月刊『社会運動』 No.315 2006.6.15


目次

第20回社会経済セミナー報告 介護保険改定と福祉クラブ生協の運動と事業展開 浜田康二‥‥ 2
耐震強度偽装に潜む問題 安全・安心の制度設計 耐震強度偽装問題から考える 伊藤久雄‥‥12
第11回社会的企業研究会報告 協同組合法制のニューバージョンの必要性について 石見 尚‥‥27
第3次ワーカーズ・コレクティブ法研究会拡大学習会報告 人間らしい暮らしと仕事の具体化にむけて 田中夏子‥‥34
公益法人制度改革とワーカーズ・コレクティブ法A 「なくてはならないもの」に下支えを! 浅草秀子‥‥44
新しい運動戦略めぐって白熱の討論 「韓国フォーラム2006」に参加して 丸山茂樹‥‥45
BSEリスクとその対策・その後 「牛→人」から「人→人」感染へ 倉形正則‥‥48
食の焦点J 小麦と日本農業 今野 聰‥‥53
遺伝子組み換え小麦への懸念の広がり 食品業界全体の取り組みとコープ・イタリアの役割 清水亮子‥‥55
<アソシエーション・ミニフォーラム> “協同組合”との遭遇・大学生協の最新事情 河本美智子‥‥59
<書評> 『転型期日本の政治と文化』 坂口正治‥‥60
<状況風景論> 地域創造ネット設立、社会運動で社会をつくる!飛鳥の旅 柏井宏之‥‥63
雑記帖 宮崎 徹‥‥64

表紙からのメッセージ 写真家・桑原 史成
 この5月1日、熊本県水俣市で水俣病が確認されて50年の節目にあたり慰霊祭が行われた。式典には胎児性の水俣病患者をはじめ、多くの関係者たち約1,000名余が参列した。政府を代表して小池百合子環境大臣が出席していた。
 地元の水俣市は小泉首相の参加を希望していたが、外遊のスケジュールを理由に実現は不発に終わった。いま、不知火海沿岸の人びとによって新たな提訴が起きている。いずれ3,800人になるであろうと予想される原告の数に政府と行政は苦慮している状況にある。
 水俣の発生からすでに半世紀が経過しているものの終息は見られない。水俣病の認定基準が行政と司法の2通りがあって、その判断条件が大きく異なっていることに問題がある。現時点で残された点は償いのみの対応であろうと考えられる。環境省には英断をもって認定基準の見直ししてもらいたいものと考える。表紙の写真は、車イスの胎児性患者に挨拶の視線をおくる小池環境大臣。

第20回社会経済セミナー報告 介護保険改定と福祉クラブ生協の運動と事業展開
−経営の危機なのか 思想の危機なのか−
福祉クラブ生活協同組合 専務理事 浜田 康二

社会経済セミナーの浜田報告は、当日報告終了後より、「いつ社会運動に掲載するのか」、待望されてきたものである。ここに今の生活クラブ運動の、地域での到達点が存在する。

 お手元の「介護保険改定と福祉クラブ生協の運動と事業展開−経営の危機なのか思想の危機なのか−」というレジュメは、2月下旬〜3月上旬にかけて福祉クラブ生協の理事会やその他の機関会議で討議したことを本日第20回の社会経済セミナー用にまとめたもので、これにもとづいて話をすすめます。

06年4月介護保険制度改定
 今回の制度改訂の特徴ですが、一つは、要支援、要介護1と認定された利用者の一部は新たに制度化される新予防介護サービスに移されていきます。2点目に、それに伴う新介護報酬体系の変更です。中度、重度のケア者に対しては介護報酬が上がりますが、介護度が低い人に対しては介護報酬が下がります。3点目に、介護保険事業を継続するためには、今までもホームヘルパー2級、3級の資格が要りましたが、改定に伴い、今後3年先には、「介護福祉士」という資格がなければケアはできなくなると言われています。
 福祉クラブ生協は4業種22事業所で介護保険事業を行っていますが、変更後の報酬体系でシミュレーションしてみますと、05年度の実績換算で毎月約355万円の収入減、年間では4260万円の減ではないかと予測されます。介護保険事業の福祉クラブ生協の総事業高は約4億5140万円ですから、約4260万円減ると4億0880万円となり、約10%の事業減になると考えています。
 福祉クラブ生協の事業は介護保険事業だけではありません。全体の総事業高は、今年度末で約36億2700万円を予測しています。その中で共同購入事業が約27億9700万。福祉事業(家事介護・食事・移動・介護生活用品・居宅介護支援・安心訪問サービス)は、5億7000万円。施設事業(入居施設、デイサービス)は2億1500万円です。介護保険事業以外(コミュニティオプティマム福祉)の家事サービス、食事サービス、移動サービスなどの福祉事業が約3億7500万円。その他に共済受託事業の1300万円、「街の技術」の3200万円などがあります。

介護保険に伴う、事業減に対する福祉クラブと各W.Coの今後の対応と対策
 一つは、月々355万円、年間4260万円の減少というのは、あくまでも福祉クラブでのトータルな金額です。個々具体的には、業種別各団体のW.Co(ワーカーズコレクティブ)の課題となってきます。家事介護W.Coでは、介護保険を取扱っているところ、取扱っていないところ、取扱っていても介護保険事業とコミュニティオプティマム福祉(介護保険以外)事業とのバランスや事業高によっても違います。また、デイサービスでは、事業規模が小さなデイサービスW.Coについては事業収入が逆に増加するというシュミレーションが出ています。ですから、業種別の各団体のW.Coの課題を共有し、課題解決に向けた実施方針(W.Coの総会方針)を持って、対応するために各W.Co自身の力量向上が必要です。報酬体系の変更に伴う事業高に対してコミオプ事業収入、予防介護収入、介護保険収入増を図らなければなりません。それには組合員拡大(利用者確保)W.Coメンバーを増やし事業を高めることが必要です。
 2番目に、介護予防サービスの取り組みに向けた体制整備と資格要件への対応を進めるということです。体制整備というのは、介護予防をするためにも予防訪問介護事業所指定という形をとらなければいけないことがありますから、そういう手続き届出はきちんとやる。もう一つ、資格要件で言えば、福祉クラブ生協では、介護福祉士や介護支援専門員(ケアマネージャー)の資格取得を推進していかなければいけないと思っています。
 3番目に、介護保険のケアの対象が狭まってきますから、介護保険以外のサービスとしてのコミオプ福祉の充実を行うことです。私たちが本来(介護保険導入前から)やってきたことをさらに広げなくてはいけないこととして、移動サービスとか、食事サービスとか、うェるびィーサロンなど介護保険以外のさまざまなサービスをきちんとコミュニティオプティマム福祉として進めなければいけないと思っています。−続く


