「所得1%取り戻し戦略」で地方人口を安定化させる(島根県中山間地域研究センター研究統括監 藤山 浩)
定住と所得の1%を取り戻す
[1]人口1%分の定住増加で地域は存続できる
2014年の「市町村消滅論」以来、地域人口の将来展望が大きな課題となっています。
高度経済成長まで望まないにしても、地域人口のこれ以上の減少を食い止めるためにも、
地域経済の振興とその結果としての域内所得の増大を望む声は、改めて高まっています。
では、一体どれくらいの人口と所得を今までよりも多く取り戻せば、地域社会は安定的に持続していくのでしょうか。
私は、独自に開発した人口分析プログラムにより、市町村単位だけでなく、より身近で小規模な小学校区・公民館区といった地元単位で、毎年どのくらい定住者を増やせば、地域人口が安定するのか、シミュレーションしてみました。
島根県の中山間地域を構成する227の小学校区・公民館区等(平均人口規模は1370人、2010年)の地元単位データにより分析をしてみました。その結果、平均して毎年地域人口1%分の定住者増加を世代のバランスをとって達成すれば、地域人口の安定化が実現することが確かめられています。つまり、700人の地域で考えると、20代前半男女1組(2名)、30代前半子連れ夫婦(3名)、60代前半夫婦(2名)の合計3世帯7人(=人口の1%分)の定住者を、従来からのペースに上乗せして多く取り戻すことができれば、ほとんどの地域では、地域人口の安定化が見えてくるのです。
意外に小さな割合の定住増加を毎年継続すれば、地域人口の安定化は実現するという事実に、まず注目してほしいと思います。この「地域人口1%取り戻し理論」は、2014年3月に国土交通省が発表した「国土のグランドデザイン」の資料にも活用されています。全国的に、最も状況が厳しい山間地域においても、「地域人口1%取り戻し理論」が有効であることが立証されているのです。
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1%の所得増で、人口は1%増える
ここで、当たり前のことを確認しておきたいと思います。毎年地域人口の1%分の定住を上乗せするために、必要な所得増は、毎年どれほどでしょうか。今そこに住む人の平均所得を基準にするならば、それは、地域全体の所得の1%分になるはずです。毎年1%の人口を取り戻したいのであれば、所得も毎年1%ずつを取り戻していけばよいのです。もちろん、それ以上をめざしてもよいのですが、前述したように無限の成長は幻想ですし、まずは人口を維持できる経済構造を実現すべきでしょう。ですから、いきなり10%も20%も所得を増やす必要はないのです。「市町村消滅論」などで脅かされると、「代打逆転満塁ホームラン」くらいを出さないとダメだと思い込んで、大きな企業誘致や観光開発を焦る自治体や首長が結構います。その結果、「三振の山」が築か れているのが、実情ではないでしょうか。
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大規模な企業誘致・観光偏重は時代遅れ
今までの地域経済戦略のポイントは、企業誘致や観光開発、あるいは大規模な産地形成のように、地域外の活力や需要を取り込み、大きな「外貨」を稼ごうとするものでした。私は、こうした外発的な産業振興自体を全否定するものではありません。しかし、企業誘致や観光開発は、やって来る会社や観光客あってのビジネスです。つまり、相手のある世界であり、必ずリスクや変動を伴います。また、住民たちの要求ではなく、たとえば国が指導する大規模志向の産業開発は、地域の資源や個性、自然に適合するかという問題もあります。 (P.16~P.17 記事から抜粋)