GMOフリー」とは遺伝子組み換え食品拒否の意であり、GM食品の生産や消費を、地域・地区、あるいは個人ごとに拒否する運動である。去る1月28日に、千葉県の銚子の手前にある旭市の広域農道沿いに、GMOフリーゾーンを宣言する巨大な看板が出現した。遠目にはその実感が薄れるが、看板の大きさは4畳半分。生活クラブ生協・千葉の組合員の働きかけと資金カンパ、それに応えた提携生産者の合作による大きな看板である。大きな脚立に登っての撮影となった。

市場万能主義と協同組合 生活クラブの位置と今後の役割
生活クラブ連合会会長 河野 栄次

 1月13日、新年にあたり、生活クラブ生協連合会は中期計画を遂行し、2006年度次期物流改革と生活クラブ組織と事業計画を実行するための役職員研修会を開きました。生活クラブ連合会会長より生活クラブグループの新たな飛躍へ向けての決意と今後の展望が表明されました。(編集部)

社会状況の中の生活クラブ
 最初に、現在の社会の中における生活クラブの位置からお話します。ここ15年前から提起してきた協同組合を中心とする「非営利協同セクター」が社会の主要な位置を獲得するために、生活クラブはどのように運動・事業を展開するのかが問われ続けられている、というのが私の認識です。
 小泉政権の構造改革とは小さな政府論「官から民へ」と、官・民2極対立の発想です。しかし、日本のような成熟した資本主義社会では、社会がこの2極で構成されているわけではありません。行政が行うこと、市場経済の中心的な活動主体である企業が行うこと、そしてもう一つ、市民が参加して自ら行うという極があります。この第3の極についての議論がないまま、改革(?)が進められてきています。
 残念ながら現在の事態は、人びとの生活基盤である年金・医療・福祉・教育・安定していた雇用など、セーフティネットが不安定になり、犯罪が増加し、その取締りを強化する警察官の増員、警察国家の到来が見えてきております。
 こうしたことが予測できたにも関わらず、私たちが対応できていないということを、もう少し真剣に考えなければならない時期に来ているということです。
 私たちがこれまで実践してきたことは、地域社会で生活する人々にとって必要な社会的機能を協同組合が中心になって各々の組織をつくり、それらが連携して地域社会をつくるということです。
 生活クラブは、生活に必要な諸機能を機能別につくることにある意味で成功しています。地域で働く場を作る「ワーカーズ・コレクティブ」、福祉活動を中心とするいろいろなNPO、市民が参画する政治活動の「ネットワーク」など、既存の地域の社会構造に対置し、新しい形態として自分たちでつくることは成功しています。
 しかし、それぞれ機能別に形成された組織は、その組織の存在を獲得するためのことに精一杯で、他の組織と連携して、地域社会を描く・創るというところまではなかなか進んでいません。今日の社会状況を考えると、仮に不十分な「地域ビジョン」であったとしても地域ごとに描き、既存の社会権力と闘争するということがないため、組織間の連携が中途半端になっております。これからは、そこをきちんとして取り組みませんと組織間の違い、相違点ばかりが出てきてしまいます。
 協同組合を中心とする地域社会づくりの中における生活クラブ生協の役割は、常におおぜいの新しい人が参加できる仕組み、共同購入活動を通じていろいろな問題を発見し、解決していく組織です。活動の範囲は非常に広く、活動の内容も濃淡があります。地域社会の中では、一番おおぜいが参加する組織で、覚える学校ではなく「おおぜいの考える民主主義」の学校です。
 ワーカーズは、働く場をつくる「小さくて鋭い民主主義」の学校です。ネットワークも、社会問題を政治的課題として考える「小さくて鋭い民主主義」の学校です。各種のNPO組織も人々が自主的に参加する民主主義の学校です。地域の人びとにとってこれらの組織が有機的な関係を持てるようにするために、生活クラブ生協の果たす役割は大きいと思います。常に新しい人たちに参加を求め、活動を通じて加入し続け生活クラブをつくる自由、また、自分で考えてやめる自由がある開かれた組織です。この生活クラブの活動を一つのステップとして新しい参加に繋がるからです。
 ちなみに、生活クラブをつくって40年、生活クラブに参加した人が約100万人を超えたのではないでしょうか。今、組合員数は26万人です。私は、生活クラブ運動に参加した人が100万人を超えたということはたいへん価値があることと捉えています。生活クラブの「おおぜいの考える民主主義」学校を出て、自分で考えて社会の主人公として登場している人は、全国各地で、いろいろな運動をしている人がおおぜいいます。もっと評価すべきでしょう。
 今の生活クラブの拡大力も含めて、もう一度そのことをとらえ直す必要があるのではないでしょうか。これが社会状況における生活クラブの位置ということです。
 次に、協同組合陣営の中に占める生活クラブの位置です。
 昨年12月、香港でWTO閣僚会議が開かれました。農産物問題は決着がつかないまま年を越しましたが、はっきりと交渉終結が目指されています。今やWTO体制は市場経済の象徴です。これに異議申し立てするものは国家、自治体すら認めない。そういう体制になっています。

レイドロウの総合農協評価を逆転させる攻撃
 そういう状況のなか、日本では、WTO農業交渉の一番の障害は農業者を組織したJAグループの存在になっております。政府方針に従わないならば、邪魔者は除くとばかりJAグループ潰しが始まっています。JAグループでは、それが分かっていながら闘うべき方向が見出せないのが実情です。
 カナダのレイドロウ博士が1980年、「西暦2000年の協同組合」の中で、世界の協同組合のモデルとして考えたのが日本の総合農協でした。総合農協は地域社会の中に暮らす人々が必要とするあらゆる機能が兼ね備えていると見られました。信用金融、共済、物品の購買、生産のための資材・エネルギーの販売、働く場としての生産工場、理容・美容などのサービス、福祉の介護の仕組みなど、協同組合で自己完結できる優れた組織であり、企業社会に対置できると記されておりました。−続く