耐震強度偽装に潜む問題 安全・安心の制度設計 耐震強度偽装問題から考える
伊藤 久雄 社団法人東京自治研究センター


建築偽装問題が、発覚したとき、「当たり前」としてあった各々が住まう住居への信頼が崩壊した。そもそも、法制度自体の骨格が「木造建築が主体であった時代」のもので、そこにまさしく、諸制度をつぎはぎしてきたことの問題を指摘する考えもある。現場をもっとも熟知する人間の論文である。

はじめに
 情報公開の徹底と重層的な制度設計、これは建物の安全だけではなく、医療や食、環境など、安全・安心にかかわる基本的、根本的な理念ではないだろうか。その理念を具体化するのが法制度であるが、耐震強度偽装問題はその法制度に不備があったことを明らかにした。ここでは次のような観点から、建物の安全・安心を中心にして、安全・安心の制度設計について考えてみたいと思う。
@ 耐震強度偽装問題が引き起こした、建築基準法を中心とする建物の安全にかかわる法制度の、どこに不備があったのか
A 今通常国会に上程された建築基準法、建築士法などの改正案がいかなるものか
B 国土交通省などが考えている課題として何が残され、どのような問題があるのか
C 建物の建築にかかわる法制度の抜本的な改革にあたって、どのように考えるのか
D 規制改革がすすむ中で、特に「指定機関」という民間事業者に委ねる手法に象徴される、「行政の私化」といわれる問題についてどのように考えるか

1.耐震強度偽装問題はなぜ起きたか
 国土交通省は昨年の偽装公表の直後から、社会資本整備審議会建築分科会に基本制度部会を臨時的に設置し、今年の2月まで5回にわたって「建築確認・検査制度の今後のあり方」について議論を行い、2月22日に「中間報告」をとりまとめた。後述するように、国土交通省はこの中間報告にもとづき建築基準法等改正案をまとめ、今通常国会に上程した。
 ところで、なぜ強度偽装問題が起きたのか。中間報告では「現在の建築規制制度、建築士制度等の課題」として6点を集約している。この6点の集約は客観的にみてよくまとまっていると思われるので、現状の問題点を指摘しているところを要約して引用することとする(一部表現を変えたり、説明を加えたところがある)。

(1)建築確認・検査制度の課題
 建築確認は、設計図書を作成する建築士は技術的能力や業務の適正さについて一定の信頼がおけるものと考え、建築確認では、設計ミスによる法令不適合を発見することに主眼をおいて審査が行われてきており、建築士の悪意による偽装までは想定していなかった。
 また構造規定の審査については、構造計算プログラムへの入力内容の審査、構造計算過程の審査、計算結果の異常の有無の確認、計算結果と構造計算図書の照合等を行うが、構造設計においては、近年特にコンピュータ利用が進展しており、ともすれば内容がブラックボックス化しがちであり、コンピュータによる膨大な構造計算の全過程を書面のみで迅速に審査することは困難になってきている。
 中間検査・完了検査は、工事中または竣工後に特定行政庁(建築主事をおく自治体)の職員等が建築物の法令適合性を現場で検査するものである。特に中間検査については1998年(平成10年)の建築基準法改正により創設され、現在は特定行政庁が指定する建築物について指定された工程終了後の検査が義務づけられている。しかし完了検査とは異なり、すべての建築物が義務づけられているわけではない。現在約72%の特定行政庁で実施されているが、残りの特定行政庁では未実施となっている。
 偽装物件のうち、中間検査を実施していないものの一部で確認申請書と施行図が一致しない物件があり、中間検査の実施を徹底させる必要がある。また、中間検査段階で偽装を見抜けなかったものもあり、検査方法の見直しも含め検査の厳格化が必要である。

(2)指定確認検査機関制度の課題
 指定確認検査機関制度は1998年の建築基準法改正で導入され、民間機関も行うことができることとされた。指定確認検査機関制度を導入した趣旨は、当時は「行政だけでは十分な実施体制が確保できない状況のもとで、一定の審査機能を備えた公正中立的な民間機関(指定確認検査機関)も建築確認・検査が行えることとし、行政は監督処分、違反是正やまちづくり等、本来行政でしかできない事務にその能力を振り向ける」というものであった。−続く 


第11回社会的企業研究会報告 協同労働法制のニュー・バージョンの必要性について
日本ルネサンス研究所 石見 尚


公益法人改革は、有識者会議の議論をまったく無視して、「拠出」制度などを、闇に葬り去った。厳密な総括は、必要であるが、一方で、原則論の探求も必要である。長い経験を持つ石見さんに、第11回社会的企業研究会をふまえて書き下ろしてもらった。

はじめに
 協同労働の法制化は主体性をもって発展するためのものですが、すでにポスト・ニュー・リベラリズムの潮流が、国際的に「下からのグローバリゼーション」の戦略や運動となって形成されてきています*。社会的企業の今日的論議は、この国際的潮流のなかでの「協同労働のニュー・バージョン」と深いかかわりが出てくるであろうと考えて、お引き受けした次第です。
*石見尚・野村かつ子著「WTO――シアトル以後」(緑風出版、2004)
石見尚「モノの流れを変える 下からのグローバリゼーション」(廃棄物学会編集「市民がつくるごみ読本 C&G」2006年3月)

