薬の裏側を私たちは何も知らない(一般社団法人市民セクター政策機構 代表専務理事 白井和宏)
コンビニ気分で薬を買う時代の危険性
コンビニより薬局の店舗数が多い時代だ(コンビニの5万6000店に対して、薬局は5万9000店)。買い物ついでに、ちょっと薬局に立ち寄る人も多いだろう。
鎮痛剤、胃腸薬、サプリメント……「とりあえず飲んでおけば安心」のような気もする。でもその気軽さは要注意。社会問題になっている高齢者の「多剤服用」とつながっているからだ。そもそもは、若い頃からの薬の服用がきっかけで、歳を重ねれば、複数の専門医にかかるようになる。医師はそれぞれ2?3種類以上の薬を出すので、どんどん薬が増えてしまう。75歳以上になると4人に1人が、7剤以上の薬を飲んでいると言われる。
薬の副作用にご注意
薬の飲み過ぎは危険だ。薬が相互に作用して、だるくなる、ふらつく、物忘れ、さらには転倒するといった症状が起きやすくなるからだ。(注1)
「専門医に行って、たくさん薬を飲んでおけば安心」と思い込むのは誤解である。漫然と飲み続けている薬があれば、減らすことも考えていただきたい(急にやめると危険な場合があるので、医師と相談の上)。
薬はどのようにして「売られて」いるのか
不気味なのは、市民には見えない形で、製薬会社・メディア・医師が連携して、薬を広告し販売していることだ。どの薬を処方するのか、その判断は医師に委ねられている。そこで製薬会社は自社の薬を医師に使ってもらうため、様々な営業活動を行う。食品企業がスーパーの担当者に営業活動を行うのと同じことだ。
手っ取り早いのは医師への謝礼金だ。例えば、研究開発費や原稿執筆料など。講演料の相場は、10万?20万円程度と言われる。ただし世間からの批判を浴びて、こうした医師個人への支払いについては2014年から製薬会社も公開するようになった。
ところがいまだ、製薬会社からマスコミを通じて医師に支払われる謝礼はブラックボックスのままだ。例えば、製薬会社は、広告代理店を通じて、共同通信社に新薬の情報を提供する。そして共同通信社は、全国のメディアに、あたかも客観的な「報道」として記事を配信し、全国の新聞が掲載する。その「報道」にコメントをしてくれた医師に謝礼が支払われる巧妙な仕組みだ。(注2)
スーパーで買う食品なら「原材料」も表示されているし、それを買うか否か、判断する権利は消費者にある。ところが医師に処方されたまま飲んでいる薬の成分を私たちは何も知らない。薬の裏側を真剣に考えてみたい。
注1 出典:「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」
注2 ジャーナリズムNGOワセダクロニクル「買われた記事」
http://www.wasedachroni
cle.org/category/articles/buying-articles/
(P.10~P.11記事抜粋)