月刊『社会運動』 No.314 2006.5.15


目次

農業情勢の転換と共同購入の課題 加藤好一‥‥2
公益法人制度とワーカーズ・コレクティブ法改革@ 「民間が担う公共」を推進する法改正となりうるのか? 金忠紘子‥‥12
第3次ワーカーズ・コレクティブ法研究会拡大学習会報告 人間らしい暮らしと仕事の具体化にむけて上 田中夏子‥‥15
<投稿>協同組合研究 購買生協とワーカーズの協働とその意義 岡村信秀‥‥23
<11.27市民国際フォーラム>報告
 日本における社会的企業の実践と社会的経済発展の諸課題(下) 栗本昭/藤木千草/山岸秀雄/鈴木英幸/高橋均‥‥36
食の安全学習会報告 BSEリスクとその対策について 山内一也‥‥44
国際反GMOデー 世界中に広がる「遺伝子組み換え作物いらない!」の声を実感 清水亮子‥‥54
市民が市民を救う社会へ 生活サポート生協と基金の設立準備 小島正之‥‥56
ミニフォーラム 生協の社会的役割/大人の学校 重盛智/松村圭‥‥61
<状況風景論> 伊米仏に春雷、アイフルとCM責任&港湾の人間機関車の死 柏井宏之‥‥63
雑記帖 大河原雅子‥‥64

表紙からのメッセージ 写真家・桑原 史成
 この5月1日に水俣病が公的に確認されて50年の節目になることは、先月号で述べた。しかし、実際に発病した患者は公的に認めた1956年(昭和31年)よりも15年も前の1941年(昭和16年)11月に水俣市の漁村、袋湯堂で女児が病に冒されたと言う記述がある。
 さらに、それより4年前の1937年(昭和12年)にチッソ(当時は日本窒素肥料)水俣工場の廃水路口・百間港で奇怪な前兆、猫の“狂い踊り”が目撃されたという記述も存在する。と、すれば水俣病意見の発端は水俣保健所の発見から50年目の節目どころか、もっと以前から65年と表現しても過言ではなかろう。
 これまで県と国とが認めた水俣病の認定患者は3月末現在で、2,265名とされる。この事件が多発した昭和30年代に不知火海沿岸に居住した人びとは約20万人とされ、メチル水銀におかされた魚介類を常食にしていた人は10万人をこえよう。いま、水俣湾および不知火沿岸の人びとで新たに訴訟が起されている。その原告は4月末の約900名から数千人に及ぼうとしている。掲載の写真は水俣湾で操業の漁。

生活クラブの農業政策2006 農業情勢の転換と共同購入の課題
生活クラブ生活協同組合連合会 専務理事 加藤 好一

 マスコミは取上げないが、小泉構造改革の最終テーマは、「農協潰し」にある。私たちは、これが農業解体の流れが本質であると考える。しかし、同じ協同組合でありながら、わが日本生協連は「所得格差拡大社会の中で、輸入農産物にかかる高関税を逓減させることにより内外格差をなくす」としている。これに真っ向から疑問を呈する、筆者の書き下ろしを掲載する。(編集部)

はじめに
 生活クラブ連合会は、現在、第4次共同購入事業中期計画(2005〜09年度)を推進しています。そのいくつかある基本方針の一つの最も重要な柱として、「主要品目が牽引する共同購入事業を再構築・強化し、現状の利用人員率を維持する」を立てています。
 主要品目とは米、牛乳、鶏卵、豚肉、牛肉、鶏肉そして青果物のことであり、利用人員率とは生活クラブ組合員のそれら品目に対する利用率のことです。ちなみに最大のものは鶏卵72.2%、豚肉70.6%で、もっとも低い牛肉で32.8%です。この利用人員率は生活クラブ組合員の購買力の組織化のあり様を示す重要な指標です。この実績数値が極端に低下するようなことがあったとするなら、それを運動と事業に対する警告として受けとめるべきものとして考えており、その意味で最重要な経営指標だともいえます。
 これは生活クラブが一貫してこの間追求してきたテーマです。かつ今回の中期計画は、この他にも従来からの生活クラブの基本政策・方針をさらに推進しようということを基調としているため、2007年1月からの物流・情報システム再構築という課題を除けば、目新しさに欠けるかもしれません。そのため新しい中期計画は新味に欠けるという評価も一部にはありました。私はこの点に関して、本誌309号(2005.8月号)の雑記帖にこう書いたことがあります。
 「これらの課題を推進していく内外情勢は大きく変化し、一言でいって『厳しい』が、しかしどうしてもやり抜かねばと思う。何が厳しいか? それは様々あろうが、ここで念頭にあるのが2010年ほどのなかで日本農業がどうなるかの問題だ」。
 今後の農業を取り巻く昨今の内外情勢をふまえて、「主要品目が牽引する共同購入事業を再構築・強化し、現状の利用人員率を維持する」という基本方針の貫徹について思うとき、新しいとか古いとかではなく、ともかく大変な方針を決定したんだという自己認識がまず必要で、その上でこれを貫徹していくためには、その決意と努力は並々ならぬものがなくてはならない、そんな思いでこう書いたわけです。