1.レイドローの「セクター論」のダイナミックス
 A.F.レイドローが「西暦2000年の協同組合」(ICA、1980)の報告において、混合経済体制を構成する3つのセクター、すなわち公的(政府)セクター、私的(営利企業)セクター、協同組合セクターの関係を示し、21世紀の協同組合の課題と展望を提起したことは、ご承知のところです。いま、その2000年が来て、すでに5年が過ぎました。日本における現実はどうでしょうか。
 日本では、不毛の90年代が過ぎて以来、レイドロー氏が予想したとおり、グローバリゼーションとニュー・リベラリズム派の台頭が急速です。「小さい政府」、「規制緩和」、「民間でできることは民間に」の名のもとに、特殊法人(道路公団など)改革、郵政の民営化、国立大学の独立行政法人化、行政改革による官僚機構の縮小など、私的(営利)資本セクターの拡大による公的セクターの民営化攻勢が進んでいます。「公益法人制度改革」もその一つと見ることができます。
 ニュー・リベラリズムは、「保護」と「規制」による肥大化した官僚国家の複雑な社会システムを、資本活動の自由な市場原理と競争の貫徹するシステムに変えることを要求しているわけですが、さらに公的セクターにたいする改革の刃を転じて、能率の悪い協同組合セクターに向け、協同組合から「信用・保険などの金融部門」の切り離し、「独禁法適用除外の見直し」、「優遇税制の廃止」を提案し、また透明性を求めて「外部監査」を要求してきます。
 ニュー・リベラリズムの自由主義・合理主義の論理に対しては、協同組合はその特殊性を主張して反論するだけでは、到底対抗できるとは思いません。なぜならば、新会社法(2006年5月施行)を見てわかるように、民間営利企業セクターの会社形態を100年ぶりにあらため、株式会社のほかに合同会社、有限責任事業組合をとりいれています。また収益の大きい株式会社の中には、公益的な社会貢献をする企業もでてきました。資本の本質は変わりませんが、現代企業の経営者の社会思想は変化してきています(市民社会が無視できない力を持ってきたことの証明でもありますが)。ニュー・リベラリズムでは、第2セクターは第1セクターのほかに第3セクターの協同組合の営業分野を代行し、「合理化した経営」に切り替えることができると考えています。協同組合は私的資本セクターの浸透に対抗できる構造改革を決意する時が迫りつつあります。−続く 


第3次ワーカーズ・コレクティブ法研究会拡大学習会報告
人間らしい暮らしと仕事の具体化にむけて(下) ―イタリア社会的協同組合の現状・課題―
都留文科大学 田中 夏子



 第3次ワーカーズ・コレクティブ法研究会では、法制化とともに第2次ワーカーズコレクティブ法研究会が提示した新しい社会の具体的な施策の提言をめざしています。今回の第2回目拡大学習会では、社会的協同組合の現場がどんなふうに動いているかについてイタリア社会的協働組合の5例を紹介しました。本稿では、制度、仕組みの問題点に迫ります。(編集部)

「生きにくさ」をともに乗り越えるための手段としての社会的協同組合
 このように社会的協同組合というのは非常に多くの領域で展開しています。キーワードは「生きにくさ」というふうに訳しているのですが、原語で言うと「disagio」という言葉です。語源は「がんじがらめになって動けない」「動きにくさ」ということですが、これを「生きにくさ」というふうに訳しています。この生きにくさがある所、どこでも社会的協同組合の手掛ける領域となり得るのだと思います。
 もちろん精神障害、知覚障害、身体障害、知的障害など、障害をもった人と共にどうやって生きていくか、共生社会をつくっていこうという、日本で言うセツルメント活動が1960年代後半に高まったと思いますが、そういうものが一つのきっかけにはなっています。
 しかし、もちろんそれだけではありません。同時に多様な社会的マイノリティということで、先ほど「社会的排除の対象となる人々」と申し上げましたが、具体的には移民とか、薬物依存に苦しむ人、アルコール依存に苦しむ人、ジプシーと言われる人たちのように理由なき差別を受ける人、社会参加に困難を抱える人、それから一定の刑期を終えて社会復帰した人たちをどうやって社会で受け入れていくかというのも、社会的協同組合の課題になっています。
 私が訪問したローマの協同組合などでは、70年代にテロ行為のために服役をし、最近刑期を終えて出てきたという人がいましたが、政治犯に対する社会の風当たりは当然強いわけです。こういう部分までも引き受けていこうという覚悟をもって社会的協同組合が展開されています。
 単位協同組合の部分では、その形成過程、理念、実際の運営の仕方、組織上の工夫等々、日本とそんなに違いはありません。例えば、組織があまり大きくなるようだったら小分けにしていくとか、徹底して話し合いをするとか、一つ一つの単協の運営に関しては、ワーカーズコレクティブの運動に当てはまることも大変多いかと思います。
 問題はそのネットワーク組織、あるいは事業連合組織の存在感の大きさです。
 まず、社会的協同組合そのものの全国組織はもちろんありますが、これができてきた過程も興味深いものがあります。一つ一つの社会的協同組合ができてくるなかで、イタリアの場合は背景にとくに大きな生協があったとか、運動組織があったとかいうことでは必ずしもありません。カトリック文化の存在はおおいに影響がありますが、たとえばワーカーズ・コレクティブを支える生活クラブのような生協の存在がイタリアにあったのかと言うと、必ずしもそうではないと思います。各地で雨後の筍のように自主的な仕事起こしの組織が出来てきて、それが一部、既存の協同組合運動と強いつながりを持ってはいました。しかしそれがすべてではなく、さまざまな運動団体がいろいろな仕事を起こし、組織を生み出してきたということがあります。これが70年代のことです。
 70年代が終わりになって見渡してみると、自分たちと同じような理念、組織運営、事業そのものも似ているところがあるじゃないか、ここで少し連合組織、ネットワークづくりをしてはどうかということで、80年代になってネットワークづくりが始まっていきました。
 自分たちの組織的なアイデンティティをどのように規定していったかというと、民主的な運営に配慮をして小規模な構成でやっていくこと、地域社会との結びつきを意識的につくっていくことで組織の外に対するアピールをしていくこと、小規模でありながらも規模の経済メリットを確保すべく単協と連合組織を二つうまく組み合わせながら活用していくことであります。−続く 



公益法人制度改革とワーカーズ・コレクティブ法A
「なくてはならないもの」に下支えを!=ワーカーズ・コレクティブ法の必要性=
ワーカーズ・コレクティブ ネットワーク ジャパン 運営委員 浅草 秀子<パネリスト>


