【共謀罪】
一般市民も捜査・犯罪の対象となる「共謀罪」。
戦前に反戦思想を弾圧するために使われた「治安維持法」と重なる。
「市民を黙らせる共謀罪と監視社会 (弁護士 海渡 双葉)」
「共謀罪」は日常的に監視を行う社会を作る
共謀罪は、必然的に盗聴などの監視社会を作ります。なぜかというと、通常の犯罪では、血痕が残っていたり、凶器が見つかったりと、物的な証拠があるので、何が起きたのか、どのような罪に当たるのかは具体的な証拠によって認定されます。しかし共謀罪の要件は計画や話し合いなので、直接的な物的証拠はありません。ですから、どういう共謀があったのかを認定するためには、人びとの日常的な会話、通信、メール、電話やSNSなどを警察が盗聴・監視し、どういう合意があったのかを把握することになります。通信、盗聴、会話の傍受を実施しない限り、共謀罪の「犯人」は検挙できないのです。そのため私たちのプライバシーは日常的に監視される可能性があります。
「自分はやましいことはしていないから、見られてもいい」という意見も聞かれます。その時、私が聞くのは「あなたのメールのパスワードをみんなに公開できますか」ということです。自分のメールアドレスのIDとパスワードを見ず知らずの人に開示しても構わないという人はいないと思います。「監視されている」というのは、「捜査機関の見ず知らずの誰かが日常的に見ている」状態です。気持ち悪いと思いませんか。
すでに2000年に通信傍受法が施行されました。この法律は当初、薬物、銃器、集団密航、組織的殺人の4類型を対象犯罪としていました。しかし「これだけでは今、起きている犯罪に対応できない」とされ、2016年に対象範囲が拡大され9類型になりました。変更前は、盗聴するために警察は捜査令状を取り、NTTなどの通信事業者へ赴き、事業者側も立ち会って通信を聞かなくてはいけませんでした。盗聴している間、警察官も事業者も、ずっとその場にいる必要があるので、時間も手間もかかります。そこで今回の変更で、暗号化した通信内容の情報を、捜査機関に設置された装置へ電送することを可能にしたのです。手続きが簡素化されたことで、通信傍受の捜査がかなり拡大するのではないか、職権の濫用が起こるのではないかと危惧されます。さらに、共謀罪には物的証拠がほとんどないため、捜査機関の憶測に沿った自白偏重の取り調べが行われる可能性が高まります。同時に改悪された刑事訴訟法に司法取引が導入され、密告が奨励されるようになりました。今後、えん罪事件が増えることも危惧しています。
市民運動を弾圧する「共謀罪法」を廃止に!
共謀罪の目的はテロ対策ではなく、「モノ言う市民」を監視し、萎縮させ、黙らせるためにあります。その意味で、沖縄での市民への弾圧は重大な問題です。沖縄平和運動センター議長の山城博治氏(注2)は、基地工事に反対するためにブロック塀を積んだことで、「威力を用いて業務を妨害する」威力業務妨害という罪に問われています。基地や原発に抵抗するために座り込みをすることがありますが、反対のためのそのような行為を、検察や警察は「威力業務妨害」と考えているわけです。威力業務妨害を組織的にした場合、共謀罪の対象になります。つまり沖縄で米軍基地反対のために座り込みをして「業務を妨害している」平和団体を、警察は組織的に威力業務妨害を計画している団体だと見なし、今後は共謀罪の対象にする可能性があるわけです。その場合、座り込みの「話し合い」をした時点で検挙できます。共謀罪との関係で見ると沖縄の弾圧状況はとても危険性が高いと言えます。
しかし、「共謀罪ができて怖い」と口をつぐんでいたらどうなるのでしょうか。今こそ私たちは声を上げ続けなければいけないのです。出る杭が1本だけなら、その人に共謀罪が適用される可能性が高いけれど、みんなで「共謀罪には負けない」と声をあげていければ、そうはなりません。1925年に制定された治安維持法も、当初は共産党の運動を取り締まることが目的とされましたが、徐々に対象を拡大、1941年には全部改悪され、多くの国民が取り締まりの対象になりました。ですから、共謀罪を廃止するために声を上げ続けていく、そして共謀罪に限らず様々な社会問題についても声を上げ続けていかなくてはなりません。
最後に前述した「シカゴセブン事件」のスローガンを紹介します。
「もしも戦争を終わらせる共謀があるのなら、
もしもレイシズム、民族差別主義を終わらせる共謀があるのなら、
もしも文化的な革命への抑圧を終わらせる共謀があるのなら、
私たちはむしろ、その共謀に加わらなければならない」
市民を黙らせる共謀罪法は、廃止しなければいけないし、そのためには市民活動を止めることなく、むしろ進めていくことが重要だと思います。(構成・編集部)
注2 山城博治氏は、沖縄県名護市辺野古の米軍新基地建設に反対する市民運動のリーダー的存在。2016年10月、抗議活動に関連して器物破損容疑で逮捕され拘留。その後、威力業務妨害等三つの容疑で再逮捕、起訴。拘留は異例の152日間にも及んだ。2016年6月国連人権理事会で、日本政府による沖縄での人権侵害を訴える。2018年3月15日、沖縄地裁で有罪判決が出されたが、即日控訴した。
(P.150~P.153記事から抜粋)