1.農業情勢に関する基本認識について
 いま日本農業は未曾有の危機にあるといっても過言ではありません。内憂外患というような言葉では言い尽くせないほどの、数々の困難に取り囲まれています。
 2005年3月、政府は新たな「食料・農業・農村基本計画」(食料自給率目標45%達成の先送り)を決定しました。これはWTOにおける農業交渉の行方を見据えたものであり、これまで農業者であれば誰でも受けられた助成金を、国が認めた「担い手」のみを対象とするものに転換しようとするものです。「担い手」の要件は、耕作面積が都府県では4ヘクタール以上(北海道10ヘクタール)の農業者とされ、辛うじて「集落営農」(全耕作面積20ヘクタール以上)が担い手として位置づけられはしましたが、その要件も法人経営が前提であること等、決して明るい未来とはいえません。
 この数字要件はかなり重いものがあります。日本の主たる農業従事者である64歳以下の基幹的農業従事者は、都府県では85%が3ヘクタール以下の農家であり、その農家が耕地面積の75%を耕作しているといわれています。生活クラブの最大の米の提携先であり、優良な米どころの山形県庄内地方の遊佐町ですら、4ヘクタール以上の経営規模にある農家数は全体の18%に過ぎないのが現実です。「集落営農」もそう簡単に成立するわけもなく、また問題点も様々に指摘されています。こうした現実に鑑みれば、今回の農政改革が明るい未来とはいえないどころの話しではなく、「日本に農業はいらない」という宣言に等しいものだと言わざるを得ないのです。
 しかも農政改革はこれで終わりではなく、もう一方の戦後農政の柱であった農地法が次の標的になるのは確実です。その結果「農業参入」が目的なのか「農地売買参入」が真意なのかわからないような形で、株式会社の参入が具体化していくことになるでしょう。本誌310号(2006.1月号)で田代教授が「戦後農政の総決算」という問題提起をされていましたが、まさに大転換なのです。
 加えて、総選挙における自民党大勝後の状況の中で、農協改革(解体)の動きが加速しています。今年2月15日に開催された遊佐町主催の「飼料用米シンポジウム」における、岩永前農林水産大臣の基調講演でも、小泉政権の意思としてそれが明確であることが語られていました。「官から民へ」という圧力は、こうした改革の障害となる農協を排除することとして、露骨に進められようとしているかに見えます。
 このように農協が解体の危機に瀕しているなか、同じ協同組合として連携を強めるべき日本生協連は、政府が新たな「食料・農業・農村基本計画」を閣議決定した直後に、「日本の農業に関する提言」を公表しました。所得格差拡大社会の中で、輸入農産物にかかる高関税を逓減させることによって内外価格差の縮小がめざされるべきで、消費者が目にみえない形で負担している農業保護のコスト負荷を解消すべきだとこの提言は訴えています。その詳細な内容は、本誌309号(2005.12月号)の藤岡武義氏(日本生協連参与)講演録をぜひお目通し願いたいと思います。藤岡氏はこの提言のとりまとめ役で、どのような経過や考えでこういう提言に至ったのかがリアルに語られており、都市消費者の利害からすれば、当然にも求められる論理的帰結だというような確信に満ちた主張をされています。
 ところで、この提言に絡めた現下の最大の関心事は、WTO農業交渉の行方です。2005年末のWTO香港閣僚会議では、懸念された全ての農産物関税を一定水準以下に引下げる「上限関税」の導入は、とりあえず見送られました。以後、4月末合意をめざして調整が進められてきましたが、それも「断念」せざるをえない情勢のようです。事態はますます混沌としてきていますが、警戒すべきは「上限関税」導入論(日本の立場からすれば米、乳製品などの関税の大幅引き下げ)の再燃です。
 いずれにしても、中・長期的に見て関税の引下げは必至の情勢にあるとはいえ、それがどうなるかによっては農業情勢はさらに混迷の度を深め、生産者のやる気を大いに削ぐことになることが心配されます。−続く


公益法人制度改革とワーカーズ・コレクティブ法@
「民間が担う公共」を推進する法改正となりうるのか?―使いにくい基金制度、税制の議論は1年後で不透明。
既存の公益法人に照準?―
ワーカーズ・コレクティブ ネットワーク ジャパン事務局 金忠 紘子


 4月19日、公益法人制度改革の3法案
@一般社団法人及び一般財団法人に関する法律。
A公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律。
B一般社団法人及び一般財団法人に関する法律及び公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律が行政改革推進法案と市場化テスト法案と共に衆議院の行政改革特別委員会で賛成多数で採決された。
 20日には衆議院本会議で決議され、参議院に送られた。参議院では4月24日より審議がはじまり、5月の上旬には法案が成立する見通しであるという。この法案に関心を持っていた人たちは多分これを呆然と見ているのではないかと思う。私たちも同様に怒りを通り越して呆然と見ていることしか出来なかった。この法案に関しては国会与党の圧倒的多数を背景に、まるで抜け駆けするような法案の成立過程といえる。
 公益法人制度改革の法案が民法で唯一営利ではない公益を規定した民法34条に関わる重要な法案として、現実の社会の要請に沿った法案となるよう運動をしてきたワーカーズ・コレクティブ ネットワーク ジャパンの見解を述べたいと思う。

1.法案成立過程における問題点
(1)「民間が担う公共」を推進するという有識者会議の精神、及びこれに基づいた閣議決定が生かされていない。
 この法案の出発点が行政改革の一環として行なわれたこと。途中で「公益法人の改革」を行なうには民法34条の見直しに踏み込まざるを得ず、「非営利制度」の見直し、「民間が担う公共」を推進するという有識者会議の精神、及びこれに基づいた閣議決定が行なわれた。
 それにも拘わらず、最終的には『非営利制度』の名称もなくなり、公益を判断する機関が独立した第三者機関から内閣に民間有識者会議を設置する行政の付属物になり、「民間が担う公共」を推進する精神は著しく削がれたと思う。昨年の暮12月26日「公益法人改革(新制度の概要)」が発表され同時にパブリックコメントの募集があった。
 WNJでは『「拠出金」が「基金」という言葉に変わり、かつ「返還する基金に相当する金額を代替基金として計上し代替基金は取り崩せない」では事業をする上では現実的でない』「公益的事業の概念があいまい。判断する有識者の委員会や都道府県知事の見識によって差が出ないよう明確にするべき。不特定多数ではなく少数のニーズへの対応も公益である」「税制について公益と判断された団体については税法上非課税とすべき」全体としてはっきり決められていない部分が多くどのような法案がでてくるか不安。との意見を今年の1月に提出した。−続く 


第3次ワーカーズ・コレクティブ法研究会拡大学習会報告
人間らしい暮らしと仕事の具体化にむけて(上)――イタリア社会的協同組合の現状・課題――
都留文科大学 田中 夏子


 ワーカーズ・コレクティブ ネットワーク ジャパン(WNJ)と市民セクター政策機構はともに、研究会を構成し、法制化の実現を図ってきました。第3次ワーカーズ・コレクティブ法研究会では、法制化とともに第2次ワーカーズ・コレクティブ法研究会が提示した新しい社会の具体的な施策の提言しています。今回の第2回目拡大学習会では、イタリア社会的協同組合の丁寧な調査を通じて問題提起されている都留文科大学の田中夏子さんに学び、政策提言実現を目指しています。(編集部)

