月刊『社会運動』 No.319 2006.10.15

目次

共同購入運動と農業・畜産の将来 グローバル化の中の日本の食・農・いのち 小林信一‥‥ 2
第13回社会的企業研究会 協同組合協同における共済の役割と日本の状況 鷲尾悦也‥‥14
東アジアからのメッセージ 日・韓・台から広げる女性のネットワーク 末吉美帆子‥‥28
韓国協同組合訪問 韓国のワーカーズコレクティブの可能性 藤木千草‥‥32
東京生活者ネット・統一地方選挙 地域から市民政治の巻き返し 中村映子‥‥37
<書評>
 現代政治*発想と回想 栗原利美‥‥43
 戦後精神の光芒 小塚尚男‥‥49
<アソシエーション・ミニフォーラム報告>
 自治体選挙と食品安全条例直接請求運動 大石千絵‥‥53
 迷走する集合住宅の建替え事業 櫛山英信‥‥54
雑記帖 米倉克良‥‥56

表紙からのメッセージ 写真家・桑原 史成
 ドイツから不幸なニュースが飛び込んできた。リニアモーターカー(超伝導磁気浮上式鉄道)が実験走行中に点検整備用車両に衝突したという事故である。死者が23名そのほかに重軽傷者を加えれば誠に重大な事故といえる。
 私は、実は半月前に日本版の山梨リニア実験線(JR東海)で試乗していた。飛行機を除いて地上での時速500kmのスピードは初めての体験であった。総延長42.8キロのコースの内18.4kmを使っての走行試験がつづけられている。1962年、宮崎の研究開始以来37年を経て1999年に現在の実践線で有人走行による世界最高記録とされる時速552kmを達成した。それはプロペラ機のゼロ戦21型機の最高速度553km/時より早い。
 さて、リニア中央新幹線の実現はどうなっているのか。1973年に基本計画が決定され、1990年以降から地形・地質などの調査が実施されている。しかし、整備計画の決定や建設の指示などには至っていない。東京や名古屋、大阪の駅への乗り入れでは地下数十メートルでの「大深度地下利用」の特別措置法は2001年4月に施行されている。東京から大阪まで約1時間とされる。安全性も気にかかる。


共同購入運動と農業・畜産の将来 グローバル化の中の日本の食・農・いのち
日本大学生物資源科学部 教授 小林 信一理事長


 小泉構造改革を取り上げるマスコミが、関連でもっとも取り上げなかった課題の一つは「農業政策」ではなかったか。地域と東京の「格差」、疲弊は語ってもである。翻って農政そのものに小泉首相のこだわりは「ない」と考えられる。したがって、ここ数年は「官僚まかせ」と見るべきかもしれない。基本的には、政府にあって、「地域対策」と「担い手対策」は分離しているのである。もっといえば「農」と「食育」そして「環境」もバラバラなのである。小林教授が生活クラブ連合会学習会で行った、共同購入運動の現場で活動するリーダー必読の講演録を掲載する。

 きょうお話しさせていただくのは、まず日本は先進国で最低の食料自給率であるということです。これは皆さんもご存知だと思いますが、自給率はなぜ低いか、その要因、それからそもそも自給率とは何なのかということですが、私は「自給率」という言葉に抵抗を覚えていて、本当は自給率でなくて自給力ではないかと考えるのです。また、日本の農地が少ないというのは本当なのか。「子孫に美田を残さず」というより、むしろ美田を残すことを考えなければいけないのではないかと思っており、まず、その点をお話しして、最後に食といのちについて考えたいと思っております。

自給率からみえるもの
 まず、日本だけがどんどん自給率が下がっていって今や4割になっています。なぜこんなになったか皆さんおわかりですか。
 平成5年に「平成の米騒動」というのがありました。タイ米を買ってずいぶん捨てられたという話であります。もうほとんどみんな忘れていると思いますが、あのときにボコッと自給率は凹みました。現在は若干回復していますが、だんだん減っていくという傾向は変わっておりません。国は新しい食料農業農村基本法の中で自給率を45%にするという目標を掲げました。それ以来上がっていませんが、下がってもいません。ようやく40%を維持しているという状況です。いつまで経っても45%にならないという状況が今だということです。
 日本は世界第一の食料純輸入国です。輸入額ということで言うとアメリカが1位なんですが、アメリカは皆さんご存知のように輸出も沢山しておりまして、実際には輸出国です。ドイツが2位であり、日本は3位なんですが、ほとんど輸出をしていませんので純輸入ということで言うと世界第1位ということになります。
 なぜこのように自給率が下がったかということです。昭和40年の総合自給率が約7割だったのが4割に落ちている。この要因としてはどんなことが考えられるか。総供給熱量に対する品目別熱量比率というものがあります。日本人が1日に食べている熱量は2,100kcalぐらいといわれますが、昭和40年はそのうちの4割、45%ぐらいをコメから取っていた。それが平成14年では2割弱になっている。それだけおコメに頼る食生活から離れているのです。
 それに対して畜産物はこれまで5%ぐらいしかエネルギーとして取っていなかったのですが、現在は15%にまで増えています。あるいは油も多い。こういった畜産物、油等、我々の生活の中でだんだん増えてきたので、食料の自給率が特に日本は低い。だから、全体として自給率が低くなっているということです。
 日本はあらゆる所からいろいろな食料を輸入していますが、特にアメリカからが非常に多い。最近では中国からも生鮮野菜の輸入が増えていますが、全体から見るとアメリカが断然多い。そこで、生活クラブ生協さんがアメリカからのみ穀物を入れているのは危ないのではないかというので中国の黒竜江省辺りからも餌を入れようと考えておられることは、ひとつのリスクヘッジという点で意味のあることだと思います。
 自給率の変化の要因と食生活の変貌ということはよく言われています。日本の食生活はPFCバランスから見ると理想的であるとよく言われます。PFCとは、P=タンパク質、F=脂肪、C=炭水化物のことで、理想的な食事のバランスとは、摂取エネルギーのうち、P…12〜15%、F…20〜25%、C…60〜68%の割合で取られていることです。こういう食生活をしていると生活習慣病にも罹りにくいということのようです。
 外国と比べると、日本でもタンパク質は12〜13%ですが、大きく違うのは脂肪で、例えばフランスではエネルギーのうちの44%ぐらいを脂肪から取っているのです。フランス料理はそんなに脂っこいのかなと思いますが、脂肪が多く、炭水化物が少ない。
 日本は、1975年には理想的なPFCバランス(P…12.7%、F…22.8%、C…64.4%)で食事をしていた。これが理想的な日本型食生活だったわけです。今から30年前です。我々がまだ学生の頃ですが、今はCが減ってFが増えているという状況で、年代別に見ると、若い世代では脂肪からエネルギーを取る割合が3割を超えているという状況になっており、ますます米国型の食生活になっているということが言われています。