点描:GMOフリーゾーン看板お披露目
GMO Free Zone in 旭市


 今月号の表紙でも紹介していますが、GMOフリーゾーン宣言とその看板設置の活動が拡がっています。遺伝子組み換え食品を作らない。食べない宣言を地域で行う活動です。全国の正確な集計となるか不明ですが、GMOフリーゾーン運動を呼び掛けている「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」と生活クラブの各単協で把握する同宣言地域の集計では、約4500ヘクタールに及んでいます。(2006年2月)
 その中から千葉県旭市(1月28日)と、神奈川県下曽我(2月11日)でのGMOフリーゾーン宣言看板除幕式の様子をお届けします。
↑生活クラブ生協の提携生産者・旭市の「村悟空」畑に四畳半の巨大なGMOフリーゾーン看板が立てられた。1月28日の除幕式には、生活クラブの組合員、提携生産者など、約百名が駆けつけた。千葉県生協連からも専務理事が列席。
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↑除幕式で挨拶する生活クラブ千葉の新保理事長。看板設置には、百万円を超える組合員のカンパが寄せられた。生活クラブ千葉と提携生産者グループ「元気クラブ」では、千葉市内など数カ所に大看板を設置する計画になっている。−続く 


素朴な疑問に応える 遺伝子組み換え作物・食品Q&A 心配される遺伝子汚染の拡がり
市民バイオテクノロジー情報室 代表 天笠 啓祐


 前回は遺伝子組み換えの作物の問題点はどこにあるのかという点にふれました。その対抗手段としてのGMOフリーゾーンについて、もう少しふれていきたいと思います。(編集部)

Q.13 新しい遺伝子組み換え作物への対抗手段があるそうですが、どういうものですか?
 ヨーロッパは、2004年4月18日まで遺伝子組み換え作物の流通と栽培を止めていましたが、アメリカの圧力で再認可しなければいけなくなって、厳しい表示制度を作りました。しかし、流通、栽培は再開せざるをえない。そこで、遺伝子組み換え作物の流通と栽培を再開する条件として、各国に、「3つの農業(有機農業、慣行農業、GM農業)の共存」という法律を作りなさいと勧告を出して、これまでにデンマーク、オランダ、イタリア、ドイツの4か国で共存法が出来ました。
 共存法というのは、遺伝子組み換え作物をどうやって隔離するかというか、どうやって影響を受けないようにするかという法律です。ですから、4か国の共存法は、事実上、遺伝子組み換え作物栽培ができない法律です。
 なぜかというと、一番大きいのは損害賠償の問題があるからです。例えば有機農業の場合、遺伝子組み換え作物が入っていると、有機野菜として認証されなくなるので価格が暴落してしまいます。ですから、もし、花粉が飛んで遺伝子組み換え作物の交雑・混入が起きて経済的損失が生じた場合、遺伝子組み換え作物を栽培した農家は有機農業への損害賠償を負わなければいけない。
 例えばデンマークの共存法では、損害賠償金は、遺伝子組み換え作物を栽培している農家が共同で基金を作って、そこから出すことになっていますから、遺伝子組み換え作物を栽培している農家は、損害賠償に備えてお金を出さなければいけません。
 そういうことが求められるので、損害賠償問題がある限り、遺伝子組み換え作物の栽培は難しくなってくるわけです。
 GMOフリーゾーンを宣言するのは、自治体や農家です。一番大きい単位は州政府で、州あるいは地方自治体がGMOフリーゾーンを宣言するケースが増えています。国でGMOフリーゾーンを宣言するのはルクセンブルク、マルタ、キプロスのような小さい国です。
 ヨーロッパというのは非常にややこしいところで、EU加盟国はいま25か国ですが、欧州委員会という行政組織があって、欧州委員会はアメリカと協調を図ってGMOをやりたがっています。国の姿勢はばらばらですが、基本的に日本政府と似ていて、推進の姿勢を採っている国が多い。典型的なのはイギリスとスペインです。反対の国は、ギリシャ、デンマーク、ドイツですが、ドイツは今回政権がひっくり返ったので、政策が変わりつつあります。
 ですから、推進する欧州委員会、推進派が多い政府。だけど、地方自治体がみんな頑張る。そういう構図が出来ているわけです。

Q.14 GMOフリーゾーンとはいったいどういうものですか?
 オーストリアの場合、9つの州のうち8つの州がGMOフリーゾーンを宣言しています。ギリシャは、全部の自治体がGMOフリーゾーンを宣言しました。イタリアは9割ぐらいの自治体がGMOフリーゾーンを宣言していますし、ポーランドも96%がGMOフリーゾーンを宣言しています。このように、自治体の間でGMOフリーゾーン宣言が広がっている。もちろん個々の農家も宣言している。自治体と個々の農家が宣言することによって広がっています。
 GMOフリーゾーンというのはイタリアのトスカーナ州が発祥の地です。トスカーナ州はルネッサンス発祥の地ですが、もう一つ重要なのはスローフード運動の発祥の地でもあって、スローフード運動をやっている人たちがGMOフリーゾーンを始めました。−続く 


欧州GMO最新事情 ドイツGM共存法、その後の動き
たかお まゆみ(ドイツ語翻訳工房)

