人権尊重と自由選択を原理とするオランダの福祉政策(教育・社会研究家 リヒテルズ 直子)
受益者の自由選択に任せることでクオリティを上げる
さて、このように見てくると、オランダの福祉制度には、社会意識として、①救貧院に象徴されるキリスト教的ヒューマニズムの伝統、②1960年代末以降の人権・環境運動による機会均等やインクルージョンの意識、③ワークシェアリングから生み出されたボランティア参加意識、④学校で育てられる自立や共生に向かった市民的態度、などが時代の変化とともに重層的に関わっていることがわかるのではないだろうか。
戦後、縦割り社会の伝統が崩れたとはいえ、学校や福祉に関わっている非営利団体の多くは、今も、縦割り社会の原型を象徴的にとどめている。こうした多元的な民間団体が、公共政策を現場で担う一方、国は、機会均等やインクルーシブな社会を求める市民の声を反映し、市民らの参加に期待しつつ、規制を定める。
一般的には、国や自治体は、公的団体にも、教会等の民間団体などどんな団体に対しても、公平に一律同額の補助を与え、同時に受益者保護のために、職員の資質・給与、施設基準などの最低要件を法規で設定する。その上で、受益者にはサービスを受ける団体を「選択する自由」を与えることによって、現場の各種団体が、創意工夫を凝らして、より高いクオリティのサービスを提供するために「競い合う」。その結果、全体の福祉の質を、一方では、受益者のニーズによりかなうものへ、他方では、他国に比べて比較的安価でより高いクオリティのものへとレベルアップさせてきた。