05.＜クルトコ＞団地の衰退した商店街 その光景が住民を動かした
千葉県柏市の柏駅（ＪＲ常磐線、東武鉄道野田線）から車で約20分のところにある「大津ケ丘団地」（柏市大津ケ丘）が、今回の舞台である。
１９７８年、日本住宅公団（現在、ＵＲ都市再生機構）によって作られたこの団地に足を踏み入れると、高度経済成長期に作られた団地の典型的な光景が広がる。
近年建設される高層の建物ではなく、５階建の建物を中心にコンクリート壁の共同住宅棟（全１２００戸）が並び、その一角に小さな商店街（ここでは商店会という）があるという光景だ。
とはいっても、この商店会にはどう見ても営業しているとは思えない店舗が多い。そこに立ってみると「閑散とした」という言葉がぴったりする。16軒の店舗のうち、営業しているのが約半分。生活クラブ生協の店舗（デポー）、スーパー、保育園、接骨院など、そして今回の取材対象となるコミュニティカフェの「クルトコ」である。
行政と連携してカフェをつくる
大津ケ丘中央商店会の空き店舗を改装してできあがったクルトコは、今年２０１７年１月30日にオープンした。空き店舗や空き家をコミュニティカフェにするケースは、最近様々な場所で見られるが、ここの特色は行政や学校と連携がとれていることだ。
クルトコという名前も、近隣の小中学生に公募し集まった３００通の中から「子どもから大人まで誰でもふらっと『来る処』＝クルトコ」が選ばれている。立ち上げを担ってきたワーカーズ・コレクティブういず（注１）の理事長、北田惠子さんに話を聞いた。
「ういずは、２００４年に起業し、柏市松葉町の木造２階建の民家で地域の人が気軽に集うことのできる居場所づくりや家事支援サービス（掃除・通院同行、買い物代行）を行ってきました。次に私たちは、居場所づくりから生活支援事業への流れを作りたいと、この大津ケ丘商店会に乗り込みます。空き店舗のスペースを使って趣味の会などを開き、地域での顔の見える関係づくりをしてきました。しかし、なにせシャッター通りで人が歩いていない。活動はなかなか大変でした。それでも私たちは、商店会の祭りなどに力を注いで盛り上げてきました。こうした活動を行政は見ていたんですね。私が地域包括ケアシステムを支える地域支えあい推進委員（生活支援コーディネーター）を市から委嘱され活動する中で、２０１６年に、柏市から商店会には空き店舗があるので、そのスペースを運営してみないかという話になりました」
それは柏市の介護予防・生活支援総合事業を行う「通い場」を開設してみないかという話だった。この事業は、団塊の世代が75歳以上となる２０２５年を意識して行われるもので、高齢者が住みなれた地域で暮らすことができるように、地域全体で高齢者を支えようという取り組みである。この提案のポイントは、開設準備金や補助金が出ることだった。
「商店会の空き店舗には台所もなく、お茶も出せませんでした。ＵＲへの家賃も大きな負担でしたから、水回りのリフォームなどとても無理だったのです。しかし、柏市の今回の話は、改修のための建築工事費として７９０万円、備品購入費に３００万円支払われ、家賃も半額になるということでした。夢のような話で、他の運営条件は耳に入らず飛びつきました（笑）」
そして、介護予防・生活支援総合事業の常設型「通い場」としてのコミュニティカフェ開設の動きが始まった。問題の運営条件は次のようなものだった。
①１日５時間、週４日以上開くこと。②週に１回30分以上の介護予防講座を開くこと。③「地域」で運営すること。④（経済的な）自立を目指すこと。
すでに地域で事業を展開してきたういずとしては、この条件はさほど難しいこととは思わなかったが、実際はかなりの困難があったようだ。例えば、行政が考える「地域」は、地域住民のことではなく町会長、ふるさと協議会（注２）の役員、民生委員を指し、「地域の運営」はそう簡単なものではない。
こうした問題を抱えつつも、クルトコは２０１７年１月元気にオープンした。
注１ ワーカーズ・コレクティブとは、メンバーが共同で出費し、事業を行い、働く組織。全国でその活動は行われており、ワーカーズ・コレクティブういずは千葉県柏市で活動している団体である。
注２ ふるさと協議会とは、住みよいまちづくりを市民と柏市が一緒になって推進していく「ふるさと運動」の推進組織。町会・自治会長の他、子ども会、老人会、青少年育成団体などで構成されている。
(P.98～P.100記事から抜粋)
