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ヘイ卜デモの標的になった川崎の多文化共生地区、桜本の闘い (神奈川新聞記者 石橋 学)

季刊『社会運動』2018年10月【432号】特集:ヘイトスピーチは止められる差別のない社会をつくろう

─そして5月24日、ついにヘイトスピーチ解消法が成立する。

 「市民の声を議員が受け止め、法律ができた。崔さんの意見陳述と桜本の視察から、成立への勢いが加速したのは明らかで、そういう意味では『桜本法』と呼びたいくらいの法律です」
 ヘイトスピーチ解消法が成立する少し前の5月15日、ふたたび川崎でヘイトデモが行われるという情報が走った。決行予定日は6月5日。デモの集合、集会に使う公園の利用申請も済んでいたが、ここに初めて、法律が待ったをかけた。福田紀彦川崎市長は、ヘイトスピーチ解消法成立から1週間後の5月31日、公園の使用を認めないことを決め、本人に通知したと公表した。さらに6月2日、横浜地裁川崎支部は、主催者の津崎氏に対して桜本でデモを行うことを禁じる仮処分決定を出した。これもヘイトスピーチ解消法を受けての判断だ。
 それでも諦めない津崎氏は、場所を桜本から約8キロの距離にある中原区に変え、ヘイトデモを決行。神奈川県公安委員会と神奈川県警は、デモと道路使用の申請を許可していた。
 「デモは予告通り6月5日に実施されましたが、警察の対応は、明らかにこれまでと違っていました。抗議のために集まった1000人規模とも思える市民を排除しようとする警察官は、一人もいませんでした。これまでのヘイトデモでは、警察はカウンター側を向き、その動きを制していただのですが、このときはヘイトデモのほうを向いて、カウンターの人たちを守るような格好だった。
 大手メディア、例えば「ニュース23」(TBS系)の取材も入っていて、警察が津崎氏を説得している様子が映し出されました。『もうこれ以上デモをやると危ないですよ、どうしますか』と。津崎氏にしてみれば、道路使用許可は取っているわけだし、これまで通り自分たちは警察に守られると思っていますから、『(カウンターの)あの連中を排除しろよ』と、警察官に向かって命令するわけですよ。でも、『それはできません』と突っぱねられる。『なんでだよ!』とすごむ津崎氏に、『これが国民世論の力です』と。決定的な一言ですよね。
 津崎氏としては、そんなことを言われるなんて、思いもしなかったでしょう。自分たちは合法的に許可を得ているけど、車道で座り込んでいるあいつら(カウンター)は無許可。道路交通法違反じゃないかと。それが正当な主張だと本気で思っていた。でも、世論だと言い返されてしまって、解消法による変化を思い知った。市民の声が、国家権力を動かしたという意味では、すごいことだと思います。法律の力を目の当たりにする思いでした」
 「しかし」と、語気を強めて石橋さんが言う。
 「本質的な勝利には、ほど遠いと言わざるを得ません。世論で警察が動くのであれば、世論が弱まればまたもとの状態に戻ってしまうことになる。本当ならば、世論の勝利ではなく、"人権の勝利"を獲得しなければならないはずなんです」
 実際、石橋さんの懸念は現実のものとなっている。
 「解消法の施行直後に行われた6月5日のヘイトデモでは、川崎の市議会議員が全員一致で、津崎氏に公園を貸さない措置を断固として取るべきだという要望を出しています。市長もそうした後ろ盾があったからこそ、英断に踏み切れた。そういった経緯から、6月7日の定例会見で、市長は『オール川崎』という言葉を使っています。市民と議会、行政が揃ってヘイトスピーチを許さないことを示すことができてよかったと。
 ところが、18年6月3日、これまで数々のヘイトデモを主催してきた在日特権を許さない市民の会(在特会)の元会長の桜井誠氏らによって結成された極右政治団体「日本第一党」の最高顧問、瀬戸弘幸氏が川崎区の市教育文化会館で集会を開こうとしたところ、市長はそれを不許可にする判断をせず、議会もそれを求めることはありませんでした」

(P.78~P.80記事から抜粋)

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