社会サービス、労働参加を焦点に
 早速議論に入らせていただきたいと思います。3年前まで長野の大学で、農村における女性たちの仕事起こしなど、非営利・協同事業を訪ね歩くといった勉強をしてきました。3年前から山梨にある都留文科大学に移り、普段は学生たちと中山間地等、条件不利地における住民の皆さんのさまざまな取り組みを学んでいます。
 農村地域では、名称こそ「ワーカーズ・コレクティブ」ではないものの、農業をやっている女性の方たちを中心にして、食品加工・販売を通じて内容としてはワーカーズ・コレクティブに近いことがおこなわれています。「ワーカーズ」という言葉は使わないけれども、仕事の哲学とか、考え方、理念などに照らしてもワーカーズと一致するところがかなりあるようです。
 イタリアだけでなく、日本の地域社会に対する理解を前提としながら、イタリアと日本で、非営利・協同事業組職がどのように担われているのか、それを支える社会の仕組みは何か、また、市場で活動することと、当事者視点でニーズの充足をおこなっていく際に生ずる矛盾をどう克服していくのかなどを学んできました。
 本日は、実践されていらっしゃる方々を前にして話をするのにドキドキしております。私はやはり実践の中からしか新しいものは生まれてこないと思うのです。ですから本日の話も、実践家である皆さんに、どうぞ自由に料理していただければと思います。
 先ほど、日本とイタリアという比較の視点を盛り込んだ研究が目的であると申し上げましたが、日本の実態については皆さん、よくご存知かと思いますので、今日はイタリアのことに焦点を当てていきます。また、制度的な説明というよりも、社会的協同組合とそれを支える仕組み、特に社会的な支えのあり方ということについてお話しをさせていただきます。
 タイトルは「人間らしい暮らしと仕事の具体化にむけて」ということで、イタリアにおける協同組合運動の中でも最近注目を集めている社会サービス、人々の労働参加を支える協同組合の現状と課題についてお話をさせていただきたいと思います。
 生活クラブ生協もそうですし、ワーカーズ・コレクティブの皆さんも、生協関連の研究所でも、多くの視察団がイタリアにいらしています。皆さん方にとっても、イタリア社会的協同組合は馴染みある存在だと思いますので、どんな所でどんな活動があるかということについては、さらっと見ていきたいと思います。
 そこで、まず、二、三の事例を基に、その後、イタリア社会的協同組合の中心となる考え方についてお話ししたいと思います。その一環として法律的な特徴にもふれます。後半では一つの事例を詳しく見ていき、最後に、これから社会的協同組合が社会に対してどういう働きを持ちうるのかというあたりをお話しさせていただきたいと思っております。−続く 


<投稿>協同組合研究
購買生協とワーカーズの協働とその意義―ワーカーズ・コレクティブ「轍」を対象にー
広島県生活協同組合連合会 専務理事 岡村 信秀

 世界的な意味での協同組合の先端的取り組みは、小規模単位を基礎とした、ステークホルダーと地域社会との関係をどれも軸としている。そのキーは<労働>である。重層的なワーカーズをめぐる関係を、生活クラブ関係者外の現場の理論家が明快に描く。(編集部)

1.はじめに
 我が国は、20世紀後半以降、国際化・グローバリゼーションが進行する中で大量生産・大量消費・大量廃棄の社会経済システムが形成・促進され、モノは溢れ、生活は便利になった。しかし、この社会経済システムは、物質的な豊かさの代償として、協同の弱体化、人間関係の希薄化、さらには生活と労働の関係性の分断などを招き、新たな生きにくさを出現させた。
 このような状況下で、伝統的協同組合とりわけ購買生協は人と人との結びつき(協同)や関係性を大切にし、食の安全とくらしの安心を目指し発展してきたが、規模が拡大していく中で協同や関係性が徐々に薄れ、1人当たりの利用高は低迷し、経営環境も1990年代中葉から悪化してきているのが現段階である。又職員の仕事の仕方は、組合員のくらしや地域を起点とした組み立てというよりも、ややもすれば経済効率主義の考え方や手法が優先され、自らも自分の生活や地域との関係性を弱め、仕事のやり甲斐やモチベーションが低下しつつある。
 そのような中で、海外においては新しい協同組合(社会的協同組合、コミュニティ協同組合)やワーカーズなどの新たな協同組織が立ち現れ、多様な関係性を取り戻し、生きにくさを克服しようという運動が広がってきている。そしてその運動の広がりは伝統的協同組合へ影響を与え、全体として協同組合運動は絶えず更新し続けている@。
 国内においても、1980年代から購買生協を母体に「新しい生き方・働き方」としてワーカーズ・コレクティブが誕生し、伝統的協同組合や地域社会に対し影響力を持ち始めている。その領域は環境、福祉、子育て、製造、商品配達の受託など多様であるが、とりわけ共同購入の戸配部門におけるワーカーズ・コレクティブの登場は、生協運動の方向性を展望する時、重要な意味を持つ事になる。
 購買生協とワーカーズ・コレクティブの協働の特徴は、購買生協にとってはステークホルダーの位置にあるワーカーズ・コレクティブのメンバー(労働者)が購買生協の共同購入センターで生協の職員と一緒に仕事をしているという事である。「新しい生き方・働き方」としてのワーカーズ・コレクティブの登場は、生協の様々な仕事の場面で関係性を取り戻し、協同労働や組合員との協同関係を再生し、購買生協の新たな方向性を提示しつつある。その先進事例としてワーカーズ・コレクティブ「轍」(以下「轍」)が上げられる。「轍」は生活クラブ生協・東京(以下、生活クラブ)から誕生し、1988年以降共同購入の戸配部門を受託してきたが、人々のくらしの変容の中で、戸配は大きく伸び、現在11の共同購入センターで組織が異なる11の「轍」がそれぞれで活動している。又11の異なる「轍」は、現在主体的力量を高めるため「轍グループ協議会」(以下、「轍グループ」)を結成し、システムや組織運営の統一化を進めつつある。
 本論文は、「新しい生き方・働き方」としての「轍」の実践や生活クラブとの協働について実証的に研究し、その意義について考察する事を目的とする。なお本論文では、「轍」が 2003年10月に独自で実施したメンバーの意識調査(対象者:轍グループメンバー158人、回収125人〈回収率79.1%〉)を、必要に応じて引用する。−続く 



