生活クラブグループ
市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

01.<楽多舎>親族のいない故人の家をコミュニティカフェとして活用

季刊『社会運動』2017年10月【428号】特集:空き家で街を元気に―困った住宅・店舗の活用方法

住み慣れたまちで暮らし続けるための居場所

 練馬区の静かな住宅街にある陽あたりの良い一軒家が「楽多舎」だ。誰もが気軽に立ち寄れる居場所にしようと、2013年2月に築50年以上の一般住宅を改装して、コミュニティカフェをオープンした。
 ここを運営しているのは「ワーカーズまちの縁がわ」だ。運営するメンバーの多くは、これまで長年にわたって、訪問介護や自立支援事業をする「NPO・ACT練馬たすけあいワーカーズふろしき(以下ふろしき)」や、ケアプランを作成する「NPO・ACT居宅介護支援事業所ねりま(以下支援ねりま)」で、地域福祉の事業に携わってきた。こうした活動や仕事を通してメンバーたちには、高齢になっても、障がいがあっても、何か役割をもって社会とつながりを持っていきたいとの思いがある。
 住み慣れた地域でいきいきと暮らし続けることのできるまちづくりを目指して楽多舎をオープンし、「何かあった時、何もなくてもフラッと立ち寄ってください。ランチをしながらおしゃべりをしたり、趣味の集まりやイベントなどに参加したり、出会った人と交流しながら、自由で楽しく、豊かな時間を過ごせる場です」と地域の人びとに呼びかけている。

地域の新たな資源で新しい仕事ができる場に

 地域の人に開かれた居場所をつくるには、場所と人が必要だ。この家に住んでいた長岡さん姉妹は、老老介護の状態だった。その後、2人は介護サービスの利用が必要になり、ふろしき、支援ねりまの利用者として多くのメンバーがかかわってきた。
 親族のいない長岡さんが気にかけていたのが、自分で働いて買った土地と自宅のことだった。「自分がいなくなったら、この家はどうなるのか。私のような独り者が集まれる場所にできないか」という思いを抱いており、周囲に常に話していたという。しかし、受け皿となる法人はなく、弁護士の勧めによりメンバーの1人が個人で相続することとなった。
 2011年12月に長岡さんは96歳で亡くなった。ケアマネジャーとして長岡さんを担当した菊地ユリ子さんや、楽多舎の最初の事務局長となる清水妙子さんらは、故人の気持ちや意向を踏まえ、大切にしていた家を、地域の中で役立てようと動き始めた。
 12年3月、「長岡宅の使い方を考える準備会」を立ち上げた。ふろしき、支援ねりまのメンバーに呼びかけると、19人が集まった。話し合いを重ねた結果、この家を使って地域の新たな「居場所」をつくることにした。清水さんは「食に関心のある人が多かったので、気楽に家庭的な食事やティータイムが楽しめるコミュニティカフェを開けるといいと、それぞれが想いと夢を出し合いました」と語る。
 同時に「自分たちの活動や仕事ができる場をつくる」ことも目的だった。実は、ふろしきでは在宅介護という仕事の重さを考慮して、70歳で定年という決まりがある。しかし「まだまだ現役で働ける」と思っているメンバーも多数いるので、その人たちが活躍できる新しい居場所をつくろうと考えたのだ。
 楽多舎の運営方針は、ルールや制限をできるだけ設けず、働く人も利用する人も自由でゆったりとした時間を過ごせることとした。介護保険事業や行政からの委託事業の現場では、法律や規則に縛られるため、「実施したくてもできない」というもどかしさを、メンバーは何度も経験してきた。そこで「無理はしないけれど、自分たちで考え、必要と思うことを実行していこう」と話し合ったのだ。

(P.64~P.67記事から抜粋)

インターネット購入