1.子どもひとりに寄り添い健やかな成長を支える(社会福祉法人生活クラブ理事長 池田 徹)
出生前から若者までトータルに支える仕組みづくり
─事業はどのように広がっていったのでしょうか。
千葉県君津市に現在ある生活クラブ風の村の施設は、0〜2歳児が暮らす乳児院、おおむね2〜18歳の子どもが対象の児童養護施設、おおむね15〜20歳までの若者を対象とする自立援助ホームです。
まず2013年、「尊ばれ、癒され、育まれる」を基本理念とする児童養護施設「生活クラブ風の村はぐくみの杜君津」(以下、はぐくみの杜)が開所しました。家庭的に生活することが大事だと考えたので、少人数のグループに分かれて生活する小規模グループホームを6ユニット作りました。
また、2013年に人力舎の運営を生活クラブ風の村が引き継ぎ、自立援助ホーム「生活クラブ風の村 人力舎君津」として現在に至っています。児童養護施設を退所した子どもたちが、経済的な自立を目標に就労しながら暮らす場所であり、心や体を休めるために帰ってくる場所にもなっています。
2017年には、はぐくみの杜の敷地内に、乳児院「生活クラブ風の村はぐくみの杜君津赤ちゃんの家」を開所しました。同じ敷地内というのが大事なポイントです。乳児院は0〜2歳児が生活する施設なので、満2歳を過ぎると「措置変更」といって、児童養護施設に移されます。慣れ親しんだ環境から切り離されて、全く別の場所へ移動させられることは、2歳の子どもにとっても大きなストレスになります。子どもにつらい思いはさせたくないですよね。あるとき髙橋さんから、はぐくみの杜の敷地内に空き地があるので、乳児院を作りたいと提案があったのです。措置変更によって受けるストレスを少しでも減らす、一つのあり方になるだろうと思います。
なぜ君津市だったのかというと、髙橋さんが君津市で人力舎をやっていたこともありますが、偶然、児童養護施設の土地が君津市で見つかったからです。偶然とはいえ、この君津市の小糸地区に決まって本当に幸運だったと思います。小糸地区の方々に事前説明に伺ったときに、こんなやり取りがありました。世間的には、児童養護施設は迷惑施設の一つです。住民の方々からは「入所する子どもたちは悪いことをしたりしないのか」と率直に聞かれました。髙橋さんが「普通するでしょう、子どもですから。しないことはないです」と答えると、「そりゃそうですね」と。最後には「私たちは何をすればいいんでしょうか」と言ってくれました。小糸地区の方々は「小糸ではぐくみの杜を支える会」をつくって、食事づくりや庭仕事、学習支援など様々なボランティア活動にかかわり、子どもの成長を支えてくれています。また、生活クラブ生協千葉の多くの組合員がかかわってNPO法人「はぐくみの杜を支える会」が設立されて、三つの施設の子どもたちを支援するために基金集めやボランティア活動を行っています。
2017年には、施設を退所した若者の相談事業を担う「ちばアフターケアネットワークステーション(通称CANS)」(事務所・千葉市稲毛区)をスタートしました。
一方で、児童相談所における虐待に関する相談件数が年々増え、虐待死のニュースが流れるたびに、私もたまらない思いでいました。そこで、アフターケア事業の動きと並行して、赤ちゃんの命を守るためには他にどんなことができるだろうかと情報を集める中で、特別養子縁組制度(84ページ参照)のことを知り、生活クラブ風の村でも準備を始めたのです。2019年に千葉市から運営認可が下りて、11月から「特別養子縁組あっせん事業部ベビースマイル」(事務所・千葉市稲毛区)を開始しました。
こうして生活クラブ風の村は、「出生前から看取りまで」事業が拡大しました。その理由は、ニーズがあったからとしか言いようがありません。それでもいまの事業は、ニーズの一部にしか応えられていませんので、今後もニーズをとらえて応えていきたい、と考えています。
生活クラブ風の村で今後取り組めればよいと思うのは、生活困窮の子どもに対する学習・生活支援です。それと、家や学校や地域にも居場所がない子ども、なかでも少女へのサポートです。繁華街にいる少女たちに声をかけて相談に乗ったりサポートする活動に取り組む女性に聞いたことですが、「少女たちに声をかけ、住まいや仕事を提供し、親身になってくれるのは、ほとんどが風俗業界の男性。福祉は風俗に負けている」そうです。ですから、そうした女性向けの相談機能を千葉県内の繁華街につくることも必要ではないかと思っています。とはいえ学習・生活支援も、相談機能も、そうそう簡単にできるものではないので、人との出会いに負うところが大きいと考えています。
(P.55~P.57記事抜粋)