<11・27市民国際フォーラム>報告 日本における社会的企業の実践 と社会的経済発展の諸課題(下)
<パネリスト>
  藤木千草
  (ワーカーズ・コレクティブ ネットワーク ジャパン代表)
  山岸秀雄(NPOサポートセンター理事長)
  鈴木英幸(全国労働金庫協会専務理事)
  高橋 均(日本労働組合総連合会副事務局長)
<モデレーター>
  栗本 昭(生協総合研究所)


 前号に引き続き2005年11月27日に国連大学のウタントホールで開かれた、T・ジャンテ氏招聘市民国際フォーラムのシンポジウムの内容は前半を次の項目で討議展開されました。本号では、その後半部分を掲載します。(編集部)

社会的企業・社会的経済をめぐって
<栗本>お話を第二ラウンドに移らさせていただきます。日本において市民社会組織がなかなか横の連携がとれていない、そのために見えにくいものになっているということが指摘されてきました。これは、1つのセクターとしての凝集力というか提携あるいは連帯のあり方が問われているということです。さらに、社会的企業・社会的経済のサードセクターとしての基盤が整っていない、とりわけ法律的、税制面での基盤が整っていないという問題があります。EUではかつて15ヶ国の時に社会的経済あるいはサードセクターが各国でどれだけ認知されているのか、特に公的な認知、マスコミやアカデミズムにおける認知、そういった比較をしました。世論でどれだけ知られているかということですね。その結果、フランスとスペインとベルギーが一番認知度が高いということが言われています。次いで徐々に認知されつつある国としてイギリスやスウェーデンがあげられ、認知度の低い国としてドイツ、オーストリア、オランダがあげられています。
 翻って日本をみますと、サードセクターという言葉も全く違う意味で使われているということで、認知度はさらに低いのではないかと思っています。サードセクターあるいは社会的経済をこれから発展させていくには、基盤整備が必要ではないかと思います。社会的企業・社会的経済の制度やセクターの形成といった点につきまして、今後の課題をそれぞれの方から5分ずつ発言をいただきたいと思います。それでは藤木さんお願いします。

必要な協同組合法制の整備
<藤木>先ほどご紹介したように、ワーカーズ・コレクティブは地域のニーズに応える事業をしているのですが、どこも事業基盤は脆弱です。社会的支援もあまりないという状況なので必要な社会基盤整備についていくつか挙げてあります。1つめはワーカーズ・コレクティブ法の制定です。出資して雇われずに地域貢献する事業体を規定する法律が日本にはまだないわけです。それをつくる活動を10年以上前からしています。実は今日もご出席いただいている石見尚さんをお招きして93年に第1回目のワーカーズ・コレクティブ全国会議が開かれました。その中で石見さんが「ワーカーズ・コレクティブ法が必要ですね。95年あたりが山場です」と述べられていたんですが、まだできていません。また、石見さんは「こういったワーカーズ・コレクティブの活動を英訳して世界にもどんどん発表しないといけませんね」ともおっしゃっているんですが、実はジャンテさんを中心に世界の社会的経済を紹介する本が1月に発行される予定ですが、その中にはワーカーズ・コレクティブを紹介する文も載っていますので、こちらの方は12年を経てようやく実現するということです。
 ワーカーズ法は出資できる・雇われないで働く・地域貢献をするというこの3つを規定することを目指しています。NPO法は地域貢献をするという部分はいいんですが、出資ができないし雇用関係を結ぶ形になっています。一方、企業組合(中小企業等協同組合法)は出資できて一人1票という部分はいいんですが、地域貢献ということではないので、一般企業と同じように課税されます。NPO法ができてから、今はもう23000団体ということです。NPO法が無い時にはいろいろ活動していた団体はありますがひとつにまとまりにくかったし、どこで誰が何をしているかを把握するのが難しかったんですが、NPO法ができたことで全国で23000ありますよ、と。あなたもNPO法人、私もNPO法人ということで連携もしやすくなっていると思います。同じように、ワーカーズ・コレクティブ法ができることによって、もっと主体者が増えてお互い連携できるという動きを作っていきたいわけです。
 先ほど、粕谷先生のお話の中で、公益法人改革について少し触れられましたが、来年3月の国会に提案される予定で話が進んでおります。営利法人に対して非営利法人をまとめようという動きは歓迎ですし、私たちも拠出(出資)ができる非営利法人を規定してほしいと提案してその方向ですすんでいます。法人税の問題がありますが、それは後で触れます。非営利法人制度ができても、雇われずに働くという協同組合の精神の部分はまだ残るので、やはりワーカーズ・コレクティブ法はつくらないと、と考えています。これに関しては、同じ協同組合陣営の方たちの協力が今ひとつ得られない、何となく無関心、という雰囲気を私たちはずっと感じています。そこも改めて連携できたらと、今日はお願いしたいと思います。
 それから、国がそういう状況の中で、各行政で条例として定めていくこともひとつの手かと思います。大和市は先駆的に市民活動推進条例があり、それに伴って基金も規定されて市民事業を支援する条例ができています。そういったものを各地域でつくっていくということも必要です。市民事業との協働の市政づくりとしては、公募・公開審査・評価制度がつくられていくことも対策のひとつです。その辺はジャンテさんがよい実践例のなかで紹介されていましたが、そういったものをシステムとして社会の中に構築していくことが課題かと思います。
 労働基準法などの労働法の改革ですが、現在の法律は雇用の視点でつくられています。ワーカーズのように雇われずに働くというと、労災が適用されないことがあります。あるいは代表者は入れないということもあります。雇われていなくても労働者として働いているという実態がありますので、雇用ではなく就労の視点で一度見直して、改革できないかと考えています。−続く
 


食の安全学習会報告 BSEリスクとその対策について
講演:山内 一也 東京大学名誉教授 食品安全委員会プリオン専門調査会委員(当時)