 今回の公益法人改革には私たちワーカーズコレクティブをはじめ、多くの民間非営利組織が大きな期待よせていた。営利企業が切り捨てた非効率な、市民生活に欠かせない小さなニーズに丁寧に対応する事業を営む団体にとって、やっと公的に認められる制度が可能になるとの期待であった。しかし、この期待は大きく裏切られる結果となった。

 この改革は、営利企業と公共機関に加え、日本の市民社会の不安や不安定さをもうひとつの公共として、民間非営利組織が担う公益を社会的に支え、均整の取れた社会づくりにつながる改革になりえたはずであった。公益の概念こそこれまでより広がりはあるものの、「公益は国家が担う(管理する)」と言う古い認識は払拭されないままで、健全な社会作りのために民間非営利組織の育成にはつながらないと思う。
 私たちワーカーズ・コレクティブは、自ら出資し、運営し、市民が必要とする物やサービスを市民の立場で提供している。そのサービスや商品の多くは、公的制度や企業が提供する商品サービスのゆがみ、ひずみがニーズを発生させていると言っても過言ではない。
 このサービスは、市民にとってすでになくてはならないものであり、ワーカーズ・コレクティブと並び、共同連、労働者協同組合をはじめ多くの非営利団体が日常的に担い、地域社会の均整を保つに役立っている。
 そのニーズに対応する事業体は、法制度が整わない中で、さまざまな不自由さを持ちながら既存の法人格を活用している。いわば、サイズの合わない衣を身につけ、十分な活動を制限されている状況にある。また、法人格を取得できない事業体も数多く存在する。この事業の継続、発展には資金調達が容易にできる法制度と税制の優遇措置が必要である。
 「公益法人改革3法案の趣旨」には、『官から民へ』の流れの中で民間非営利部門の活動の健全な発展を促進するため、とある。これまでの社会制度の崩壊からの不安、格差等の是正をする、なくてならないサービス提供主体をその実態にあわせた制度の制定をもって下支えしてこそ「趣旨」は生きるのではないかと考える。
 
 ワーカーズ・コレクティブが真に求める法制度は、協同組合としてのワーカーズ・コレクティブ法である。上意下達の組織では成し得ない、人々が主体的に参画し労働する、組織形態と合致する法人制度はこの日本にはまだない。この機会にほかの多くの団体とともにワーカーズ・コレクティブ法の制定に向け、活動を強化する必要性をこの公益法人改革の法案の結果からも感じている。
(公益法人制度改革関連法案は5月26日参議院で可決成立しました。)
写真はワーカーズ・コレクティブ青いそらのメンバー
 


「韓国社会フォーラム2006」に参加して 新しい運動戦略めぐって白熱の討論
丸山 茂樹(参加型システム研究所)



 韓国では毎年、さまざまな分野で活動している市民・社会運動のリーダーと研究者・理論家たちが総結集して、交流・討論の催しを行っている。
 今年は第5回であるが、世界社会フォーラムに参加した人々の提唱により、韓国社会運動家大会と言う名称を『韓国社会フォーラム』に変えて、3月23日から3日間、ソウル女性プラザにおいて約800名の参加を得て開かれた。朝9時から夜10時までの長時間にわたり全体会と27の分科会の他にコンサート、モダン・ダンス、映画などの多彩な文化行事も行われた。

★主題は『論戦が巡ってきた!』『今、韓国の社会運動は危機にあるのか?』
 『今年の主題は刺激的ですよ。「韓国の社会運動は今、危機的状況にあるのか?」に決まりました。外国からは“大躍進”と見られているようですが自分達自身はしっかり自己点検したいと思っています。是非参加して発言して下さい』という実行委員長のチョ・ヒヨン氏(韓国聖公会大学教授)の誘いで、昨年に引き続き参加することにした。
 リーダーたちの問題意識の中には「60年代、70年代に発展した日本の学生運動、ベ平連などの平和運動、総評の労働運動が80年代、90年代には衰退してしまった……その“二の舞”を韓国では踏みたくない」という思いがあるようだ。「論戦の季節が再び巡ってきた!」というスローガンは、1980年代以来、韓国で社会運動に関わってきた人々にはピン!と来るものがある。というのは、厳しい軍事独裁政権との闘いの最中にも続いてきた「社会変革を巡る論争」を体験しているからである。
 韓国の社会運動の基本的な性格はアメリカの植民地支配に対する反米独立運動であるのか?それとも軍事独裁と資本主義に反対する民主主義・社会主義をめざす運動なのか?また民族闘争中心なのか?階級闘争中心か?市民的権利の運動中心か?民衆解放運動中心か?グラムシの語る市民社会・政治社会・ヘゲモニーとは何か?それは韓国の運動に有効か?右寄りの偏向ではないのか?北朝鮮[韓国では北韓(プッカン)と呼ぶ]の体制と金日成の主体思想をどう評価し、南北民族統一を実現する道筋をどう考えるのか?
 こうした論戦は必要ではあったが先ず民主的権利獲得が優先事項であった。選挙で選ばれた政権とはいえ軍事独裁の延長であった盧泰愚政権(1988-1992)、軍部政党との合体で実現した金泳三政権(1993-1997)、最も保守的といわれた金鍾泌(忠清道勢力)との野合を基盤にした金大中政権(1998-2002)という政権の権威主義的限界は明白であり、権力との絶え間ない闘いなくしては民主主義を定着させることは不可能であったからである。そして新しい世代による盧武鉉政権(2003−現在)が産まれ、野党の大統領弾劾決議を撥ねのけて、人々はようやく「政治的民主主義の要求が達成された!」と語ることが出来るようになった。今や新しい情勢のもとで来年秋の大統領選挙を睨みつつ、再び論戦の季節が巡ってきたことを共通認識し、「次なる段階で目指すもの<戦略>は何か?運動のあり方<戦術>は何か?」を主題にすることに思想的・政治的立場を越えて同意したのであった。−続く 


BSEリスクとその対策・その後 「牛→人」から「人→人」感染へ
市民セクター政策機構 倉形 正則


 米国牛肉の輸入再開に向かって政治的決着が計られようとしています。米国産牛肉の安全性は現地検査官による目視検査での年齢チェックという「神業」に託されることになるのでしょうか。その危険性は先月号での山内先生の講演録からも明らかです。
 一方、BSEとその人間版と言われる変異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)を巡る研究成果や新たな知見は刻々と拡大され続け、その落ち着く先は一向に見えて来ません。中でも最も深刻な事態と思われる「人→人」感染について整理してみたいと思います。

