1.essay① おかしいことをおかしいと感じる直感を信じ直すこと(写真家 齋藤陽道)
季刊『社会運動』2020年10月【440号】特集:コロナ下におけるマイノリティ -子ども、生活困窮者、障がい者、外国人-
緊急事態宣言の発令から、保育園の登園自粛が解除されるまでの約九十日間、毎日、家族と家にこもっていた。
本業の写真の仕事も、三ヶ月ぶんの予定すべてがなくなった。原稿を書く仕事はポツポツとあったので、子どもが起きてくるまえに終わらせるようになった。
だいたい、四時に起きる。コーヒーを淹れてから、外がほのあかるくなるまで原稿に集中する。六時すぎたら、妻を起こして、ご飯とみそ汁をつくる。
四歳児と、一歳半児の兄弟は、七時ごろ起きる。目覚めた子どもたちと目があうと、枕に見立てた握りこぶしを頬にあてて下にすべりおろす。子どもからも同様の仕草が返ってくる。「おはよう」の手話だ。
「ぼくねえ、テレビ見たい」おしり探偵にハマっている長男は、すぐテレビを見たがる。ごはんの匂いにつられた、くいざかりの次男が「おなか へった ごはん 食べたい」と、手と表情で空腹をうったえる。
ぼくと妻はろう者で、日本手話を母語としている。子どもたちは聞こえているが、家族内の会話はすべて手話でやりとりをしている。ただ、今年に入ってから、保育園やテレビの影響で音声を主体に話すようになった……が、登園自粛で家庭内で過ごすことになって、言語環境がほぼ手話になった。そのため、手話の上達が著しかった。自粛における思いがけない効用になった。
(p.8-P.9 記事抜粋)