月刊『社会運動』 No.324 2007.3.15


目次

第21回社会経済セミナー報告B かわさき生活クラブの組織論・運動論―参加・分権・自治・地域 半澤彰浩‥‥2
協同組合研究 協同組合の本質的な理解を助けるための一試論 万木孝雄‥‥16
協同組合法制化検討プロジェクト特別寄稿 フラット化する時代の新しい協同組合 石見 尚‥‥28
<ネット・統一地方選>E
 時代をつくる選択を 北海道―生活者の政治を全面にかかげて 高橋英子‥‥35
 つくば―「まち」づくりはネット 永井悦子‥‥38
 ふくおか―キーワードは「議会改革!」 小宮文子‥‥39
 熊本市にネット誕生・はじめての選挙 梅田玲子‥‥40
議員特権ワーストコンテスト 杉山典子‥‥42
どうなっているの?こどもたちのからだ 健康と環境に関する調査(母親世代) 坂下 栄‥‥43
アソシエーション研究 賀川豊彦・震災・コミュニティのこと 増田大成‥‥52
緊急よびかけ『アジア・コメ市民行動週間』 日本のコメ文化を、アジアに、そして世界に向けて発信しよう‥‥60
アジアの消費者運動のリーダー/アンワ・ファザール氏に聞く 自分にできる小さなことが大きな変化をもたらす 清水亮子‥‥62
<書評>
 地域と環境が蘇る『水田再生』 今野 聰‥‥64
 ポストグローバル社会の可能性 粕谷信次‥‥66
雑記帖 細谷正子‥‥68


表紙からのメッセージ 写真家・桑原 史成
この2月18日、雨の東京で国内最大級のマラソンが開催された。知名度のある選手や大会記録を狙う内外の選手を除いて、その他の走者は一般の市民である。その参加者は3万人余と報道され、うち2万9852人が完走したとされる。
 新宿の都庁前から品川や浅草雷門を折り返して銀座を経由し東京ビッグサイトに至る、この「東京マラソン」は初回の企画であったが、一先ず成功裡に終了したようである。都心の目抜き通りを7時間もまるで貸切っての“大競演”には、男子で最高齢85歳と女子79歳の方が走ったようでなんともたのもしい。走行の距離や時間にとらわれなければ、長距離走行はチームプレーでないため、マイペースで楽しめるスポーツといえる。
 都庁前でのスタート時間に間にあうように撮影に訪れたが、雨の降りしきる肌寒い天候の中でご苦労なことだと実感したものだ。風雨の中で体感は氷点下の温度に感じられたことであろう。それでも自分の体力とゴールを目指しての4時間、5時間は健康の証しであったものと称えたい。


第21回社会経済セミナー報告B
生活クラブ神奈川の組織論・運動論としての参加・分権・自治・地域
〜かわさき生活クラブの実践から〜

かわさき生活クラブ生協 専務理事 半澤 彰浩


 今、世はあげて、自治体も生協も農協も企業も「合併」による大規模化に生き残りをかけています。このような中で、2004年4月1日、神奈川において、横浜北、横浜みなみ、かわさき、湘南、さがみの5つの独立した生活クラブ地域生協法人がスタートしました。1992年の「ブロック単協化」以来、数えて12年間の試行錯誤と組合員討議などのアプローチを経ての誕生でした。7万人の神奈川の組合員が、何故、何のために、何を実現するために、自分たちはわざわざ地域に自分たちの新たな生活クラブ生協を設立するのか?を話し合い、確認し合い、加入用紙をあらためて書き、出資金を拠出し合っての、5つの新たな地域生協の設立でした。それは、21世紀においても、地域における参加・分権・自治にこそ市民の問題解決力と生活クラブそして協同組合の可能性と力の源泉を求めるための実践です。そして、組合員とワーカーズコレクティブ(W.Co)と職員が共に主人公として創る生活クラブをめざすチャレンジでもあります。その組合員たちの熱い思いと活動が一杯に伝わってくる、かわさき生活クラブ生協専務理事半沢彰浩氏の講演全文を掲載します。(編集部)

