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「子宮頸がんワクチン」の薬害訴訟が目指すもの(HPVワクチン薬害訴訟全国弁護団代表 水口 真寿美)

季刊『社会運動』 2017年7月号【427号】特集:ワクチンで子どもは守れるか?

 

被害の発生・拡大の背景を探る

 

 このような問題のあるHPVワクチンが承認され、定期接種化された背景について、3点指摘したいと思います。

 第一は、「子宮頸がん征圧をめざす専門家会議」(以下、専門家会議)を利用した製薬企業の偽装プロモーションをめぐる問題です。

 専門家会議は、2008年11月に設立された啓発団体で、その役員には、HPVワクチンを推進する学会の役員などが名前を連ねています。検診率向上に加え、一貫してその活動目標にHPVワクチンの日本における普及・接種推進を掲げ、政府、国会、自治体、メディア、医療機関、啓発団体、市民といった幅広い層に対する多彩な働きかけを行い、日本のHPVワクチン推進運動の総本山とも言うべき役割を果たし、関連する立法、行政、及び世論形成等に大きな影響を与えてきました。

 しかし、薬害防止のためのNGOである薬害オンブズパースン会議が、日本製薬工業協会の「透明性ガイドライン」という製薬企業の寄付金等に関する情報の開示システムを利用して調べたところでは、専門家会議に対して、2012年にMSD社から2000万円、グラクソ・スミスクライン社から1500万円、2013年はMSD社から2000万円、サーバリックスの販売権を承継したジャパンワクチン社から1850万円の寄付があったことが明らかになっています。

 日本製薬工業協会には主要な製薬企業73社が加盟していますが、専門家会議に寄附をしているのは、HPVワクチンの製造販売企業のみで、他の加盟会社からの寄付は見当たりません。また、専門家会議の事務局はサーバリックス販売開始の8カ月前までグラクソ・スミスクライン社の元ワクチンマーケティング部長だった人物でした。

 透明性ガイドラインでは2012年以前を調べることができません。そこで、薬害オンブズパースン会議ではそれ以前の寄付等についての公開質問書を送りましたが、実質的な回答はありませんでした。専門家会議の活動は、ワクチンメーカーと専門医らとの深刻な利益相反関係が生んだ、「啓発に名を借りた偽装プロモーション」であったことが疑われます。

 第二は、WHOの利益相反です。

 WHOも今や利益相反から自由ではありません。WHOの総予算のうち加盟国負担金は2割程度で、寄付が約7割です。そして、その大口の寄付者にはワクチンビジネスに関連性をもつ組織やグラクソ・スミスクライン社が含まれています。また、WHOのワクチン安全性諮問委員会(GACVS)の委員の中には、グラクソ・スミスクライン社のアドバイザリー委員をしたり、旅費や謝礼を受けとったりしている者の他、グラクソ・スミスクライン社を含むワクチンメーカーから資金援助を受けて研究をしている者もいます。これでワクチンをめぐる問題についてバイアスがかからないと言えるでしょうか。

 実際、ワクチン安全性諮問委員会は、HPVワクチンの安全性に対する懸念を打ち消すために、厚生労働省の意見交換会で、専門性のない研究者を有識者として発表させるよう不健全な働きかけをしたことがニュージーランドでの情報公開請求によって明らかになっています(薬害オンブズパースン会議「子宮頸がん予防ワクチンに関する意見交換会(2014年2月26日実施)に関する質問書」参照)。

 第三は、日米の通商交渉の影響です。

 2008年10月の「日米規制改革および競争政策イニシアティブ」の米国の要求事項には、「病気予防のための医薬品およびワクチンへの保険適応、ならびに『予防』の定義を拡大することにより、予防医療薬およびワクチンの使用を促進する」とあります。また、2011年2月の「日米経済調和対話」の米国の要求には、「ワクチンに対するアクセス:日本全国におけるワクチンの供給を促進する長期的解決策を見つけて、2010年に採用されたヒブ、肺炎球菌、HPVワクチンについての措置を拡充する」とあります。

 子宮頸がんは既に述べたように性感染症で、またHPVに感染してもそのほとんどは排出され、長い年数をかけてがんにまで至るのはそのごく一部です。HPVワクチンは、麻疹や風疹のワクチンのように感染症が社会に蔓延することを防ぐ社会防衛よりは、接種した人が将来がんになることを防ぐ個人防衛に主眼があるワクチンなのです。

 このような個人防衛に主眼をおくワクチンは改正前の予防接種法では定期接種の対象とすることはできませんでした。定期接種の対象となれば自治体はこれを実施しなければならず、強制ではないとしても国民には接種の努力義務が課せられますが、医薬品である以上は副反応被害を受ける人が出ることは避けられません。それでも社会に感染症が蔓延することを防ぐために、国として国民に接種を求めるというのが定期接種制度の基本的考え方だったからです。

 「予防の定義を拡大」という通商交渉における米国の要求は、前記のような基本的な考え方に立脚した予防接種法を改正し、HPVワクチンのような個人防衛を主眼とするワクチンでも定期接種の対象とすることができるようにしなさいというものであると読めます。そして、実際、HPVワクチンを定期接種化する際に、予防接種法の改正が行われたのです。科学と公衆衛生を基盤に決められるべきことが、貿易や経済優先で動いているのです。

 戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International Studies:CSIS)という米国の軍産複合体の一翼を担うとされる著名なシンクタンクがありますが、2013年と2014年に、日本のHPVワクチン問題についての特別報告書を公表し、HPVワクチン接種の積極的な勧奨を一時中止している厚生労働省の対応を批判しました。これも米国産業界の声を反映したものではないかと考えています。

(P.90~P.94記事から抜粋)

 

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