オランダ、福祉クラブ、風の村―参加型福祉の可能性を拓く(市民セクター政策機構 専務理事 白井 和宏)
―「将来を想定して現在を営む」
それにしても戦後、一貫して「経済成長」だけを追い続けてきた日本と異なり、将来を見通して準備に余念のないオランダという国はいかにして成立したのだろうか。
作家の司馬遼太郎は『オランダ紀行』(朝日新聞社、1991年)で次のように語っている。
「この国のひとびとは、堤防をつくって内側の土地を干拓し、干拓地に運河を掘って地面を乾かし、さらに運河の水を排水するポンプの動力として風車を利用してきた」
国土の4分の1が水面下にあるオランダでは、干拓と堤防建設によって治水を行ってきた。
「紀元前から、国土そのものを自分自身でつくってきたオランダにとって、将来を想定して現在を営むというのは、詩でなく、土工の一鍬一鍬の現実であったし、いまもそうありつづけている」「オランダ人にとって歴史は抽象的なものではなく、また未来もこれほど露骨に具体的なものはない」
この「将来を想定して現在を営む」というオランダ人の精神が、「オランダモデル」と呼ばれる先進的な社会を築き上げてきたのであろう。そして「洪水」を防ぐために、全員で議論を闘わせながら合意を高める「オランダ民主主義」をつくり上げてきたとも言われる。
とはいえ現在に至るまでには彼らも大きな犠牲を払ってきた。例えば1953年に起きた洪水では、1835人が犠牲となり、20万人が家を破壊されるというオランダ史上最大の被害が生じた。再発を防ぐための工事が完成したのは、1997年のことだった。
―参加型福祉に未来を托す
高齢者問題は家族や我が身に降りかかることがなければ、どうしても他人事になる傾向がある。しかし予測困難な自然災害の「洪水」とは違って、超高齢社会が何年後に、どの規模で到達するのかはすでに明確になっている。それにも関わらず遅々として対策が進まないのは、私たちに「当事者感覚」が不足しているためではないだろうか。しかし、前出の藤田孝典さんが指摘するように「まもなく、日本の高齢者の9割が下流化する」のである。国の施策を待っていられる段階はとうに過ぎ去ってしまった。市民一人ひとりの判断と行動が問われるべきであり、それ以外に悲劇を避ける道は残されていない。
遅きに失した感もある日本だが、ようやく様々な試みが全国各地に広がり始めた。さらにスピードを上げて、一刻も早く全国規模で参加型福祉社会の構築を進めたい。明るい未来は困難としても、国の無策による「犠牲者」を一人でも減らすために。