8.生活困窮者とハウジングファースト(一般社団法人つくろい東京ファンド代表理事 稲葉 剛)
季刊『社会運動』2020年10月【440号】特集:コロナ下におけるマイノリティ -子ども、生活困窮者、障がい者、外国人-
貧困ビジネス施設に誘導する行政の問題点
緊急事態宣言が発令されると、多くの「ネットカフェ難民」が行き場を失うだろうと想定し、4月3日、都内のホームレス支援団体が連名で、東京都に対し「ホテルの提供をしてほしい」と緊急の要望書を提出しました。その結果、ビジネスホテルの提供が始まりましたが、当初は都内に6カ月以上滞在していた人のみが対象で、それを証明するネットカフェの領収書まで要求されました。最終的に6カ月以上という制限は撤廃されたものの、6カ月未満の人は各区や市の生活困窮者自立支援制度の窓口が担当となり、都と区の窓口をたらい回しにされた人も出ました。
宿泊期間も5月末から、最終的には7月上旬までに延長されました。ところが新宿区だけは、87人の宿泊者に対してホテルの宿泊期間が延長になったことを意図的に知らせず、6月1日の朝、全員をチェックアウトさせるという事態が起きました。これはホテルを出された人たちから私たちに相談があって判明したことですが、すぐ新宿区に抗議しました。後日、新宿区長が謝罪コメントを発表し、連絡がつく人には区が連絡し、再度ホテルに入ってもらうという、かなり混乱した状況でした。
生活保護の申請も当然多くなります。4月上旬の時点では、首都圏で生活保護を申請すると、無料低額宿泊所(注2)という、いわゆる貧困ビジネス施設に入れられるケースがほとんどでした。相部屋で、非常に劣悪な環境の施設も多数含まれます。緊急事態宣言が発令されたあと、入所者から「周りで咳をしている人がいて、マスクも配られていない。非常に怖い」という相談を受けました。
東京都に抗議をし、4月17日にようやく都と厚生労働省から各自治体に向けて、今後は「原則個室対応を」という事務連絡が出されました。最終的には都が用意したホテルに、1200人以上の人が入りました。そもそも感染症のリスクがあるからネットカフェに休業要請を求めたのに、ネットカフェよりも居住環境の悪い施設に送り込むとは、本末転倒です。
不思議なのは、生活保護を申請した人にも都はホテル利用を認めているにもかかわらず、各区や市の福祉事務所は相変わらず貧困ビジネス施設に誘導しようとすることです。千葉県や神奈川県にある個室の施設に送るケースが多く、私たちは「なぜ都内にホテルを確保しているのに使わせないのか。ホテルを使わせろ」と抗議しています。支援者が介入しないと、よくて遠隔地の個室の施設、悪くて相部屋の施設に入れられるという状況はいまだに変わりません。
注2 社会福祉法に定められた、生活困窮者向けの民間宿泊施設。大人数の相部屋で劣悪な環境の施設もあり、「貧困ビジネスの温床」とも指摘される。
(p.64-P.65 記事抜粋)