「地域包括ケア」の時代における生協への期待(一般社団法人 医療介護福祉政策研究フォーラム 理事長 中村 秀一)
「高福祉高参画」における生活協同組合への期待
このように社会保障制度の供給体制は多様化していますが、私はかねてより、その担い手の一つとして生活協同組合に注目し、もっと社会で活用できるようにしたいと考えており、厚生労働省社会・援護局長として2007年に生協法の改正を行いました。1948年に生協法が成立して以来、初めての実質的な改正です。
介護保険制度はみんなで作っていく必要があります。行政だけでもダメですし、事業者だけでもダメなんですね。地域の人びとが参加して作っていくことが鍵であり、よく「高福祉高負担」とか「低福祉低負担」とか言われますけど、私は「高福祉高参画」の時代だと思います。
2007年には、日本で一番大きな訪問介護事業主だった(株)コムスンが、介護報酬を不正請求していたことが発覚しました。厚労省としては悪質と判断して介護事業から退場させたのですが、約6万人の利用者が介護難民になりかけるという事件がありました。
また長年、社会保障の中心を担ってきている社会福祉法人の多くは、特定の誰かが多額のお金を出資して設立されています。そのため、社会的な話題になっているように、本来、公益的であるはずの法人が、資金を拠出したオーナーの意見が強く反映される組織になっています。他方、生活協同組合の場合は、額の多寡はありますが、組合員の皆さんが出資しているわけです。そのため、組合員一人ひとりがオーナーであり、自分たちのものという意識が浸透しています。
2007年に、私が生協に期待していることを『週刊 社会保障』(№2433、2434、法研)という雑誌に「現代社会における生協の意義と役割」と題して寄稿していますので、一部引用します。
「これまでも福祉分野における供給体制の多様化の議論の中で、常に生協が期待されてきたのである。さらに言えば、少子高齢社会において、地域の諸課題に取り組むことの必要性が高まっている。地域福祉の推進、フォーマルケアとインフォーマルケアの組み合わせ、ソーシャル・インクルージョン等々、様々な切り口があるが、自立した個人が、連帯してこれらの課題に取り組む上で、生協という形態は大いに利用できるツールであるし、さらに様々な可能性を秘めていると考えている」
今後、生活協同組合の組合員が自分たちで作ったサービスを、組合員自身はもちろん、地域で必要としている人たちに届ける… 。サービスを提供する側と受ける側は必ずしも分離していないので、利用する側のことも、提供する側のことも、主体的に自分のこととして考えられます。そうした双方向性は、地域づくりの側面がある地域包括ケアシステムの構築では重要な要素で、生活協同組合はこれを非常に発揮しやすいと思います。生活協同組合が社会保障の仕組みづくりに上手に関わってくれば、ある時はサービスを提供しているけれど、自分が困ったときはサービスも受けるという、そういう関係性が地域にできてくるのではないでしょうか。
ただし生活クラブ生協はどうかといえば、今までのように地域世帯の1%なり5%という組織率の中だけで地域福祉の取り組みをしていたのでは、時代に間に合わないと思います。皆さんがこれまで培ってきたある種のリーダーシップを地域全体に波及させていく。そのためには、生活クラブと基本理念が一致してさえいれば、様々な人たちと連携することで、地域全体の人たちが担い手になるようにならないかと思うのです。生活クラブが今まで優れた消費材の開発を通して社会に影響力を発揮していたことを、今度は福祉との組み合わせでやれないかと思うのです。そのためには、組合員の連帯を強みにして、例えば、他の業界の人たちとも連携していくという発想転換ができるかどうかが一番大きな課題だろうと感じています。
最後は少しロマンチックになってしまったかもしれませんが、きっと実現してくれるものと期待しています。