歯科医療の治療器具は使い捨てに
 狂牛病(BSE)が人に移ったとされている変異型クロイツフェルトヤコブ病(vCJD)について、英国では新たな伝染防止処置を付け加えるかも知れません。
 英国の政府諮問機関・伝達性海綿状脳症委員会(SEAC)が5月8日、英国保健省の諮問に応える形で歯科医療の治療具を使い捨てにする様に勧告しました。勧告によれば歯科医療用のヤスリやリーマーなどの治療具の現在の洗浄・殺菌方法では、vCJDの病原体とされるプリオンを不活性化できないまま。
 血液や体液によって伝染する危険性のあるものは、HIVやB型C型の肝炎ウイルスなどいくつもの存在が知られています。理髪店などでは直接血液に触れる可能性のある剃刀などの器具は、それらのウイルス感染を防ぐために、洗浄の後に紫外線照射などの不活性化処理が義務づけられています。
 歯科医療器具も、使い廻しをする他の医療器具と同様の殺菌が義務づけられています。その基本は、注射器や注射針は使い捨てとし、その他の器具も洗浄した上でオートグレーブ(加圧蒸気殺菌器)によって加圧・加熱滅菌しています。熱に弱いものは紫外線照射などの方法を採っています。医療器具の中には、これらの従来の洗浄法や殺菌法では充分にvCJDのプリオンを不活性化できない場合があるということです。
 さらに英国の別の調査報告(Report of the working group on decontamination of instruments in dental services in Scotland. FEBRUARY 2002)などによれば、本来標準的に行われるべき治療器具の殺菌手続きに、医療現場によって大きな開きが発生していることも報告されています。我が国においても歯科医療現場および一般医療現場も含め、使用済み注射器の針刺し事故などが後を絶たないのが実態です。

深刻な対策が必要
 我が国では厚生労働省の特別研究として「医療機関におけるクロイツフェルト・ヤコブ病保因者(疑い含む)に対する医療行為についてのガイドライン策定に関する研究」(主任研究者金子清俊2003年3月報告)の中で「CJD患者の歯科治療は、1日の最期に、治療域を限定して、かつ以下の徹底した汚染除去を行う。」として、治療域をビニールでカバーすることに始まり、術者および介助者の外科用手袋、防塵メガネ、防水性マスク、帽子、ガウン等の着用。使用する切開・切削器具および吸引嘴管、トレイ等は使い捨て。また抜歯器具、スケーラー等の使い捨て不能な器具は、CJD患者専用とする、等々と厳しく規定しています。
 これらはCJD患者への歯科治療でのガイドラインですが、英国での勧告はこうした行為を各歯科医療現場ですべての通院者へ日常的に実施することを提起しているわけです。それは後述するように多くの潜在的なvCJD感染者が予想されるためです。
 プリオンが細菌やウイルスなどのこれまでに知られていた病原体に比べて、加熱処理や紫外線照射などの殺菌処理に抵抗性を持つことはこれまでも知られていました。
 プリオンを不活性化させるには以下のような特別の処置が必要となり、それでも洗浄しきれない注射器や注射針は、既に使い棄てることが基本とされています。
■完全に不活性化させる方法
・焼却又は3%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)の中で100℃5分間加熱
■感染性を千分の1以下にする方法
・高圧蒸気滅菌装置(オートクレーブ)で132℃1時間高圧滅菌、1mol/L水酸化ナトリウム溶液に室温で1時間つける、1〜5%次亜塩素酸ナトリウム溶液に室温で2時間つける

潜在患者3800人の可能性
 さらに今回、改めて歯科治療器具にも使い捨て勧告がなされたもう一つの背景としては、現在発見されている160名余のvCJD患者よりも大幅に多い潜在患者が見込まれ始めたと言う事情があるようです。−続く 

<食の焦点>J 小麦と日本農業
(財)協同組合経営研究所元研究員  今野 聰生活



1.パンの売り場
 パン専門店売り場に無縁でずっと過ごしてきた。だからか、子ども連れのお母さんが、お盆をもって店内を廻り、ひょいと金具(娘によれば、トングというらしい)でつまむ。こどもも器用に同様の仕草をする。なんだかんだと10種類ぐらいか。これで食事の準備は終わりという感じである。余りこうした購買行動に関心を持たないできた。
 多くの場合、早朝散歩で、コンビニ売り場でパン類がどうなっているかを見る。入り口直ぐには調理パン、おにぎりの売り場はまず無い。ずっと奥まで客誘導する。購入者を最強品目でひきつけているのだなと分る。まあスーパーも同様。こういう商品ジャンルを一般に「中食(なかしょく)」という。家庭内食事と外食の中間というニュアンスがある。1990年代初期、農水省外郭の外食産業研究機関で、討論に参加したが、大いに議論になった。中途半端な商品群だが、どうも伸びているらしい。その時はおにぎりといわず、調理パンと言わず、要するに外食産業の競合相手という注目だった。案の定、それまで先進スーパーは「惣菜」変じて「デリカテッセン」と言っていたのが、すべからく米国に倣って「ミールソリューション」になった。いまやスーパーの生鮮売り場はこれら調理済みコーナーで圧倒されている。だから素材基礎品目の共同購入は押されるのであろう。パンは多品種、バラエテーに富み、どこか浮き立つ雰囲気もある。ご飯だって同じだというと、どうかなと反論になる位だ。
2.麦踏み原風景
 日本は地域によって違いがあっても、6〜7月初旬がほぼ「麦秋」という季節に入る。梅雨をはさんでいるので、なんとも洒落た言葉である。手許歳時記によれば、季語は初夏。では、「麦踏み」はどうか。早春である。子どものころ、古里宮城県では、初雪前に麦畑を踏む。それから、雪解けと同時に青々に広がった畑を、また踏む。なぜ葉っぱの頭から踏むのかと訊いたものだ。雪に埋れても、根腐れがなく丈夫になり、元気でいるようにするためだと。なるほど、麦の育ち方がどこか精神的で、神秘的だった。
 さて、昨年1年間、生活クラブ・神奈川の地域分権「さがみ生活クラブ生協」の長期計画策定にアドバイス参加した。そこで「麦踏み」が話題になったことがある。生産者との地域に見える関係づくりとして、提起されたのだった。その時、何故農家は麦踏みをするのかと問う委員が少なからずいた。この質問に唖然としたが、同時に実に新鮮に見えた。日本の原風景がこうして変わったのだなあ。当然麦畑でデートとは行くまい。チューインガム代わりに麦穂を割って、実を噛んだのだが、それが本当に昔話になってしまった。ではどうするか。
3.補助食としてのうどん
 子どもの頃だから1950年代。小麦を詰めた袋を自転車に載せて、近くのうどん屋に行く。そこで現物のうどんと換えてもらう。米が足りないから代用食にうどんである。嫌いではないが、どうも満腹感がない。母は多忙だから、タレにさほどの工夫をしない。冬場だと、残った味噌汁に煮込みうどんにしたこともしばしばである。−続く 