■ドイツ共存法の成立と、その内容

 2005年2月、ドイツ共存法(正式には「遺伝子技術権法(第二次改正)」※1)が成立した。EU加盟国は共存法をすでに制定したか、あるいは論議途中であるが、現在までのところ、ドイツ法はなかでも厳格なものである。
 共存法成立の立役者は、当時、連邦消費者保護・食糧・農業省大臣を務めていたキュナスト大臣(緑の党)である。彼女はEU指令を容認、すなわち、GMOを国内で流通・栽培することを受け入れ、EUの大国であるドイツとして筋を通した。そのうえで、指令の国内法制化である共存法を極めて厳格なものとして成立させることに腐心したのだ。「これでは現実のGMO栽培は不可能だ」としてGM推進派のロビー活動はかつてなく沸騰し、法案が土俵際で可決された時は、有機農業者、環境保護団体、消費者団体、有機食品関連企業などの反GM派は心底、ホッとしたものだった。
 ドイツは総合的経済力で世界第3位、輸出額では第1位(※2)である。つまり他の先進国に比べて、国際性が強い点で際立っており、グローバル化の最前線にいる。そのため、GM推進派から、「農業分野の遺伝子技術を抑制すると、先端技術研究の遅滞、外国資本の誘致の障害、研究拠点の国外流出につながる」と憂慮する声が強いのは必然的であり、この国の特色であるといえる。

■政権交代で環境重視の農業政策から妥協方向へ
 05年9月18日、日本で総選挙が行われた直後、ドイツでも総選挙があった。これは州議会選挙で敗北が続いたのを受け(各州の議席数が連邦参議院の議席数に直結)、政権の命運を賭けてシュレーダー前首相が決断し、予定より一年前倒しして行われたものである。
 結果は事前予想よりも社民党の巻き返しが激しく、キリスト教民主同盟とキリスト教社会同盟(CDU/CSU 両党合わせて「同盟」と呼ぶ)の議席数が225、社民党が222という僅差、どちらも単独過半数に届かない結果になった。この結果への論評、その後の連立騒動劇は日本のメディアでも報道され続けた。
 日本のメディアが書かなかったのは、「ドイツ市民は市場経済一辺倒の単純なグローバリズムに反対し、CDU大勝利の目論見は挫折した」という欧州系メディアの論調だ。こういう論調にGMOを食べたくない市民感情が多分に含まれる。
 11月半ば、同盟と社民党の大連立政権が成立し、メルケル・CDU党首が首相に就任、重要閣僚ポストを社民党がとった。しかし、農業省はCSUに割り当てられ、ゼーフォファーが就任した。ゼーフォファーは、保守派政治家のうちでは、左派中道層にも一定の評価を得ている人物だが、緑の党のキュナスト前大臣と比べるならば、反GM派にしてみれば、とたんに話が通じにくくなってしまった感がある。
 ゼーフォファーは、就任後すぐの時点で、「(キュナストが工業的農業からの質的転換を図るために力点を置いてきた)有機農業政策は、費用対効果が思わしくない」として、有機農業への援助方法の見直しを公言した。

■選挙向け新型パフォーマンス:「ドイツ全国、大朝食会!」
 この選挙の終盤に、とてもユニークなできごとがあった。ドイツ全土180か所でいっせいに「大朝食会!」が開催されたのだ。同盟側はマニフェストに「GM共存法部分改正」を掲げていた。同盟側の選挙勝利を阻むために、反GM各派が統一して実施した超大規模な新型選挙運動だった。マスコミもこのアイディアに大きな共感を示し、大々的に報道した。主催者側は、「パフォーマンスは大成功。市民の投票行動に影響を与えることができた」と分析している。−続く 



第7回社会的企業研究会報告
(社)地域社会計画センター 常務理事 桜井 勇


 日本の農業は、今、グロバリゼーションの波をまともに受けて厳しい情況にさらされている。郵政民営化以上に規制改革・民間開放という流れの中で、農村という地域社会が少子・高齢化・規制緩和のなかで苦吟している。その中から新たにそだちつつある芽はどこにあるのかを(社)地域社会計画センターの桜井勇氏に豊富な情報から語っていただいた。(編集部)

 本日は、かなり難しいテーマをいただきまして、みなさまに十分にご満足をいただけるお話ができるか、心配をしております。はじめに、農業・農村、JAグループをとりまく状況というものは、かなり厳しいものがありますが、その辺りからお話をさせていただきます。その上で、農村部でどのような動きが出てきているのか、また、どのようなことが展望できるのか、お話させていただきます。

1.規制緩和がもたらしかねない農村・農業、JAの危機
 私の個人的な見解ですが、最近も規制改革・民間開放推進会議からJAの信用・共済事業の分離などが、新聞をにぎわしているところですが、ご案内のとおり国際協同組合同盟(ICA)のレイドロー報告の「西暦2千年の協同組合」において日本の農協の保健・医療から、経済、信用、共済事業など多岐にわたる総合性というものが大いに注目されたわけですが、いま全く逆に信用事業、共済事業などの兼営つまり、JAの総合性が問題にされております。
 この流れは、平成14年12月12日の総合規制改革会議(現在の規制改革・民間開放推進会議の前身)の第2次答申にあったと思います。その中身は、農協の本来の使命は、国際競争力のある農業づくり(「真に担い手たる農業者の利益を目指せ」)であり、それ以外は、本来事業ではない。したがって、農協の事業運営を抜本的に見直し、信用・共済事業がなくても経営が成り立つようにせよというものです。そのためにまず農協の各事業の区分経理の徹底をはかり、信用・共済事業を含めた分社化、他業態への事業譲渡などの組織再編を行えるようにしろというものでした。さらに協同組織の独禁法の適用除外の検証と公正な競争の促進やJAの正・准組合員資格や員外利用の状況調査等を行えというものでした。
 総合規制改革会議の論点は、農協が農業生産の担い手を含めて、組合員全体のくらしの向上と地域社会に果たしている役割を無視するものだと思います。ちなみにJAグループでは、農村地域の組合員・地域住民の保健・医療を守るための厚生連病院の医療事業や、高齢化が急速に進行している農村での組合員の主体的な参加による助け合い活動や福祉事業、新鮮で安全な生産者の顔がみえる直売所・ファーマーズマーケットなどを含む多様な活動・事業を展開しています。
 また、水田農業にみられるように農業用水の水利や用水路の共同での管理・保全など種々の住民全体の協同活動なくして維持できないという農業や農村の特性を規制改革会議の論議は捨象しています。農業・農村は、工業生産で行うのとは、異なる点があることを無視しているわけです。
 JAグループの事業・活動は、農業生産の担い手の支援とともに、兼業農家を含めた組合員のくらしの支援を行い、そのことにより安定して連帯のある地域社会づくりを目指しています。
 しかし、規制改革・民間開放推進会議の最近の論議にはすべて自由競争のもとに民間企業が取り組めばよいというもので、生協や漁協、森林組合など協同組合の組合員や地域に果たしている役割を無視するという点で、単にJAに対する提言にとどまらず、協同組合陣営全般への批判という性格を有していると思います。−続く
 