2006年1月26日(木)実施 記録・編集:たかお まゆみ

 今回お届けするのは山内一也先生の講演学習会の報告だ。この会は、「埼玉県食の安全県民会議」などで知り合った委員メンバーが所属生協組織を超えた市民レベルの取り組みとして企画したものである。もともとは、「BSEリスクは非常に小さい(のであまり気にすることはない)」とする立場の専門家を招いて埼玉県が講演会を開催したことに疑問を感じたひとりが、まわりに呼びかけて実現にいたった。折から、講演会の3日前に、例の脊柱混入事件がセンセーショナルに報道されたことで、講演会にはマスコミ、行政関係者なども集った。−中略−本記事の掲載に快く同意し、原稿の校正に労力を払ってくださった山内先生に深く感謝申し上げます。(ドイツ語翻訳・通訳者 同会実行委員 たかおまゆみ)

1.BSEリスクをどう考えるか
■プリオンとBSE
 まず初めに、細菌、ウイルス、プリオンの違いについて確認したい。細菌は外界で繁殖できるが、ウイルスは外界で繁殖できず、動物細胞の中だけで繁殖する。両者とも「外界」に起源を有する点で共通だ。
 しかしプリオンは、人体にもともとある正常プリオン蛋白が、異常プリオン蛋白が入ってくることで変化するという点で前二者と異なる。これは、水と氷が同質であるのに、本来は水があることで健康が保たれている場所に、氷が入ってくれば健康でいられなくなるというイメージで理解していただければ、わかりやすいだろう。だから、潜伏期間が非常に長い。プリオンという考え方は科学的に完全に証明されたものではないが、まず間違いはないと思う。発見したのはプルシナーというノーベル賞を受賞した科学者で、わたしの20年来の知己だ。06年1月にNHKの国際放送で彼と対談をしたのだが、彼も「全頭検査が一番いいだろう」と主張していた。
 BSEは脳に空胞ができてスポンジ状になる病気だ。病原体はどこから来たのか不明だが、拡大した原因は肉骨粉である。肉骨粉で牛が感染する。その牛から食肉をとった残りのくず肉が処理されて肉骨粉が作られ、その肉骨粉を次の牛が食べて感染するという経路で、イギリスでは大感染を引き起こした。潜伏期は2〜8年で平均すると5年。実験的に子牛にBSE感染牛の脳を食べさせてみると、1mgの脳でも感染が起こるということがわかっている。
 BSE感染牛が発見された国は全部で24カ国。イギリスの発生数が桁違いに多い。日本は現在までのところ22頭(2006年1月現在)で、低度汚染国とされている。しかし、これは24カ国だけでBSEが発症したということではない。BSE検査をやっている国でだけ発見されているのであり、検査をやっていない国での発症の有無はわからない。検査国はEU、カナダ、アメリカ、イスラエル、スイス、日本である。
 BSEが問題になったのは、変異型ヤコブ病(vCJD)を引き起こすことがわかったためだ。変異型ヤコブ病の原因はBSE感染牛を食したためだと考えられる。患者の平均年齢は29歳と若い。これは、通常のヤコブ病(100万人に1人くらいの発症。全世界でみられる)の発症年齢が65歳程度であること、脳に空胞はあってもクールー斑がない(変異型ヤコブ病ではクールー斑といわれるものがみられる)ことからみて、病気として異なっていると考えられる。もう一つの相違は、通常ヤコブ病がその人だけの問題であるのに、変異型ヤコブ病は輸血で感染するということだ。イギリスでは輸血によると推測される感染が2例起きている(06年2月、3例目の疑いが報告された:編集部)。牛から人への感染は種の壁に阻まれて滅多にない。しかし、人から人への感染は容易い。それは、すでに病原体が人間のタンパクに変異しているためだ。輸血以外にも脳外科手術などで感染する可能性もある。
 現在のところ、変異型ヤコブ病の患者はそれほど多くはない。イギリスで159例、フランス11例などだ。しかし、なぜこんなに少ないのか謎だ。何か環境因子があるのではないかと思われるが、はっきりしない。

■BSEのリスク
 BSEリスクには三つの側面がある。一つ目は牛→牛の感染:家畜伝染病としてのBSE、二つ目は牛→人への感染:人畜共通感染症=変異型ヤコブ病、三つ目が人→人:医原病(例として薬害ヤコブ病。脳外科手術でヤコブ病の患者の硬膜が使われ、100人ほどに感染した事件)である。特に三点目、これは輸血でも起こりうるため、イギリスやフランスでは、変異型ヤコブ病を発症した患者が、潜伏期間に輸血をしていることが判明している。現在、追跡調査も行われている。輸血自体は発症前の出来事なので、追跡にも限界があるようだ。したがって、変異型ヤコブ病にかかる率は低いということでよしとするのではなく、「ひとりでも患者を出してはいけない。ひとりから感染が広がる惧れがある。科学的に可能な対策はやっていくべきである」というのがわたしの立場だ。
 個々にさらにみていくと、BSEにかかわる問題として、牛においてその発病機構がよくわかっていないというリスクがある。口から摂取された肉骨粉中のプリオンが小腸から取り込まれることまでは解明されている。6ヶ月の牛の回腸遠位部(小腸の一部)にかなりの量の病原体が蓄積している。そのため、この部位は世界的に全ての月齢の牛から除去されることになっている。しかし、そこから先、どうやって脳に到達する(32ヶ月齢くらい)のかがまったく未解明だ。途中で検査をすると見つからないというが、だからといってその期間、病原体が無くなったわけではない。
 変異型ヤコブ病は、致死率100%という病気であるが、BSE同様、発病機構がわかっていない。しかも治療法も予防法も確立されておらず、他人に感染する病気でもある。発症率をみると、イギリスでもそんなに高くはなくここ2〜3年落ち着いてきている。専門家の中には発症の峠を越えたという人もいる。しかし、今までの発症は第一波にしか過ぎず第二波がおそってくる可能性も否定できないという考えもある。例えば、同じようにプリオン病であるクールー病(※記録者注:パプアニューギニア地方で発症。死体の一部を食する習慣によった。脳を食べる女性や子どもに発症)の潜伏期が40年以上という例もある。
 つまり牛の方も、人の方も、プリオン病の全貌が解明されていない部分が多い。未解明を前提として、対策を講じる必要があると思う。
 科学的に未解明な問題に対処する場合、ふたつの立場があるだろう。費用対効果を重視する国際貿易推進の立場に立てば、確率論からみて、全頭検査はムダが多いという考え方になる。経済性を重視するということだ。一方、健康保護を最優先する立場に立てば、全頭検査が最も合理的という考えにいたる。これは、税金を使ってやることなので、どこまでムダをも是認して対策に資金を使っていくかは消費者の意見が反映されることが大切だと思う。消費者がそこまでやらなくてもいいと言うのであれば、対策は緩和されるだろうし、全頭検査が必要と判断すればそうすべきである。−続く 


