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01:新薬販売のために設定した製薬会社の巧妙な仕組み(ジャーナリスト 鳥集 徹)

季刊『社会運動』2019年7月【435号】特集:医薬品の裏側 クスリの飲み方を考える

その認知症治療薬は大ヒットしたが問題のある薬だった

 

 エーザイは前世代の認知症治療薬「アリセプト(一般名:ドネペジル)」で、大儲けしてきました。これについては、社会的に正当な利益だったと言えるのか、私は疑問を持っています。なぜなら、当初からアリセプトの効果については、過大な期待をしないよう警鐘を鳴らす専門家の指摘があったからです。
 米国の神経学専門誌に掲載された治験データによると、アリセプトは「ミニメンタルステイト」という30点満点の認知症テストで、投与群が0・4点改善し、偽薬群が約1点悪化した程度の効果しかありませんでした。また、日本で行われた臨床試験でも、介護家族が「軽度改善した」と評価した例は実薬で36%、偽薬で30%と、ほとんど差がありませんでした。一部の人にはよく効くこともあると聞きますが、それも長くは続きませんし、そばで見ている家族も実感しにくいほど効果が微妙な薬なのです。
それだけではありません。アリセプトには食欲不振や嘔吐・下痢といった消化器症状のほかに、怒りやすくなる、興奮しやすくなるといった副作用もあります。認知症の専門医や介護職の方々に取材すると、「怒りやすかった人がアリセプトをやめたとたん、穏やかになる」ということはよくあるそうです。
 このように、効果が微妙なだけでなく、副作用の問題もある薬なのに、アリセプトは米国で1997年、日本で99年に販売が始まると、世界的な大ヒット薬となりました。ピーク時の2008年度には全世界で約34億ドル(当時のレートで1ドル100円と計算すると、約3400億円)も売り上げ、国内でも11年度に1442億円と医薬品の中でトップの座に輝いたのです。

 

 DTC広告によって売れていった認知症治療薬

 

 なぜ、アリセプトはこんなにも売れたのでしょうか。一番は、それまで認知症にまともに使える薬がなかったことです。そのため、世界初の本格的な認知症治療薬として、テレビや新聞がたびたびその話題を取り上げ、多くの患者、家族、医療関係者の期待を集めました。
 さらに、アリセプトを販売するために、様々なプロモーションが仕掛けられました。その中心となったのが、医師や一般消費者に向けた「認知症の早期発見・早期治療」キャンペーンです。たとえば、11年頃から、エーザイはアニメの「ちびまる子ちゃん」を起用した一般消費者向けのテレビCMを流していました。
 そのCMでは医師らしき白衣の人物が登場し、「(認知症になったら)どうしたらいいの?」とたずねるまる子ちゃんに対して、「まず相談です。(中略)早く相談すれば、今の生活をより長く続けられることも」と語っていました。そして、最寄りの相談窓口を案内する「認知症ダイヤル」の電話番号が表示されました。
 一見、困った人に手を差し伸べる公共的で親切なCMに見えるかもしれません。しかし実は、この認知症ダイヤルを運営しているのはエーザイです。つまり、認知症が心配な人や家族の相談に乗ることで、最寄りの医療機関への受診につなげ、最終的にはアリセプトの服用につなげることを狙ったCMなのです。

(P.14~P.16記事抜粋)

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