永久革命としての民主主義(山口二郎・法政大学教授)
「およそ民主主義を完全に体現したような制度というものは嘗か つても将来もないのであって、ひとはたかだかヨリ多い、あるいはヨリ少ない民主主義を語りうるにすぎない」
————「市民社会が変わる」ためには知識人の役割が重要だと思いますが、山口さんは丸山眞男先生をとても尊敬なさっていますね。
私が東京大学に入ったのは1977年です。すでに丸山眞男先生は大学をお辞めになっていて、直接、講義を聴く機会はありませんでしたが、私たちの世代でも大学に入ったら丸山眞男の本は読むべきというような常識があり、私も読みました。丸山先生は、戦後すぐの段階で、「すべては条件的なもので、ユートピアなどはない」という民主主義のリアリズムをよく理解されていました。丸山先生はよく、「永久革命としての民主主義」という言葉を使っていましたが、『現代政治の思想と行動』(未来社、増補版、1966年)という本でも、「およそ民主主義を完全に体現したような制度というものは嘗(かつ)ても将来もないのであって、ひとはたかだかヨリ多い、あるいはヨリ少ない民主主義を語りうるにすぎない。その意味で『永久革命』とはまさに民主主義にこそふさわしい名辞である」と記されています(同書P574)。
こうして私たちの世代は、もう革命なんて起こりえないという前提で政治を考えるようになったわけです。知的な面でのラディカリズムはいろいろとあり得るでしょうが、実際の政治の中でのラディカリズムなんて害をなす方が多いという感覚が強かったのです。社会主義は完全に自信を失っているし、日本の学生反乱や大学紛争にも負の遺産しかない。そこに、非常に謙虚なというか、つつましい理想を持って政治に関わるという発想だったのです。