国際反GMOデー:世界中に広がる「遺伝子組み換え作物 いらない!」の声を実感

 4月8日、遺伝子組み換え作物に異議を唱える市民が、世界中で様々な行動を同時に起こした。東京でも「こんなものいらない!遺伝子組み換えイネ」をテーマに品川の国民生活センターで集会が開催され、日本全国からおよそ150名が集まった。4月9日から12日まで米国のシカゴで開催されたBIO(バイオテクノロジーの業界団体)の年次総会にぶつける形で「国際反GMOデー」(Joint International GM Opposition Day)として呼びかけられたこの日、34ヵ国258ヶ所で、デモ、集会、有機農産物フェアなど、それぞれ独自の方法で抗議運動が展開された。
 呼びかけたのはフランスのグリーンピース、地球の友、アタック・フランス、農民連盟など市民団体のネットワーク。したがって、最も多くの場所で行動が繰り広げられたのはフランスだが、第一回目の試みにもかかわらず、世界中あらゆる地域が呼びかけに応じた。例えば、殺虫性のワタ(Btコットン)の不作で多くの自殺者が出ているインド南部のアンドラ・プラデシュ州では、農民を中心とする25000人が抗議デモや集会に参加。アメリカでも、遺伝子組み換え作物に対して粘り強い闘いを続けているニューイングランド地域の人々150人が、メーン州のブルー・ヒルで開かれた「地場の食べ物と持続可能な農業のためのフェア・会議」に集まった。
●国際ビデオ会議を企画
 国際反GMOデーの目玉の一つとして、世界中をインターネットで結んだ5時間にわたるビデオ会議が企画された。日本からも遺伝組み換え食品いらない!キャンペーンの天笠啓祐代表と筆者が参加し、日本全国で展開しているナタネの自生調査への世界的な参加の呼びかけなどを行う予定だった。しかし、初めてのチャレンジだったこの企画は残念ながら、システムの不具合で最初の15分で中止に。インドのバンダナ・シバさん、メキシコのトウモロコシの原産種の汚染を発見した米国のイグナシオ・チャペラ博士など、そうそうたる参加者が控えていたのでとても残念だが、最初の15分では、2000年に来日したアーパッド・プシュタイ博士(遺伝子組み換えジャガイモの動物実験で代謝異常が見られたことを発表したところ、研究所から追放されたことで知られる)が元気な姿を見せ、「遺伝子組み換え技術が科学的に確かなものでないことがだんだん明らかになってきており、その結果、ハンガリーではモンサント社の組み換えトウモロコシ(MON810)が禁止されるに至った。これはたいへん誇らしいことだ」と科学者の立場から発言した。事前にとられていたシバさんのインタビューとシステムダウン後に撮影されたメーン州の映像は、以下のウエブサイトで見ることができる。(http://altercampagne.free.fr/pages/8April2006.htm)
 ビデオ会議の直前のカメラテストでは、「エコロジー・イスタンブール2006フェア」の一環としてイベントを開催していたトルコのイスタンブールからの映像が映し出されていたが、会場では500人がスクリーンを見守っていたという。遺伝子組み換え作物に対する抗議運動の世界的な広がりを実感できた一日だった。
 本誌で紹介した写真は、ごく一部にすぎないが、上記のアドレスには、この日撮影された数多くの写真が掲示されている。
(市民セクター政策機構・清水亮子) 

市民が市民を救う社会へ 生活サポート生協と基金の設立準備
生活サポート生活協同組合・東京(仮称)設立発起人会 事務長:小島 正之


 消費者金融をめぐるグレーゾンについて、政府の動きは顕著になっている。ようやくという感じではあるが、「多重債務者問題」を根本から解決しようとする言説が既存のマスコミには見当たらない。ここにその市民活動の先駆性がある。(編集部)

T、設立のねらいと取り組み経過
 多重債務者の増大は大きな社会問題になっております。私たちはこの人たちの生活立て直しを支援する事業をこの東京で実現しようと、昨年5月に事務局を立ち上げ準備を進めてきました。
 事業の内容は相談業務と生活再生資金貸付業務です。相談業務では『なぜ借金地獄に陥ってしまったのか』その真の原因(主訴)を聴き取り、家計のチェックや金利の再計算等により債務の状況を把握し立ち直る方法を示します。そして、生活再建が可能な人には貸付も行い、二度と多重債務者に陥らないよう生活の改善指導など生活再生に向けたアフターケアにも力を注ぐことにしています。
 “構想は理解できるが、事業として持続可能なのか”と疑問を投げる向きもありますが、既に岩手県消費者信用生活協同組合が1989年から事業を開始し、以来、順調な発展をとげ社会的にもきわめて意義のあるものと評価されております。私たちはこの岩手方式を事業モデルとし、多数の市民が参加した助け合いによる組織「生活サポート生活協同組合・東京」の設立を目指し、東京都と交渉してまいりました。しかし、信用事業(貸付)については生協法第10条に記載がないので認可は困難との回答でありました。
 そこで、昨年11月に相談業務を担う「生活サポート生協・東京」と資金調達と貸付を担う「有限責任中間法人生活サポート基金」の二つの法人を設立することにより事業の具体化を図ることにいたしました。「生活サポート基金」は昨年12月に設立の登記をして、理事長に横田克巳氏が就任しました。また、「生活サポート生協・東京(仮称)」は本年2月に設立発起人会の代表に鈴木深雪氏が就任し、東京都と事業計画などについて引き続き協議を進めております。
 これからは、本事業の意義を広く市民にお伝えしていくとともに、この事業の賛同者に一人でも多くなっていただくよう設立発起人会を中心に運動を進めてまいります。