1.生活クラブ神奈川の分権化の歴史とかわさき生活クラブの設立
 とても立派なタイトルですが、理事長の澤口さんからはめられました。今日はかわさき生活クラブで実践していることを中心にお話ししたいと思います。
 資料の最初に「神奈川の単協化の経過」と書いてあります。生活クラブ神奈川は1971年に「みどり生協」として設立され、三十数年の間にいろいろな活動をやってきました。振り返ってみると、言うなればより小さな単位に、あるいはより専門の単位に分権化をしてきた30年だと言えるかと思います。
 私は職員になって24年目になります。神奈川でデポーがスタートするときに入職しまして、すすきのデポーがちょうどスタートするときでした。また神奈川で初めて代理人を出すときでもありました。神奈川では「デポー・W.Co・代理人」という新三角垂体を方針として打ち出した時です。
 5つの地域生協が2004年に発足してまだ3年目しか迎えていませんが、その前のところを少しご説明しますと、1991年にコミュニティクラブ生協が設立されています。神奈川で班別予約共同購入だけでなく、新たなもうひとつの大きな班としてのデポーが82年にスタートし91年に単協として独立しました。
 また、それまではブロック制を敷いていたわけですが、92年に神奈川県下を11のブロック生協に分け、それぞれブロック生協を設立して活動してきたという経過があります。
 そういう歴史の中で生活クラブ生協は、2000年以降に、これまで組合員の参加、あるいは組合員の自主運営・自主管理の一つのしくみとして、行政区に支部というものを形成して支部委員会制度を実践していました。班長さんがいて、支部大会で班1票の議決で大会決定して運営委員を選出し、班長の集まりとしての「地区」を形成し組織を運営していくということをやっていたわけですが、その支部委員会制度を、戸別配送の展開の広がりと併せて、もう一度一人一人の組合員が参加をするというしくみに変えようということで、組織を改革して、今、自治の基本単位はコモンズとデポーという形になっています。
 コモンズという言葉はいろいろな意味がありますが、行政区や自治体を中心として組合員が自分たちで自治する単位として共有していく組
織ということで新たな自主運営・自主管理の基本組織として発足しました。
 現在、生活クラブ神奈川・地域生協合わせて約7万人の組合員がいますが、2000年にコミュニティクラブ生協と統合して2年前に5つの地域生協ができました。かわさきは川崎市一つですが、横浜北・横浜みなみ・湘南・さがみという5つの地域生協ができて、それぞれ1万人から1万7000人ぐらいの組織になっています。
 かわさき生活クラブは5つの地域生協の中で組合員数と供給高ではビリから2番です。経営的な自立を常にめざしていますから常に他生協との関係を意識しています。ビリから2番のかわさきことをここでお話しするのはおこがましいですし、今日ご参加いただいている横浜北の藤村理事長のお顔などを見ていると、私が言うことに「違う」とか言われそうです。(笑)
 ともかく5つの地域生協が設立され、この2年間、試行錯誤してきたということです。いろいろ試行錯誤でぐちゃぐちゃしている状況の中で、成果というのはなかなか申し上げづらいのですが、この間何を目指して、何をやってきたかということを、もうすこし掘り下げてお話ししたいと思います。−続く


今協同組合論研究
協同組合の本質的な理解を助けるための一試論
万木 孝雄(東京大学助教授)



 大学に「協同組合論の講座があるのか?」という問いかけに、様々な想いから、どうしても唸ってしまうことが避けられない。日本に「協同組合学会」があるが、どうしても「高齢化」の傾向だ。こうした学会状況は、日本における「協同組合のポジション」を端的にあらわしている。この中で、農業経済学の専門ではあるが、「協同組合」の講座を東大に持っている若手の研究者と出会うことができた。(編集部)

 今日は、私が所属する大学で学部の3・4年生向けに行っています「協同組合論」という講義の中で、協同組合の本質的な理解に関する部分について、お話をさせていただきます。私が独自に解釈しているような箇所もございますので、内容につきましてはそのまま鵜呑みにはされないような姿勢で聞いて下さればと思います。よろしくお願いいたします。
 私は、農業経済を専門としていまして、経済学の中でもおもに近代経済学という市場の原理を重視する立場に立っています。それに、会計学や経営組織論などの学問分野の考え方も援用しまして、協同組合はあくまで経済的な事業を行う組織形態の一類型として捉えて、研究を行っています。本日のお話の切り出しは、株式会社やNPOと比較した場合の協同組合の強みとは何か、あるいは不利な点とは何かということから始めたいと思います。

様々な組織の中での協同組合という形態
 そもそも協同組合というのは、人が共同で集まって作る様々な組織の中の一つだと考えられるのですが、そのような形態の選択肢として、どのような場合に株式会社が選ばれるのか、あるいは協同組合の方が適しているのか、ということがあります。人間の組織というのは、1人で行うよりも2人、3人、10人と複数で集まった方がメリットが出る場合が多いために組織が結成されます。実際に大きなメリットが発生するのですが、逆の面では色々と面倒なことが起きてきます。例えば、組織を円滑に維持するためには、ルールだとか規約といったものを作成してそれを守っていく必要がありますし、あるいは組織の人々の間で発生するしがらみやあつれきといったものを克服することも必要になります。それらを少し、経済学的に考えてみればどういうことなのかをお話していきます。
 協同組合の定義には色々なものがありますが、荷見武敬氏による学説史の整理によりますと、「協同組合というのは(市場経済における)経済的な弱者が共通の経済的なメリットを追求するために作られる組織である」というものが一般的な定義であると説明されています(注1)。私もその考え方を支持しています。もう少し私なりの言葉で詳しく書き直しますと、協同組合とは「市場競争において弱者であると考えられる人達が、自らの求める経済的な事業を利用するために少額の資本を出し合って形成する組織の一つの形態であり、その構成員には組織の所有、経営および利用の一致が求められると共に、運営においては1人1票の原則が採用されている組織である」と、記しておきたいと思います。経済的な事業を行う訳ですから、事業を行わないものは協同組合には入らないという、これは厳密で狭い定義にはなりますが、今日はそのような定義に従った上でお話を進めていきます。
 組織には、テニスのサークルであるとか、旅行の親睦会であるとか、学校の同窓会など、様々な種類があります。最近の2002年に中間法人法という新しい法律が施行されまして、実はそういうクラブであるとか、同窓会や愛好会といった組織も法人の資格を取れるようになったのですが、そのような「楽しみ」のために集まる組織というのは、一般的には協同組合にはなれません。そのような社会的な組織も、広い意味では「協同的な組織」に含まれるのでしょうが、先ほどの定義によれば、「協同組合」というのはあくまでも「経済的な事業」を行うために作られた組織ということになります。ただし、教育、福祉、地域振興などのように、その線引きが難しい事業もあります。そこで、NPOなどの組織には非営利の「活動」を行うことが認められているとしても、協同組合の場合にはあくまで「経済的な事業」を行うということで、区分は可能であると考える訳です。またその一方で、個人が所有する土地や資産・資本などを持ち寄って、構成員がその中で働くような生産協同組合や共同農場といった組織も、やはり先の定義に従いますと協同組合には含まれないことになります。
 協同組合という仕組みは、19世紀中頃のイギリスのロッチデールという小都市における工場労働者や、あるいはドイツのライファイゼンやシュルツェといった農村部や地方都市の指導者達が試行錯誤しながら、徐々に形成されていきました。当時の西欧は資本主義が進展して市場競争が激しくなっていく時代であり、その中で資本を持たない弱者が資本主義経済の荒波になんとか対抗しようとして生まれた組織が、ロッチデールであり、ライファイゼンであり、シュルツェと言われる、それぞれ消費生活協同組合、複数事業兼営型の農村協同組合、そして信用事業単営の信用組合や信用金庫の前身であったと捉えられます。
−続く 


