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2.「脱炭素社会」へ 岐路に立つ石炭火力発電(『東洋経済』記者 岡田広行)

季刊『社会運動』2020年7月【439号】特集:いまなら間に合う!気候危機

O2排出量世界第5位の日本が抱える様々な課題


 発電の過程で CO2排出がゼロとされる原子力発電については、温室効果ガス削減目標設定に際して、約30基の再稼働が想定されていた。しかし、敷地内に活断層が存在する可能性があることなどから、原子力規制委員会による審査をクリアできていない施設が多く、今のままでは原子力発電が2030年度にエネルギーミックスのうちで20?22%を確保することは不可能に近い。その一方で石炭火力については、新増設やリプレース案件が多く、今のままでは目標とされている26%を超過するおそれがある。その結果として、2030年度の温室効果ガス排出の削減目標達成が困難になるのではないかとの見方があった(ただし、新型コロナウイルス問題をきっかけに、2030年度の経済前提は大幅に下方修正される可能性はある)。
 こうした状況を踏まえたうえでNDCをより脱炭素の方向で見直すことが急務だが、その場合には現在進められている石炭火力発電プロジェクトの中止や既存の石炭火力発電所の早期休止が必要になる。また、再稼働の見通しの立たない原子力発電所に見切りを付けることも避けられない。
 ただしこのことは、発電資産の損失処理を通じて、電力会社の経営に大きな影響を与えかねない。監督官庁としての責任を問われるうえ、財政支援も必要になることもあり、経済産業省は原子力発電や石炭火力発電のあり方の検証を避け続けてきた。
 だが、昨今、石炭火力発電への依存を見直す動きがさまざまな方面で起こり始めた。
 その一つの例が、環境省が3月末に設置した有識者による「石炭火力発電輸出への公的支援に関するファクト検討会」(注2)だ。
 これまで日本は石炭火力発電プラントを、「インフラ輸出戦略」の柱として位置づけ、政府開発援助や輸出金融、投資金融の形で開発途上国での導入を支援してきた。その推進役を担ってきたのが、国際協力機構(JICA)や国際協力銀行(JBIC)などの政府関係機関だ。JICAやJBICなどの支援により、インドネシアやベトナムなどで石炭火力発電プロジェクトの導入が進められてきた。
 しかし、これら途上国でも電力供給の余剰が鮮明になってきたうえ、大気・水質汚染やプロジェクト実施に際しての地元住民の立ち退きなどの社会問題も深刻化している。
 インドネシアなどでは、反対住民が投獄される事態も起きており、関与している政府系金融機関や3メガバンクの責任が問われるようになっている。
 環境省のファクト検討会は、今年夏にも取りまとめられる政府の「インフラシステム輸出戦略」での「石炭火力輸出支援の4要件」の見直しに向けて、石炭火力発電に関する各国の見直しの動向について事実関係を整理・提示することを目的としている。4月末には「ファクト集」(素案)が取りまとめられ、脱石炭火力発電に関する国内外の動向が詳しく述べられている。ファクト検討会の報告書がきっかけとなり、石炭火力発電のあり方をめぐる政府部内での議論が活発になる可能性がある。
 また、これまで貸し手となってきた大手金融機関の間でも、今後、石炭火力発電の新設計画に融資しないという方針を明らかにする動きが出てきた。
 みずほフィナンシャルグループは新規建設を資金使途とした石炭火力発電プロジェクトへの投融資を行わないとしたうえで、2030年度時点での石炭火力発電向け与信残高を2019年度比で5割に減らす目標を明らかにした。三井住友フィナンシャルグループや三菱UFJフィナンシャル・グループも、新設の石炭火力発電所への支援を原則として実施しない方針を表明している。
 先進国の間では、英国やフランス、カナダなどが2030年までに石炭火力発電比率をゼロにする方針を明らかにしているほか、石炭火力発電への依存度が日本以上に高いドイツも2038年までにゼロにする目標を決めた。中国も発電電力量に占める石炭火力発電の割合を、2030年までに約5割に減らす方針だ。

(P.55~P.57記事抜粋)

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