8.市民が育てる「公共」としてのテレビ(東京大学大学院教授 林 香里)
制作現場にテレビ局の社員はいない
─テレビはどのような状況なのでしょうか。
テレビはもともと娯楽の媒体です。でも、娯楽の質も悪くなっていますよね。人を馬鹿にしたり、からかったり、低俗なバラエティ番組がたくさん出てくるのはなぜなのか。
いま、テレビの制作現場にはテレビ局の社員はほとんどいません。一部の報道番組はテレビ局で制作していることもありますが、バラエティ番組や情報番組は番組制作会社に外注しているので、テレビ局自体がクリエイティブな集団になっていないんですよ。スポンサーから広告料をもらって、そのマージンを取って下請けに制作料を渡して番組を作らせている。小さな下請け的番組制作会社がたくさんあって、そこではテレビ局の社員の半分くらいの給料でみんな働いています。時間も資金もないそんな環境ですから、不十分なリサーチで番組を作らざるを得ないのです。いまのテレビ局はホールディングス(持ち株会社)化され、ビルを貸すとか、テレビ番組の枠を広告代理店に売るという営業ばかりしていて、実際のコンテンツにはかかわらない。そういうビジネスモデルになっています。
NHKにもNHKエンタープライズという制作子会社がありますが、民放よりは自局で制作している番組は多いと聞いています。ただNHKは、もはや高齢者が見るテレビになっていて若い人の視聴率がどんどん下がっているので、ひどく視聴率を気にするようになっています。CMがないのだから気にする必要はないのに、視聴率にがんじがらめになっていて、NHKらしくない番組も作られていますよね。
「視聴率がすべて」でよいのか
─視聴率の影響はそんなに大きいのですか。
民放の場合、視聴率に連動して広告料が入ってくるわけですから、視聴率がテレビ局の最大の関心ごとです。番組と番組の間に入る15秒間のスポットCMは、一定の延べ視聴率に達するまで繰り返し放送することになっています。ですから、視聴率が低いとずっと同じCMを流し続けなくてはいけません。そうなると次の新しいCM契約を取れなくなってしまう。ともかく、たくさんのCM契約を取るために視聴率を高止まりさせておく必要があります。ある一つの番組の視聴率が高くても、次の番組までにチャンネルを変えられてしまったらCMの視聴率は下がってしまう。そうならないように、とにかく視聴者をチャンネルに留まらせるために番組を無難なものにせざるをえなくなるのです。
「視聴率が見込めそうもない番組は作らない」「冒険はしない」「危ない橋は渡らない」となって、テレビ局はますます斬新なアイデアで番組を作ることができなくなっています。
(P.132~P.134記事抜粋)