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市民セクター政策機構

市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

1.若者への自立保障は崩壊する地域社会を再建させる(方法大学、千葉大学名誉教授 宮本みち子)

季刊『社会運動』2020年4月【438号】特集:子どもの命を守る社会をつくる

貧困が可視化されない想像力の欠如


─「7人に1人の子どもが貧困」という現実がなかなか実感できない人もいます。

 終戦直後の日本はみんなが貧しくて、お金を使わない生活が普通でした。人びとの間に「みんなが貧しい」という思いがあり、貧困に対する共感がありましたし、子どもの教育にもそれほどお金がかかりませんでした。みんなが貧しかった時代は、貧しさが如実に見え、隠しようもない社会だったのです。経済的に厳しい家の子が中学校を卒業して働くことも珍しくありませんでした。その後日本は、高度経済成長を遂げ、「一億総中流時代」となって、「経済大国」と言われるようになりました。
 一度豊かさを経験した後の長期停滞だから、「貧乏は恥ずかしい」という気持ちが人びとに強くあって、貧しさが隠され、貧困が見えづらい状況になっています。ですから、「いまの日本にそんな貧しさなんてどこにあるんだ」という人もいます。当事者が隠しているから本当に苦しくても支援機関に来ないのです。貧困と社会的孤立が合体している状態です。しかも、人びとに貧困を感知する力がない。毎日学校に同じ服を着て登校し、ふろにも入っていない様子の子どもがいると、先生は「お母さんがだらしない」と思ってしまいます。学校の先生でさえ貧しさがイメージできないのです。そういう子どもは、いじめの対象にされ、孤立、疎外を感じています。貧しさへの共感や想像力が働かないことが、豊かさを一度経験した日本の不幸かもしれません。

─貧困の中で虐待やいじめなどを経験した子どもたちは、どのような青年期を過ごすのでしょうか。


 貧困から生まれる様々な問題が端的に見えるのが、偏差値で輪切りにされる高校の現場です。定時制高校や通信制高校、普通高校のなかで一番下にランクづけされている学校の生徒たちは、まず自尊心が極めて低いのです。彼、彼女らは、小学校2、3年生の時に算数の九九や分数でつまずき、漢字も書けないし、読めないから勉強がわからなくなります。中学に進学しても全然わからないまま。それで高校に入学してきます。小さな時から勉強ができないので自信や自尊心を持ちようがないのです。それほど精神的なダメージを受けています。
 生徒たちの大半の家庭が経済的に困窮していて、DVや虐待が起こりやすい環境でもあります。病気や障がいを持っていたり、「グレーゾーン」といわれる生徒も少なくありません。ただし、障がいが生まれながらの状態というケースもあれば、生育環境によって生じていることもあるのだろうと思います。特別支援校と違って、普通高校の先生は障がいのある子どもに対する専門教育を受けていませんし、先生1人当たりの生徒の数も多いので、一人ひとりの問題に支援の手を差し伸べることができないのが現実です。
 高校を中退した子どもは、日雇いの仕事や単発のアルバイトなど、不安定な職に就くことが多く、卒業はしますが就職が決まらない子どもは、いままでやっていたアルバイトを続けることもあります。どちらも実社会に出る最初の段階で、すでに労働市場の最底辺に位置づけられてしまうのです。そして、十分な収入がなく安定した生活基盤を築くことができない、家庭を持つこともできない。こうして貧困が連鎖することになります。

(P.102~P.104記事抜粋)

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