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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

2.政府の圧力に対抗できない日本メディアの構造(英国エセックス大学人権センターフェロー 藤田早苗)

季刊『社会運動』2020年1月号【437号】特集:「もうテレビは見ない~メディアの変質とつきあい方」

ジャーナリストではなく会社員。

「権力の監視役」が根付かない


─日本のメディアは何が問題なのでしょうか。


メディアの役割は、市民の側に立って権力を監視する「番犬/監視役(public watch dog)」であることです。欧米の大学のジャーナリスト養成コースでは、最初にこのことを叩き込まれますが、日本ではそういう教育は行われていないので、メディア関係者に権力監視の役割が根付いていません。
 欧米のジャーナリストは専門家として、いろいろな新聞や雑誌、テレビ局で働いてキャリアを築いていきます。しかし日本の場合、フリーランスや独立メディアを除くと、新卒でテレビ局や新聞社などに就職する人がほとんどです。そして一度入社するとずっとその会社にいて、記者から経営者側に入ることもあります。
 日本のメディア関係者はジャーナリストというより会社員なのではないでしょうか。彼らは自分のことを「ジャーナリストの〇〇です」とは言わずに「NHKの△△です」、とか「朝日新聞の××です」と名乗ります。会社員であれば、メディアの独立性を守るより会社の利益を優先することになります。そして会社に所属しているために、記者同士の横のつながりも弱い。
 最近、東京新聞の望月衣塑子氏が内閣官房長官記者会見で不当な扱いや圧力を受けたことで、一部の記者は彼女と連帯する動きがありますが、それは決してメインストリームではなく、記者が団結しているとは言えません。記者会見中の彼女への質問妨害も、もしイギリスでそういうことが起きれば他社の記者も一緒に退室するなどして抗議するでしょうが、日本ではそういう連帯は見られません。
 ケイ氏の報告書の中で、朝日新聞の記者だった植村隆氏が「慰安婦」問題の記事に関してバッシングを受け、近親者が暴力の脅威にさらされたことについて、「メディア関係者は植村氏に対し、より強い支持を表明しすべての報道活動のあらゆる脅迫やハラスメントからの保護について、より強力なアピールを行うこともできたはずだった」と記しています。
 また、ケイ氏が植村氏へのハラスメントに言及していることは、世界的にジャーナリストの安全を守ろうという機運が高まっている視点からもとらえる必要があります。
 近年、政府が嫌がるような調査報道をしたジャーナリストが命を狙われたり危害を加えられる事例が増えています。国連によると、この10年ほどの間に1000人を超えるジャーナリストが、職務中に殺害されました。
 2018年にジャマル・カショギ氏がトルコのサウジアラビア大使館内で殺害されたことは記憶に新しいと思います。17年にはマルタで、首相夫妻の不正をパナマ文書で暴いたダフネ・カルアナガリチア氏が車に仕掛けられた爆弾で殺害されました。こうした殺人事件の10件に9件は解決されておらず、誰もその責任を問われていません。
 このため、国連では「ジャーナリストが標的となれば、社会全体が代償を払うことになる」と、11月2日を「ジャーナリストへの犯罪不処罰をなくす国際デー」としています。
 また、日本ではあまり知られていませんが、5月3日は国連が定めた「報道の自由デー」で、毎年ユネスコが主導して大規模なカンファレンスが開かれており、ケイ氏はそこにも招聘されています。
(P.35~P.37記事抜粋)

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