10.外国につながる高校生の困難(東京都立一橋高等学校主任教諭 角田 仁)
季刊『社会運動』2020年10月【440号】特集:コロナ下におけるマイノリティ -子ども、生活困窮者、障がい者、外国人-
仕事がなくなった、日本に戻れなくなった
─角田さんが勤務する東京都立の定時制高校には、外国につながる生徒が多く通学しています。生徒たちは、新型コロナウイルスの感染拡大下でどんな日常を過ごしたのでしょうか。
私の勤務する都立一橋高校は単位制の昼夜間定時制の高校(注)で、生徒数は600人弱です。そのうち日本国籍者も含めて外国につながる(ルーツのある)生徒たちは100人近く在籍しています。国籍では中国とフィリピンが多く、ネパール、インド、ミャンマーやタイ、モンゴルなどで、年齢も様々です。日本語支援の必要な生徒は、1年生で15人、2年生には17人、3年生は24人います。日本語が多少おぼつかないグレーゾーンの生徒もいます。外国籍であっても、日本で生まれ育ったり、小学校低学年の時に来日して日本語支援が必要ない生徒もいます。
新型コロナ感染拡大の中で生徒が不安だったのは、生活を支える仕事を失うこと、学習の機会がなくなったこと、情報が届かない・わからないことだったと思います。私が担任しているクラスの生徒などから聞き取った事例です。フィリピン籍の生徒はホテルでベッドメイキングのアルバイトに就いていましたが、解雇されました。「アルバイト収入がなくなり、携帯電話の料金が払えない。コロナが終わったらとにかく仕事を探したい」と言っています。中国籍の生徒はホテルのレストランの厨房で働いていますが、会社から自宅待機を命じられ、本人は仕事をしたいができないでいます。さらに別の中国籍の生徒の場合は、母親が勤めていた中華料理店の仕事がなくなり、一旦中国に家族で帰国しました。その後、中国からの入国が制限され日本に戻れず、6月から始まった授業には出席できていません。また、3月に卒業し4月に就職したフィリピン籍の生徒は、4月半ばからずっと自宅待機をしています。別の定時制高校の卒業生で50代のミャンマー籍の生徒は、資金を貯めてやっと開いたミャンマー料理のレストランに全くお客さんが来なくなってしまって大変深刻な状態だと言っています。
休校中の自宅学習ではたくさんの教科で課題が出されました。日本語支援の必要な生徒には、日本語のサポートなしに、たくさんの課題レポートを、日本語で書くのはとても難しいことだったと思います。
こうした聞き取りは、どの学校でも現場の教員に任されています。教育委員会などがコロナに関する大切な情報が届くのが難しい、不安定な立場の外国につながる生徒たちの実態調査を計画的に行う必要があると思います。
注 定時制高校は全日制と同様に基本的に毎日学校に通学するが、学習時間帯は午前、午後、夜間があり、学習時間は1日4時間程度。単位制は一律の時間割がなく、高校卒業に必要な単位を取得すれば、3年で卒業することもできる。かつては働きながら学ぶ人のために夜間などの時間帯の高校であったが、学べる時間が選べるなどの理由で、不登校だった人や高校中退経験者、すでに就労・定年退職している人など多様な生徒が在籍している。
(p.77-P.78 記事抜粋)