05:暮らしの全体像から処方を見直す-高齢者の医薬品適正使用の指針を読む(国立研究開発法人国立長寿医療研究センター薬剤部 溝上文博)
例えば高齢者が食欲不振で、ご飯が食べられないので受診したとしましょう。医師は食欲を増進する薬を出そうとします。しかし本来は、なぜ食欲不振になっているのかに対応する必要があるわけです。場合によっては、薬が原因で食欲不振になっているかもしれません。痛み止めや抗血栓薬、骨粗鬆症の薬には食欲低下を招くものがありますし、薬によって口の中がすごく苦くなって味覚異常を起こし、食欲が低下する場合もあります。それを加齢による症状と勘違いをして、薬を追加してしまうことで「処方カスケード」と呼ばれる状況になります。薬の副作用に薬を処方するような状況です。特にいまの病院は、すぐ横に調剤薬局があることが多いので、患者もかかりつけ薬局だけに行くということはなかなかなく、病院のそばの薬局に行ってしまいます。複数医療機関、複数診療科、複数薬局に行くことで、その患者の症状全体を誰も把握できなくなっています。
そもそも薬の主作用と副作用は、私たちが期待する作用をどちらにとるかで変わるんです。例えば睡眠改善薬として市販されている「ドリエル」という薬は「ジフェンヒドラミン」とも呼ばれる薬ですが、もともとは痒み止めの薬です。その副作用として眠くなってしまうことから、逆にそちらを主作用としてとらえただけなんですね。その場合、副作用として痒みも止まりますが、特に痒みがなければそれに気づかないというだけです。
またサプリメントも薬との組み合わせによっては危険な場合もあります。グルコサミンのサプリメントにはカルシウムが多く含まれているものがあって、それを飲んでいる人が骨粗鬆症でカルシウムの血中濃度を上げる薬を処方されて、高カルシウム血症になって入院をしたという事例を私も経験しています。食事でカルシウムを摂る分には問題はないのですが、サプリメントとなると過剰になってしまう可能性があります。
(P.110~P.114記事抜粋)