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全国初の大阪ヘイトスピーチ対処条例は差別発言にどこまで対応できているのか (コリアNGOセンター代表理事 郭 辰雄)

季刊『社会運動』2018年10月【432号】特集:ヘイトスピーチは止められる差別のない社会をつくろう

国が作るべき差別を許さない仕組み

 郭さんは、ヘイトスピーチに対する活動についてこう語る。
「僕らとしては、在日コリアンが傷つくようなことに対しては、きちんと声をあげなければと思って、鶴橋でカウンターをやったりテレビ番組にも抗議してきました。
 しかし一番大きな壁になったのが『表現の自由』という問題です。役所も警察も『お気持ちは非常に分かるけれど、表現の自由がある以上、権利としては認められるので止められない。何か対応が必要というのは分かっても根拠法がない』というのです。だから何も動かない。
 国が2016年、『ヘイトスピーチ解消法』を作りました。これには画期的な意味がありました。ヘイトスピーチは許されないとハッキリ言明した。今までそれがなかったので、悪いことだと初めて言ったことが一番大きな成果です。
 その前に大阪市は条例を作りました。しかし、橋下氏からのトップダウンで結論ありきで来ていますから、自治体としてこれをやるんだという足腰の強さがない。そこが川崎市と決定的に違います(71ページ参照)」
 ヘイトスピーチやデモは、大阪市内を見ても件数は減少している。規模も縮小傾向だ。しかし、この条例の効果だとは言えないのが現実なのだろう。
 「鶴橋駅前でのヘイトスピーチは、われわれの事業に多大な影響を与えるということで、禁止の仮処分(16年12月20日)を取り、実質、駅前でヘイトスピーチは行えなくなりました。しかし在特会は、日本第一党という政党を作った。大阪でも候補者を立てる予定です。
 大阪の条例やヘイトスピーチ解消法の問題点や限界が分かったところで、何をすべきか。
僕らのNGOが元々やろうとしているのは、『人種差別撤廃基本法』という法律を作ることです。
 ヘイトスピーチは、人種差別の一形態で、表現行為だけを対象にしても根絶は難しい。人種差別はいけない、禁止すべきだということで、人種差別撤廃条約に基づいて国内法を作る必要があります。
 しかし、自民党や公明党は、『間口が広すぎる。ヘイトスピーチに絞らないなら自分たちは賛成できない』となり、ヘイトスピーチ解消法を作ったわけです。
 そしてできたのは、禁止規定も罰則規定もなく、教育の充実と相談体制の整備、市民への啓発の三つだけで、国や地方自治体が何をするかなどの基本計画もないものでした。やっていることといえば、『ヘイトスピーチはだめですよ』というポスターを法務省が貼っているだけです。
 やはり、差別を許さない国の仕組みづくりをすることが大事なのに、それがまったくできていないのです」
 ヘイトスピーチに対する大阪市の条例、それに関連する事象を見てきたが、問題は山積みである。差別なき社会をつくるために、一つひとつ解決策を考えなければならない。

(P.118~P.120記事から抜粋)

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