イタリアを訪れて 遺伝子組み換え小麦への懸念の広がり
食品業界全体の取り組みとコープ・イタリアの役割
清水 亮子(市民セクター政策機構)


 5月はじめ、遺伝子組み換え食品いらないキャンペーン代表の天笠啓祐さんとともに、イタリアを訪れた。ローマを拠点とする市民団体CDG(遺伝子に関する権利評議会)が5月10日に開催したフォーラム「小麦かトラブルか」(grano o grane)での講演を依頼されたためだ。この会議は、遺伝子組み換え小麦がイタリアで承認された場合の影響について、あらゆるステークホルダーを巻き込むかたちでCDGが呼びかけた同名の研究プロジェクトの一環として開催された。プロジェクトに参加している団体は、Coldiretti(コルディレッティ、歴史的にはキリスト教民主党を母体としたイタリア最大の農業団体)、ASSOCAP(穀物の集荷、製粉などを担う業者の業界団体)、CNA(食品加工業者の業界団体)、FIAL CGIL(アグリビジネス業界の労働組合)、コープ・イタリア(イタリアの消費者生協の連合体)、とまさに農場から食卓までの「フード・チェーン」全体を巻き込む取り組みである。

●食品業界全体が遺伝子組み換え小麦に懸念
 会議は二部構成になっており、第一部では、すでに遺伝子組み換え作物が大規模に流通している米国と日本から講演者が招かれ、遺伝子組み換えをめぐるグローバルな状況を概観するものだった。日本から参加した私たちに主なテーマとして求められたのが、モンサント社の遺伝子組み換え除草剤耐性小麦(ラウンドアップレディ小麦)を承認しないよう求めた団体署名を携え、カナダと米国の当局を訪問した経験談(2004年3月)だった。
 この除草剤耐性小麦の開発に使われたのは「ハードレッドスプリング」という春まきの硬質小麦。日本ではパンの原料として広く使われている。この品種が遺伝子組み換えになってしまったら、日本のパンの原料に否応無く入ってくることになる。承認しないことを求める請願に署名した団体は414団体、構成会員数は120万以上に上った。
 米国から招かれたデニス・オルソンさん(IATP、農業貿易政策研究所)とは、その2004年の訪米以来の再会だった。オルソンさんは米国中西部のモンタナ州出身。当時、私たちの団体署名提出に協力してくれたWORC(Western Organization for Resource Councils、モンタナ州)からIATPに移ったばかりだった。オルソンさんはアメリカでの遺伝子組み換え作物栽培の経験から分かってきた様々な事実――農薬使用量の増加、モンサント社の特許権にしばられて農家が自由を失っている現状など、遺伝子組み換え作物のもたらす危険性を実例に基づき示した。
 これを受けて第二部では、このプロジェクトに参加している団体のトップ、つまり食品関連業界のリーダーたちが集まり、それぞれの立場から遺伝子組み換え小麦への懸念を表明した。
 イタリアでは総選挙を終えたばかりで、政権交代が決まっている。このフォーラムには新政権で農業政策立案に関わっていくような政治家たちもフロアに招かれ、新政権に対して遺伝子組み換え作物について慎重な立場を求めることも、主な目的のひとつだった。

●コープ・イタリアの非遺伝子組み換え政策
 CDGは遺伝子組み換え技術に関する独立の研究団体として2002年に設立され、科学者・哲学者などが参加している。実はこのCDGの設立を支援したのがコープ・イタリアだ。10日のフォーラムに先立つ8日、ローマから列車で北へおよそ2時間半、ボローニャにあるコープ・イタリアの本部を訪問した。2002年、ヨーロッパでは遺伝子組み換え食品の新しい表示法を制定するための議論が活溌に行われる中、生活クラブ、グリーンコープなどのグループで訪れたのに続く2度目の訪問だった。前回の訪問では、新しい表示制度に備え、食品のトレーサビリティ(食品の履歴を農場までたどれること)をどのように確保しているのかを視察したが、今回の訪問は、その後追い調査が目的だった。
 対応してくれたのは、品質管理室のヴィットリオ・ロッツァさんとパオラ・マケリーニさん、そして検査室のソニア・スカラマグリさん。
 コープ・イタリアはイタリアの消費生協の連合体で、会員生協数は175、店舗数1300、従業員数5万5700を擁し、小売業界のシェアはイタリアでトップ。年間総売上はおよそ1兆6000億円に上る。
 コープ・イタリアは1997年にヨーロッパでも遺伝子組み換え作物の輸入が始まった当初から、「環境・健康への影響がよくわからない」という立場をとり続けており、98年には、すべてのプライベート・ブランドから遺伝子組み換え由来の原料を排除する決定をした。この決定に基づき、すべての提携業者(原材料の供給者、食品加工業者、飼料会社、と殺業者など)と仕様書についての合意を交わし、すべての生産段階において遺伝子組み換え不使用を確認する検査体制を確立、第三者機関の認証を受けている。結果、2000年9月には、スナック菓子、朝食用シリアル、ビスケット、フルーツジュース、チョコレート、パスタなど、プライベート・ブランド256品目について遺伝子組み換え原料の不使用を確認。飼料についても遺伝子組み換え飼料不使用を段階的に確保。2000年10月には鶏肉、2001年8月には魚、豚肉、特産の「ピエモンテ・ビーフ」、2002年1月には七面鳥、3月子牛肉、2004年3月には鶏卵用の鶏の餌から排除が確認された。−続く 