グ協同組合法制化検討プロジェクト特別寄稿
フラット化する時代の新しい協同組合 ―日本協同組合同盟からの再出発―

石見 尚 日本ルネッサンス研究所



 今回、協同組合法制化検討プロジェクトの発足にあたって、かつて協同組合法制度の課題を議論したときにお世話になった石見尚先生にも再度お世話になった。石見先生は、生活クラブ運動のメッセージを世界に発信する上で多大に貢献された。本稿は、歴史と現状を踏まえた上での基本的な考え方を書き下ろしていただいたものである。(編集部)

1.何が問題か
 第二世代の協同組合の終焉に乱打の警鐘を打ち鳴らしてから、長い年月が経過した。
第二世代型とは何か、もう一度要点を述べよう。
 協同組合の第二世代とは、近代産業資本主義時代の大量生産・大量流通・大量消費に対応して、大規模・画一化によってコストの合理化をはかり、組合員により安い商品を供給することを協同組合の使命とし、その目的に沿った管理システムを採る協同組合のタイプのことである。合理化のために、単協の合併や連合会の形成など、統合と集中の戦略がとられる。
 念のために申し添えると、協同組合の世代論は、倫理的評価を基準として、その運動や事業の功罪を論議するのではなく、社会のパラダイムの変遷のなかでの協同組合の展開過程を、社会科学的に分析しようとするものである。
 私の見解では、第二世代型の有効性は、おそくとも1970年代半ばには終わっている。それ以後は、日本の協同組合の多くは、第三世代型を経て、とくに2000年以降は第四世代型に移行するシステム転換(官庁用語で言えば制度改正あるいは法整備)の道をとるべきであった。
 しかし、そのための発議は、既成の各種の第二世代型協同組合からは皆無であったし、またそれらの所管官庁からの提案もなかった。他方、現実の協同組合運動では、事実、第三、第四世代型の誕生やそれへ転換が、80年代以降に現実の姿となって現れ始めたし、それらは時代の要請にこたえて、活発な活動を展開している(拙著『第三世代の協同組合論』(1988)、『第四世代の協同組合論』(論創社、2002)参照)。
 グローバル化する世界のなかで、21世紀の構想すべき第四、第五世代協同組合の原理について、これらは関連する事項であるが、特記すべき要点を列挙しよう。
@農協、生協、中小企業協同組合など産業分類による職能別ないし業態別の縦割り組合形態を、人間のニーズを充たす機能別の水平の組合様式に変える。即ち働くこと、食べること、住むこと、健康に暮らすこと、危険に備えること、財産管理をすること、学習すること、文化的な余暇をもつこと、良い環境・地域社会などをもつことを協同して充たすように、ニーズ対応のわかりやすい機能別組合の種類に変える。
A前記の趣旨に基づけば、組合員のカテゴリーは、正組合員、准組合員の別はなくなり、組合員、従事組合員、利用組合員となる。これにともなって、組合員資格が個人とともに法人にも与えられる。また組合の機関すなわち総会、理事会、常任理事会などの構成も変化し、透明性の確保のための監査方式も変る。
B協同組合が自ら行う公益的事業の範囲を明確にし、また公共団体・機関とのパートナー契約も必要になる、その内容の公開制を規定しなければならない。
C国境を越える協同組合の組織化の規定を設ける。モンドラゴン工業協同組合は、2004年現在、発展途上国に60支部をもち、9000人の雇用を創出している。そのため、モンドラゴン・コオペラティブ・コーポレーション(MCC)に名称を変更している。近い将来、国際間協同の必要が予想されるのは、廃棄物の安全処理・流通を定めたバーゼル条約の障壁を越える現代産業廃棄物の流通に対処するための国際的パートナーシップである。この要請は、第四ないし第五世代型協同組合の登場を待望している(拙稿「下からのグローバリゼーション」廃棄物学会編『市民とつくるごみ読本』第10号、2005年)参照)。国際協同組合の立法は、国家の限界を越えるもので、ICAとも連携の上で、何らかの政策が必要になるであろう。−続く 


<ネット・統一地方選挙>E
統一地方選――時代をつくる選択を!北海道 生活者の政治を全面にかかげて

市民ネットワーク北海道 事務局長 高橋 英子



 市民ネットワーク北海道は、2006年度活動方針・基本方針「2007年統一自治体選挙では、市民ネットワーク北海道の政治勢力の拡大を目指します。ローテーションを実現しながら、政治勢力を拡大するため、札幌市議選と札幌周辺の市町議選、道議選へのチャレンジを目指します。また、市民派候補を擁立しての首長選の可能性を探ります」のもと活動をすすめてきました。要点をまとめます。

