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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

【対米従属】
「対米従属」は、トランプ大統領の発言を利用して軍事力の拡大を目ざす日本政府の戦略である。

「護憲派は何を語るべきか(新外交イニシアティブ事務局長 猿田佐世)」

季刊『社会運動』2018年4月【430号】特集:改憲・戦争に反対する12の理由

 

「アメリカの声」は日本とアメリカの共同作品

 

─「ワシントン拡声器」と猿田さんが名付けた仕組みはどのようなものでしょうか。著書の中では「日本は主体的に対米従属政策を選択している」と指摘されています。

 

 日本政府の政策を問題だと思っている人たちは、集団的自衛権の行使を認める閣議決定や安保法制などについて「アメリカの言いなりになるな」と批判することがあります。そういう側面はゼロではありません。しかし、日本の私たちの認識から完全に抜け落ちているのは、「集団的自衛権を行使できるようにせよ」という「アメリカの声」を作ることに、日本政府や日本の大企業が深くかかわっている点です。なぜ「アメリカの声」を作ることに日本政府がかかわるのかと不思議に思われるでしょうが、それはその声が日本における政策実現のため、極めて有効な追い風となるからです。私は、それを「ワシントン拡声器」と呼んでいます。

 「ワシントン拡声器」は、アメリカの、主に知日派と呼ばれる人たちへ資金や情報を日本から提供して、日本政府や企業に都合のよい発言をちょうどいいタイミングで言ってもらう、あるいは記者が「この問題についてはどういう意見か」とマイクを向けたときに、都合のよい発言をしてもらうという仕組みです。日本の新聞やテレビで報道されている「アメリカの声」は、日米合作の声であると認識していないと、私たちは判断を誤ります。とはいえ多くの人は、「ワシントン拡声器」と言われてもイメージが掴めないと思います。

 例えば「アーミテージ・ナイ報告書」(注1)というものがあります。安全保障に関心のある人なら、ほとんどの方が知っていると思います。この報告書には日本政府への要求事項が書かれており、発表後5年ほどのうちに、その要求は日本国内で実現されていきます。「安保法制を作れ」とか、「秘密保護法を作れ」と報告書に書いてあり、5年以内の間に日本ではそれが実現していきます。

 「アーミテージ・ナイ報告書」は、知日派として知られる政府の元高官であるリチャード・アーミテージとジョセフ・ナイなどが共同執筆したレポートですが、どういう機関が出版しているかはほとんど知られていません。「アーミテージ・ナイ報告書」を出しているシンクタンクは「戦略国際問題研究所(CSIS)」(注2)です。そこへ日本政府は毎年、何千万円もの寄付をしています。大きな視点で見れば、報告書を執筆する研究員の給料の一部は、寄付という形で日本政府が間接的に払っているとも言えます。そこには日本の官僚やメディアからも多くの人が出向しています。さらにCSISに限らず、ワシントンのシンクタンクには、自民党や元民主党で安全保障政策が自民党に近い立場の政治家がひんぱんに出向き、「今国会では集団的自衛権の行使を決めます」、「今国会では安全保障法制を通します」などの折々の日本の情報を伝えています。

 

注1 「アーミテージ・ナイ報告書」とは、2000年に「対日外交の指針」として、リチャード・アーミテージ、ジョセフ・ナイらが超党派で作成した政策提言報告。日本へは有事法制の整備が求められた。その後、2007年に第2次、2012年に第3次報告を発表。第3次報告書では、原発再稼働、TPP推進、秘密保護法制定、武器輸出三原則の撤廃、集団的自衛権行使容認などを日本に求めている。

 

注2 戦略国際問題研究所(CSIS)とは、アメリカ・ワシントンD.C.に本部を置く民間のシンクタンク。超党派を標榜し、民主党、共和党の多くの人材が関与している。ヘンリー・キッシンジャー(元国務長官)やリチャード・アーミテージ(元国務副長官)ら、政権で安全保障政策を担った人物が理事を務める。日本部には、内閣官房、公安調査庁、防衛省、警察庁、NTTデータ、経団連、東京海上日動、JETROなど、常時多くの日本企業や官庁、マスメディアが客員研究員を送っている。

(P.98~P.100記事から抜粋)

 

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