WTOミニ特集
香港のWTO閣僚会議の検証と今後の課題


 本誌前号で速報として報告したように、昨年(2005年)12月13日から18日まで香港にてWTO(世界貿易機関)の第6回閣僚会議が開催されました。本号では、いくつかの角度から香港閣僚会議について検証します。まず市村忠文さんに閣僚会議で何が決まったのか、市民として今後どう取り組むべきかについて、佐久間智子さんには、日常生活に大きく関わってくるにもかかわらず中身があまり知られていないサービス交渉についてまとめていただきました。藤村康子さんには、生活クラブの活動の現場からみた香港会議についての感想をお願いしました。最後に大野和興さんに、WTOに取り組む上で今年の目玉となるはずである6月の「世界経済フォーラム・東アジア会議」をどう見るのか、その視点を提示していただきました。(編集部)

WTO香港会議で何が話し合われたのか 交渉のゆくえと市民活動の課題
フォーラム平和・人権・環境 事務局次長 市村 忠文


 WTO(世界貿易機関)は、昨年(2005年)12月13日から18日まで香港において加盟149カ国の閣僚会議を開き、新ラウンド(ドーハ・ラウンド)の合意を図ろうとした。前回03年のメキシコ・カンクンでの閣僚会議が、途上国の反発から決裂に終わっただけに、今回もまとまらなければWTOそのものが瓦解するとの状況にあったものが、一転、貿易自由化にむけての助走を開始した。閣僚宣言では、2006年中に最終合意をめざすことを確認。それに向けて、4月末までに農業分野や工業製品のモダリティ(保護削減の枠組み・基準)の確立、7月末までに各国が品目ごとの具体的保護削減表を提出するという期限を区切った交渉スケジュールを決めた。しかも、その内容は、巷間伝えられているような「低い水準の合意」ではない。香港会議の内容と問題点、そして、今後の交渉に対する運動について考えたい。

「輸出補助金2013年までに全廃」で前進?
 最大の対立分野といわれた農業では、輸出補助政策をめぐって激しい交渉が行われた。途上国は一致してEUやアメリカの輸出補助金等の撤廃時期明示を求めた。ダンピングで途上国の貿易市場を奪っている輸出補助政策の早急な撤廃がなにより必要だとして、2010年までの全廃を迫ったが、EUが応じず、結局、2013年の撤廃が決められた。しかし、EUはすでに共通農業政策(CAP)で2013年までに輸出補助金を廃止することを決めており、その分を域内の農業補助金に回すことにしている。
 一方、アメリカは食料援助や輸出信用という形で実質的な輸出補助政策を行っているが、これをどうするかも先送りされた。さらにアフリカの低開発国からは、アメリカ等での綿花の助成削減が切望されたが、この輸出補助金は2006年までに削減するとされた。しかし、これはすでにWTOの裁定でアメリカに課されていたものであり、また、対象となっている輸出補助金はアメリカの綿花生産者向け助成金全体の5〜10%に過ぎない。
 このように、前進があったとされる輸出補助金だが、アメリカやEUには実質的に痛みをともなうものではない。また、途上国の先進国市場へのアクセスが大幅に向上するという保証もない。世界の農産物貿易を歪曲しているアメリカとEUの輸出補助の早急な撤廃と、実質的に輸出補助である農業支持政策の大幅な削減が必要となっている。

日本のコメはどうなるのか?
 日本にとって関心が高い「市場アクセス」では、農産物の関税削減交渉で食料輸入国と輸出国が対立。輸出国は大幅な引き下げを求め、特に、高い関税率の品目は一定の率まで引き下げる上限関税の導入を主張した。例−続く 


サービス交渉:強引な採択がもたらすもの
「環境・持続社会」研究センター(JACSES) 佐久間 智子

■無数のグリーンルームと二カ国の「留保」
 昨年(2005年)12月のWTO香港閣僚会議では、採択された閣僚宣言に対し、キューバとベネズエラが正式に「留保」を申し出た。これら二カ国は、NAMA(非農産品)とサービスに関する宣言文書の交渉プロセスと内容にどうしても合意することができなかったのである。長らく「コンセンサス(合意)」を旨として採決を行わず、最終文書の採択を全会一致としてきたWTOにおいて、シアトルやカンクンでの閣僚会議「決裂」とはまた違った、前代未聞の事態が起きたのである。
 このことが示している通り、今回の閣僚会議はこれまでにも増して不透明かつ非民主的であった。ラミーWTO事務局長によれば、会期中に6つの主要な会議とともに450の会合と200の協議が行われたというが、そのほとんどが、召集された数カ国だけが参加でき、議事録さえ残されない、いわゆる「グリーンルーム」交渉であったという。
 以下、この二カ国が合意を留保した理由の一つであるサービスに関する宣言文(および付属書C)の合意内容とはどのようなものだったのか。それまでのサービス交渉の経緯を概観しつつ、検討してみよう。