1 情勢をめぐって
(1)札幌市議選
 札幌市の人口は189万人、有権者153万人、行政区が10区あり定数は5から10名です。現在、市民ネット5名の他、各政党が、自民29名、民主22名、公明11名、共産11名と全区で候補を擁立し、社民は1名が決定しています。
 市民ネットは、91年札幌市議選で中央区、東区、豊平区で3人全員当選後、95年は倍増計画で6区に挑戦し新人3人が落選、99年5区中2人当選、03年6区中3人当選しましたが、目標8千から1万票の壁は厚く、今回5人区は断念しています。
 民主党は、参院選を見据え、選挙方針「現有議席プラス1の候補擁立」を掲げ、市民派・女性候補を公募で決定しています。また、引退する現職の後継には、議員秘書など若い世代を擁立し、有権者の期待感を創り出しています。共産候補の多くは女性、職業は保育や看護関係者、候補の写真はソフト路線、広報にはネットカラーを多用し、市民ネット政策の子育て・福祉だけではなく環境・生活者も重ねたイメージづくりをしています。07年選挙は、市民ネットと民主・共産の女性・若い世代候補と競合する選挙区が増え、組織の課題とあわせ厳しい状況にあります。−続く 


TVでも報道


議員特権ワーストコンテスト
横浜市議会ワースト2位
 議員特権ワーストコンテストは、ネットワーク横浜が呼びかけた「なくそう!議員特権、つながろう!みどり・共生・平和の市民派議員キャンペーン2007」の一環として行ないました。大賞に東京都議会(政務調査費・永年議員表彰)、2位に横浜市議会(海外視察費、永年議員表彰)が選ばれました。

ワースト2位の理由海外視察費と永年議員表彰
 横浜市議会が2位になったのは、2期目から120万円と高額でしかも政務調査費とは別枠で認められている「海外視察費」と、20年以上在職した議員に5年ごとに10万円相当の記念品がおくられる(しかも好きな物を選べる)「永年議員表彰」が、あまりにも厚遇で、市民感覚とかけはなれていると判断されたからです。

永年議員表彰制度は議会内でつくられた
 海外視察費は「要綱」で、永年議員表彰は「内規」で決められています。議員たちがお手盛りでつくってきた制度です。各会派の議員たちが了承すれば、簡単に廃止することができます。「廃止すべき」と議長に要望すると共に、団長会に提案しましたが、他の会派からの前向きな発言はありませんでした。

市民から見えない議会
 ネットワーク横浜は、海外視察と永年議員表彰の実態を調査してきました。お手盛りの議員特権の実態は、市民からはなかなか見えません。特に永年議員表彰の中身は、議員でさえ表彰される時にはじめて知る場合が多いのが実態です。議員が調査したからこそ、実態がわかりました。

全国で実態を調査、発表
 全国自治体議会には、ネットワーク横浜と同じように「議員特権拒否」している議員が、います。少数会派や1人会派では、古い体質の議会を変えるのは難しいのです。しかし、今回のキャンペーンで、全国のおかしな議員特権を知らせることができました。また、永年議員表彰や費用弁償廃止の動きも出て、成果をあげています。
−続く 


どうなっているの?子どもたちのからだ
健康と環境に関する調査(中高生編・母親世代編)報告
坂下 栄(調査代表・医学博士)
中山 靖隆(近未来生活研究所)

はじめに
 生活クラブ生協グループと、そのシンクタンクである市民セクター政策機構は、化学物質などの人体影響を知るための基礎調査として、2001年と2004年に「健康と環境に関する調査」を実施しました。
 近年、アレルギー症状や、子宮内膜症等生殖機能の異常など、これまであまり見られなかった疾患が増え、健康への不安が社会に広がっています。また、そこに、環境ホルモンなどによる環境汚染の影響が危惧されています。ところが、この2つの関係を、日常生活環境から考えるための調査・研究は、国内にはほとんど存在しなかったことが、調査の動機です。
 このたび、2つの調査について結果がまとまりましたので、報告をさせていただきます。
 (調査は、日常生活にある化学物質汚染について、長年にわたり研究を重ねてきた坂下栄の提案を契機に行われました。調査設計と分析は坂下と近未来生活研究所、およびその前身である環境科学研究会によって行われました。)

調査の概要
2001年調査(中学生・高校生編)
 2001年調査(主催:生活クラブ連合会)では、全国11都道県の中学生・高校生にアンケート調査を行いました。そして、集まった約3000人分のデータをもとに、分析結果を冊子「どうなっているの? 子どもたちのからだ」(2002年)としてまとめ、世に問いました。
 調査項目は、「生活環境」と「免疫系疾病(アレルギー疾患等)」、「生殖機能の異常」、「心の状態」が中心。生徒の皆さんが直接記入し、自ら封をして教員に提出していただきました。
 からだや心の状態について、デリケートな質問が多いにもかかわらず、ふざけたような回答や未記入のものはほとんどなく、有効回答率は90%近くなりました。彼らにとっても、真剣に答えざるを得ない何かの存在が感じられました。

<アンケートの主な質問項目>
1)環境・生活要因(幹線道路と焼却施設からの距離、自家焼却、家族の喫煙、使用シャンプー、蚊取り線香等)
2)嗜好(清涼飲料水、好きな食べもの等)
3)アレルギー・アトピー関連
4)関心のある項目(健康、体重、スポーツ、恋愛、自然破壊等)
5)4)の各項目を想起した時の快・不快感情(楽しくなる−不愉快になる)
6)精通・初経年齢等第二次性徴関連
7)生殖機能・生殖器の異常や治療経験