ファストフードとフードマイレージ
 もう一つ、食生活の問題として問題とされるのは欠食です。1日2回とか、朝を食べないという状況が特に若い世代には多く見られる。男性だと20〜29%が食事をしない。ちょうどうちの学生連中と同世代ですが、半分ぐらいは欠食しているということで、これが問題だと言われています。更に一人で食べる(孤食)とか、バラバラに食べる(個食)というようなこともあります。
 私の大学時代か、もうすこし前に初めてマクドナルドが日本に進出してきて、当時はファーストフードと言いました。皆さんの中にもまだファーストフードと言っていらっしゃる方があるかもしれませんが、それは間違いです。ファーストはfirstで1番という意味です。フードの場合はファスト(fast)です。「速い・安い・まずい(うまいとも)」かな。
 このファストに対してスローということでして、スローというのは、ゆっくり1時間、2時間かかって食べようということもありますが、そればかりでなく、地元で取れたものを家族や仲のいい友達と一緒にゆっくりと味わって食べようという運動です。これはこのあいだワールドカップで優勝したイタリアが発祥の地です。日本にもこのスローフード運動というのが少しずつ定着しつつあります。
 同じようなことで地産地消・身土不二という言葉もあります。
 次にフードマイレージの提唱です。輸入食料というのは、輸入するために石油等のエネルギーを使って遠くから運んでくるわけです。そのエネルギーの環境に対する負荷を考えるとよくないんじゃないかという考え方です。そういうコンセプトで、フードマイレージということが言われています。マイレージは、航空会社でやっているサービスで、飛行機に乗れば乗るほど様々な特典がつくというのが知られていますが、ここでは、マイレージが多いほど環境を悪くするという考え方です。
 この負荷を数値化して見てみますと、韓国1,500億t/km、アメリカ1,400t/kmに対して日本5,000億t/kmですから、マイレージの溜め方では日本はチャンピオンということになるわけです。
 きょう皆さんに特に考えていただきたいのは自給率とは何なのかということです。
 これまでお話があったカロリーベースの食料自給率(オリジナルカロリー自給率)と言われるものの計算方法は簡単でして、国民1人1日当たり国産熱量÷供給熱量がオリジナルカロリー自給率です。

飼料と自給率
 供給側からいうと、今、皆さんは1日に2,562kcal取っています。これは供給ですから実際に口に入った量ではありません。実際に消費するのは大体2,100kcalぐらいだと言われていまして、供給というのは、国産と輸入もので輸出を除いた部分ということですから、そこにロスとか廃棄というのが入ります。そういうものも全部含んでいますが、1日に2,562kcalといわれています。そのうち国産のものが約1,000kcalですから、1,000÷2,500=40%というふうに計算されるのですが、ここで少し特殊な計算をしています。
 畜産物というのは、例えば牛肉では自給率が約3分の1ぐらいになっています。アメリカは今入っていませんが、オーストラリアが中心で、ニュージーランドなどからも入っています。他にもあまりよく知らない国からも入っていて、BSEが出ていないというのですが、BSEの検査を充分していないのではないかと心配する部分もあります。
 それはともかく、牛肉の場合は国産が3分の1というわけで、それを計算に入れると、国産熱量は266kcalということになります。ただ、畜産物は輸入飼料に頼っています。日本は飼料穀物としてトウモロコシ、コーリャン、大麦などをアメリカ、中国、オーストラリア等から輸入しています。その量は2,000万t以上です。おコメは年間800〜900万tぐらい消費しますから、その2倍から3倍ぐらいの量の穀物を海外から餌として輸入しているわけです。
 そういうものをカウントすると、200kcalというのは外国の餌によって生産された日本の国産畜産物であるということになって、ここは除外せよという厳密な計算をしているわけです。ですから、全くの純国産の餌で育った日本の家畜から取れた畜産物というのは、266−200ということで66kcalしかカウントできていないということになります。
 具体的に申しますと、卵の場合ですが、卵は自給率が95%です。生鮮食品ですからこれを海外から輸入するということはまずありません。もちろん一部、液卵とか粉卵という形で輸入することもありますが、ほぼ100%に近い部分は国産です。
 ところが、ニワトリの餌自体の自給率はわずか10.8%ですので、95%×10.8%で、カロリーベースですと、ニワトリの卵の自給率は10%ということになり、こういう形でカウントしているわけです。これはある意味では正しいかもしれません。ですから、餌の自給率を上げるということが全体の自給率をアップするということにつながるわけです。
 私が一番問題だと考えるのは、ひとつはカロリーで全部カウントしているので、カロリー以外の栄養というのは全部無視されているということです。畜産物をカロリーということを考えて食べてはいないと思います。もちろん「美味しいから」ということが第一でしょうが、栄養的には良質のタンパク質を摂るためとか、特に乳製品、牛乳などの場合は、日本人で唯一足らないカルシウムを摂取するためです。特にご婦人はお子さんを生むと骨からカルシウムが抜けていって骨粗鬆症になるという問題が指摘されていますが、若い子も摂取が少ない。
 我々もそれを一生懸命言っています。中学・高校・大学ぐらいになると、牛乳をあまり飲みません。うちの卒論でも牛乳消費調査をやっていますが、そのことが良くわかります。「牛乳に相談だ。」というキャンペーンを酪農家の方たちがお金を出してやっているのですが、それでもなかなか乳製品の需要は伸びません。−続く


