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市民セクター政策機構 市民セクター政策機構は、生活クラブグループのシンクタンクとして、市民を主体とする社会システムづくりに寄与します。

2.虐待につながる体罰をさせない―親の虐待を止めるための回復プログラム(作家、エンパワーメント・センター主宰 森田ゆり)

季刊『社会運動』2020年4月【438号】特集:子どもの命を守る社会をつくる

─「子どもへの虐待」をどのようにとらえていますか。


 親の子どもへの虐待は、その人の人生において、人として尊重されなかった痛みや悲しみを「怒り」として子どもに爆発させている行動です。これまで3000人ほどの虐待に至った親と出会ってきましたが、3割から4割はDVの被害者でした。
 過去にDVを受けた人も、いままさに被害にあっている人もいます。また、いじめや性的暴力を受けてきた人もいます。精神疾患を抱える人もいます。現在に至るまで、深く傷ついた経験を持っています。
 しかし、ケアがされないまま、孤立した子育てと生活の様々なストレスが重なり、子どもへの虐待が起きています。
 子どもへの虐待の問題として、日本では「虐待の連鎖」が強調されますが、それは不正確な見方です。虐待に至った親の過去の傷つき体験、他者から尊重されなかった悲しみは多様で、複合的です。虐待の連鎖が強調されることで、子ども時代に虐待を受けてそのなかを生き抜いてきた人が、「自分の子を虐待してしまうかもしれない」と不安になり、結婚や出産をあきらめてしまうことがあるのです。

身体的虐待が起こる三つの条件


 児童虐待とは、暴力的な行為に限らず、圧倒的な力をもつ大人が子どもの尊厳を踏みにじる、力の濫用(child abuse)です。
 なぜ、死に至るような深刻な身体的虐待が起きるのでしょうか。
 身体的虐待は次の三つの条件がそろった時に起きます。それは親が、①「体罰は時には必要」という考えがある、②過剰なストレスを抱えている、③孤立した子育てをしている、ことです。この三つの条件が重なると、「しつけ」であったはずの体罰が一気にエスカレートして虐待に至ります。

特性のある子をもつ母親のストレス


 ある母親の例をあげます。彼女は、初めて産んだ長男が大変に多動な子どもでした。少しでも目を離すと、すぐにどこかに行ってしまい、母親はいつもあちこちで「すみません」と頭を下げていました。保育所からも「◯◯ちゃんが園内で、こんなことをした」と注意されていました。
 さらに夫の両親は、男の子の初孫に過剰な期待を寄せ、子どもが多動で落ち着かないことを、「お前の育て方が悪い」と彼女を責めました。夫は仕事が忙しく、帰宅も深夜で相談することができません。とてつもないプレッシャーを抱えながら、孤立した子育てをしてきました。
 子どもが5歳になった時、義父の「口で言って分からないなら、叩くしかないだろう」という言葉が体罰のきっかけでした。子どもは、叩かれたことを遊びだと思い、ケラケラと笑いました。その瞬間、彼女の抑えていた怒りが爆発し、体罰が止まらなくなりました。半年後、彼女は「このままでは、この子を殺してしまう」と、私たちの行っているプログラムを受講することにしました。プログラムを受けることで、彼女は大きく変わったのです。

(P.110~P.111記事抜粋)

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