<アソシエーション・ミニフォーラム>東 京
“協同組合”との遭遇・大学生協の最新事情
講師:寺嶋英介さん



 5月15日、大学生協神戸事業連合会専務理事、寺嶋英介氏が市民セクター政策機構を訪問するのを機会に、「大学生協の現状」を少数ではなく、おおぜいで伺おうということになり、5月の生協運動研究会を「ミニフォーラム」という形で開くことになった。
 大学生協の関心を寄せる方、協同組合の運営に関わっている方、かつて協石連で活動をともにした方などが急遽集まった。
 寺嶋氏は、「大学生協をめぐる最近の動き」と題し、様変わりしている大学生協の問題点を指摘された。学生数の減により、供給高が減っている現状、さらに国立大学法人化の動きのなかで、大学内への民営化の風がふいていて、関係整理のために、協定書を締結し、事業確保のための努力をしているが、まだ課題が多く残っているとのことだった。埼玉大学では、校門を入ってすぐのところにコンビニができたり、他大学でも、生協食堂に替わって、さまざまなおしゃれな民間の業種が参入しており、コンビニチェーンなどの導入の動きが止まらないという。
 一方、大学生協自体も、ミールカード(年間18万円の食事を提供する食事券)、読書マラソン(読んだ本に関する感想をPOPにかいて、店頭に掲示するなど読書を通じた学生どうしの交流などの活動)も特徴的だ。また組合員が大学生協に意見や要望などを書き込み提出する「ひとことカード」「生協の白石さん」も好評だ。
 学生の生活をまるごと、一手に引き受け、支援をする、こういった存在そのものは今でも、かつての存在意義は変わってはいなかった。
 生活クラブ連合会グループ開発品とおもっていたウィルケアのシャンプー、リンスなどは大学生協との共同開発品で、現在でも健康や環境問題に関心のある大学生協では、共同購入しているとのことだった。
 話の中で驚いたことは、大学生協は職域生協の部類に属していて、本来は職員を対象とするもので、そのなかに学生が属しているという形になり、法制上では、不安定な存在であることだった。協同組合法制のゆがみ、現実とのギャップを発見した。
 また、学生総合共済は70万人の規模の共済だが、4年で終了してしまうという。これをなんとか、つなげていく手立てがないものか、保険自由化の流れ、個人情報保護法などのいくつもハードルがありそうだ。などの話をされた。
 なお、寺嶋氏は兵庫県から、東京の大学生協に異動が決まっており、大学生協のことについて興味のあるかたは、お話をきける機会があるかもしれません。ミニフォーラムの詳細は本誌に掲載予定。
(生活クラブ赤堤館地下視聴覚室にて 市民セクター政策機構 河本美智子)


<書評>松下圭一著 『転型期日本の政治と文化』(岩波書店、2005年)
坂口正治 (財団法人 ふくしま自治研修センター)



 『転型期日本の政治と文化』。著者、松下圭一のこれまでの諸作品に馴染みのある読者なら、この表題からその心を汲むことができる。だが、一般の読者にとっては少々難解な表題のようである。とくに、「転型期」という表現に戸惑いを覚えるという声を聞く。
 著者は、これまでにも、「政策型思考」など独特の用語を生み出してきた。「転型期」はまさにその代表格といえるものである。しかし、それらの用語の中には、著者の時代を見据える「目」と、時代を創ろうとする「願い」が凝縮されている。
 さて、松下圭一といえば、1975年に発表された『市民自治の憲法理論』(岩波新書)で「松下ショック」という旋風を巻き起こした。また、「シビル・ミニマム」(市民生活最低基準)という用語を生み出し、自治体や国の施策に大きな影響を与えたことでも有名である。最近の著作の輝きは、その頃のセンセーショナルなものとは幾分異なっている。それは、著者が30年以上も首尾一貫して主張し続けた理論の確かさを時代が明らかにし、人々もそれに気付き始めたことによる。
 これまで展開してきた松下の理論は、時代の流れを的確に捉え、その流れと現代社会あるいは公共、政治・行政、文化とのズレを指摘し、ズレをなくすための方策を提示してきた。松下が聞き手を皮膚感覚で納得させることができるのも、その理論の実現に向けた挑戦を繰り返す過程で、自治体職員をはじめ、現場を知る多くの方と親交を深め、その中から自らの理論の絶えざる検証を繰り返してきたからである。したがって、その理論は、著者自身が主張している「公共政策は仮説であり、絶えざる検証が必要である」ということを実践し構築されたものであり、多くの方と創りあげてきた叡智の結晶であると言える。本書は時とともに進化し続ける松下理論の現在における集大成というべき作品である。
 本書では、その性格上、著者特有の用語の代表格である「転型」が様々な形で紹介されている。それらの転型を生み出すもとには、松下の歴史認識、すなわち「農村型社会」から「都市型社会」への移行があげられる。以下は、これを頼りに本書の根底に流れる松下理論の一端に触れ、著者と本書の魅力に迫りたい。
 著者によれば、日本における「農村型社会」から「都市型社会」への移行は、1960年から始まり、1980年代には「都市型社会」の成熟を迎えるということになる。その移行を担ってきたのは、近代化を推し進め「公共の福祉」のもとに公共を独占していた国家であったが、著者は「都市型社会」の成熟によって、その独占が終焉したとしている。多くの論者が国家による公共の独占が終焉した背景を国の財政破綻から説明する中、松下理論は古代から現代までの「時間軸」と地域から世界までの「空間軸」を「工業化・民主化」の浸透という観点で交差させ明快に説明している。これによって、私たちは時代と社会のダイナミックな動きを感じ取ることができる。
 「都市型社会」には、「農村型社会」の解体による個人の析出とマス・デモクラシーを造出し、分業による交流という市場経済を地球規模で貫徹する働きがある。このため、「農村型社会」の共同体による「相互扶助」や過渡期の国による「公共の福祉」に代わって、「都市型社会」では、シビル・ミニマムの政策・制度による「公共保障」が不可欠になる。それは、公共が市民の相互性を基本にもつ「自治・共和」(パブリック)というかたちで、まず市民みずからの、続いて政治・行政の基本課題となったことを意味する。したがって、「都市型社会」では、「市民自治・市民共和」を基本とした絶え間ない市民参加・市民活動が公共の出発点となる。−続く 