第13回社会的企業研究会
「共済」制度改革をどうみるか―協同組合間協同における共済の役割―
鷲尾 悦也 全労済協会理事長



 小泉改革の名の下に、案外、知られていない事態の進行という状況がいくつか指摘できる。一つは、サラ金の「利率」問題、いわゆる「グレーゾン金利」問題である。この問題自体も問題なのだが、「消費者保護」の名の下に、NPOバンクなどの市民事業が潰されそうになっていることである。実はこの「共済」問題も、似たように「消費者保護」の名の下に、ワーカーズ共済など、小規模な事業が、同じ抑圧を受けている。その背景を鷲尾講演は克明にする。

T.新自由主義経済への流れと対応
1.経済システム動向とニュー・プアの誕生
 鷲尾と申します。私は、昭和38年に学校を卒業してから旧八幡製鉄に入社し、合併いたしました新日鉄の労働組合の専従をスタートに、いろいろな組合を転々といたしました。6年前に全労済という共済事業を行なっている団体の理事長を務めまして、それを退任いたしまして、今は全労済協会という全労済関連のシンクタンクにおります。
 共済事業を4年間やりまして、その後、研究機関ということで、協同組合事業、共済事業についての業務を行なう機関の理事長に就任してまだ半年でございます。きょうは試験をされるようなつもりでお喋りをするつもりでございます。
 最近の政府・自民党の考えている経済運営の考え方につきましては、私どもも大変危惧を感じているわけであります。いろいろな意見があるにもかかわらず、新自由主義経済システムという流れのほうへ滔々と流れているということについて危惧を感じている一人でございます。
 そうした中で経済システムが大きく変動しつつあるということをひしひしと感じながら、その中で“ニュー・プア”と呼ばれるような階層が固定化をしているということについての危機感を私自身も強く持っているわけであります。そうした方々の誕生を防止するという立場から、我々が新しい社会経済というものを構築していくためにはどういうことが必要であるかということについて、充分検討していかなければいけないだろうと思います。

2.公助・共助・自助の分担関係の崩壊
 よく公助・共助・自助というようなことを言っているわけでありますが、基本的には三つのお互いの助け合いの運動についての分担関係は、公助についての危機感、制度崩壊からいろいろご批判はありますけれど、まずまず戦後日本の体制の中では比較的うまく構築されつつあったのではないかと思うのです。
 その分担関係が相互に補完しあいながら、その時代時代の経済環境の中で、時にはどちらかに偏ることもありましたが、日本人の国民生活をある程度確保するためには、充分ではないにしろ、ある程度の役割は果たしてきているのではないかと思います。
 しかし、今、小泉総理はそんなことはないと言っていますが、非常に格差が広がっているという状況があります。そういう点から言いますと、公助・共助・自助の分担関係が崩壊してきた。特に共助システムは崩壊しつつあるということは言えます。最近の行政の規制に関する流れということから考えますと、大変問題のある方向性ではないかと考えております。
 共済陣営自体がそうした点について大きな危惧を持っています。しかしながら、社会一般では、学問の世界においても、運動の世界においても、十分な理論構築と反論ができ得てないようです。
 また、大衆的な感覚からいいましても、選挙戦においてあれほど小泉人気が爆発するということについては、そうしたものに関与した人たちが説明責任を果たしていないし、我々の中で議論を進めていない。あるいは、何が一番肝心な抑えどころであるかということについて合意ができていない。我々の陣営においても大変大きな責任があると思っています。
 私は40年間労働運動をやっていましたので、労働運動の側も、連合自体もそうしたものについての関心をいままで強く持っていなかったわけで、それについては私の責任も非常に大きいのですが、問題があったと思います。気が付いた以上は、ここにお集まりの皆さんのような方々と共に運動を構築しなおして、この点をなんとか防がなければ、かなり危機的な状況になっているのではないかと思います。
 つい最近の出来事で申しますと、公益法人の改正の問題もそうですし、共済規制の問題についても、保険法の改正の問題についても、どうも単なるイコールフッティング論でもって共済と保険を同じ体制にすべきじゃないかという考え方だけが声高に叫ばれているという状況については、かなり問題意識を持っています。
 何よりも公助・共助・自助の分担関係が崩壊をしてきているということについて、どういう分担関係を持つべきであるかということについて深く研究をしていかなければいけないだろうと思っています。
 とは申しましても、私たちもただ声高に公助に依存すべきであるということについては言うべきじゃないし、これは税の問題との関連というものを総合的に考えていかなくてはいけないということであります。公平なり共同というものをどういうふうに考えていくかということをベースにした上で、公助と共助のあり方、そして自助努力のあり方というものを合意をしていくということが必要なのではないかと思っています。
 ただ安易に税金を安くしろ、社会保障を手厚くしろということを言いましても、今の世の中では通用しないことでもありますし、私どもも長い間そういうことを一方的に声高に言い募ってきたグループの一人としての責任を感じているところでございます。みんなでその点は知恵を出し合う必要があるのではないかと思っているわけです。

