「子どもの貧困」とは「親の貧困」―児童虐待の背景を考える(一般社団法人市民セクター政策機構 代表専務理事 白井和宏)
16万件にのぼる児童虐待
児童相談所による虐待への対応件数が急増し続けている。1990年には1100件程度だったが、2018年度には「過去最悪」の16万件にのぼった。28年連続での増加だ。
18年3月に東京都目黒区で5歳の少女が虐待死した。「しつけ」を強要して暴力をふるった父親に、少女は「もっとあしたはできるようにするからもうおねがいゆるして」とノートに書き残していた。
こうした事件が相次いだことから、19年6月に「児童虐待防止法」が改正された。親がしつけと称して体罰を加えることを禁止し、児童相談所の体制も強化されることになった。
政府は「(虐待の)根絶に向けあらゆる手段を尽くす」と表明したものの、この改正では児童虐待は防げないという指摘は多い。
減少している「虐待死」、増加している「心理的虐待」
実際には、虐待死した子どもの数は(無理心中も含め)減少している。2007年に142人だったのが、18年度は65人だった。
それでも児童相談所による対応件数は年々、増加し続けているのはなぜだろうか。
18年度に児童相談所が対応した16万件のうち、約半数は警察から児童相談所への通告によるものである。「配偶者(もしくはパートナー)から暴力を振るわれている」との連絡を受けて警察が介入するようになったことで、子どもに「心理的虐待」を与えていることが発覚した。
その結果、子どもの前で暴力をふるう「面前DV(ドメスティック・バイオレンス)」と判断した警察が、児童相談所に通告しているのである。
19年1月に千葉県野田市で10歳の少女が死亡した事件でも、父親は子どもに対する傷害致死罪と、母親に対する暴行罪に問われている。
虐待する親の問題を考えよう
「子ども食堂」は全国で3700カ所を超えた。人びとが「子どもの貧困」に対して支援を広げていることは素晴らしいことだ。
ただし、「子どもの貧困」とは「親の貧困」であり、児童虐待の背景にあるのは親の貧困問題であるといわれる。ちなみに、貧困層=シングルマザーというイメージが強いが、数として多いのは「二人親家庭」だという指摘がある(*)。
虐待の原因が全て貧困にあるわけではない。しかし、家庭の貧困が影響して虐待が起こり、子どもにはDVの後遺症が残り、就労が困難となって貧困に陥る「貧困の連鎖」が生まれることは明らかになっている。
1990年代半ば以降、非正規労働やワーキング・プア(働く貧困層)が増え、それに比例して児童虐待相談件数も増えている。結局、親の貧困問題が解決しない限り、虐待も増え続けることになるだろう。児童虐待の背景にある貧困をはじめとする様々な問題を考えながら本書をお読みいただきたい。
*阿部彩・鈴木大介著『貧困を救えない国 日本』(PHP新書2018年)
(p.4-P.5 記事全文)