2.重層的な韓国の社会的経済(京畿道城南市社会的経済支援センター センター長 崔珉竟)
社会的経済を担う多種多様な事業体
─韓国では社会的経済の育成に力を入れており、政府・自治体によって各種の法制度が重層的につくられています。どのような社会的経済組織があるのでしょうか。
もともと、既存の個別法に基づく協同組合は8業種あり、農業協同組合、生活協同組合、信用協同組合などが存在していました。さらに1990年代後半以降、深刻化する格差拡大、貧困、社会的排除などの社会問題を社会的経済によって解決しようと、政府や自治体が法律・条例を次々に制定して、多様な事業体が生まれました(表を参照)。
2007年に施行された「社会的企業育成法」では、協同組合、株式会社、NPOのなかでも特に社会的弱者のための事業を行う事業体、脆弱階層の人びと自身が行う事業体を「社会的企業」と定義しました。そのうえで、政府の認証を受けた社会的企業について、法人税減免や人件費の補助、製品やサービスを公共機関が優先的に購買するなどの支援があります。
2012年に「協同組合基本法」が施行された後には、多種多様な協同組合が設立されるようになりました。制度上は、5人の発起人による届け出で設立可能な「一般協同組合」(税制優遇はない)と、事業内容が社会的目的と政府に認証された「社会的協同組合(注1)」(税制や公共機関からの受注など優遇措置がある)の2種類に分類されています。
自治体(道・市・特別市・広域市)レベルでも、「社会的企業支援条例」を制定しています。自治体首長が認証する「予備的社会的企業」は政府が認証する「社会的企業」より基準が緩やかなため、設立の第一歩として予備的協同組合を選択する団体も多いのです。
注1 社会的協同組合の認可基準は、次に挙げる4項目のうち1項目以上が事業全体の40%を占める場合である。(1)地域社会の再生、地域経済の活性化、地域住民の権益・福利増進、その他地域社会が直面する問題の解決に貢献する事業。(2)脆弱階層に福祉・医療・環境などの分野で社会サービスまたは仕事の場を提供する事業。(3)国・地方公共団体から委託された事業。(4)その他、公益増進に貢献する事業。
社会的経済組織による様々な支援活動
─コロナウイルス流行によって地域社会で発生した問題に対して、協同組合や社会的企業はどのように対応したのでしょうか。崔さんの活動する京畿道城南市ではどんな活動がありましたか。
コロナウイルスにより、特に社会的弱者が大きな被害を受けています。そのなかで社会的経済を担う人びとは問題解決のための努力を止めませんでした。なお韓国の場合、協同組合や社会的企業、NPOなどの社会的経済組織は、社会的弱者自身によって構成・運営されていることもあります。支援する・される側が明確に分かれているわけではありません。
城南市は、人口約1300万の地方自治体である京畿道の31市郡の自治体の一つです。次のような事例がありました。
・休校により給食が中断したため野菜を出荷できなくなった生産者への支援として、城南市協同組合協議会や住民生協などが野菜を引き受け、組合員や市民に販売した。購入額は、3日間で1300万ウォン(約122万円=20年11月末時点、以下同)。生産者と生協、協議会をつないだのが、城南市社会的経済支援センターだった。
・消毒や防疫を行う社会的企業や協同組合(約20団体)が、地域児童センターや高齢者施設、外国人や独居高齢者世帯など、施設や住居約50カ所に、環境に優しい消毒薬の寄付や防疫を実施した。費用は、社会的経済組織が集めた募金と京畿道からの支援金で賄った。
・住民信用協同組合は、所有するビルに入居する店舗に対し、家賃を6月から8月の間30パーセント割り引いた。
(p.24-P.27 記事抜粋)