②グレタに揺さぶられた若者たち(フライデーズ・フォー・チューチャー)
「ビヨンド コール、ビヨンド コール!(脱石炭、脱石炭!)」
2020年3月13日午後12時。神奈川県を走る京浜急行線「横須賀中央駅」に、高校生・大学生たちが次々と集まってきた。制服姿や自作のボードを持ったり、スカジャンを着た人など、様々な顔ぶれだ。春の心地よい陽射しが、「フライデーズ・フォー・フューチャー(Fridays For Future=FFF)」の元気な若者たちを照らしていた。
新型コロナウイルスの感染拡大が懸念され、世の中は自粛モードに染められつつあった時期だ。この前日に、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリさんが、集会型のイベントを控え、今後はオンライン上の集会にすると報道されたばかりだった。
「今日のアクションを決行すると決めた直後に、グレタからの発信があったんですよ」と、一人の若者が苦笑した。
彼らはスピーチの順番を確認し、シュプレヒコールの文言を復唱したあと、横須賀市役所に向けて出発した。その目的は、「石炭火力発電所建設中止を求めるアクション」を横須賀市議会にアピールすることにある。
小泉進次郎環境大臣のお膝元である横須賀市久里浜では、2019年8月から2基の石炭火力発電所の建設が始まった。二酸化炭素( CO?)排出削減を求める声が世界で高まる中、石炭火力発電所建設は、まさに時代に逆行する動きだ。この日、フライデーズ・フォー・フューチャー横須賀・東京・埼玉の総勢20人の若者たちは、横須賀市役所前の真向かいに立ち、建設中止を求める横断幕を掲げた。
「私たちは気候変動、そして石炭火力発電を止められる最後の世代です。私たちの未来だけでなく、きれいな海と空がある横須賀が奪われるのを黙って見ているわけにはいきません!」
地元横須賀で育ったという女子学生を皮切りに、数人のリレースピーチが続いた。市民グループや市議会議員と思しき人が彼らを見守る。昼時とあって、市役所の職員や会社員たちが遠巻きに視線を向けていた。
「ビヨンド コール(脱石炭)」を繰り返した若者たちは、その後、石炭火力発電所の建設地である久里浜に向かうため、京急線に乗り込んでいった。建設地前で、「STOP! 横須賀石炭火力」と書いたプラカードを手にした写真を投稿する「建設地フォトアクション」のためだ。
15歳の少女による学校ストライキから始まった
「フライデーズ・フォー・フューチャー」(Fridays For Future:FFF・未来のための金曜日)とは、スウェーデンの当時15歳だった少女、グレタ・トゥーンベリさんが、気候危機と闘うために学校をストライキした抗議行動のことだ。子どもが気候危機への抗議のために金曜日に学校を休むという運動は、瞬く間に世界中の若者の共感を呼んだ。2019年9月の第3回「グローバル気候マーチ」には、150カ国で750万人以上が参加したという。
グレタさんのストライキは、2018年8月20日に始まった。その朝、三つ編みの少女は、新学期となる学校には向かわず、国会議事堂前で「気候のための学校ストライキ」と書いたプラカードをもって座り込んだ。なぜなら、いま世界で最も大事なことは、温室効果ガスの排出量を制限することなのに、政治家たちが真っ先に手を打たないからだ。グレタさんは、学校ストライキという方法で、怒りを爆発させた。このたった一人のストライキは、たちまちSNSやマスコミで取り上げられ、世界的な大きなうねりとなった。グレタさんは、同年12月の国連の気候変動枠組条約締約国会議(COP24)でも、各国の首脳陣の前で、全くひるむことなく、「気候危機解決のために行動せよ」と訴えた。米誌『タイム』は、「2019年今年の人」として、グレタさんを表紙に飾ったほどだ。彼女は社会に影響力を与える人物となった。
(P.133~P.134記事抜粋)