■サービス交渉とは
 1995年にWTOを発足させたGATT(関税貿易一般協定)のウルグアイ・ラウンド交渉(1986〜1994年)では、それまでのモノ(鉱工業製品と林・水産品)の分野に加え、農産物や知的所有権、投資、サービスなどについて、それぞれ独立した多国間協定が交渉され、その結果が最終合意に取り込まれた。したがって、WTOの全加盟国が一括受諾(交渉合意=協定の束を包括パッケージとして一括して批准すること)したWTO協定(1994)には、サービス貿易一般協定(GATS)が含まれている。しかし、加盟国それぞれが自由化する分野を自発的(ボランタリー)に自己申告するという、いわゆる「ボトムアップ方式」を採用することでかろうじて協定化が可能となった。それほど特に途上国の反発が強かったGATSは、協定文書こそ成立したものの、実際のサービス市場の自由化を促す効果は限定的であった。
 こうした状況に満足できない国々の間で、その後数年の間に相次いで成立したサービス市場の自由化に関する「複数国間協定」には、金融サービス協定や基本電気通信(基本テレコム)協定などがある。その他、サービスに関わる複数国間協定には、WTO協定に含まれる政府調達協定がある。
 日本を含む先進国はこれら複数国間協定を批准しており、それが日本版「金融ビッグバン」やNTT・KDD関連法の改正、公共事業への外資参入などとして国内政策化してきた。(もちろん、これら政策の大半は、日米による二国間交渉の結果と言えるものであるが、同時に、WTOの複数国間協定を批准した日本は、自国のサービス市場の自由化と規制緩和を、米企業に参入機会および内国民(内外無差別)待遇を付与するためだけではなく、これら複数国間協定に加盟する全ての国に対して同等の機会と待遇を提供するための手段として実施することになったのである。)
 世界のサービス貿易の75%は先進国からのものであり、その自由化は概して先進国の企業に利するものだが、上述の3つの複数国間協定の対象分野は特に先進国企業の比較優位が大きい分野であり、そのため、途上国の多くがこれらの協定に参加してきていない。−続く 

生活を置き去りにして進むWTO交渉に抗議の声を!
生活クラブ生協・神奈川 副理事長 藤村 康子


 WTOに抗議する香港行動に生活クラブを代表し行かせていただきました。私は、今回の交渉で唯一自給できるコメの大幅な関税引き下げなどの共通ルールが決定されたら「日本の農業は壊滅的なことになってしまうのではないか、食糧主権を脅かすWTOに抗議する声を直接届けたい!」と香港に臨みました。
抗議行動に参加した世界の仲間との出会い
 日本で普通の日常生活を送っていては、私たちがほとんど知ることができない(いえあまり知らされていないと言うべきでしょう)WTOによって先進国、開発途上国区別なく、この地球上で様々に、どのようなことが起こっているのか、抗議行動に参加した世界の仲間との出会いによって、その生の声を聴き、そのほんの一端かもしませんが知りました。例えばケニアのジャーナリストからは、「ケニアではWTOが始まり、貧困の根絶を目的に関税を引き下げ市場開放し、安い食料が食べられる政策をとったが、その結果農民はそれに対抗することができず、とても苦しんでいる。コメの関税が下がったら日本の農民はどうなるのか」と問われました。
 私たちは同行した遊佐の生産者と共に、生産者と消費者が共に協力し様々な問題解決を行ってきていること、今の状況に危機感を感じ今回も一緒に来ていること、そういう生活クラブ運動は食糧自給を守る運動であることを伝えました。しかしケニアにはまだ消費者の団体は無く、その状況の中で解決の糸口が見えず農民は苦闘していることを知りました。
 香港でのデモでは、特にアジアの参加者からのWTOに抗議するアピールの中で、「ブッシュと小泉」の名を連ねての抗議がありました。「ああやっぱり」と心が寒くなり、日本にいるだけでは肌身に感じることができない声を聞き、私たちも今の日本の政治の在り様は決して望むものではないことを、だからこそ今ここにいることを伝えなければと思いました。しかし期間中交渉を進めるために日本政府が提案した「途上国支援パッケージ」は、フェアトレードを基本とする私たちの考えとはかけ離れた物でした。早速今回の行動に参加している日本からの団体・個人有志で作成した反対のアピール文に名を連ね、私たちの思いを伝えなければと配布しました(囲みは反対声明)。
 また初日のデモでは大勢の香港の人々が「なんだろう」と見物しているという風でしたが、韓国の農民グループなどの熱い連日の抗議デモに日増しに好意的になり、最終日のデモでは拍手をしたり、差し入れをしてくれるまでになりました。地元の新聞が連日WTO関連の記事を大々的に掲載したことも、おおいに市民の関心を高めることにつながったといえるでしょう。−続く 


