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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

2.個人の尊厳が平和の原点(同志社大学大学院教授 岡野八代)

季刊『社会運動』 2016年10月【424号】 特集:地域自給で生きる 

 安倍首相は、「集団的自衛権行使容認に関する会見」(2014年5月15日)で「いかなる事態にあっても、国民の命と平和な暮らしを守り抜いていく。人びとの幸せを願って作られた日本国憲法が、こうした時に『国民の命を守る責任を放棄せよ』といっているとは私にはどうしても思えません」と発言しました。しかし、女性はずっと以前から構造的な貧困という「緊急事態」に置かれてきたのです。女性の命と平和な暮らし、幸せが守られていない現実を無視して、集団的自衛権の行使を強調するという、現行憲法の理念を理解しない発 言に憤りを感じます。
 なぜ、「戦争する国づくりをする人びと」は、「家族の助け合い」「家族の絆」「家族の一体感」をここまで強調するのでしょうか。〈誰かを犠牲にする〉国は、国家のために〈誰もが犠牲になる〉国へと容易に変えてしまえるから、というのが私の答えです。
 女性は、社会的、政治的、経済的参加が狭められ、個人の尊厳を追求することの困難さを経験してきました。だからこそ、安保法制よりも、生活保障の充実を強く主張したいのです。平和は一人ひとりの尊厳を尊重することから始まります。
 「ひと」は、「社会の絆」という様々なしがらみの中で生きる、不自由な存在です。だからこそ、社会の一部分として位置づけるのではなく、一個の全体的存在として生きられる「個人」として尊重することが、「個人主義」の本来の意味です。
 「ひと」が人間らしく生きるための価値=尊厳とは、〈わたし〉がこうしたいと幸福を願って生きる価値をすべての人がもっているということです。それを謳った憲法を、私たちは実生活の中で生かす努力をしていかなければなりません。だからこそ憲法一二条も、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」と求めているのです。


(P.133~P.135 記事から抜粋) 122-123

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