3.共助システムの再構築
 その際に重要なことは、共助システムの再構築であります。共助システムは何とはなしに構築されてきたという長い歴史があります。これは逆に言うと、我々の先輩の敗北の歴史でもあったと考えてもいいと思います。例えば、これからお話を申し上げますように、私どもが拠って立っている共済事業も協同組合法の中で6番目か7番目にちょこっと書いてあるというだけなのです。
−続く 


東アジアからのメッセージ 日・韓・台から広げる女性のネットワーク
―連合女性委員会と[協同組合の価値と原則]―
生活クラブ連合会女性委員会 委員長 末吉 美帆子



 生活クラブ連合会には「連合女性委員会」という専門委員会がある。首都圏単協の理事長4名、連合理事4名で構成し、今年11月、埼玉・国立女性教育会館にて開催する第7回アジア3姉妹会議の準備を進めている。女性委員会のこの7年間の歩みについて末吉さんに語ってもらった。

出会いは98年、ICAアジア太平洋地域女性フォーラム
 98年、韓国ソウルにおいてICAアジア太平洋地域女性フォーラムが開催された。
 日本生協連合会は応援ツアーを企画しフォーラムに参加、生活クラブ連合会も、折戸会長を始めとした10名で通年の日韓スタディツアーを振替えてフォーラムに参加した。
 この時、会場まで来ていながら「国ではない」という理由で参加さえ拒否された台湾主婦連盟、そして韓国の女性民友会と、生活クラブ3者が出会い、3カ国で共催する初めての三者フォーラムを行った。そのことが翌99年の「3姉妹提携」そして第1回アジア3姉妹会議に続いていった。連合女性委員会が設置され、以降、ともに東アジアに位置し女性が組織する運動体として連帯を深めネットワークを広げることを目的として、台湾、韓国、日本各国を回りながら6回のアジア3姉妹会議を開催してきた。「エコフェミニズム」「アンペイドワーク」「コミュニティづくり」など多岐に渡るテーマの実践報告などの情報交換と議論を深めた。

生活クラブにも大きな喝
 99年からの台湾、韓国の2団体にとっては組織の急成長期にあたる。組織内の生協部門が法人化し数千人だった組合員数はそれぞれ1万人を越えて成長を続けた。しかし、増加する業務や、常勤と組合員の委任関係の整理、運動体としての悩みなど、生活クラブも経験してきた共通する課題もあり、互いの組織に学び影響を受け合っていった。
 かつ組織拡大の低迷期だった生活クラブにとっては、女性運動、環境、政治に広く強い関心をもち、臆せず社会運動を進める2カ国の姿は常に喝を与えてくれるものだった。

SARSが「私達が考える協同組合の価値と原則」を生んだ
 2003年、台湾ではSARS(重症急性呼吸器症候群)が発生し厳戒態勢がとられる事態となった。3カ国は韓国で代表者会議を開き、3姉妹会議の延期決定とともに、それぞれが「私達が考える協同組合の価値と原則」を作成していくことを決めた。言葉の違い、組織の違いによる誤解をなくし互いへの理解と議論をさらに深めるための提案であったが、このことは連合女性委員にとっても「協同組合運動によって何を目指すのか」「私にとって生活クラブの価値とは何か」を突き詰め問い直す作業の始まりだった。3カ国はそれぞれICAの協同組合原則を基盤にしながら「私達の価値と原則」を追求していったが、連合女性委員会はICA原則の読み込みと同時に、組合員活動の中の価値、原則を探すことに時間を費やした。組合員としての活動で自分自身が大切に感じる価値、組織として大切にしてきた原則を洗い出し、読書会やワークショップ、研修、わいわいフォーラムなど多くの方のご助言を得ながら「生産する消費者として消費材を生産者とともに創り続け、持続可能な社会的経済を構築する」という「社会的経済の創出」を加えた8つの原則をまとめていった。
 2004年の台湾での第5回3姉妹会議で3カ国の「私達が考える協同組合の価値と原則」の交換、翌年女性委員会は、さらに整理と推敲をした「私たちの協同組合の価値と原則2005」を決定した。「2005」には、今後も議論を深め変わり続けていきたい、という気持ちを表している。
 05年の韓国での第6回3姉妹会議では、ICA第2原則「組合員の民主的管理」の3か国の事例報告および意見交換を行った。−続く 


韓国協同組合訪問
韓国のワーカーズ・コレクティブ運動への期待〜交流ツアーに参加して
ワーカーズ・コレクティブ ネットワーク ジャパン(WNJ) 代表 藤木 千草



 生活クラブ連合会と韓国信用協同組合(信協)との定期協議に関連して、交流ツアーや視察が行われた。生活クラブと信協との付き合いは、韓国の民主化以前からのものである。そもそもかつてその政治状況ゆえに、「生協運動」も、「信協」の一部として、始まるより他なかったのである。しかし、交流の開始時期から比べると、両者を取り巻く環境は大きく変わったといえる。この機会に、ワーカーズコレクティブ・ネットワーク・ジャパン(WNJ)の藤木さんの実践報告が各地域で好評を博した。交流の様子を藤木さんにレポートしていただく。(編集部)