 アレルギーについては、男女とも、ほぼ半数が何らかの症状をもつと答えました。生殖機能に関しては、女子生徒には初潮年齢の早期化が見られ、特定地域の婦人科受診率の高さや子宮内膜症など、気になる数値や記述もみられました。男子生徒の生殖機能についても、明確ではありませんが、何らかの異常が推測されるなど、気になる点がいくつも見られました。
 アレルギーや生殖機能の異常は「心の状態」に、少なからず影響していることも明らかになり、学校生活への影響を推測させるものでした。
 最近の中高生の特性については、集中力の低下やキレやすい、やる気がないなど、とかく大人からは批判的に表現されます。しかし、彼らがこうした新たな身体症状や不安を抱えて生活していることを理解する必要があると、強く感じられました。−続く

<アソシエーション研究>
賀川豊彦・震災・コミュニティのこと
震災以来、私はなぜか自分が体験したことしか話ができなくなりました

NPOひょうご農業クラブ 増田 大成



 生活クラブ・神奈川の運動グループで作っているフォーラム・アソシエでは、地域社会に様々なアソシエーションが生み出されるように中間支援組織として自立・支援・ネットワークが形成されるよう活動を続けている。そのオリジナル企画「アソシエーションの源流を訪ねて」で、日本社会に大正デモクラシーの市民的公共圏輩出の時代を取り上げ、賀川豊彦にズームインした。昨年9月、東京・世田谷の賀川記念資料館の豊富な社会運動の足跡を取り上げたが、そこで賀川の積極的な面を見ただけでなく、満州基督教開拓村運動に加わった負の側面も見出し衝撃を受けた。12月初め生協発祥の地・神戸を訪ね、賀川思想を体現した増田大成氏にザックバランに「大震災、協同組合とコミュニティのこと」などを聞いた。増田さんはかつてコープこうべでコモ・ジャパンやkネットを推進したが、7年前、コープを辞め、今は「都市の中にムラを」というレイドロウの提言をコミュニティづくりに生かそうとして、食の生産のあり方を問い直すひょうご農業クラブやよりあい野菜クラブ、レストランのコミュニティング・よりあい向洋などのNPOをつくって活動されている。
(聞き手/文責・柏井宏之)

(1)賀川豊彦とコープこうべ
 今日は、フォーラム・アソシエの方々をまず神戸の賀川記念館(社会福祉法人・学校法人イエス団)にご案内しました。高田館長さんだけでなくたまたま賀川のお孫さんの督明氏も来ておられました。お話では、2009年が賀川豊彦が新川のスラムに入って100年になる、その記念行事を協同組合や労働組合に呼びかけて企画したいとのことでした。賀川の息子純基さん、督明氏のお父さんは2年前になくなられたとのことですが、その遺言に100年行事の企画を頼むよと言い残されたそうです。
 私がコープこうべの前身、灘生協に入ったのは昭和34(1959)年でしたが、賀川が亡くなつたのは1960年でした。実は1年間もあったのに、一度もお話を聞く機会のなかったのが悔やみごとの一つでしたが、今日の督明氏のお話では亡くなる前の半年はずっと病床にあったとのことでしたから、私の心のつかえがとれました。
 「震災以来、私はなぜか自分が体験したことしか話ができなくなりました」と、レジュメの冒頭、ちょっと弁解がましく書いておりますが、本を読んでも斜め読みぐらい、誰がどういったか、何がどこに書いてあるかなどが、さっぱり関心事から外れてしまい、自分の今やっていることの話をさせていただくということにします。

●灘生協と神戸消費組合の違い
 今回「アソシエーションの源流を訪ねてU(神戸)」という企画で、賀川先生とコープこうべ、あるいは協同組合運動のこととかについてお話の要請があったので、今日、皆さんを賀川記念館にご案内し、私も行って思いだしたことがいくつかありました。コープこうべというのは2つの生協だけでなくもっと多くの生協が一緒になったのですが、1962(昭和37)年に灘生協と神戸生協が合併し灘神戸生協となりました。70周年のときもう一度名前を変えコープこうべになりました。
 灘生協の場合は、創立者が賀川先生に直接教えを請うてつくられた。だから賀川先生との関係は間接的でした。創立者は実業家で、企業でしこたま儲けた金で世のため、人のために役立てたいと人を介して賀川先生のところへ行ったら、購買組合、今の生協を勧められた。神戸消費組合(後の神戸生協)の場合は、賀川先生自らが旗を振ってつくられるという、直接的な関係があった。どちらかといえば、神戸生協の方に賀川先生の影響があった。私は灘生協に入ったので、そのいきさつが充分に見えていないところがあります。−続く
昨緊急よびかけ「アジア・コメ市民行動週間」
日本のコメ文化を、アジアの仲間に、そして世界に向けて発信しよう



コメを主食とするアジア13カ国で、3月29日から4月4日の一週間を「アジア・コメ市民行動週間」(以下WORA:Week of Rice Action)と位置づけ、さまざまな催しが企画されています。WORA最終日の4月4日は、フィリピンにあるIRRI(国際イネ研究所)の47回目の設立記念日に当り、IRRIを取り囲んでの抗議行動でWORAはクライマックスを迎えます。2月7日から8日の二日間、WORAに参加する13カ国から17団体が集まり、マレーシアのペナン島で会議が行われました。(編集部)