《状況風景論》地域創造ネット設立、社会運動で社会をつくる!&飛鳥の旅
(柏井 宏之)



●「地域創造ネット」が設立
 2007年問題、今後5年間で1200万人の団塊世代の定年退職を前に「団塊シニア、全員集合!!」と地域創造ネットワーク・ジャパンのNPO設立総会が5月22日、霞ヶ関ビルで開かれ、会場は沖縄から北海道まで全国のNPOの中間支援組織を中心に300人が集まった。連合の進める地協のワンストップサービスとも共鳴しあう市民組織側のスタートだ。挨拶に立った浅野史郎代表理事は、ボランティアはえらい人という見方、他方でものずきという既成概念になりがちだが、本来は「自発的な志願兵」、「やむにやまれぬ心の動き」の意、仕切りたがり屋にならずチャランポランの精神を大切にしたいと述べた。また若い頃重症心身障害者にかかわり、宮城県知事時代に「知的障害者の全入所施設解体宣言」をだした体験から「本物の民主主義で世直しを」とも訴えた。
●ユックリズムの落合恵子節
 副代表の落合恵子さんは、在宅6年の母親との暮らしから「寝たきり防止」などの言葉の怖さにふれ、シニアは元気でない人も病気がちな人が多いことにふれ、〈光のあたりから遠ざけられた人たち〉の気持ちにより沿うよう、前のめりにならずゆっくりと行くこと、人権を大事にすることに注文をつけた。
●「社会運動」と公共空間づくり
 自治労東京都本部書記会議が道場親信さんの講演録『社会運動で社会をつくる!』をブックレットとして出版した。道場氏ら若手研究者4氏の『社会運動の社会学』の出版を機に本誌で座談会をもったのも縁になっているが、昨年のジャンテ氏の来日以来、サードセクター、すなわち・労働組合・協同組合・NPO・コミュニティビジネスが地域社会でお互いの業種を越えて協働する関係がクローズアップ化されるなか、それらを横断的につなぐ概念として「社会運動」の言葉が共通語として注目されている。「社会運動は別の歴史や生き方を示していく重要なもの」「社会運動は「公共空間」であり主体でありメディアである」の小見出しが魅惑的だ。興味のある方には最新刊のシドニー・タローの『社会運動の力』(採流社)、『アメリカの社会運動』(同上)、『フランス社会運動の再生』(柘植書房)などを参照されたい。
●5年間の介護保険調査分析
 市民シンクタンクひと・まち社の5年間にわたった「介護保険制度検証のための基礎調査」が終了した。生活クラブ運動グループ福祉協議会と進めたプロジェクトでは、継続して回答のあった103人に事例を絞って報告書をとりまとめ中という。
 東京市民調査会の石川紀さんによれば「ひとつとして同じケースはなく、まさに本人と家族の103の生活がそこにある」ことを実感したという。当り前だがこの指摘を重くうけとめたい。
●飛鳥と東西の二上山を歩く
 古代史の多元史観から南船北馬論を踏まえて大和一元史観を読み変える「越境の会」の「飛鳥の旅」がおこなわれた。室伏志畔さんの案内で、竹内街道を通って大阪の近つ飛鳥から奈良の遠つ飛鳥に入る。朱鳥の変で殺される大津皇子の眠る西の二上山麓、石光寺と当麻寺、東の二上山の多武峰、その真ん中にある多神社を歩く。百済滅亡、白村江での倭敗北、統一新羅誕生の東アジア激動の七世紀、新羅系天武が開いた飛鳥浄御原宮を百済滅亡を機に百済系天智の板蓋宮に切り替えて「万世一系」の天皇史を造作する藤原不比等の想像力の跡をたどった。ちょうど飛鳥発掘の最中だった。
●柔らかい金時鐘さんの目線
 「民団・総連の和解声明」に「反目の自省から始めよう」と詩人の金時鐘さんが「毎日」(5.28夕刊)に寄せている。小泉内閣によって記者らが追うべき報道が今では、姜尚中、梁石日、そして金時鐘さんらの歴史的知恵を借りなくては何も語れない。済州島4.3事件を踏まえてきたこの詩人の魂は、けして状況や権力に甘えることなく「始めればいつだってそれが始まりだ」と的確に前向きなものは評価するのを忘れない。


雑記帖 宮崎 徹

 ポスト小泉をめぐる動きや議論が盛んになってきた。小泉政治はパフォーマンスを基本としており、それがポピュリズム化する政治空間とマッチしたのだといわれる。たしかに、大衆社会化がいっそう進展する中で人びとの孤立感が深まり、しかも仕事や生活の面で従来どおりのやり方に対するゆきづまり感が広がっているとき、力強そうにみえるリーダーが待望される。トップダウン的手法も歓迎される。また、小泉改革は「田中・経世会支配」打破への闘いであり、その意味では自民党内の権力闘争にほかならない。あるいは、「構造改革」を大義とする一大社会改造だと額面どおりに受けとめてよいかもしれない。実際、抵抗勢力との抗争というフレーム・アップが彼の存在を際立たせていた。
 なにはともあれ、小泉改革がそれまでの政治や統治の方式をそれなりに破壊しつつある。あるいは問題点を赤裸々な形でさらしたことは否定できない。従来の統治方式は利益の再配分や既得権益の微調整を政党や官僚が遂行するというのが基本だった。もっとも、その破壊は部分的であり、利権構造の再編成(改革利権という言葉もある)ということに終わりつつある。
 しかし、さまざまに説明される小泉政治の登場と長期化の時代的背景が、そうした従来方式では経済社会が回っていかないという事実にあることはたしかだ。ある意味では改革の必要性から生まれた鬼っ子が小泉政権なのかもしれない。本来の改革派が脆弱であったために生まれてきたのだ(政権交代の必要)。鬼っ子は母である自民党を確実に弱体化している。先般大勝したような小泉型選挙は彼一代限りのものであろう。

市民セクター政策機構 〒156-0044 東京都世田谷区赤堤4-1-6赤堤館3F
e-mail:civil@prics.net tel:03-3325-7861 fax:03-3325-7955

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