 生活クラブ連合会と韓国信用協同組合(信協)中央会の第18回定期協議会、及び原州(ウォンジュ)やソウル近郊の様々な生協との交流ツアーに、ワーカーズ・コレクティブの代表として同行させていただきました。行く前に、韓国の生協でもワーカーズ・コレクティブへの関心が高く、日本のワーカーズ・コレクティブについて発表する時間が設けられていると聞き、実際に組合員の皆さんと会うことができるのが楽しみでした。というのも、2005年3月25日にソウルの梨花女子大学で開催されたアジア太平洋女性環境会議(テーマは環境にやさしい経済における持続可能な消費と女性のリーダーシップ)で、環境に配慮した活動の1つとしてワーカーズ・コレクティブについて報告する機会がありましたが、その時は大学の研究者や各種機関代表の方が多く、実際にワーカーズ・コレクティブをやっている、あるいはやろうとしている方に会うことができなかったからです。
 第18回定期協議会はソウルから車で3時間ほどの大田(テジョン)にある信協中央会の高層ビルで行われ、その後また2時間半ほど車で移動し、韓国における協同組合運動推進の中心地である原州(ウォンジュ)に到着しました。原州では協同組合運動協議会が組織され、構成団体はパルグム信用協同組合・原州生協・尚志大学生協・原州医療生協・原州ハンサルリム生協・カトリック農民会・原州共同育児協同組合ソークプマダン保育園・原州自活貢献機関などです。お互いライバルとも言える生協がいくつか入って地域で協力し合う協議会をつくっているということに驚きましたが、80年代に協同組合運動が弾圧を受ける時代があり、その後新しい協同組合運動が沸き起こり、現在では農業保護や環境問題、貧富の差拡大、弱者救済などのために力をあわせる必要があるとの説明を聞き、日本よりも協同組合としての結束力がある背景がわかりました。この協議会は活動の活性化や組合員・女性の参加を増やすことなど10項目の事業課題を掲げていますが、その中の一つに「新規協同組合設立支援」があり、これがまさにワーカーズ・コレクティブを増やしていくことだということでした。

原州での取り組み
●原州生協と原州ハンサルリム生協の店舗
 どちらも職員と熱心な組合員のボランティアで運営しているとのことで、ワーカーズ・コレクティブに委託するという状態にはなっていません。しかし、ハンサルリム生協の理事長はワーカーズ・コレクティブを作ることについて検討中であり、具体的な職種として弁当・惣菜製造をあげていました。
●ソークプマダン保育園
 新しい園舎ができたばかりで、親が400万ウォン(約50万円)ずつ出資し、親・先生・社会が共に子育てをするという理念で経営されています。子どもの意識をオープンにするために開放的な間取りとし、環境に配慮した建材で建てたとのことでした。3〜4歳が5人、5歳が8人、6〜7歳が12人合計25人の子どもたちを預かっています。そこで働く人が出資しているわけではないのでワーカーズ・コレクティブではありませんが、協同組合の保育園であり、とても身近に感じました。
●原州医療生協
 ワーカーズ・コレクティブの活性化を活動目標にあげています。付設機関である「在家ケア事業団」がワーカーズ・コレクティブ的に、高齢者の家を訪問して看護や家事援助、話し相手をするケアをおこなっています。また「モッサルリム」という教育文化ワーカーズがあり、子どもの文化活動企画・機関誌や出版物の作成・低所得層の子どものための塾・農村地域や高齢者のための文化公演企画などをしています。歓迎会の時にモッサルリムのメンバーと会うことができました。モッサルリムというのは「おしゃれに生かす」という意味で、設立して2年、メンバーは10人。文化・印刷・教育の3つの部門に分かれています。代表のクォンさんは、印刷部門で医療生協の機関紙をコンピューターでデザインして作成しているそうです。私と同じ職種でもあり、もっと話す時間があればと思いましたが、韓国でも男性の家事育児への参加が少なく、自分たちが仕事をすることにも理解が足りないという言葉が印象に残りました。韓国の出生率は日本より低く、女性が働くことの課題は同じです。ただ、驚いたのは、ワーカーズメンバーに対して失業対策の一環として国から支援金が、毎月ひとりに70万ウォン(約8万7千円)出ているというのです。3年が限度なので、あと1年でなくなるのでそれまでに自立しなければとちょっと不安そうでした。−続く 



<ネット・統一地方選挙>地域から市民政治の巻き返し
<お話>東京・生活者ネットワーク事務局長 中村 映子
<聞き手>  編 集 部


<編集部> 来年4月統一地方選挙が迫ってきました。首都圏の都県ネットを中心に情勢や課題について、伺っていきたいと考えています。
 まずは、東京のネットです。今日は、東京ネットの中村映子さんです。よろしく願います。
 まず、情勢をどうみるか伺います。

小泉政治と市民政治
<中村> この秋の自民党総裁選で、ようやく小泉内閣が終わりになります。「自民党をぶち壊す」といって登場し、様々なサプライズを駆使して、一定の高い支持率を維持してきました。郵政改革をはじめとして「新自由主義」的政策は、浸透したようにも見えます。
 今、圧倒的に安倍官房長官の支持が高いという状況で、自民党の基本的な路線はそう大きくかわらないのではないでしょうか。一方、民主党も小沢体制に大きな変化が出るようには思えません。
 改革を標榜した小泉政治ですが、市民政治・市民社会という概念が欠如しています。
 ネットが描く豊かな市民社会・市民活動セクターの強化と分権政策やこども政策など、現行の自民党政治のもとでは、実現しえないわけで、「政権交代」は必要だと思います。「新自由主義」の施策は、安倍首相の下でも、変わりなく進められると思いますが、小泉政治の下で行われた施策の実害を実感できえていません。実際、格差はどんどん固定化されていると思えます。とりわけ、若者にはその矛盾が集まっているのですが、逆に「流されている」という感じです。むしろ選挙の票でいえば、この若者の層に一定程度の「小泉支持」層が存在する。この層に鮮明に具体的な何かを伝えることができれば、逆転の可能性は十分にあると思うのです。自民党に対して国政野党が「拮抗」して欲しいという願望はあります。私たちは、そういう意味で「野党連合」を提唱できうる位置にいるかもしれませんが、いかんせん力不足です。