 WORAのテーマは「コメ文化を祝い、守る」。農薬に頼らない持続可能な農業を推進する草の根団体「農薬行動ネットワーク・アジア太平洋」(PAN AP、本部マレーシア・ペナン)に参加するグループのネットワークが、一丸となって取り組んでいます。参加しているのは、インド、バングラデシュ、ネパール、パキスタン、スリランカ、フィリピン、マレーシア、カンボジア、インドネシア、タイ、韓国、中国、そして日本の13カ国。日本では、「遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン」が急遽、呼びかけ団体として参加を要請されました。
 2月24日から26日にかけて、バングラデシュの4地域で大規模なデモや文化イベントが行われるのを皮切りに、4月4日のクライマックスに向け、多様でカラフルな行事が予定されています。企画の一部を紹介すると:
・コメをテーマにした路上演劇
・子どもたちの絵のコンクール(「私の大好きなお祭り」などをテーマに絵を募集)
・学生対象の作文コンテスト
・地域で保存しているコメの種子や特産の食べ物の展覧会
・地元食材を使った料理のコンクール
・遺伝子組み換えイネについてのセミナー
・有機栽培イネについてのワークショップ
・ブックレットの出版
 このように、大人から子どもまで、また、市民からマスコミまで、幅広く巻き込む企画が盛りだくさんです。
●国の政策と研究機関に脅かされるアジアのコメ
 アジアでは、1960年に設立されたIRRIが推進した「緑の革命」によって、農薬を大量に使って単一品種のイネを大規模に栽培するようになり、種の多様性が急速に失われました。たとえばバングラデシュでは、それまで何万種もあったイネの品種が、緑の革命後はほんの数品種しか栽培されていなかったといいます。IRRIの推進した農薬を多用する農法によって、農作業をする女性たちや子供たちが、深刻なアレルギーに苦しんでいます。
 その同じIRRIが、今度は遺伝子組み換えイネを推進しています。日本政府は、IRRIに大規模な資金援助を行っていますが、同時に、日本で遺伝子組み換えイネの開発を担っているのが、農水省に関連する研究機関です。このように日本政府は、直接的にも間接的にも、遺伝子組み換えイネの開発の中心を担っていると言えます。

●アジアに存在する優れたコメの品種と文化
 アジアに存在するイネの多様な品種の中には、実はIRRIが開発した「ハイブリッド」より収量が多い、香りがよいなど、優れた性質を持つものが多いことが分かっています。こういった在来の品種は、農民の知恵によって長い年月をかけて改良、保存されてきたものです。
 また、コメはもちろん重要な主食ですが、単に食べ物であるにとどまらず、地域の祭りなどに代表されるように、アジアの文化の根底をなし、精神性の中心でもあります。
 こういった多様な優れた品種と同時にコメ文化までもが、IRRIに象徴される工業的な農業によって危機にさらされているのです。
 PAN APの「私たちのコメを守ろうキャンペーン」(Save Our Rice Campaign)では、「コメ文化」「地域の知恵」「生物多様性を基礎とするエコロジカルな農業」「食の安全」「食糧主権」の5つを柱に活動を推進してきました。このキャンペーンから生まれたWORAは、アジア各地で各種さまざまな活動を同時開催することで、アジアのコメ文化の重要性と、このコメ文化を脅かすさまざまな問題を世界に向けて提起していきます。
 同時に、これらの催しの一環として、「アジアのコメを守るための民衆宣言」に100万人を目標に署名を集めます。

●日本のコメをアジアに、世界に発信
 日本にとってもコメは主食であると同時に文化の基礎をなすものです。農政改革によって4ヘクタール以上の農家のみが補助金の対象とされるなど、大規模生産一辺倒、かつ遺伝子組み換えイネを推進する国の政策で、稲作が危機に瀕しているのは、他のアジア諸国と全く共通です。WORAに参加することで、日本のコメ文化をアジアに、そして世界に発信できるチャンスとなるのではないでしょうか。
 現在のところ、新潟で遺伝子組み換えイネの実験栽培をやめさせるために裁判を起こした農民・消費者たちが、裁判をめぐる状況を発信するための企画を練っているところです。
 WORAでは近々ウエブサイトを開設し、各地の催しについて写真を中心に発信していきます。ぜひこの機会に「日本のコメ」を世界に発信していきましょう。
(清水亮子)
*連絡先:遺伝子組み換え食品いらない!
 キャンペーン
 tel:03-5155-4756
 e-mail:no-gmo@jca.apc.org

アジアの消費者運動のリーダー/アンワ・ファザール氏に聞く
自分にできる小さなことが大きな変化をもたらす
市民セクター政策機構 清水 亮子



 70年代から80年代にかけてIOCU(国際消費者機構、現CI)の会長を務め、アジアの消費者運動のリーダーとして、運動を牽引してきたアンワ・ファザールさんに、お話を伺う機会を得た。それまで製品の安全性テストなど、狭い意味での消費者の安全にしか意識が向いていなかった消費者運動だったが、環境問題、途上国の飢餓の問題、多国籍企業のもたらす害、国連の役割など、消費者を巡るあらゆる問題にまで視野を広げることの重要性を説いたファザールさんに、最近の活動について聞いた。

―ファザールさん、お久しぶりです。何歳になられたか、お聞きしてもいいですか?
ファザール(以下AF) 66歳ですよ。忘れたんですか(笑)。年配の世代の中では、一番若いです。人生の中には、若い世代、中堅の世代、年配の世代の3つのグループがありますが、グループの中で一番若いと思うと、元気が出ますよ(笑)。

―最近の活動についてお聞かせください。
AF 最近の活動の中心は平和運動です。例えばこの「平和の文化をもたらすための99の方法」。「すべての生命を尊重しましょう。自分を大切に。薬物を乱用しない」など、平和をもたらす方法が具体的に示されていて、分かりやすいでしょう?
 それから、今日、様々な宗教対立が見られますが、ヒンドゥー、仏教、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教など宗教は違っても、「自分がして欲しいことを他人にもしなさい」という金科玉律は、すべてに共通です。対立ではなく調和が可能なはずです。
 PAN(農薬行動ネットワーク)など、自分が作った団体には、今でも関わってますよ。全部「副代表」ですけどね。代表は若い人たちがやればいいじゃないですか。何か困ったことがあれば助けますけど、困ったときだけです。