U、多重債務の実態
 2000万人が消費者金融を利用し、200万人(推定)が多重債務を抱え、20万人以上が自己破産という現実。もはや他人事ではありません。
 多重債務とは「債務者が複数以上の消費者金融会社などから高金利で借入をし、その結果、自分の債務返済能力以上の債務を抱えている」状態を指します。
1)統計等からこの実態を見ますと
@多重債務に陥っている人は全国で約2百万人。(国民生活センターに寄せられた相談件数の10倍はあるとの推定から。)
A個人破産件数(申請)は2002年に20万件を突破し(この数字は1998年の2倍)、以降毎年20万件を超えて推移している。うち貸金業者関係が2003年で91.5%を占める。(資料:最高裁判所「司法統計」)
  破産とは「全財産をあててもすべての債務が返済できない状態になったときに裁判所の手続きによって債務者の財産も金銭に換え、全債権者に公平に分配する制度のことで、債務者が自ら申立てる破産のことを「自己破産」という。
B消費者金融会社(上位45社、融資残高100億円以上)の貸付金残高(2005年3月末)は合計で10兆69百億円。なお、1位アコム、2位武富士、3位アイフル、4位プロミス4社の合計貸付金残高約6兆円、口座数984万。
  全国貸金業協会連合会の発表によると貸金業者数は2004年3月末で23865社。(資料:日本金融新聞)
Cクレジットカード発行枚数は2003年度末で2億6千万枚、利用額は26兆58百億円。(資料:日本銀行「暮らしと金融なんでもデータ」)
D消費者ローンの信用供与額(利用を認めた金額)は24兆46百億円で、うち消費者金融会社が41%、クレジット会社が20%。(資料:(社)日本クレジット産業協会「日本の消費者信用統計平成16年版」)1991年当時は消費者金融会社のシェアは8.4%、民間金融機関は41.7%だった。現在は41%と16.5%で逆転した。シェア逆転の理由として、民間金融機関はバブル崩壊で不良債権を抱え新規融資を抑制した。一方、消費者金融会社は自動契約機の導入やCD/ATMのネットワーク拡大など利便性の向上を図ったという。(消費者金融連絡会発表)
Eサラ金・フリーローン相談件数は2003年度196,628件。主な相談内容は1位不当請求、2位債権回収業者、3位多重債務。(資料:独立行政法人国民生活センター「消費生活年報」)
F東京都の多重債務に関する相談件数は2004年度5,927件で、年代別では20歳代から40歳代が59%、職業別では給与生活者が53%、平均借入金額は3,263千円。(資料:独立行政法人国民生活センター「消費生活年報」)
G多重債務に関する問合せ総件数は2004年度6,429件。うち新規カウンセリング件数は846件で、これを債務多重化原因別割合でみると生活費39.1%、収入減少・失業・倒産32.6%が上位。(資料:(財)日本クレジットカウンセリング協会)
H自殺者(2004年1月〜12月)は32,325人(この数字は交通事故による死者の4倍以上)。動機別では「健康問題」に次いで「経済・生活問題」が2位で7,947人。(資料:読売新聞社説(2005.6.5))−続く 


<アソシエーション・ミニフォーラム>さいたま 生協の社会的位置と役割
講師:富沢賢治氏(聖学院大学)


 「社会的経済を作る上で、生協は要の位置にある」と主張している富沢賢治氏(聖学院大学教授)をお招きしました。今回の学習会は基本視点を再確認する良い機会となりました。
 生協にとって重要な視点は、「消費生活」を「生産活動」として捉え返すことだといいます。生活に必要な材の消費とは、人間を生産する(人づくり。人を生み、育て、守ること)ためになされる行為であり、「物」の視点から見れば「消費」だが、「人間」の視点から見れば「生産」活動であるということです。
 そして、生協には、「人づくり中心の国民生活構造」(=人づくりを優先させ、物づくりをそれに従属させる生活構造)を作りあげていくための戦略が必要だといいます。生活の「目的」は人間を生産すること(人づくり)であり、生活手段の生産である「経済」、人間関係の調整である「政治」、あるべき社会の構想である「文化」は人間の生産のための「手段」である。生活の目的である人間の生産の担い手である「生協」こそが、新たな生活構造作りの「要」となるべきだと富沢氏は主張します。そして、生協が各種の協同組合とどのような形で結びつくかによって協同組合セクターのあり方が規定されるといいます。
 そうであるならば、地域協同社会を作ろうとする私たちは、生活クラブのミッションとは何かを常にブラッシュアップし、分かりやすく表現して、多くの人とそれを共有する工夫をしていかなければならないと感じました。2月21日
〔生活クラブ埼玉 重盛 智〕

「地域に学びの場を作る」〜CSまちデザインの事例から〜
講師:近藤惠津子氏
 埼玉単協の教育事業「大人の学校」も、土台が固まり3本の柱もしっかり立ち、いよいよ骨組みができてまいりました。ここでもう一度原点に立ち戻って、これからの運営をより良いものにするために、東京で既に幅広く展開しているコミュニティスクール・まちデザイン代表の近藤恵津子さんに、立ち上げから今に至る経緯をお話していただきました。
 大変興味深いお話を伺うことができました。特に印象に残ったのが、「熱い気持ちを持つ」ということでした。今まで私の生活の中で、疑問に思う事やこうすればいいのにと思うことはたくさんありましたが、それを口にする自信も勇気もありませんでした。しかしその思いを人に伝えることが自分の道を見つけることであり、さらに社会に繋がり、世の中の為にもなるのだという考えに共感しました。
 「やりたい事をするのは楽しいこと。楽しければ色んな事ができるでしょ。」近藤さんの言葉です。
 今後「大人の学校」が、伝えたい、学びたい、創りたいという気持ちを実現できる場所になれるよう情熱を持って取り組んでいきたいと思います。2月28日
生活クラブ生協・埼玉 大人の学校設立準備委員 〔松村 圭〕 