<編集部> ローカルパーテイの立場から、小泉内閣の分権政策については、どのように評価していますか。

<中村> 2001年の分権一括法以来、自治体の意識は確かに変わってきたと思う。小泉内閣の誕生とともに、三位一体改革として分権の具体策が華々しく打ち出されたが、結局、省庁の官僚の抵抗の前に、財源の委譲は進まず、中途半端に終わってしまった。最近、全国知事会が、再び「分権推進法」を提起しているようですが、自治体職員の側から見れば、実態として分権が進んでいないと思うのも当然です。上からの分権改革しかできないんですよね。結局。

<編集部> 分権について「民主党」は、自民党との違いを見せられますでしょうか。

<中村> やはり自民党が、分権を本格的にできないのは、政・官・業の利権の複合関係があるわけですから、いわば、口利き型の政党構造ではなく、あるべき姿を示すことで、争点を鮮明にしていけば、違いが明らかになり、基本的には拮抗しているので、チャンスはあるのではないでしょうか。
 しかし、一方で「政党の枠組み」だけで片付けられない、政治の動きや内容といったものがあります。全国知事会は、その地位が「法定化」させられたという以上に、その動きが政治的な意味を持ってきたように思います。
 滋賀県知事選挙も、こうした底流でつながっているのではないでしょうか。長野県の田中知事、そして、国立市もそうした「政党の枠組み」を超えた政治を求める流れだったと思うのですが、その後は厳しい議会との対立構造が明確になっています。市民にとっては、どうかという側面がありますが、政党政治はなくならないにしても、「政党の枠組みでない」政治がひろがり、市民に鮮明な争点を出していくと、「政治が動く」ということが十分あると思います。−続く 


<書評>
松下圭一著『現代政治*発想と回想』
(法政大学出版局、2006年)

法政大学大学院博士後期課程 栗原 利美


 本書はタイトルが示すように、著名な政治学者である松下圭一(法政大学名誉教授)が、「日本における戦後の政治学ないしひろく社会理論のあり方、ついでその生産性・実効性をめぐって」、著者自身の発想・回想を述べたものである(187頁)。戦後いち早く政治学の脆弱さを指摘し、政治学はなによりもまず「現実科学」たることを要求されていると論じたのは、政治学者丸山眞男であったが(「科学としての政治学」[1947年]、『丸山眞男集 第3巻』所収)、この課題に対する著者なりの答えのひとつが、本書であるように思われてならない。
 本書は、「1 現代政治と私の考え方」、「2 公共政策づくりにとりくむ」、「3 自治体再構築の起点」、「4 市民立憲からの憲法理論」の4部から構成されているが、この書評では、新稿でありまた本書の主要な部分を占めている「第1論考」を中心にとりあげることとする。あわせて私自身も著者の指導を受けて育った人間であるから、私なりの「回想」を交えつつ筆をとることをご容赦いただきたい。
 なお、本書の大きなセールスポイントとして、巻末に「松下圭一著述目録」がついている。著者の旺盛な著作活動には改めて感心させられる。昭和、平成の歴史とともに、著者のこれまでの著作活動について思いを馳せる大変よい機会になるのはないかと考える。

1 著者と自己の政治学研究とのかかわり
 本書の「第1論考」を読むと、私自身が著者から受けた理論的影響力の大きさを改めて感じる。著者と私の政治学研究とのかかわりは、私が学部学生の時に『シビル・ミニマムの思想』(東京大学出版会、1965年)および『現代政治学』(東京大学出版会、1968年)を読んだことに始まる。「シビル・ミニマム」という言葉に大変魅力を感じ、これを最初に自治体レベルで政策公準として導入した当時の「美濃部革新都政」にかなりの憧れを抱いたのは事実である。その後私が大学を卒業した年の9月に出版された『市民自治の憲法理論』(岩波新書、1975年)は、従来の憲法理論を根底から覆すものであり、この本を読んだ時の衝撃は今でも忘れることはできない。1977年に法政大学大学院に公開講座「都市政策研究セミナー」が設立され(著者は設立発起人の1人)、著者の話を直接聴く機会を得た。そこでどうしても大学院で勉強したくなり、翌年法政大学大学院(社会学専攻)入学し、その翌年、著者の演習に出席する機会を得た。演習のタイトルは「都市政策」であったが、内容は、ジュヴネルの『権力』(1945年)の英訳版(原書は仏語)を読むことであった。この演習で、著者の博学ぶりに驚嘆するとともに、直接聴く話はすこぶる内容の濃いもので、ものすごく迫力を感じた。特に「権力をいかにしてコントロールするかが重要なのである。」ということを徹底的に教えられた。
 大学院を修了してからは、著者が講師の岩波市民セミナー(1985年実施)に参加し(セミナーの内容は、1987年に『ロック「市民政府論」を読む』として出版された。)、また様々な著作を通じて著者の考え方を学んだ。1998年に法政大学大学院に政策研究の夜間大学院が設置された機会に再び著者の指導を受けたくなり、第1期生として入学し、著者の指導の下に修士論文をまとめることができた。同時に、『政策型思考と政治』(東京大学出版会、1991年)をテキストにした著者の講義を聴き、『政治・行政の考え方』(岩波新書、1998年)および『自治体は変わるか』(岩波新書、1999年)をテキストにした演習に参加できたことは非常に有意義であった。著者が2000年3月に法政大学を停年で退職した後も、有志と企画し、前掲の『ロック「市民政府論」を読む』を数回にわたって直接講義してもらうという貴重な経験もした。また、折に触れて著者の講義を聴く機会があり、それぞれの機会が自分にとって大きな刺激となってきた。
 今回著者が本書を出版されたことは、著者の理論を歴史的かつ体系的に把握するのによい機会であるとともに、自己の政治理論研究の歩みを検証する意味でも大変貴重なことであると考える。−続く 