―PANのスタッフを見ていると、若い人がたくさんいますよね。若い人たちを引きつける秘訣は何ですか?
AF 運動を活性化するには、若い世代、中堅、ベテランの三世代がすべて活発でなければなりません。これらの世代間のバランスがとれていなければ、未来はありません。そして三つのH――head(頭)、heart(心=情熱)、hand(実際に行動する手)の3つのバランスも大事です。一人の人がheadと heart、heartと handなど二つ以上持っている場合もありますが。
 若い人たちを動機づけるためには、自分にできる小さなことが、大きな変化をもたらすことを示すことが大切ですね。そして、分かりやすい事例で説明すること。例えば、母乳保育。母乳保育というと母親だけの問題と思われがちですが、この問題からいろいろな問題が見えてきます。安全性の問題、ネスレなど粉ミルクメーカーの多国籍企業の世界戦略、WHOなど国連機関の役割など、世界が見えます。
 1994年に川のほとりの自然豊かな山荘(注:生活クラブ東京の協同村)で、いろんな運動に関わっている若者たちでワークショップを開催しましたが、いまでもその簡略化したものをPANで行っていて、成果を上げています。また、若者のためにはクリエイティブさが大切です。アートや音楽などを使った体験的な学習が大切ですね。
 「世界社会フォーラム」に参加したことはありますか? あのようにいろいろな分野の活動―労働運動、平和運動、環境運動、消費者運動など―ジャンルを超えた活動をしている人たちの交流が重要です。違う分野で活動していても、目指す未来に共通点が見られたりします。
 一口に平和と言っても、自分自身の平和、他の人にとっての平和、環境の平和のすべてが達成されてこそ、平和が実現しますよね。このようなホリスティックなヴィジョンを持っているのが、生活クラブの特徴であり、消費者運動の中では、希有な存在です。このように問題を包括的に捉えているからこそ、若い人たちの教育を通じて、世界を変えていくことができるはずです。
 インドには、雨水を利用するなど、グリーン・スクール・プログラムを取り入れている学校が、デリー地域だけで1600あります。このようなグリーン・スクール・プログラムと交流することも、生活クラブならできるのではないでしょうか。実際にやっている人たちを紹介してもいいですよ。PANの教育プログラムについても、今後生活クラブが参加してほしいと期待しています。(2月9日、ペナン島にて)
<書評>
地域と環境が蘇る『水田再生』鷲谷 いづみ 編著、家の光協会 2006.11