もう一つの東アジア連携は可能か
脱WTO草の根キャンペーン ジャーナリスト 大野 和興


■「アジア統合」掲げ、東京でWEF東アジア会議
 2006年6月15-16日、東京で「世界経済フォーラム(以下WEF)・東アジア会議」なる催しがもたれる。ホスト役は日本の経済団体のひとつである経済同友会。同会の60周年記念事業として行なわれる。会議のテーマは「アジアの統合に向けた新たなる枠組みの構築」である。私たち脱WTO草の根キャンペーン実行委員会は、国内及びアジアでグローバリゼーションに対抗して活動している社会運動団体やNGOに呼びかけて、対抗フォーラムを開きたいと構想しているところだ。なぜ対抗フォーラムなのか、以下そのことを述べてみたい。
 WEFとは何か。通常スイスのリゾート地ダボスで開かれるため、ダボス会議を言われるこの集まりには、世界のトップ企業の経営者を中心に政治家、ジャーナリスト、文化人など世界のエリートが参加する。はじまりは1971年、小規模な欧州の経営者の集まりから出発したものだが、いまでは民間国連という人がいるほど影響力のある組織になっている。とくにグローバリゼーションの推進では主導的役割を果たし、1995年緒世界貿易機関(WTO)の誕生でも推進役を演じたとされている。「もうひとつの世界は可能だ」をスローガンに掲げて世界の社会運動の渦の中心となっている世界社会フォーラム(WSF)は、このエリート・フォーラムに対峙する民衆のフォーラムとして構想され発展してきた。
 WEFはダボスでの年次会議のほか、いくつかの地域会議をもつ。今回の東アジア会議もそのひとつだ。2004年6月にはソウルで開かれ、韓国民衆運動の力で実現したアジア民衆フォーラムと韓国労働者・農民による1万人デモが組まれ、日本からも約80人が海を渡って参加した。このときの私たちの立場はWTOやFTA(自由貿易協定)を手段として進められている資本の側からの東アジア統合に「ノン」を突きつけることだった。

■資本の側のアジア統合とは
 今回東京で開かれるWEF東アジア会議は、ソウル会議を一歩進め、東アジアの経済統合へ向けてさらに一歩踏み込もうというねらいを持っている。それはアジアの人々にどのような影響を与えるか。いまアジアで進んでいる網の目のように広がっているFTAに注目してみていきたい。−続く 


第2回 全国NPOバンクフォーラム お金に意思を持たせよう
東京コミュニティパワーバンク 理事長 坪井 眞里

 「第2回全国NPOバンクフォーラム」が2005年12月10日と11日、港区の電機連合会館にて開催されました。多数の参加を得て充実した2日間となりましたが、報告に入るまえに「NPOバンクとは」について、また開催に至るまでの背景について述べさせていただきたいと思います。

NPOバンクとは
 「NPOバンク」とは、「NPOや市民事業を融資という形で支援するために、市民自身が出資して作った非営利の銀行」を指します。市民の相互扶助であり、現代版の頼母子講ともいえます。「市民銀行」「非営利バンク」などさまざまに表現されていますが、最近は「NPOバンク」に定着しつつあります。
 最初のNPOバンクは、東京都の「未来バンク事業組合(1994年設立)」です。現在のお金の流れは環境破壊や戦争につながっていると指摘し、お金の流れを変えて環境や福祉に配慮した市民主体の経済を実現することをミッションとしています。既存の金融と違うオルタナティブなお金の流れを作りたいという思いは、NPOバンク共通のものです。
 次に生まれたのは神奈川県の「女性・市民信用組合(WCC)設立準備会(1998年)」。女性・市民を中心にした「非営利」「自主管理」の金融システムとして信用組合をめざしています。3番目は北海道の「北海道NPOバンク/NPOバンク事業組合(2002年)」で、北海道のNPOを支援することで北海道を元気にしたいというのが設立の動機です。
 NPOバンクが一躍注目されるきっかけとなった「ap bank」が設立されたのは2003年、有名なアーティストたちが主に自然エネルギー事業の推進のために融資を始めました。同年、一足遅れで設立したのがわが「東京コミュニティパワーバンク(CPB)」です。生活クラブ運動グループによる21世紀型地域機能づくり構想から生みだされ、お金の自治により地域コミュニティを豊かにすることをミッションとしています。12月に長野に「NPO夢バンク」が、2005年は「新潟コミュニティ・バンク」、東海地方を活動地域とする「コミュニティユースバンクmomo」、「(株)愛知コミュニティバンク」と続きました。2006年春には岩手県に「いわてコミュニティ・バンク」が設立される予定ですし、長い歴史のあるキリスト教信者の互助組織を統合した「日本共助組合(1968年)」や多重債務者救済を目的とする「岩手信用生協」もあり、市民の手づくり金融は全国に広がりつつあります。

改正証券取引法
 2004年7月に第1回全国NPOバンクフォーラムが札幌で開かれました。その時の参加者から2回目は東京で、という声があがっていたそうですが、日本各地に自然発生的に生まれたNPOバンクがネットワークを組み、実行委員会を形成し、フォーラム開催に至るまでの起動力になったのは、証券取引法の改正とこれから法制化される投資サービス法(仮称)でした。−続く 

「きょうと市民活動応援提携融資」シンポジウム お金の流れが社会を変える
労金版SRI(社会的責任投資)をアピール
近畿労働金庫 地域共生推進センター 中須 雅治


 1月22日、京都市下京区のキャンパスプラザ京都にて標記シンポジウムが184名の参加者を集めて開催されました。シンポジウムでは、福祉・環境などのNPO(非営利組織)活動を支えるために、地域での資金循環の仕組みが動き出したことが報告され、近畿各地のNPOやNPO支援組織が交流し、今後の地域間の連携が話し合われました。

《社会メッセージのあるシンポジウム》
 昨年12月に、京都にてNPO向けの「きょうと市民活動応援 提携融資制度」が全国初の制度として創設されました。今回のシンポジウムは、その仕組みづくりの中心となった<きょうとNPOセンター>と<京都労働者福祉協議会>そして<近畿ろうきん>が主催となって制度利用の促進を訴えるとともに、「お金の流れ」を価値あるものとしていこうと言う社会的メッセージを内外に発信していく先駆的シンポジウムとして企画されました。