《状況風景論》仏伊米に春雷、アイフルとCM責任&港湾の人間機関車の死
柏井 宏之


●春雷とどろく季節に
 例年になく春雷が何度もとどろいた。長い冬を破る激しい雷雨、こうして季節は変わっていく。
 フランスのドビルバンが権威主義的に進めた労働の自由化政策「初期雇用契約(CPE)」が若者デモと労働組合の協働によって撤回された。イタリアではプローディ率いる中道左派が5年ぶりにベルルスコーニの中道右派をうち破ったのも、さらにはアメリカの主要都市で約1200万人の移民の法的地位保障を求める大規模なデモもまさしく春雷のとどろきであった。いずれも新自由主義の中での「格差社会」の拡がりに対する異議申し立てである。
 日本でも衆議院千葉補選で民主党の女性候補が自公の推す候補に競り勝った。同じ日、基地の町岩国や東広島でも保守は敗れた。小沢民主党新党首が就任開口一番、A級戦犯合祀に「そもそもあそこに祭られるべき筋合いではなかった。間違いだった」と批判、A級戦犯は「戦死者でもなく、靖国に祭られる資格がない、…分祀は合祀を前提にしている言葉だ」、解決策として「事実上(合祀状態を)なくせばいい」と言い切ったのは、今までの民主党が踏み込めないでいた領域で重要である。この発言は手づまりのアジア外交を刷新し、民主党が寺島実郎氏らの「アジア共同体構想」と連動するなら、政権交代も現実的可能性がでてこよう。
●儲けない近畿ろうきんのCM
 2月から近畿ろうきんのテレビCMが始まった。井筒和幸監督の「自分の金出すのに手数料やと?なんでやねん」と、2月1日から銀行・郵便局・コンビニのATM.CD機での引き出し手数料を全額還元(無料)にしたことを非営利の金融機関としてアピールしたもの。
 3月4日、東京で「サラ金は金利を下げろ」と、「2百万人の多重債務者を生み出す根本原因」として弁護士や労組も参加して霞ヶ関・銀座をデモ。その中心の労福協は今、消費者金融の高金利を引き下げようと全国署名に大々的に乗り出した。この分野での柴田武男聖学院大学教授の発言が目立つ。「朝日」で「グレーゾーン金利 弱者の立場で是正せよ」(4.13)と展開、NHKの「クローズアップ現代」にも登場、さらにはスタートした生活サポート生協・東京の設立賛同者募集のリーフレットで、生協は「食の安全」を越えて「格差社会」の今日的課題を担う意味を強調、「生協法人で設立する意義」を訴えている。それにしても市場万能の小泉構造改革をあおり、アイフルなど消費者金融のCMで埋めたテレビ各社こそその社会的責任を問われなければならない。
●港湾の暴力と戦った逸話
 日本の労働運動の中で国際主義、中でもアジアとの連帯を強調した全港湾労組の運動がある。たたかう人間機関車の愛称で親しまれた山本敬一氏の偲ぶ会が道頓堀でもたれた。いつもヘルメットをかぶり長靴をはき、笑顔で「委員長」と親しまれた彼は大阪・川口で1945年に港湾労組を結成、神戸の山口組や大阪の上組などの闇の組織と闘い、彼の選挙事務所に日本刀の男が切り込み、ダルマの首がはねられたこともあった。釜ガ崎の野宿労働者の餅代、ソーメン代を大阪府議会副議長時代に勝ち取った。偲ぶ会は往年の闘士たちの悼む声、中国・朝鮮など海を渡るメッセージで充ちた。「起て 全港の労働者/進め自由の旗のもと/歌声とわにひびかせて/世界に示せ わが意気を」と盛りあがったが、10数年にわたって闘病を看取った孝子夫人の「多くの仲間をもった夫は幸せな人」との言葉と地元の部落解放同盟矢田支部出身で、初代婦人部長をした西岡映子さんの府議会に押し掛けた実践的な共闘報告に胸熱くした。「連帯経済」や「共生経済」の根は過去の運動の中に埋もれている。
●ロダンとカリエールの交響
 彫刻家ロダンと画家カリエールが20年にわたる親交のなかで、共通の人物・背景・手やトルソに「内なる生」をどのように表現したか、その象徴主義と高い評価をえている両者の共感・交響がみえておもしろかった。
 ロダンといえば「地獄の門」、その群像の中にいるカミーユ・クローデルとの愛と憎しみの<物語>と作品の差異性も深いものがあるが、これは男の友情の<物語>だった。


雑記帖 大河原 雅子

 水仲間の一人の西川耕史さんが、満開の桜咲く病院で亡くなった。時代劇の浪人のようなニヒルな風貌とは裏腹に、シャイで暖かな人柄と几帳面な性格は、同僚からも市民運動をともにした仲間たちからも頼りにされ、愛された。仕事は、東京都水道局の土木職。ダムを造ることを学んできた彼が、長年、脱ダム・反ダムの運動を担ってきたのは、職業人であると同時に一人の市民として、自らの職場である東京水道のあるべき姿を求めた証だ。
 それに引き換え、国の役人の厚顔は救い難い。50年経ってもできない八ッ場(やんば)ダム計画は、現在、一都五県の地方裁判所で住民訴訟中だが、ダム建設の根拠となる「利根川水系の河川整備基本方針」が国土交通省の主導で、役人と役人によって任命された無能な審議会の下で、何の議論もなく決定されてしまった。過大で非現実的な建設根拠自体に疑問が呈されているのにそれには応えず、次から次へと流れ作業で基本方針が決められていく。(実際、国交省は07年度までに109ある一級河川すべての水系で基本方針を決めようとしている。)審議会の検討小委員会も数回傍聴したが、委員長は元建設省河川局長、委員には知事代理の都県の河川部長の他、御用学者と国交省お気に入りのタレント文化人が「学識経験者」として居並ぶ。会議時間の8割が担当者からの資料説明に費やされ、質問と感想が申し訳程度に述べられるだけ。かくして無駄なダム作りは続く。
 大人が、子どもたちに恥じない仕事をすること、一人の市民としてあるべき生き方を求めることでしかこの国の歪みは直らない。微力だけれど、西川さんが教えてくれた勇気を引き継いでいきたい。合掌。

市民セクター政策機構 〒156-0044 東京都世田谷区赤堤4-1-6赤堤館3F
e-mail:civil@prics.net tel:03-3325-7861 fax:03-3325-7955

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