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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

社会の分断を消す選択肢をつくる(慶応大学教授 井手英策)

季刊『社会運動』 2017年4月号【426号】20年後、子どもたちの貧困問題 格差社会を終わらせよう

中低所得層が連帯し分断線をなくす

 これから議論すべきなのは、ただ「連帯しよう」ではなく、「どことどこがどのよう

に連帯するのか」を具体的に語っていくことです。だから私が「みんなに給付しよう」

と言う前提は、「中低所得層が連帯できるようにしたい」ということです。そうしな

いとブレグジットやトランプの当選を見ても分かりますが、中高所得層が連帯するの

です。トランプを支持したのは、最初は貧しい人たちだと言われていましたが、むし

ろ中間層より所得が上の人たちです。中高所得層ではなく、中低所得層が連帯し、金

持ちも切り捨てずに取り込んでいくような連帯にしていかないといけない。

 トランプもブレグジットもはっきりしているのは、「中の下」の反乱だということで

す。ニューヨークタイムズ紙の米国大統領選挙のデータでは、年収3万~5万ドル位の

 「中の下」から「中の中」にかけての人たちのクリントンの支持率は51%でした。オバ

マは57%だったので、この6%はすごく大きかったと思います。「中の下」の人たちは、

結局クリントンを支持しませんでした。「中の下」の人たちの動向が結果を左右した

のです。

「中の下」の人たちには、低所得層への転落の恐怖を煽るのが一番効果的です。「あ

なたたちの負担が多いのはあいつらのせい」などと言って煽る側につけてしまうわけ

です。驚いたのは、トランプはヒスパニック系の支持率が意外に多かったことです。

それは「これ以上移民が増えると自分たちの仕事がなくなる」と思わせたからです。

そういう「分断線」を巧みに入れて、「中の下」から「下」への転落の恐怖を煽るこ

とで、ブレグジットも起き、トランプも勝ちました。このままだと日本もそうなりま

す。

 

─すでに日本でも、生活保護バッシングのように分断線が入っています。

 

 いまだに日本人は国民の9割が中流だと答えます。そして、国際比較統計では38カ国中、

中の下と答える人の割合が一番多かったのが日本です。この人たちがどこにつくかは

決定的です。大事なことは、彼らは金持ち優遇の政策と、貧困層への救済政策のちょ

うど間にいるということです。しかし現実は、日本で平均所得以下の人は6割なのに、

その人たちは金持ち側についてしまうのです。これには左派・リベラルの責任も大き

い。「弱者救済」「格差是正」と言ってきたことが、むしろ彼らを富裕層側に追いやっ

たのですから。

 私が「みんなに配ろう」というのは、「みんながもらえる」ことが分断線をなくすか

らです。それは中低所得層が連帯することを意味します。そのモデルを考えたいので

す。

 「最低限の暮らし」とか「最低限の保障」と言いますが、「何が最低限か」というの

は主観です。だから、ずるずると基準が下げられていくのです。それは生活保護も、

最低賃金も同じです。本質的な問題は「最低限」という分断線を引くことです。

 私はみんなが安心して生活できるような財政に変えたいと思っています。そうすれば

わざわざ地方から東京に来なくてもよくなります。みんなが東京に来る理由は、所得

を増やしたいからです。しかし東京では、所得は少し増えるけれど経費が非常にかか

ります。東京で子どもを私立の中学・高校・大学へ行かせようとしたら、年収800万円

でも困難です。たった一人の子どもでも難しいから一人しか産めない。土地が高いか

ら住居費も高い。それなのに将来の不安に対して所得を増やせると思うから東京に来

る。

 しかし先ほどの「社会的貯蓄モデル」なら、政府が生きるためのニーズは満たすのだ

からどこに住んでいても安心して生きていけます。わざわざ東京なんかに来なくてい

い。都会が好きな人も福岡や大阪でいいじゃないですか。「将来の安心はちゃんと保

障する、どこにいても安心なんだ」と政治が言えるようにならないといけないと思い

ます。

 

(P.111~P.113記事から抜粋)

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