 今回のシンポジウムでは以下のようなメッセージが発信されました!!
●グッドマネーをめざすろうきんの金融機能が大きな役割を担って、地域の資金循環の仕組みづくりである融資制度がスタートした
●出発は保証の裏打ちの機能を持つ京都労福協の資金。労働組合がインパクトを持って地域づくりに実践的に登場する契機となった
●市民が、預金や投資などSRI型のお金を通して社会づくりに参画すると言う「市民型ポートフォリオ」を社会的に提案する
●暮らしや経済を根底で支える「お金の流れ」のなかに社会的な価値を持ち込む動きとして、今回の取組みの意義があること

《シンポジウムの参加状況》
 当日は全体で184名もの参加者で、会場は座席に座れないほどの盛況ぶりでした。
 参加者の内訳は、NPO関係81名・京都労福協関係26名・労金関係77名でした。具体的には、近畿圏のNPOはじめ、自治体、京都労福協を構成する労働組合・全労済・ユニオントラベル京都・京都住宅生協等の方々が参加されていました。労金関係者も京都地区中心に多くの職員が参加しましたが、近畿以外の労金業態からも13名(協会・東北・中央・北陸・中国・九州・全労金)の職員の方々が来られ、テーマに対する内外の感心の高さが伺えました。
 参加したNPO支援センターは、以下の組織です。
市民が支える市民活動ネットワーク滋賀・わかやまNPOセンター・阪神NPO連絡会・市民活動センター神戸・大−続く 

第2回モンブラン会議参加報告B 起業支援の労働者協同組合コパナム
神奈川ワーカーズ・コレクティブ連合会 理事長 中村 久子


 第2回モンブラン会議に引き続いて訪れたフランスの新しいタイプの協同組合。今回は、失業者の企業を支援しているコパナムについて、中村久子さんに報告をお願いしました。(編集部)

 11月8日の午後、コパナム(Coopaname)を訪問し共同代表の一人Stephane Veyerさんから組織の仕組みと事業について、また、メンバーの一人であるシェフのEdward  Kellerさんから具体的な活動について伺いました。

■出資型の社会的企業
 フランスではSCOP(生産者ないし労働者が出資してつくる社会的企業。一人一票の権利を持ち投票して代表を決める民主的組織)ができて10年で1600団体に広がっています。設立して2年になるコパナムもSCOPの一つで、造園、モード、デザイン、料理人、会計士、社会学、ITなど多彩な人たちが集まり現在80人の社員がいます。サラリーマンとして雇用されるチャンスのなかった人たち、しかも一人では起業できない人たちが共同で経営し、会社という形の担保を持つことで、財政面のリスクを減らし、社会保障の権利を継続させ、事業を起こす試みができます。
 共通の業務として、会社のスペース、経理(年間収入の10%を拠出して経理担当部を維持)、事業不調の場合のコンサルタント支援、経営マネジメントのノウハウの利用などができます。相互扶助の精神で、利潤追求ではありません。毎月1回の会議には、約半数のメンバーが入れ替わり立ち代り参加し、何が起こっているか話し合われます。失業者は特に問題さえなければ審査なしでコパナムに入ることができ、その際の出資金の最低額は25ユーロです。普通の企業は4人にひとりが女性であるのに対して、SCOPは60%、コパナムでも60%が女性です。年代は様々で世代の異なる人たちが、1/3は地域から、残りは首都圏から通っています。
 SCOPは出資金で立ち上げられますが、コパナムは失業対策、失業者の救済のための仕事をしていることでパリ市や労働省から公的資金が投入されています。国の職安の再就職情報誌にもコパナムを広報しており、週に30人ぐらいがコパナムのプリゼンテーションを受けていますが、その中で入るのは3〜4人とのことです。入ってくる人はビジョンを持っており、それを実現するために支援が必要な人たちです。
 コパナムというSCOPの面白さは、失業者が社員となりたすけあって参加するが、社会的ステイタスは変わらないし、うまく行かなければやめることもでき、うまく行って大きくしたければやめて商業的にやっても良いところです。さらに、利潤が上がりこの働き方が気に入れば出資を増やして共同経営者になることも可能です。Veyerさんは経営部門を専任で担当していますが、経営能力のある人が最終的には経営責任者に選ばれているようです。コパナムを大きくしていこうとは思わないが、小さなコパナム機能が増えて衛星のようにしていけると良いと夢を語られました。
−続く 

<書評>市民自治体 社会発展の可能性
栗原 利美


 本書は、civics市民立法シリーズの第3弾であり、市民運動の理論家としてよく知られている須田春海が著したブックレットである。civics(市政学)は、市民による市民のための市民の[教材]であり、civics市民立法―1、松下圭一著『市民立憲への憲法思考 改憲・護憲の壁をこえて』(2004年)とcivics市民立法―2、市民立憲フォーラム著『市民立憲案二〇〇五 いま、みなさんと話し合いたいこと』(2005年)は、既に『社会運動』で紹介がなされており(1)興味のあるかたは、是非そちらの記事も読んでいただきたい。
 まず本書の構成であるが、「はじめに 日本はどこに向かうのか?」、「第1章 急速に『陳腐化する既成『地方自治公共団体』、「第2章 市民自治体の構想」、「第3章 市民自治体への転換プロセス」、「まとめの章 リーディング役・市民シンクタンク」となっている。本書は、市民が、いわゆる「自治体改革」にとどまるのではなく、「市民自治体をつくる」という画期的な提言を行っている興味深いブックレットである。その意味で、本書は、civics市民立法シリーズにふさわしい1冊であると言える。なお、ブックレットのもつ本来的な意義について、松下圭一が、「政治思想史の研究から、私はブックレットの意義をたかく評価してきた。印刷技術の発明後の変動期には、パンフレットないしブックレットの『洪水』がうみだされているからである。ロックの『市民政府論』、ルソーの『社会契約論』、ペインの『コモン・センス』、またマルクスの『共産党宣言』などといった政治の古典は、いずれもこの『洪水』のなかの産物だったのである」(2)と述べているのはなかなか興味深いものがある。