(財)協同組合経営研究所元研究員 今野 聰



 『水田再生』という本書タイトルが凄い。副題は「地域と環境が蘇る」。ここに本書の狙いがある。魅力的だが、どこか厄介なのである。魅力的だと直感する読者は少なくない。ここまで日本の水田を荒廃させたのはなにか。そもそも1970(昭和45)年、全国一律1割減反という驚愕的国家意思が、30年間かけてこうまで荒廃させたからである。だが、そこからが評価が違う。
 この本を「厄介だ」と直感する読者は、だから悪いのは政策・政治だ。それを変えれば良い。だが30年強、政治・政策を担った党が基本的には保守系にあって、生産者・水田農家も概ね支持してきた。仕方なかったのだと。有機栽培の米づくりもそれはそれで良い。だが大局は何ほど変わってきたか。そういう恨み節である。宮城県のわが古里JA加美よつば組合員と多く話し合っての大勢もこうである。
 では「魅力的だ」と直感する読者はどうか。『水田再生』は、水田を取り巻く環境全体の課題なのだ。田んぼの生物多様性は元々生産者の実感だった。だからまず個人が地域ですぐ実践すれば良い。有機栽培の水田と農法など、難しい論議のまえに「蛍・ホタル」の飛び交う水田風景は、まず自分が取り戻し、孫子にその事実を見せれば良い。事実先ほどのJA加美よつば組合員にもそうした取り組み事例がある。だから本書事例からそれを学び、実践する。その機会を提供してくれたのが本書だと。
 さてどちらをとるか。難問である。さしあたって、本書の構成を紹介しておこう。
 第1章は「生物多様性と農業」。編者の総論部分。東京大学大学院農学生命科学研究科で2000年から現役教授である。本書には「ヤマアカガエル、ニホンアカガエル、アズマアカガエル」など水田生物の名前がポンポン出てくる。単にカエルだけではない。「ナマズ、ドジョウ、メダカ、フナ、コイ、タモロロ」という次第である。生物の名前、分類を知らずに論ずるな、そういう自戒が働く。鷲谷氏の結論は、本章後半に「水田再生プログラムの要素」にある。長い項目別まとめを簡略にすると。
・水田とまわりの環境を特徴づけてきた在来生物に注目し、そのなかから、消費者にメッセージするに相応しい種に「順応的に取り組みを進める」
・化学農薬・肥料の過剰投入を避け、排水の水質に責任を持つ
・伝統的な農業生態系の管理から学び、その経験を共有する
 仮に「ホタル農業」としよう。それを実践したかったら、実に簡単だ。かつてホタルが乱舞した様を思い出せ。栽培体系に農薬を減らし、ホタルが舞い出したら、その結果を周辺のみんなで楽しもう。十分なメッセージではないか。そういっているのである。先述のJA加美よつば組合員もそういう。合鴨農法から、冬季湛水水田農法も考えているという。なお本章には外国の政策もアメリカを含めてつぶさに紹介される。世界の潮流がみえる。
 第2章は「水田再生の現場から」。この10年ほどの実践事例を当事者が報告している。実にバラエテイに富み、ヒントも多い。その特徴だけ抜くと以下の通り。
・宮城県の「蕪栗沼・周辺水田」のふゆみずたんぼ。地元NPOが先駆的である。
・琵琶湖からの魚群が水田に俎上する「魚のゆりかご水田プロジェクト」。行政が組む。
・兵庫県北部の豊岡地区に「コウノトリを育む農業」ここも農業改良普及所が働く。
・大手企業NECが霞ヶ浦水辺谷津田に『水田再生』に取り組む事例。企業のCSR(社会的経営責任)である。
・生協パルシステム生協が新潟県JAささかみと協同で取り組んだ「環境保全型農業」。有名な笹神村の変身振りがみえる。
・全農の最新CSR活動と「民間型生物多様性直接支払い構想」。国家予算と違う大胆さが見える。
 このうち、宮城県蕪栗沼・周辺水田の冬季湛水農法は、古里旧中新田町から近隣で、親近感あり。そういえば我が家にも水田25枚を取り巻いて、小さな沼があったなあと、昔の知恵が思い出された。ただしその持つ意味を知っていたわけではない。幼少の田んぼ手伝いで、水生昆虫とかヒルが嫌で、及び腰で牛馬を沼周辺の「穴田」田んぼに押し込んだ。牛だって嫌である。それくらい深いからだ。渡り鳥が蕪栗沼と行き来していたなどとは、空想にもなかった。早く労働から解放されて、魚獲りをしたかっただけである。
 第3部「栽培技術からみた生物多様性」。田んぼの土壌条件と、稲作技術の専門家報告である。
専門的なので、タイトル紹介だけにする。
 さて、こうした本書内容を、冒頭直感を含めて、どう評価するか。いくつかの問題提起をする。
 第1は消費者との協働とその意味についてである。我が台所に『富山和子が作る日本の米カレンダー』つるしている。「水田は文化と環境をまもる」。また下段には「五感がよろこぶ食育の広場」。これらに並行して英語表記がある。1月は伊勢神宮。2月は春の使者「フキノトウ」。以下青田風景、棚田など。お決まりといったらお叱りか。労働の汗がどこにもあるはずないのに映像からは消えたかの観である。
 また昨年6月、千葉県旭市、JA千葉みどり、生活クラブ生協・千葉共催の「田んぼの生き物」調査の現場を見た。本書執筆の原耕造氏が一度現場を観ろというからである。既知の生産者は、50a区画の無農薬田んぼを実験に提供。一緒にカエル、ヘビ、小鳥、メダカなどの生息を肉眼調査する。続いて、100名弱の小学生が直接田植えの終わった田んぼに入り、生き物を土壌ごと掬う。その入れ物を全部集めて、長時間生き物数を数える。それを記録する。更に年変化を別途記録点検するという次第である。いうまでもない、大変な労力と経費である。生活クラブ組合員は嬉々としていて、それで安心したが、この作業は何年も続くものだろうか。編者の言う「順応的に」に対する疑問である。ことは大学の研究室での研究ではない。
 第2。米生産性との因果関係である。佐瀬与次右衛門『会津農書』(1684年)が上田で480kg収穫したことを引用する。おそらく希少な事実だろう。平均100kg以上時代の生産性をはるかに凌ぐ。余り依存しない方が良い。事実、05年秋、2年越しに冬水田んぼに実践者を、印旛沼に訪ねた。彼は約480kg。但し20年前から、普通栽培ではないから、変わり者の異名は無いという。天晴れというほかなかった。だがみんなこうなるとは思えない。
 第3は、産直事業で、「縁農」という消費者側からの労働提供は、割り合価格評価しやすい。無料か有料かだからである。一方、環境活動対応の農産物価格評価の難しさである。原氏が提起する「民間型生物多様性直接支払い構想」も一案。大いなる論議を期待したい。

雑記帖 【細谷 正子】

 生協制度見直し検討会のとりまとめ案に対する生活クラブ連合会の意見を読んだ。厚生労働省のいやがらせか、とも思えるとりまとめ案に他の生協はどんな意見を出したのだろう。
 連合会のプロジェクトで語られているように、この10年統一的な協同組合法制をつくる運動を強力に推進することを怠ってきたことが今の危機を招いている、まさにその通りだろう。たしかに10年程前は世界的なレベルで社会セクターの広がりが認知されるような感覚があった。その動きに後押しされるつもりになって、地域では主体的に必要な仕組みを多様に作りだしていた。その頃の計画にはすでに「ヨーロッパで確立されてきている社会的経済」の存在を知り、自分たちが展開し始めた地域での運動の裏打ちとして期待を寄せていることがわかる。
 しかし実際にはその後の10年日本はその逆の方向へ進んでいた。それ故ここ数年の協同セクターの動きの無さにズレを感じていた。生活圏の危うさがモロに感じられ、早くしないと地域がもたなくなる、と切実に感じた。この危機感が共有できないのは何故か。地域に身を置いていないからか。
 プロジェクトの答申を受け、連合会の今後に注目しよう。今すぐに手を打たなくてはならない課題がいくつもある。環境問題を例にしても、たとえ明日から化石燃料を燃やすのをやめたとしても、地球の温度は少なくとも150年は上昇し続けるという。理解と合意の範囲でしか解決していかないのだから時間がかかる。でも課題は待ってはくれない。

市民セクター政策機構 〒156-0044 東京都世田谷区赤堤4-1-6赤堤館3F
e-mail:civil@prics.net tel:03-3325-7861 fax:03-3325-7955

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