<書評>
『戦後精神の光芒』丸山眞男と藤田省三を読むために (飯田泰三/みすず書房 2006)
素人が丸山眞男を読む
参加システム研究所 小塚 尚男


 すでに本誌316号(2006年7月15日発行)で本書『戦後精神の光芒』は川上徹氏によって書評されている。同じ本の書評を2度もするのは、<書評欄>の少ない本誌にとって異例である。あえて私に書くことを要請して止まなかったのは本誌米倉編集長である。それは、本書への米倉氏の拘りがあるのと、316号の川上氏の書評が本書の<第三部>藤田省三に限定して書評を依頼したためであろう。丸山眞男の部分がない。これでは確かに本書の半分でしかない。そこで私に白羽の矢が立ったのであろう。しかし、私は川上氏のように藤田省三を<食い齧り>的に読み、自らの思想的転機としたような凄さはないし、全くの素人として丸山眞男を少し、しかも時々齧ったに過ぎない。ただ、本誌293号(2004年8月15日発行)で「丸山眞男と『戦後民主主義』・<市民>」を飯田泰三氏に私が<聞き手>を勤めた文章が、本書のU部丸山眞男の冒頭に掲載されており、いわば丸山眞男案内的役割を果たしている。私にとって過大な扱いであり、名誉なことと恐縮しているが、以下素人の書評でない書評をしてみる。

蓮華窓の弟子
 筑紫哲也が「蓮華窓の弟子」を書いている(丸山眞男集第8巻月報6)。どうも言ったのは安東仁兵衛のようだが、弟子には三種類あり、先生の道場に住み込みを許され直伝の弟子、そこまでは行かぬが入門を許される通いの弟子、そのどちらでもなく、道場の蓮華窓からなかをのぞき込んでは盗み聞きをする、師匠のあずかり知らぬもぐりの無免許の弟子、として勝手に「蓮華窓の弟子」を自称するようになったとのこと。そしてその弟子の面々は、組頭兼幹事役、安東仁兵衛(『現代の理論』社長兼編集長)・松山幸雄(朝日新聞社論説主幹)・富森叡児(同東京編集局長)・石川真澄(同編集委員)・岩見隆夫(毎日新聞社編集委員)・堤清二(セゾン・コーポレーション会長)、〔肩書きはいずれも当時(1975年頃)のもの〕。そして当の筑紫哲也である。この情景を想像すると、この錚錚たる「蓮華窓の弟子」たちを見て、「凄いもんだ」と遠巻きにしているのが私などである。
 そうしてみると、本著者飯田泰三氏は違う。丸山道場の直伝の弟子、さしずめ師範代ともいえよう。その師範代の書き上げた本書は、大冊にして、丁寧な丸山眞男と藤田省三の思想的案内の書となっている。ご本人は「私は最近、みずから『解題屋』を自称している(それは、かならずしも自嘲ではない)」。(本書「あとがき」)と述べているが、まさに一流の解題である。本書は「Tもう一つの『戦前』」、として内田百聞、下中弥三郎、岩波茂雄、古在由重、中村哲、戸谷敏之について書いているが、これはU、V部への導入部となっており、そして、U丸山眞男、V藤田省三といった構成になっている。氏にとって丸山は師匠であるが、藤田は先輩であるとともに、丸山道場で言えば、さしずめ兄弟子の師範とも言うべき存在となる。V藤田省三は本誌の川上徹氏の書評にあるように「丁寧にかつ誠実に記している」。そして、U丸山眞男だが、凄いと思った。ご本人が全部の講義を欠かさず聞いたと言う講座をはじめ、その講義ノートの構想の大きさと緻密さに驚かされた。まず1948年から日本のナショナリズムをテーマとした「東洋政治思想史」のノート、64年から67年の4年間の連続講座「日本政治思想史」の各年ごとのノートは、聖徳太子の十七条憲法から江戸から明治以降まで論じる中で、武士のエートス、忠誠と反逆、親鸞を中心とした鎌倉仏教論の位置を、後の「古層」論の謂わば橋渡し的な存在として捉えている。以上のことが、ノートを軸に詳細かつ正確に展開されているのが、本書の特徴となっている。−続く