1 問題提起としての「市民自治体」
 著者は分析する。「日本の社会は、この10年〜20年、3つの大きな難題を回避してきた。第1は、冷戦構造の崩壊にともなう政治・経済・社会の転換を、国際的にも国内的にも明示せず、なし崩し的な変化に身を委ねていること。第2に、そこから生まれつつある『市民社会』への認識を欠き、市民活動・産業活動・政府活動の積極的相互提携の構築を避けてきたこと。それゆえ、20年遅れの官・民二分論の亜種である市場至上主義と官→民論から一歩も踏み出すことが出来ない。第3に市民の自律がもたらす、仕事・労働観の変化、福祉の内実変化、延いては政府像の変化についての検討を避け、相変わらずの「小さな政府」論に閉じこもっている」(5頁)。現在の自民党小泉内閣が、日本社会の将来ヴィジョンを全く提出できず、場当たり的な政策を行っているポピュリズム政治であることをみれば、この分析は的を射ている。
−続く 

《状況風景論》井手敏彦氏の先駆性、「向三軒両隣」&シニアへの地域創造ネット
柏井 宏之

●井手敏彦氏の3つの先駆性
 元沼津市長で市民運動の先駆者だった井手敏彦氏の遺稿をまとめた『地球を変える市民自治』(緑風出版)の出版記念、「環境と暮らしを考える」講演会は充実した集まりだった。主宰者を代表して赤堀ひろ子生活クラブ静岡理事長が井手さんの在りし日を偲ぶことから始まったが、熊本一規明学大教授は、「ごみ減量の一層の推進のために」と題し、ヨーロッパでは常識の「拡大生産者責任」がいかに日本では尻抜けになっているか、その結果、生産者責任が回避され、ごみ有料化と不法投棄が拡がっているかを構造的にえぐって批判した。
 河野栄次生活クラブ連合会長は、自治する市民が主体として登場するかがキーだとして井手さんの考えを生かしたリユースを実践するグリーンシステムの意義と「容器リサイクル法」改正の重要性を訴えた。
 友人を代表して同じ沼津出身の樋口篤三氏が、井手さんは@高度成長の中で三島コンビナートを止めた、こんな闘いは全国にない、A生産と消費はあっても廃棄の概念がない時代、主婦と清掃労働者の現場の知恵を協働、「沼津方式」という循環型社会づくりを行った、B東大出身で国会議員にはならず日常の生活と労働の中から社会変革を実践した市民革命家、と3つの業績を指摘したのが印象的だった。
●食と農の“向三軒両隣”再生へ
 ジャンテ大阪フォーラムが縁で、増田大成氏から異業種交流の神戸ベンチャー研究会で社会的企業を話してほしいと誘われた。かつてのコープこうべの実力者も今やNPO、それも農と食を結ぶ分野で起業に忙しい。相生で有機農家と有償ボランティアを組織、他方でよりあいクラブやこども野菜クラブを創り、高齢者団地のHAT神戸に素材・手づくり・家庭料理重視の食を通した福祉コミュニティづくりを進める。「大震災で130万人が駆けつけたことが強調されるが25000人が向三軒両隣の人たちの協力で救い出されたことの方が大きい。60年代、生協は自発性の中で拡がったが、今、その自発性の力は地域に根づこうとする事業NPOなのだ」と怪気炎。賀川豊彦を良く知る人の社会性が今に生きる言葉として聞いた。昨秋の山梨での協同組合学会がシステム硬直化の協同組合から社会的企業やNPOに着目した視点と重なる実践の声だった。それにしても協同組合の内省が問われるところだ。
−続く 

雑記帖 細谷 正子

 企業の合同説明会に参加した。1・2月は中途採用が一番動く時とも言われている。なるべくいい人材をこちらの条件に合わせて確保したいのは当然で、この日の成果はそこそこだったが、終わった時の気分は複雑だった。来場者の雰囲気に原因はあったかもしれない。説明会に来る人は年代を問わずはっきり分かれていた。どういう働き方をしたいかという考え方を持ち予備知識を得て来る人、一方何も考えず行き当たりばったり、聞いたことのある社名や給与額だけで動く人。それがいいとか悪いとかの問題ではないが。話していても、年代も経歴も様々な人たちなのに、あまりに単純に数パターンに分類されてしまうのは何故か、こちらが考えてしまうほどにとまどいを感じた。
 あの広い会場の中で、労働力の2極化は確実に進んでいく、という事をあらためて強く実感していた。労働力確保のために、契約、派遣、パート、アルバイトなど手をつくして人材確保に努める。結果、正規、非正規含め雇用形態は多様化する。
 一方、特定の専門職の人材不足も、この2極化に拍車をかけている。どちらにしろ労働環境が良くなっていく状況とは思えない。人材確保に大切なのは労働環境の良さだろう。「労働の質」の追求だ。それが「生活の質」につながるから。しかし、目の前の2極化は決してその方向には無い。来場者たちにこそ気づいてほしい。労働の質を考えようとする企業を選んでほしい。5時間18人の方と、仕事への姿勢などをやりとりした。楽しかったが頭の芯まで疲れた気がした。

市民セクター政策機構 〒156-0044 東京都世田谷区赤堤4-1-6赤堤館3F
e-mail:civil@prics.net tel:03-3325-7861 fax:03-3325-7955

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