<アソシエーション・ミニフォーラム>栃木
自治体選挙と食品安全条例直接請求運動
街づくり市民ネットとちぎ代表 大石 千絵



 栃木の生活クラブ設立以来の念願が叶い、この春新築なった宇都宮センターに於いて2006年9月4日「くらしの問題解決ミニフォーラム」と題して学習会が開かれました。
 街づくり市民ネットとちぎは99年、03年の2回宇都宮市議選に挑戦しましたが残念ながら落選、代理人がいないまま現在に至っており、来春の統一地方選への挑戦はどうするか悩んでいる最中です。また生活クラブ生協栃木では中期計画で代理人運動について学習しようという計画を立てていましたので、生活クラブ生協栃木と街づくり市民ネットとちぎの共催という形で開催しました。
 市民セクター政策機構専務理事の米倉克良さんを講師にお招きし、代理人運動についてその初期のお話を聞き、今後の運動に生かしていこうというものです。
 学習会は、「自治体選挙と食品安全条例の直接請求の経験〜1000人の一歩と10人の100歩」と題して、1989年に東京で行われた「食品安全条例」制定を求める直接請求運動を中心にすすめられました。
 まず、政治が生活の道具であることの再確認から始まりました。生活クラブ生協に加入して共同購入することは生活における種々の生活課題の解決〜食の安全や食品包材の減量、ビンのリユースなどにつながります。しかし、それだけでは解決できない問題に対する解決法として、また私たちだけが安全でいいのだろうかという疑問を解決する手法として政治があるのです。
 しかし、食の安全を代理人にさえも任せず自分たちで関わる仕組みを作ろうというのが直接請求運動でした。それがどれだけ大変なものか。例えば自筆署名だけでなく生年月日や押印も必要であり、一人ひとりに時間をかけてていねいに説明しないと必要事項をもれなく埋めてもらえない事、また条例案そのものを作って提案するので弁護士などの専門家の協力が不可欠だったなどの話がありました。
 生活クラブ生協、生活者ネットワーク、地域の市民団体、労働組合、他の生協などの協力で55万筆もの署名を集めましたが、結果的には議会で否決されてしまいました。議会の中の数の論理というものに勝てなかったのです。しかし、これが契機となり食品行政が強化され、2004年3月、15年を経て待望の食品安全条例が制定されました。
 そんなに手間のかかる活動を成し遂げたという事も私たちにとっては驚きでしたが、その活動にいろいろな専門家や組織が一緒になって大きな力を発揮したという事もすごいと感心させられました。
 また米倉さんに同行された市民セクター政策機構理事長の澤口隆志さんは、この春まで神奈川県内の生活クラブ組合員とともに活動してきた現場の様子を「その地域ならではの生活課題の掘り下げを丁寧にやりました」と話してくれました。
 栃木では生活クラブ全体で関わっている課題以外の地域の課題についてはあまり話し合う機会がなく、参加者の理事から「どういう場でそのような話し合いをしたのですか」という質問が出ました。「時間はあまりありませんでしたが、ブロック単協の理事会や、生活クラブ神を川と5つの法人生協に分ける際の地域生協設立準備会などでどんな生活課題、地域課題を解決するために地域生協を創るのか?を話し合いました」との事。「組合員活動もネットワーク運動も直接会って話をすることが一番大事な活動です。」との言葉に、それぞれの立場で気持ちを新たにしたようです。
 また、24年前に県外から引っ越してきて学校給食に関する活動や栃木での生活クラブを始めた初代の栃木理事長は「保守王国と言われている栃木では、未だに宇都宮市議会は請願署名を嫌い陳情しか受けない、提出したのがどんな団体か調べる事から始めるという土地柄です。街づくり市民ネットとちぎを2000年11月に立ち上げ、翌年より宇都宮市に予算に関する要望書を提出し、各部署に内容説明に回り、回答を要求する事から少しずつ理解されてきているかとも思いますが、他市などではどのように働きかけていますか?」という質問に「目に見える課題があればやりやすいように感じられますが、それぞれの所でその足元をみると“ごみ”“福祉”“教育”などの問題はあると思うし、住んでいる地域の課題はそれぞれ違うので一概には言えない。どんな問題をどんなスタンスで自冶体は執行しているか、どんな課題を認識しているか、そして何が足りないのか?をまず見ることです。」との答えでした。
 現在、黒磯米の生産者「どてはら会」と生活クラブ栃木が一緒に、皇族が那須御用邸に訪れる際テレビに映る那須塩原駅前に「遺伝子組み換え作物フリーゾーン(作らない地域)」の大きな看板を設置する計画が進行中です。黒磯米を年間登録している栃木・東京の生活クラブ組合員のカンパを集めますが、大看板の費用以上に集まれば生産者の各圃場にも順次看板を立てる予定です。
 足元の、生産県ならではの遺伝子組み換えという問題。すでに協力体制にある両者の活動に、他の生産者や団体、政党なども巻き込んで大きな運動になっていきそうな予感を感じています。
 「栃木には生産者がいていいですね」と言われ、身近に一緒に活動している仲間がいたのだと気がつき、目からウロコが落ちる思いでした。


雑記帖 米倉 克良

 安倍政権が誕生して、小泉政権の幕が閉じた。新しい政権がどのような舵取りを示すのか、注目されるが、そのためにも、この小泉政権のこれまで成した事の分析は必要である。
 「分権改革」は、「三位一体」というフレーズとは別に、小泉本人の思い入れは、さほどでもなかったようだが、結果として争点となった。その「功罪」は様々に論じられる。
 この間の分権改革を総括して、シンクタンク自治総研の辻山氏は、「統制された分権」と評価した。その意味するところは、分権は確かに進んだが、「官僚」のコントロールは、しっかり残っているし、そのコントロールの範囲内だったということだ。氏によれば、自治体関係者にもこの間の「分権改革」については、かなり評判が悪い。本来リンクされなくてもいい財務省主導の「補助金削減」ばかりでなく、交付税にも手がつけられた。「分権改革のためには税財源の委譲は必要」との共通認識はあったが、結局、財源問題では「東京一人勝ち」となった。東京には、高額納税の企業が集まるのだから、「税源委譲すればするほど東京に集中する」という。
 確かに、この間の「格差拡大」は、個人ばかりでなく、「地域格差の拡大」でもあった。この地域格差は、単純ではない。「東京とその他地域」だけではなく、「東京の内部どおし」でもあり「県庁所在地とその他近隣地域」など複合的なのである。この間の分権は、ある意味で「競争型」であった。むろん先駆的施策をめぐる「競争」はありえよう。しかし、視点として税財源をめぐって「連帯型」あるいは「協調型」が考えられないか。これがないと、安倍政権の「暴走」を本質的に抑止できないのではないか。

市民セクター政策機構 〒156-0044 東京都世田谷区赤堤4-1-6赤堤館3F
e-mail:civil@prics.net tel:03-3325-7861 fax:03-3325-7955

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